真実
やぁ、こんにちは語り手だ
アラヤが使用した永劫無双神威開放について語るなかアラヤとユエは遂にグランドクエスト真の最終の地、リネイシアの花園に到着するとあまりの幻想的な景色に言葉を失った。
リネイシアの花園の情景を胸に刻みながら歩くアラヤとユエはリネイシアの花園の中央にある一つの墓石へとたどり着く。
さて本日の物語はどんなものになるのか……。
墓石の前で立ち竦むアラヤとユエであったが敬意を示すように手を合わせると目を瞑りお辞儀した。
アラヤはもユエも何故自分達がそうしたのかは分かっていないがこのリネイシアの花園の情景がそうさせているのか不思議とそれが当たり前の様に自然と頭よりも心が体が動いたのだ。
暫く静かにお辞儀をしたアラヤとユエはお辞儀を止め目を開けたら二人の前に不思議な現象が起きた。
二人の前の墓石と風に舞う花弁も含め咲き誇るリネイシアの花全てが一斉に光だすと光の小さな玉を出しアラヤとユエの前に次々と光の玉が集まり合わさると二つの光の球体ができた。
光の球体にアラヤとユエがおもむろに手を伸ばし光の球体を自分達の前にある光の球体を掴むとは二つの光るアミュレットに変わった。
アラヤの前には表面の外側にギリシャ文字が欄列して内側には七つの菱形が彫ってある青銅の盾の形をしたアミュレット【アイアス】が、
ユエの前には【ヨモギ】の葉が描かれた月の黄色とユエの髪と同じ白銀の色をしたアミュレット【アルテミシア】が表れた。
「これがこのグランドクエストのクエストクリア報酬と言うわけか」
アラヤが【アイアス】を右手の手のひらに乗せながら言うとユエは頭を横に振り【アルテミシア】を両手で握り締めながら
「違うよ」
アラヤの言葉をやんわり否定すると後ろに振り返り静かに風に揺れるリネイシアの花々を微笑みながら見つめ
「これも報酬の一つなんだよ」
と柔らかに言った。
アラヤもユエの言葉の意味が分かるので後ろを振り返りリネイシアの花々を見つめ
「ああ、そうだな」
返事をした。
アラヤとユエは自分達が手にしたアミュレットを確認することにした。
【アイアス】
所有者に対し七回攻撃を防ぐ強化を与える
※七回防ぐと次のリキャストタイム06:00迄は使用できない。
(つまりどんな攻撃も七回迄防ぐことが出来るというわけか中々強力な効果だな)
「へぇ、七回も攻撃を防ぐっなんて凄い効果だね!」
ユエもアラヤと同じ意見だとアミュレットの効果を称賛した。
【アルテミシア】
所有者が装備している限り常時所有者に対するデバフ効果を打ち消す
「これは…また強力だな」
アラヤは【アルテミシア】の強力な効果に思わず目を見開いた。
(つまり【アルテミシア】を装備している限り毒、麻痺、眠りなどの状態異常のデバフを受け付けないうえ【アイアス】みたいに回数制限やリキャストタイムがない。
デバフを気にしなくていい分ある意味アイアスよりかも便利だな。)
ユエはと言うと手にしたアルテミシアを嬉しそうにいろんな角度から眺めていた。
(ふぅ。まるでオモチャを貰った子供みたいだな)
アラヤは心の中で薄く笑うとその光景を黙って見守り続けた。
アラヤとユエは時間にして十数分しかしまるで長い時を過ごしたように感じたリネイシアの花園に別れを告げ墓石から花園の入り口に向かって二人揃って歩いていたらユエが突然止まり歩くアラヤに
「待ってアラヤ君!」
呼び掛けた。
アラヤが何事かと振り向くとユエが胸の前で両手を握り悲痛そうに何かを堪える顔をしていた。
「ユエ大丈夫か?」
ユエの様子に驚いたアラヤが心配の声を掛けると
「あっ………」
ユエはキョロキョロと不安そうに辺りに視線を彷徨わせていたらギュッと目を瞑り数秒を経ってから静かに頷き目を開けアラヤに決意を込めた顔で視線を向けた。
「アラヤ君にどうしても聞いて欲しい事があるの」
「俺に聞いて欲しい事?」
「うん。アラヤ君は私の噂って聞いたことある?」
ユエの噂。それはユエがNPCかホログラムゴーストじゃないかと言うものである。
一瞬どう応えたものかと迷ったアラヤだったがユエの真剣な眼差しに誤魔化しが効かないと判断し正直に伝えることにした。
「ああ。知っているよ」
アラヤが応えるとユエは腰に左手を当て右手人差し指を立て目を瞑りながら
「アルテミスはゲーム開始から朝も昼も夜も姿を見るな、彼女はNPCかホログラムゴーストではないのだろうか…ってね」
噂の内容を確認する様に言葉をだす。
言葉にだすユエの様子から噂に対し別段怒っている様子も悲しんでる様子も見受けられない。
(ユエの様子から噂に関して気にした様子はなさそうに見えるが、ここでその噂を持ち出すと言うことは実はユエ本人は噂の事を気にしていたんだろうか)とアラヤが思いながら
「ユエ、君は俺が見た限り現実にいる人間そのものだし実際現実世界に生きている人間だろ、そんな噂は気にしなくて大丈夫だ」
アラヤが気にするなとフォローする様に言うとユエは少し悲しそうな顔をしてアラヤに背を向けると
「違うんだよ」
頭を横に振った。
「違うってなにがだ?」
「確かに私はNPCでもなくホログラムゴーストでもないよ」
「じゃあ何が……」
何処が違うのかと聞こうとしたアラヤに背を向けているユエは目を閉じ静かに開けるとゆっくりとアラヤの方に振り向き
「でもねゲーム開始から朝も昼も夜いるって言うのは本当なんだよ」
「えっ?」
アラヤはユエが言った意味が分からず呆然としていた。
ユエが言っているは自分はNPCやホログラムゴーストではなく生きている現実にいる人間だが朝昼夜つまり一日中ジェネティクノーツの中に居るのは本当だと云うことだ。
しかしだ人間は食事睡眠が必要な生き物であるし排泄もある。
つまり物理的に一日中ゲームの中に居るのは不可能である。
「……有り得ないだろ」
「うん、アラヤ君の言う通り本当なら有り得ないことだよ、生きてる限り食事も睡眠も必要な人間にとってゲーム開始から朝も昼も夜つまり二年間ゲームの中に居続けるなんてことは不可能なんだよ」
アラヤにはユエが言っている意味が分からないしユエ本人も不可能だと認識し言っているのにも関わらずその反面二年間ゲームの中にいると言う。
呆然とするアラヤを他所にユエは話を続けていく
「アラヤ君、私の現実の体はね今病室で眠り続けているの」
「……………はぁ?」
ユエの衝撃な言葉に言葉を失うアラヤにユエは薄く笑い
「アラヤ君は植物人間って知っている」
「…えっ?植物人間って意識はないが生命活動はしている状態だろ、いや!そんなことより病室って!?いや、まさか…まさかユエ君は…」
アラヤはそこまで言ってユエが何を言おうとしているか分かってしまった。
(待ってくれ…待ってくれよそんな事って……)
「私」
「まて」
「私ね」
「待ってくれ!」
「植物人間なの」
その先を聞きたくないとユエの言葉を遮ろうと声をあげるアラヤに対しユエは淡々と残酷な真実を告げた。
残酷な真実に言葉を失くすアラヤにユエは話を続けた。
「アラヤ君。私ね四年前に事故に遭って手術で一命は取り留めたんだけど意識がない植物人間状態だったんだ。勿論心臓や脳は動いているし怪我も治っていって意識がないってだけで他はどこも悪くないんだよ」
「だけどユエ、君は今ここにいるじゃないか」
「うん。あれは三年前かな病室で意識なく眠り続ける私と私の両親の前に私の主治医がある一人の科学者を連れてきたの。
主治医とその科学者が言うにはもしかしたら私の意識を取り戻すことが出きるかもしれないって事だったんだ。
一年も回復の見込みもない私を必死に諦めず看病してくれてた両親は藁にも縋る思いでその話を聞いたの」
ユエはそこで一旦目を瞑り静かに開けると
「主治医と科学者が話したのは私の意識を電脳世界に繋げるとゆうものだったの。
なんでも意識を仮想現実に移すフルダイブゲームを開発しているので完成したら意識をそこに繋げてみないかって」
あまりの内容にアラヤは絶句した。
何故ならその提案は100%の確信もないし未知数のものであり、そもそもそれは医療技術とは違い非人道的行いである。
「人体実験みたいでしょ」
ユエは本来なら
「何だその提案は」
と怒るか悲しむべきことなのに気にした様子もなく平然と言う。
「ああ、そうだ。そんなの許されていいはずがない」
「そうだね。最初はねアラヤ君の言う通りママもパパも娘を玩具にするきか!って怒ったんだよ。
でもねアラヤ君も知っての通りフルダイブゲーム自体意識は仮想現実に移し現実の体は寝ているみたいな、まるで植物人間みたいな状態でしょ」
「だがそれはみたいなだけで植物人間とは違う」
ユエの言う事にも一理ある 意識を仮想現実に移した状態だと現実の体は意識がない状態だがそれは死んだわけではない。
プレイヤーの安全は完全に保証され脳に影響がでないように万に一つも無いようになっており何よりプレイヤーはボタン一つで直ぐに意識を現実に戻せる事ができる。
「うん、確かにフルダイブはあくまでプレイヤーの状態が似ているってだけで本当の植物人間ではないよ。
でも有り様は同じなんだ。
もし意識を仮想現実に繋ぐことができれば脳のシナプスが働き仮想現実の中に意識を取り戻すことができるんじゃないかって、勿論100%の確信があるわけではないよ。
だけど今現在の医学…いや全てにおいて脳の仕組みは人の感情と同じぐらい複雑で今尚全部分かっている訳じゃないし、なにより今のままなにもせず延命だけするよりも格段に意識を取り戻す可能性がある」
ユエはそこで言葉を区切ると胸に手をあて嬉しそうにそして誇らしげに
「私のママとパパは本当に優しい人達なんだよ、何よりも私の事を大切に思ってくれている。だからねママもパパも最初は反対していたけど私の声が聞けるなら意識が戻るならって精一杯悩んで話しあって私が回復する可能性に賭けて承諾したんだ。
…そして見ての通り見事にママもパパもその賭けに勝つことが出来たんだ」
「ユエは…それでよかったのか」
アラヤの振り絞るように出した声にユエは照れ臭そうに微笑むと
「最初はね、そりゃあ恨んだし怖かったんだよ。だって目を覚ましたらそこはゲームの中んだよ、訳も分からずびっくりしたよ。
そんな中メッセージが送られてきて見たら私の体は今も尚眠っているって言うんだよ。
しかも意識は取り戻すことが出来たものの直ぐには直接体に戻すことができないって言うしさ。
も~訳が分からず最初の2ヶ月は不安と恐怖でアルカディアの宿に引きこもったし」
それは仕方ないことだ。
目が覚めたらいきなり知らない場所のうえ「お前はそこで生きていくんだ」と言われて「はいそうです」と納得できる奴はいないだろう。
ユエが言う通り不安と恐怖でを抱くのは当たり前である。
そこでフッとアラヤはあることに気づいた。
いや、気づいてしまった。
アラヤは自分の考えが違っているように祈りながらユエに恐る恐る訪ねる。
「ユエ」
「なぁにアラヤ君」
「もし、もしなんだがログアウトが出来ないて言うならHPがゼロになったりしたらどうなるだ?」
ジェネティクノーツではHPがゼロになったプレイヤーは蘇生されない限り基本強制ログアウトになる。
つまりアラヤは気づいてしまったんだログアウトが出来ないユエにとってジェネティクノーツでHPがゼロに成ることは終わりを意味する。
「下手したら意識そのものが消滅して亡くなるかもね。
まぁ~でもリスクリターンは仕方ないことだよ。
大きなリターンを得ようとするならそれと同じいやそれ以上のリスクを背負うなはなければならない。
それにあのまま意識が無いでいるよりはこうしてゲームの中でも自分の意思で動ける方がいいしね」
ユエはこともなしげにあっけらかんと言うがアラヤにはどうしても納得はいかなかった。
「何でそんな風に言えるんだよ…何で死ぬかもしれないって分かっていながら宿にずっといないでフィールドに出たんだ!ユエ死ぬかもしれなかったんだぞ!」
アラヤの言うこともまた一理ある。ジェネティクノーツでは都市内ならモンスターも出ず他のプレイヤーとPVPを行わなければHPがゼロになることはない。
故にユエにとって一番安全なのはフィールドに出ず最初の中央都市アルカディアの宿にずっと居ることである。
「アラヤ君…」
「それなのに俺の頼みなんか聞いたんだよ。グランドクエストだぞ通常のクエストよりも高難度クエストよりも遥かに難しく敗北のリスクが高いクエストなんだ、下手したらさっきの戦い、いや、グランドクエストの初めの方で終わっていたのかもしれないんだぞ…」
アラヤは自分のせいで一歩間違えばユエを死なせてしまったかもしれない恐怖で俯き声も震えて消え入りそうになっていた。
「アラヤ君。アラヤ君のせいに思うことなんて一つもないんだよ。
だってこれはアラヤ君の頼みを聞くと私が私自身が決めたことなんだから」
優しく言うユエにアラヤは弱々しく顔を上げた
「……ユエ君は怖くはないのか」
ユエの今ある現状はユエでなくとも誰であっても恐怖を抱くものである。
自分が歩む道には常にハッキリと分かる死が纏わりついているのだから。
しかしアラヤの前にいるユエからは死に対する不安も恐怖も悲観も感じられない。
ユエは優しくアラヤを見詰めながら
「さっきも言ったけど私も最初の2ヶ月は不安や恐怖だらけだったんだよ。
でもね、このまま何時になるか分からない終わりを只待つよりかは少しでも自分らしく生きたいと思ったんだ。
だから勇気を振り絞って外に出たんだよ。
まぁ、外に出たのはいいけど直ぐにモンスターに遭遇し危険なめにもあったんだけど。
でもねそこである出来事があってそのお陰で本格的に行動する決意が覚悟が生まれたんだよ。
それに行動したお陰でルビィさんや色んな人達にも出会えたし」
「だからねアラヤ君。
これは私が選んで歩んできたことなんだよ。アラヤ君が気にすることなんてこれっぽっちもないんだから」
ユエはまるで優しく照らす太陽のような笑顔でアラヤに告げた。
アラヤはユエのその顔を見た瞬間思わず泣きそうになった。
不安、恐怖、悲観、絶望そういったものを乗り越え、いや本人は今もなお乗り越えている途中なのかもしれない、それでも一歩一歩歩み続けるユエを見ていたらその尊さ、儚さそして強さに心が震えた。
「それでね、私がアラヤ君に伝えたいのは此処からなんだ」
ユエはそう言い遠くを見るような目でリネイシアの花園を見ながら
「アラヤ君私ね後半年以内に選択しなければならないの」
「選択?」
「うん。実はアラヤ君にオリュンポスの人達から助けて貰ったあの日に現実世界から連絡があってね、だいぶ私の脳波も安定してきたから私の体に意識を戻してみないかって」
アラヤは突然の内容に驚いた。
「えっ!それって大丈夫なのか!?」
「主治医と科学者が言うには成功率は30%だって」
「30%…」
「100%じゃないけどでもこれ以上続けても今みたいな安定した高い数値はでる保証がないし下手したら下げるかもしれないからするなら今しかないんだって」
「だけど!30%って100%じゃないなら…」
恐怖からその先を口にだせないアラヤにユエはクスッと笑い
「だから選択なんだよ。
意識を体に戻すか、このまま何もせずゲームの中にいるか、どちらを選んだとしてもメリットもあればデメリットもある、ママもパパも私の意志を尊重するって言ってくれたんから後は私の意志次第なんだ」
つまりユエ次第で全てがこの先の道が未来が決まると云うことだ。
自分の事は自分で決めるそれは誰しもが持つ当たり前のことである。
周りから何を言われようが最後に決めるのは自分なのだから。
だが、だとしても彼女のユエの選択は残酷すぎる。
それは人が一人で選択するには背負うにはあまりに大きく重いものである。
ユエは自分の置かれている現状を語り終えるとただ何を言うでもなくアラヤを見ている。
その目は憂いも悲しみも怒りも喜びも見受けられない。
もしかしたらユエはアラヤに何かを言って欲しいのかもしれない、ああしてほしい、こうしてほしいと。
果たしてアラヤはユエに何か言うべきなのだろうか、いやユエはアラヤを信じて打ち明けたんだ何か言うべきであるのだろう。
それをアラヤ自身も分かってはいたが脳裏に自分のせいで死んだ母親のことが過り何も言えずただ立ち竦んでいた。
ユエは暫くすると微笑み
「アラヤ君帰ろっか」
とさっきまでの話がなかったかのようにリネイシアの花園の入り口目掛け歩きだした。
「ああ」
それに対しアラヤは返事をするとユエの後を黙々と歩きだした。
アラヤは思い知らされた。
今誰よりも悩み苦しんでいる一人の少女を励まし救うどころか自分が逆に気遣われ救われたということを。
強くなる決意をしたばかりの自分自身がいかに無力で弱い人間だということを。




