最強
やぁ、こんにちは語り手だ
アラヤに敗北しラインハルトに諌められ打ちひしがれるシド。
ラインハルトはアラヤとユエにオリュンポスギルド長として今までのギルドメンバーの行い謝罪をする。
しかし謝罪を受け入れたアラヤとユエが立ち去ろうとした瞬間ラインハルトから驚愕の戦告を告げられる。
アラヤとラインハルトのPVPが今始まる。
PVPを受け入れたアラヤだがいざ始まろうとした時ラインハルトから中央に天上から降臨する光の玉を支えるように男神と女神が左右に描かれたアミュレットを渡された。
「これは?」
アラヤがラインハルトより渡されたアミュレットを右手の手の平に乗せアミュレットの意味を問うと
「それは、クロイアと言って私達が保持する神威開放のリキャストタイムをゼロにすることが出きるアイテムだ」
ラインハルトから渡されたアミュレットの効果はアラヤやユエがグランドクエストの報酬として得たのと比べても遜色ない、いや神威開放保持者限定ならそれよりも価値のある破格の効果を持つアイテムであった。
ラインハルトがグランドクエストクリアした時の報酬なのだろう。
「驚かないのかね」
効果を聞いてもなんら動じないアラヤを見てラインハルトが薄く笑う。
アミュレットと云う点で効果は不明だがおそらく自分等と同じグランドクエストの報酬だと察したアラヤには驚く事ではない。
それにラインハルト程の強者なら同位とは云わずも強力なアイテムの一つや二つ或いはそろ以上持っていても不思議ではない。
「あんたこそ俺が驚いてないことに驚いてないみたいだが」
そうラインハルトは普通ならアイテムの効果を知り驚くべき事を効果を聞いても平然としているアラヤの態度に驚き或いは不思議そうにもしていない、それはまるでアラヤがそのぐらいでは驚かないことを知っていたかのようである。
(もしかして、この男俺とユエがグランドクエストに挑戦しクリアしたこと知っているのか)
平然としているラインハルトの態度に逆にアラヤの方が訝しげになった。
さっきクリアしたばかりだしグランドクエストを挑戦することはルビィにしか伝えていない時点でアラヤとユエがグランドクエストを受けたのを知っているのはアラヤ、ユエ、ルビィの三人である。
(ルビィは…ないな)
アラヤは一瞬ルビィがラインハルトに漏らしたかと思ったがルビィの性格からしてそれは無いと判断した。
ではグランドクエストに向かう所を見られていたかと云えばそれはあり得ない。
そもそもグランドクエストの開始条件が街道を通らずルーベルの森を抜ける事ではあるが例えアラヤとユエがルーベルの森に入って行く姿を見たのだとしてもルーベルの森に入って行っただけでグランドクエストを受ける為に入ったのかは当人もしくは知らされていた人以外には分からない。
ただレベリングで入っただけかもしれない。
(となるとまさか…直感か?この男ならあり得そうだが)
アラヤはラインハルトに対し内心警戒を一段階上げた。
「なぁに、ただ君なら別段このぐらいでは驚きに値しないと思っただけだ」
ラインハルトはアラヤの警戒に感ずついているのかは分からないが不適に笑う。
「えらく、高評価だな」
「そうかな?シドを倒した君には正当な評価だと思うが」
「よく言うよ。倒す前にあんたに邪魔されたけどな、それにしても」
「なんだね」
「失望したと言った割にはやけにあいつに対して高評価だな」
ラインハルトはシドを倒した君と言った、つまりそれだけシドの実力を評価しているということだ。
ラインハルトはあいつとしか言ってないがアラヤが誰のことを指して言っているのか分かると納得した表情で
「ああ。君には不快かもしれないが私はシドのことは評価しているよ。実力はまだ荒いとこはあるが申し分ない、些か我が強くはあるがなんだかんだ言いながらも仲間を大事にする男だ。
ただ、私としてはもう少し周りを冷静に見る視野が有ればとは思うが」
アラヤにしたら意味が分からない。
そこまでシドを評価しながらシドに対し失望したと言ったラインハルトの顔はアラヤからは冷たく冷淡に見えた。
ラインハルトは困惑するアラヤの内心を見透かした様に
「私は彼にはもっと強くなってもらいたいんだよレベルのことだけじゃなく心もね」
(心?)
ラインハルト程の強者がゲームの世界においてレベルやステータスではなく心と云う目に見えない現実世界の事を持ち出すのでアラヤは更に困惑する。
ラインハルトは軽く目を瞑りゆっくりと開けると周りのプレイヤー達には聞こえないアラヤにだけ聞こえるぐらいの声で
「彼は今足掻き苦しんでいるんだ。
それが何なのかは私にも分からないが彼が彼自身どうしようもない程大きな思いを抱えているそれだけは分かる。
それを克復するため、或いは乗り越えるためかそれともただ自身では制御できず闇雲に突き進んでいるだけか、どれであろうと彼は強くなろうとしている」
「……………」
「アラヤ君。人は重大な決断の前に選択を強いられている。
進むか、停滞かそして……諦めるか。
そんな中大概の者は楽に成ろうと或いは恐怖からか諦めてしまう。
それは仕方のないことだ誰しも自身の未来がどうなるか分からないだから。
終わりの無い苦難が続くかもしれないのならいっそうの事諦めてしまえば楽でいいと。
だからこそ私は彼を評価している、確かに彼のしていることは誉められたことではなく間違いだらけなのかもしれない。
だがねそれでも前を進もうと諦めず足掻き続ける彼を私は勇気があり誇らしく思っている」
アラヤはラインハルトの言葉になにも言えず黙していた。
ラインハルトの言葉にシドが自分に似ていると思ってしまいラインハルトの言葉がシドを通して自分に言っているかの様に思えたからだ。
「さて、ギャラリーも私達の戦いを待っていることだし話しは此処までにしようか」
ラインハルトの言う通り今だPVPをしないアラヤ達に対し周りのプレイヤー達も不満を持ち始めていた。
ラインハルトは今度は周りのプレイヤー達にも聞こえる声で
「アラヤ君。そのクロイアを使い神威開放を回復したまえ。
君の全力の神威開放を私の全力神威開放をもって応えようじゃないか!」
周りのプレイヤー達はラインハルトの宣言に沸きだつ。
それも仕方のないことだ再度アラヤの神威開放を見れるだけではなく今度はラインハルトの神威開放も見れるとあって興奮し無いわけがない。
「おい!マジかよ!」
「あの少年だけではなくゼウスもかよ!」
「来て良かった!」
「流石はゼウスだな!」
ラインハルトの言ってることは周りのプレイヤー達からしたら正々堂々とフェアーに勝負しようと言ってる様に聞こえる。
しかしアラヤとこの場にいるユエだけはその言葉の真意を捉えていた。
『君が神威開放を使用しようと私の神威開放が打ち砕く』
つまりラインハルトはアラヤが神威開放を使おうが勝てる、捩じ伏せられるそう言っているのだ。
しかしこれはラインハルトの慢心でも虚栄でもない、ラインハルトが持つ絶対的な自信であり五大ギルド長として絶対に敗北は無いと云う覚悟である。
「ツッ」
ラインハルトの言葉の真意を捉えたからこそアラヤにはラインハルトから発せられる重圧、プレッシャーも感じていた。
アラヤはラインハルトの言う通りクロイアを使い神威開放のリキャストタイムをゼロにした。
アラヤ自身もラインハルトの言葉の真意を捉えながらもそれを拒否することは出来ない。
何故ならアラヤも理解はしているからだ神威開放を使わずにラインハルトに勝てる訳がないと。
アラヤはクロイアのアミュレットをラインハルトに返すとラインハルトはクロイアのアミュレットをアイテム欄に戻した。
「さて、PVPなんだが流石に今日はもう遅い、なのでHPがゼロになる迄ではなく一撃勝負にしないか」
普通自分から挑んでおきながら条件を付けるのかと思うがラインハルトの言葉にも一理ある。
確かに現実世界にしたら現在夜の21時だ。
PVPが何時終わるかが分からない以上そう長く戦っては入れない。
ラインハルトの言葉に周りのプレイヤー達はと云うと最後までではないのかと憤り残念がるかと思いきや逆に盛り上がっていた。
通常のPVPで一撃勝負なら批判もくるだろう。
しかしこれは神威開放を使っての一撃勝負つまり必殺の域の勝負、西部のガンマンの早打ち勝負と一緒である。
一撃で勝負が着くからこそ逆に緊張感が高まると云うものだ。
「分かった」
アラヤがラインハルトの条件に了承するとラインハルトとアラヤはお互い別れ距離をとる。
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
周りのプレイヤー達は今か今かとアラヤとラインハルトとの勝負を待つなか
「アラヤ君……」
この場においてユエだけが心配そうに胸の前で手を合わせアラヤの無事を祈っていた。
ラインハルトからPVP申請をアラヤが了承するとカウントダウンが始まった。
刻々と迫るカウントダウンにアラヤとラインハルトをお互いを見据えるとカウントが《0》になると同時に神威開放を使用した。
「システム起動勇名轟く不屈の勇姿、祖は不死の加護を受けし駿足の躯」
詠唱を始めたアラヤの体を光が包んだと同時にアラヤの前に円を作るように六つのそれぞれ片手剣、双剣、槍、弓、鎚、篭手、描かれた丸いステンドグラスみたいな紋章が表れた。
アラヤは片手剣の紋章に触れ唱えた。
「永劫無双神威開放」
アラヤの体を包んだ光が緑の風に変化しまるで鎧のようにアラヤに纒い右手に握っていた黒の片手剣が消え変わりに剣身が鮮やかなエメラルドのような緑色で柄がまるで夜空の様に漆黒で鍔の中央に虹色の宝石が入った片手剣「イーリアス」を握っていた。
一方ラインハルトは重厚な両刃であり全体が雪のように白く雪の結晶の装飾がある両手剣を持った右手を天に掲げるように上げると
「システム起動天空座する神々の王、祖は雷光の加護を受けし天上の神」
ラインハルトの体を光が包むと同時にラインハルトの前に雷光が天から降り注ぐなか天に向かい手を掲げまるで自分が雷を降らしてる様に見える男神が描かれた丸いステンドグラスみたいな紋章がラインハルトの天上から表れ
「雷霆神罰神威開放」
ラインハルトが唱えると紋章が天上から下に降りていき剣先からラインハルトの足下まで通りすぎていくと通り過ぎていった先から光が激しい雷に変わっていった。
剣も含め全身を鎧のようにいや、その姿はまるで雷そのものだ。
アラヤとラインハルトお互いの側に神威開放のリミットカウントダウンが表示された。
《10》《10》
(この勝負負けられない。
ユエの前では絶対に負けらない。)
アラヤはユエの前では決して負けられないと思いを抱えてた。
アラヤは地面を全力で強く蹴ると神速の早さで真っ直ぐにラインハルト目掛け駆けた。
周りのプレイヤー達からはその早さはシドとのPVPとの時とはまるで違い緑の閃光が駆けてるようにしか見えていない。
ラインハルトは神威開放を使ったものの微動だにせず天に上げた剣の柄を両手で握ったままの体勢である。
(つッ!舐めているのか!)
アラヤは最初はラインハルトの実力うえの行動かと思ったがどんどん自身に近付いているにも関わらずまるで動かない体勢のままにまるで自分の神威開放等脅威ではないと言ってる様であり怒りを覚える。
「うぉぉぉ!!」
アラヤは叫びながら突進の勢いのまま片手剣をラインハルトに突き刺そうとした。
アラヤの片手剣がラインハルトに当たろうかしたその瞬間
バチ!!
激しい雷鳴と雷光が鳴り一瞬のうち上から下へ雷が過ぎた。
ドシャ!!
「グハッ!」
雷が過ぎた瞬間気付いたらアラヤは後方に吹き飛ばされ地面に叩きつけられていた。
「は?」
「えっ?何が起きたんだ?」
周りのプレイヤー達からしたらラインハルトに向かっていた緑の閃光ことアラヤが突然後方に吹き飛び地面に叩き付けられたのだ、何が起きたか分からず呆然としていた。
今この場において何が起きたか理解していたのは三人だけだ。
地面に叩きつけられたアラヤとそれを行ったラインハルトそして外野から見ていたユエだけだ。
「な、何が起きた」
アラヤはうつ伏せに倒れた姿勢のままそう口にだした。
何がおきたかは分かっているが理解が出来ないのだ。
言葉にしたらアラヤがラインハルトに向かって神速からの突きを放った瞬間ラインハルトがカウンターの様に両手で握った両手剣を雷の速さで振り下ろし斬られたアラヤが吹き飛んだ、ただそれだけではあるが
(だが、此方は神速の領域の突きだぞ!そんなの不可能だ!)
アラヤにはそもそもどうやって神速の突きにカウンターを当てたのかが分からなかった。
地面にふれ伏し困惑するアラヤにラインハルトが近づき
「私の勝ちだ」
勝利宣言を行った。
周りのプレイヤー達は実際何が起きたかは理解できなかったが取り敢えずはラインハルトの勝利だと分かり
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「ゼウス!」
「ゼウス!」
「ゼウス!」
一斉に歓声の声が上げた。
「アラヤ君!」
周りのプレイヤー達が歓声を上げるなかユエが泣きそうな顔でアラヤに駆けよった。
(あっ…あ、俺…俺)
アラヤに駆けよったユエの表情を見てアラヤは困惑よりも自分が敗北したことをユエの前で敗北してしまったことに対し
「クッソオ!!」
悔しさや情けなさが一気に沸き上がり地面におもいっきり両手を叩き付けた。
「…アラヤ君」
そんなアラヤを哀しげな顔でユエが見つめるなか
「アラヤ君レベルは私の方が勝っているとは言え君が神威開放を使った時点で私が神威開放を使った時よりもAGIの面では君が勝っていた。
君の速さは大したもだしかしいくら速かろうが直線に来られれば如何様ともなる。
……もしアラヤ君君が冷静であったのなら勝負の行方は逆になっていたかもしれない」
ラインハルトはそう言い眼を瞑り開くと心底アラヤを憐れみながら
「残念だ」
そう言うと身を翻し
「では私はこれで失礼する」
中央広場から去っていった。
「あ、あああああ!!」
広場にはラインハルトを称える声とアラヤの慟哭が鳴り響いた。
その後アラヤはユエと別れログアウトした。
ユエは仕切りにアラヤを心配していたがアラヤは顔を俯かせユエに応えることができなかった。
ユエは別れ際は
「アラヤ君また、明日ね」とぎこちない笑みで振り絞るように声を出しアラヤに手を振っいたがアラヤはそんなユエにさえも何も応えることが出来なかった。
だからこそアラヤは気づかなかったアラヤを見送るユエの表情が泣きそうなっていたことを。




