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父子


やぁ、こんにちは語り手だ

まさにラインハルトの圧倒的強さであった。

神威開放(アルティマ)を使い激突するアラヤとラインハルトだが勝負は一瞬でそれこそ瞬き程の合間で終わった。

ラインハルトに大敗をきしたアラヤは己の弱さを知らしめられ慟哭する。

失意のなかログアウトしたアラヤそしてユエの二人の行先ははたしてどうなるのか。



ジェネティクノーツからログアウトした連夜が目を開けると其処はログインした時と同じ自分の部屋ベッドである。

アラヤはベッドの側に置いてるスマホを手に取り見ると時刻は21:15を示していた。

連夜はまるで寝ずの徹夜を過ごしたみたいに気だるげに起き上がると一階の洗面所に行き顔を洗った。

顔を洗い洗面所の鏡で自分の顔を見た連夜だが鏡に映るのはまるで血の気の無い真っ青の顔であった。

「まるで死人のようだな」

自嘲気味に呟く連夜、其処にはグランドクエストをクリアできたという喜びは消え失せユエのそして敗北の余韻しかない。

グウゥゥ

「……腹が減った」

鏡で自分の顔を見ていた連夜はお腹が鳴り空腹を覚えたのでリビングに向かうと其処にはテーブルの上に少し焦げた不恰好なチャーハンがラップにくるんで置いてあった。

「……帰って来てたのか」

家には連夜と父親しか住んでいない為連夜は直ぐ様父親が作った者だと把握すると冷めたチャーハンをレンジで温め直し椅子に座り黙々と食べた。


味はお世辞にも美味しいとは言えず塩の入れすぎのせいか連夜には少し塩辛く感じた。

チャーハンを食べ終えた連夜は食器を洗い歯を磨くと自分の部屋に戻りベッドに横になると大海に沈むように直ぐ様眠りについた。

連夜に自覚はなかったがグランドクエストルドラとの戦い、ユエの真実、シド、ラインハルトとのPVP濃密過ぎる時間を過ごした連夜はフルダイブで体は無事であろうと精神は底をつき疲れはてていたのだ。


眠った連夜を待っていたのは何時もの暗い空間に星が散りばめたような不思議で神秘的を感じさせる空間である。

そこにいたのは昨日よりも更に光の度合いが濃くなった光の粒子が集まり人間の輪郭を型どったものである。


「選択を与えます…」

「選択を与えます…」

「選択を与えます…」


連夜にはノイズみたいな声が昨日よりもさらにはっきりと聞こえた。

光の粒子は昨日と同じ様に連夜に手を伸ばす。

何時もなら多少の動揺を見せる連夜だか今回は動揺や抵抗する事自体煩わしと感じ自分に迫る手を黙って見続けていた。


連夜が目が覚めると何時もの朝であった。

「うっ、」

連夜はベッドから起きると少し体が怠く感じたが別に大した問題はないと思い学校に向かう準備をしようとしたら今日が土曜日学校が休みと云うことを思い出した。

「……そういえば今日休みか」

ちなみに連夜の高校は土曜日、日曜日、月曜日が学校の創立記念日のため今日から三連休である。


手軽な朝食として牛乳と焼いたトーストを食べた連夜は何時もの休日の日のルーティーンと同じくジェネティクノーツにログインしようと部屋に戻った。

デバイスを取りログインしようとした連夜だが急に体が怠く感じ頭痛までしてきた。

「いつっ」

デバイスを手に取ってる連夜だが今日は体調が優れず止めとこうかと思ったが昨日の「また、明日」と言ったユエの事を思いだした。

(…ユエが待ってる)

ユエはあの世界で昨日からずっと連夜を待っているそう思うと考えを改め連夜は頭にデバイスを装着しログインしようとした。

だがその瞬間連夜の脳裏に母親の死、ユエの真実、ラインハルトに敗北した事が一斉に濁流の様に駆け巡った。

「うっ!」

連夜は気分が悪くなり急いで一階のトイレに駆け込むと

「おえっ!」

胃の中のものを全て吐き出した。


胃の中のものを全て吐き出し終わった連夜は洗面所に入り水で口を灌いでいたら

「うっ…うっ…」

何故か涙が眼から溢れていく。


連夜は涙を溢しながら洗面所に崩れるように座り込み膝を抱えるとそのまま静かに泣き崩れた。


何分、何時間そうしていたのだろう、膝を抱え泣き崩れていた連夜は気付いたら暗闇の中にいた。

僅かな光をも通さない暗闇の中は冷たさだけを感じるだけ他には何もない。

暗闇の中独りぼっちの連夜は暗闇に恐怖を抱き踠くよう両手を伸ばすが有るのは暗闇だけで何も掴めない。


それでも必死に暗闇から抜け出そうと踠き続ける連夜の前に死んだ筈の連夜の母親とユエが自分に背を向けた状態で現れた。

「母さん!ユエ!」

連夜は暗闇の中現れた連夜の母親とユエに立ち上がり縋る様に手を伸ばすがまるで届かない、届く気配すらない。

「母さん!ユエ!」

連夜が連夜の母親とユエの名前を呼び二人に近付こうと追いかけるが二人は連夜に気付く様子もなくどんどん遠ざかっていく。

「母さん、ユエ待ってくれ!」

それでも連夜は必死に二人を追いかけた。

すると届く様子がなかった二人との距離が縮まっていきようやく二人に手が届く距離に追い付くことができた。

「母さん、ユエ」

連夜は二人に追い付けた事に喜び二人の腕を掴んだ。

すると二人が連夜の方に振り向いた。

振り向いた連夜の母親とユエの顔は………………赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤、血に染まっていた。

「あっ、ああ、あああ!」

連夜は顔を血に染めた連夜の母親とユエに驚き二人の腕を離した。

すると二人は冷たい笑みを浮かべ連夜に近づき顔だけではなく血に染まった手を連夜に差し伸べ連夜の頬を左右から優しく撫でると

「「貴方/アラヤ君/のせいだよ」」

底冷えのする冷たき声を放った。

「いやだ、いやだ、誰か助けてくれ!」

連夜は取り乱し助けを呼ぶが目の前にいる血に染まった連夜の母親とユエは何も変わらない。


「助けて!助けて!」

救いを求める叫び続ける連夜、それにまるで応えるかの如くロウソクが吹き消される様に一瞬で二人の姿が暗闇に欠き消えると暗闇の中にはまた連夜だけが取り残された。

「あああああ!」

血に染まった連夜の母親とユエは消えたもののまた暗闇に独り残され精神が沈み絶望するなか何か暖かな物が連夜の左手を掴んだ。

そして何処からともなく

「大丈夫、大丈夫だ」

まるで泣いてる子供をあやすかの様に暖かい声が暗闇にいる連夜の耳に聞こえた。

「ああ…ああ」

連夜は何処のものとも分からない暗闇の中聞こえた暖かな感触と声に何故か安らぎを感じすがり付いた。


暗闇の中にいた連夜は閉じていた目を開けると何処かの部屋にいた。

目を開けたものの何故か景色が歪んでいてよく見えない連夜だったが自分の右手を誰かが握りしめている感触を感じた。

歪む景色のなか重たく動く顔を右の方に向けると其処には誰かは分からないが人影があり連夜の右手を握っていた。

自分の右手を握りしめる人影を見た瞬間連夜は安堵した。

何故かは連夜自身にも分からないが自分の右手を握るその人からは敵意等は感じられず自分を慈しむ優しさだけが感じられたからだ。

それと同時に連夜は右手を握る手に懐かしさを感じると無意識に心の声が溢れたように

「…父さん」

父親の名前を呟いた。



「うっ」

気が付いた連夜は重たく感じる目を開けるといつの間にか洗面所から自分のベッドに移動していた。

「何でベッドに…」

連夜はまだ怠く感じる体を起こすとポトリと連夜の頭から何かが落ちてきた。

連夜は落ちてきた物を手に取り見てみるとそれは冷たく濡らしてあるタオルであった。

「何でタオルが……」

濡れたタオルを握りながらそう枯れた声で呟いたら自室のドアが開き右腕に飲み物やゼリーなどが入った袋を下げ氷水を入れた容器を置いたお盆を両手に持った父親が入ってきた。


連夜には自分に起きている現状が分からずにいるなか連夜の父親はベッドの側に袋と氷水の入った容器を置くと袋から飲料水を取り出すと連夜に差し出した。

父親から差し出された飲料水を連夜は恐る恐る飲料水を受けると

「体調はどうだ」

父親が寡黙な表情のまま聞いてきた。

「えっ?あ、ああ少し体が怠いくらいだ」

急に聞いてきた父親に連夜は最初何を言われたか分からなかったが体調の事を聞かれたと理解すると今自分が感じている状態を告げた。

「そうか」

連夜の言葉に対し父親短く返事をすると沈黙してしまい連夜と父親、二人の間に静かな時間が訪れた。


「何があったんだ」

沈黙な時間が暫くたった頃連夜は沈黙に耐え切れなかったのか自分がベッドに寝ている訳を聞いた。

「洗面所で倒れていたんだ」

「倒れていた?」

「頭を触ったら熱かったから熱がでたみたいだ」

(そうか、朝から体が怠いと思っていたが熱があったのか)

連夜は自分が何故ベッドに寝ていたか分かるとふっと窓の外を見たら既に外は明るさはなく暗くなっていた。

(しまった!)

「今何時なんだ!」

「?今は22時だが」

突然時間を聞いてきた連夜に父親は怪訝そうに首を傾げると時間を応えた。

「22時!?」

(ユエ!ユエ!)

連夜が驚くのも無理ない朝倒れて起きたら夜になっていた。

しかもユエが昨日また会おうと告げたにも関わらずにだ。

連夜は慌てジェネティクノーツのログインしようとしたデバイスを手に取ったがまた脳裏に母親の死、ユエの真実、ラインハルトに敗北した事が濁流の様に駆け巡った。

「あっ、ああ…」

連夜は今度は吐くことはなかったがそれでもまるで極寒にいる様に体が震えだし頭を下げると両手で体を抱きしめた。

連夜は次第に視界までも暗くなっていき気を失ないそうになりそうであったが突然体を何かに包まれた。

連夜はゆっくりと顔を上げると自分を包んでいる正体を認識した。

「…父さん」

そう連夜の父親が連夜を抱きしめていたのだ。

「大丈夫だ」

連夜の父親は連夜を抱きしめながら優しく連夜をあやした。

(この人だったのか…)

連夜はその暖かさに近親を覚えた瞬間理解し目から涙が溢れた。

あの暗闇の中連夜を包んだ優しい手が父親ものだと分かったのもあるがそれと同時に思い出したのだ。


母親の葬式の時母親を好いていた周りの親戚や母親の友達、親友から「お前のせいだと」恨み辛み罵詈雑言掛けられるなか父親も連夜に近付き周りの連中と同じく恨み辛みを言っていたと連夜は思っていたがそうじゃなかった。

あの時父親は周りから非難の嵐を浴びせられ泣いていた連夜を優しく抱きしめながら周りの連中を厳しい目で睨み付け

「黙れ、妻は連夜のせいで死んだんじゃない連夜を守って死んだんだ、連夜と連夜を命懸けで守った妻の思いを侮辱することは私が許さん」

そう周りの連中に言ったんだ。


涙が止んだ連夜は心が緩んだのか父親の腕の中で父親に対し積年の想いを聞いた。

「父さんは俺を恨んでないのか」

「恨む、何故だ?」

父親は心底連夜の言っていることが分からないと寡黙な顔で不思議そうに聞く。

連夜は言葉にするのを躊躇いながら

「…だって俺の…俺のせいで母さんは死んだんだよ」

父親は連夜の言葉を聞くと腕の中の連夜を離し右手を上げるとゆっくりと連夜の頭に手を置いた。

「恨まないさ、そもそも恨む事ではない」

「連夜、私、いや父さんと母さんはお互いを心底愛していた。

お互いにこれ以上の人はいないと感じるほどだ。

母さんとの日常は父さんにとってはまるで毎日が輝いているように幸せな日々だった。

それは今でも父さんの中で色褪せず残っている大切な掛け替えのないものだ」

「なら!」

そんなに愛していたなら自分を恨んで当然だと自責の念を告げようとする連夜の言葉を遮り

「そんな幸せの中産まれてきてくれたのが連夜、お前だ。

連夜お前は父さんと母さんの愛の幸せの結晶だ。

それは母さんも同じ気持ちだと確信を持って言える」

「…………」

「もし、あの時に父さんがいたなら母さんと同じ行動をとっていただろう。

だがなそれで死んでしまったとしても恨むのではなく連夜が無事に生きてくれてることに良かったと安堵していただろう。

きっと母さんも同じ気持ちだ」

「…父さん」

「だからな恨むとしたら連夜にではなく自分自身にだ」

「え?」

「連夜すまなかった。父さんは怖かったんだ」

「怖かった?」

「ああ。母さんの死で自分を責め昔の明るく元気な連夜ではなく抜け殻のように塞ぎ込む連夜を見てどう接していいか分からずにただこれ以上傷つけないように距離を取るしかなかった。

間違えた選択をした自分に本当に怒りが沸くよ」

(ああ…まるで一緒だ。他人に接することが怖く自分が何かしたら傷つけてしまうんじゃないかと距離を取る選択だけしかできなかった自分に)

父親は連夜の頭から手を離すと床に正座し両手を膝の上に置くと

「連夜不甲斐ない父さんですまなかった」

深々と頭を下げた。

連夜はそれを見ながら涙が零れる。

(ああ、なんて誠実で優しい人なんだろう。自分だって愛する人を泣くし辛く寂しく悲しいのにそれを微塵も見せない。

そして本当に俺を恨んでなく愛しているのが分かる)

「父さん」

涙声で連夜が声を掛けると父親は頭を上げた。

父親の連夜を見るその瞳は真っ直ぐで真剣そのものだった。

「父さん。間違ったのは父さんだけじゃないよ、俺も間違えたんだ。

だから父さん俺も今までごめん。

そしてこんな俺を愛してくれてありがとう」

父親は涙を溢しながら言う連夜の言葉を聞くと少し微笑み

「当然のことだ。

父さんは連夜の父さんだからな」

父親の言葉を聞いた連夜はこの人ならあの時連夜がユエに言えなかった言葉の答えを教えてくれると思い

「父さん」

「なんだ?」

「父さんに聞いてもらいたい話があるんだ」

今連夜が直面している苦悩し絶望している事を語りだした。






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