ルビィの店
やぁ諸君、語り手だ。
人類の技術の進化の果てに誕生したVRMMORPGフルダイブゲーム、ジェネティクノーツ。
プレイヤーアラヤはオリュンポスギルドに追われたアルテミスの異名を持つユエと言う可憐な少女と出逢いをはたす。
ユエを救ったアラヤはユエと一つの約束をかわす。
まぁ、一方的ではあるけどね。
さて二人の物語はどうなることやら。
気付いたら不思議で神秘的な空間に佇んでいた。
それはまるで星の夜空。
闇夜の空間に幾重の小さな光が輝き散りばめてある。
寂しくて哀しくてそれでも何故か目を離せない程に惹き付けられる。
普通なら息を飲むほどに美しい光景。
初めてこの光景を目にした時は小さな子供のように決して掴めないと分かっているのに天の星空を掴もうと自然と手を伸ばしていた。
まるでその闇夜の星を掴めば自分の願いが叶うとでも思ったのだろうか……。
手を伸ばしきった後に気付き嫌気がさす自分の浅はかさ、醜さに。
またこの夢か…。
何度も見る同じ光景に溜め息が出る。
いくら不思議で神秘的な光景で有ろうと回を重ねれば慣れ感動も無くなる。
それに同じ夢を見続ける、それは不気味でしかない。
例えば悪を倒すヒーロー。
プロ選手。
好きなアイドル。
幸福であり理解できる物語のように続く夢ならいいだろう。
だけど俺の見る夢は不思議で神秘的な夢。
何も変わらず不変な夢。
こんな夢を見続ける事は悪夢と変わらない。
それにこの夢の中では俺は意識だけの存在。
動けないし、喋れもしない。
自由も無く拘束されているのと変わらない。
なのに目の前の光景と自分が佇んでいるというのはハッキリと分かる。
これも不気味でしかない。
まるで脳に直接情報が送られているようだ。
そんな不変な夢はある時変化を起した。
何時しか俺の前に光の粒子が出現した。
粒子は変化を起し始めた日から時を過ぎる度に増え始め何時しか形をなし始めた。
男か女かそもそも人なのか生物なのかも分からない不確定な姿形。
更にそれは姿形だけではなくなった。
俺に声なき声で何かを発してきた。
実際それが俺に語りかけているのか本当に声なのかははっきりとは言えない。
俺がそう感じるだけかもしれない。
もしかしたら俺に向けて発しているわけじゃないのかもしれない。
そもそも声と表現したが海豚や蝙蝠が放つような音波かもしれないしモールス信号やコンピューターみたいな機械音かもしれない。
「ーーーー」
「ーーーー」
「ーーーー」
何を言っているのかは分からない。
謎の光の粒子からはいつもノイズだけが聞こえる。
はっきりとしない声。
だけど…何故かは分からない、分からないが俺はその声に……いや気のせいに違いない。
光の粒子は何かを発しているだけで俺に危害を加えた事は一度もない。
何もしようとしないのか、それとも出来ないだけかそれは俺には分からない。
夢も暫くしたら目が覚める事はもう分かっている。
夢が始まったのはジェネティクノーツを始めた日からだ。
それが2年間毎日続いている。
最初はもしかしたらフルダイブゲームがなにか脳に影響を与えたせいかと思った。
ネットで症状を調べたり病院にも行った。
しかしジェネティクノーツをプレーしている他のプレイヤー誰一人とも俺と同じ症状が出たということもなくフルダイブゲーム自体に何かしら悪影響が出たと言う事例もない。
病院の検査も異常無し。
世界で唯一人俺だけに出た症状。
訳が分からない……。
医師からは検査も異常無しと出ている以上緊急性はなく単にストレス、精神的な症状ではないかと診断を下した。
しかし緊急性は無いものの念のためにフルダイブゲームを控えるように言われた。
医者の言うことは最もだ、だけど俺にはフルダイブゲームを止める方が、あの世界に行けなくなる方がこの訳の分からない夢を見続けるよりも辛い。
例え自分の安全を引き換えにしようとも。
だから夢を見てももう病院には行っていない。
俺にとってフルダイブゲーム【ジェネティクノーツ】はこの辛くもどかしい現実において唯一好きに生きられるもう一つの現実。
ゲームなんてと言う人もいるしいい顔をしない人もいる。
だけどそれがどうした、誰しもが現実を全て受け止め生きていけるわけではない、人はそんなに強い生き物ではない。
辛い現実を乗り越える人もいれば耐えながらしか生きられない人もいる。
皆、家族、恋人、友人、仕事、何かにすがって生きている。
俺はそれが【ジェネティクノーツ】なんだ。
だから他人に何を言われようとも止めるつもりはない。
この日の夢は更に変化を起した。
「せん…く」
「せん…く」
「せん…く」
と言う明らかに言葉と分かる声を発した。
光の粒子は手と思われる形を形成すると俺の方に伸ばしてきた。
「うぉおおお!」
俺はそれに驚き目を覚ます。
「ハァハァハァ」
ベッドから飛び起きた俺の身体からは大量の汗が吹き出し呼吸は酸素を求め荒く息を吸い吐き出していた。
時間を経る毎に心は落ち着きを取り戻していく。
「スー…ハー…スー…ハー」
目を瞑り軽く深呼吸して息を整える。
完全に落ち着きを取り戻した俺はベッドに置いてあるスマホを手に取る。
時刻は06:00。
「6時か…うっ、寝汗が気持ち悪いな」
身体中から出た寝汗が酷く不快感があった。
最初は身体を拭くだけにしようとも思ったが折角早く起きた、と言うか夢に起されたのでシャワーを浴びる事にした。
俺はクローゼットから着替え一式を持ち一階の風呂場に行った。
風呂場でシャワーを浴びながら先程の夢のことを思い返していた。
(一体なんだったんだ。
…あの粒子、何時もはノイズだけで何を言っているのか分からないかった。
だけど昨日の夢は違った。
相変わらずノイズ混じりだったが確かな声を発していた。
それに手…おそらく手で間違いないと思うが俺に伸ばしてきた。
俺を襲うとしたのか、それともただ触ろうとしただけなのか、それとも他に何か意図があったのか)
いくら思考を重ねようが答えにはたどり付けそうにない。
(はぁ、考えても分からない。
夢自体をどうにか出来ない以上考える事自体意味がないのは分かっている、だけど何故か気になってしまう、自分でも分からないが)
風呂から上がった俺は学校の制服に着替えると何時ものように朝食を用意する。
用意するのは二人分。
パンとベーコンエッグにコーヒー自分と父親の分を。
俺の分を食べていると父親が自室から出て来た。
父親は無言で俺の向かい座ると朝食を食べ始める。
ダイニングには俺と父親のお互いの動作音。
会話の一つもない無言の時間、これが俺達の日常だ。
家には俺と父親だけで母親は居ない。
俺が小学生の時に母親を事故で死んだ。
いや俺が殺したようなものだ
だからこれは当然の結果、そう罪に対する報いの結果だ。
母親がいた時は父親とも仲が良く沢山喋っていた。
今では会話も殆どない、その有り様は血の繋がった家族ではなくお互いただそこに居るだけの同居人だ。
寂しい、悲しいとは思わない、思う資格もない。
俺は自分の分を食べ終わり食器を洗う。
作業を終えて時間を確認すると7時30分。学校に向かうため鞄を持ち家を出る。
これが俺の朝、毎日変わらず続くただの朝の風景。
学校に着くと何時も通り淡々と授業を受けていき昼休みになる。
友達なんていない俺は何時も一人で昼食を食べる。
別に友達が欲しいとは思わない。
……ただ、たまに教室の中親しく話している人達の姿が目に入ると否応なしに惹き付けられる時がある。
俺は教室から出ると購買に昼食のパンを買おうと廊下を歩いていた。
「ツッ!」
「わっ!」
夢の余韻が気付かないうちに残ってたのか少しボンヤリしながら歩いていたら
前から慌てて走っていた男子生徒とぶつかった。
ぶつかったのは黒髪で眼鏡を掛けた小柄で気の弱そうな男。
そいつはぶつかった拍子に両手で抱えていた沢山のパンを廊下にぶちまけてしまった。
「ああ!ごめんなさい!怪我はないですか!」
男は申し訳なさそうに頭を下げて謝る。
「俺は大丈夫だがお前の方こそ大丈夫か」
(こいつ、性格がいいな…)
パンの量からしておそらく視覚がほぼ塞がれた状況でありながら廊下を走っていた男の方に非が有る、だが起こった原因は俺がボンヤリ歩いていたせいもある。
結果、責任は平等だ。
だが端から見ていた人や当事者である男は俺がボンヤリ歩いていたというのは分からないだろう。
歩いていた俺に不注意の男がぶつかったとしか見ない。
普通の人がぶつかった場合、最も重要視することは探すことだ、免罪符を。
表面上は謝罪を述べていようと相手の非を探り自分の罪を軽くしようとする。
悪い奴ならそもそも謝りもせず相手の非を作ってでも自己保身を経る為に無理を通そうとする。
目の前で俺に謝罪を述べる男にはそれが全く見受けられない、純粋に自分の非を認め謝罪を言っているのが感じられる。
だからこそこの男は性格のいい奴だと思った。
「えっ?あっ、はい!僕は大丈夫です!お気遣いいただいてありがとうございます」
…まさか傷の有無を聞いただけでお礼まで言われるとは思わなかった。
「ならいい、それと悪かった。ぶつかったのはボンヤリと歩いていた俺のせいでもある」
「それは違います。貴方が謝ることはありません。
廊下は走っていい場所じゃないと分かっていながら急いでいるからと無理矢理走ってた僕の方が悪いんですから」
男は真剣な眼差しで淀み無くハッキリと言ってきた。
(ああこいつは…)
俺は男の有り様に少し目を背けたくなった。
この男から感じる正しさ強さに。
俺は気持ちを切り替えるように溜め息を吐くと廊下に散らばったパンに目を向ける。
「それより、急いでいるみたいだが時間の方は大丈夫なのか」
「ああ―!しまった急がなくちゃ!」
どうやら完全に忘れていたみたいだ。
男は俺の指摘に男は慌て散らばっているパンを集めだした。
俺にも非があるので見て見ぬふりなんて出来ない、近くに落ちているパンを拾いながら男に渡す。
「わぁ、ありがとうございます。ぶつかったのに拾うの手伝ってもらって」
男は俺の行為が嬉しいのか申し訳なさそうな顔をながらも礼を述べる。
「気にするな」
パンを拾いながらなんとなく気になった事を聞く。
「凄い量だがお前そんなに食べるのか」
散らばったパンは10個以上、明らかに一人で食べるには過剰な量だ。
男が大間食でもなければこの量を昼休み中に全部食べきるのは難しいだろう。
俺が聞くと男は困ったような表情になった。
「いえ…このパンは頼まれたもので僕のではないんです」
「頼まれたって、この量を一人でか」
「はい」
(普通有り得ないだろう3つや4つならまだしもこの量を一人でだぞ罰ゲームにしても…いや……そういうことか)
一瞬罰ゲームの一種かとも思ったが男の表情、言葉にそれ以上の醜悪さを感じおおよその事情を察した。
連夜と男は落ちていたパンを全部集め終わる。
「すいませんでした。
結局最後まで手伝あわせてしまって」
「別にお前が謝る事はない、俺がそうしたいからしただけだ」
「えっ」
男は俺の言葉に最初キョトンとすると
「フッフフ」
笑いだした。
(急にどうしたんだこいつ)
その姿に怪訝な顔した俺に気付いた男。
「あっ、すいません。
別に貴方が可笑しくて笑ったわけではなく、貴方が優しい人だと思って」
(優しい、俺がか?)
何処をどう見たらそんな奇妙な結論に成るのか全く分からない。
「僕のおじいちゃんが言ってました。
恩を着せず誰かの為にする救いは純粋であり優しい人の証しだと」
(どう言ったものか……)
反応にさらに困る。
「……ああ~!?」
嬉しそうに笑う男だったが突然何か思い出したように叫んだ。
「…どうかしたか?」
突然のことに何かあったのかと疑問に思い聞くと男は恥ずかしそうに顔を少し赤く染める。
「…あっ、いえ、そのーですね、パンを拾うの手伝ってもらいながら失礼きわまりないんですが、僕あなたの名前を知らないなぁと思って…」
「……ああ、確かに俺達お互いの名前も知らないが」
連夜にとって男との出会いは特別なものじゃなく人生のよくあるただの一幕に過ぎない。
男とは今だけでありこの先関わることなんて無いだろう、だからお互いの名前を知らずにいる事は非常ではなく正常、別に気にすことではないと思っている。
「そうなんですよ!もうほんと僕としたことが、手を貸してもらいながら感謝する相手の名前も知らないままでいるなんて恥ずかしいことです。」
「…名前を知らないことがそこまでのことなのか」
連夜には自分自身に憤慨する男の態度は大袈裟に感じる。
「そうです!」
両手に抱えているパンを潰しやしないかと思うぐらい力強く言う男の感性は連夜には難しいと言うか理解が出来ない。
「では改めまして僕は一年の真田守と言います。
この度は助けていただきありがとうございます、先輩」
(…今こいつ先輩って言ったか?はぁ、だからかさっきからやけに丁寧な態度や敬語で話してるとは思ってはいたが、はぁ、勘違いしてるなこいつ)
「俺は荒木連夜、先輩じゃなくお前と同じ一年だ」
「…えっ、ええ~!?僕と同じ一年って、じゃあ僕達同い年だったんですか!?」連夜を自分より年上の先輩と勘違いをしていた真田は口を大きく開け驚きを顕にした。
「そうだ」
「ほんとに!?」
「ああ」
「ほんとのほんとに!?」
「…ああ」
「ほんとのほんとのほんとに!?」
「しつこいぞ」
「アッハハハ、いや~僕はてっきり荒木君のことを先輩だと思ってました。荒木君が僕なんかと違い凄い大人びた雰囲気だったのでそうとばかりに」
真田は恥ずかしそう顔を赤くし言う。
(…大人びたか)
真田の自分への評価に複雑な気持ちを抱く連夜は真田に気付かれないぐらい少し顔を歪める。
勘違いがとけた連夜と真田。
「おい、守おせぇぞ!何時まで待たせてやがるこのノロマが!飯食う時間無くなっちまうだろうが!」
そんな二人の間に突如怒声がふりかかる。
怒声の主は髪を赤に染めて耳にリングのピアスを嵌め制服を着崩し憤慨を顕にした不良。
その不良は仲間と思われる制服を着崩した2人を引き連れてやって来た。
不良の名前は木戸健哉。
この学校では誰もが知る有名な札付きの不良で素行も悪い学校の問題児であり連夜と真田と同じ一年だ。
「あっ!ごめん木戸君。直ぐそっちに行くよ」
木戸達に気付いた真田は大慌てでパンを抱え木戸達の元へと走って行く。
ああ、パシリにされてると言うわけか…
「ちんたらしてんじゃねぇよ!飯食う前に昼休み終わっちまったらどうすんだ!」
反論すら許さない勢いで木戸達は一方的に真田を捲し立てる。
「ごめん!」
真田は木戸達の勢いに押されているのか一切反論もなく謝っているばかりだ。
正直見ていていいものではない。
現にこの光景を見ている他の聖徒達も不快そうに木戸達を見ている、あくまで木戸達に気付かれないようにだが。
不快だと思っていようが自分に火の粉がふりかかる恐れがある以上だれも注意する処か助けを出そうとはしない、安全圏の第三者と言う他人を装っている。
ただ、それを避難する資格は俺にはない。
俺もただ茫然と木戸達と真田の光景を見ているのだから。
見すぎていたからか俺の視線に気づいた木戸が俺を睨みつける。
「おいなんだてめぇは、さっきから俺達をじろじろ見やがって、なんか俺達に文句でもあんのか」
「………」
「なに黙ってんだ、俺は文句でもあんのかと聞いてんだろうが、嘗めてんのかてめぇ」
此方に矛先を向けてきた木戸、そんな木戸の前に真田が俺を背にするように立ち塞がった。
「違うんだ木戸君、荒木君は木戸君達を馬鹿にしてるわけじゃないよ。さっき僕が荒木君にぶつかったんで大丈夫なのかと心配して見ていただけなんだ」
真田は俺に被害がこないようフォローする。
「チッ、まぁいい、おい!さっさと行くぞ」
正直怒る木戸に対し言い訳としては微妙なとこだが昼休みもだいぶ時間がたっておりこれ以上は本当に昼食を摂る時間が無くなると思ったのか木戸はこれ以上は追及せず話を切り上げた。
木戸達は真田を連れて歩き出した。
歩き出す間際、木戸達が背中を向けて俺を見ていない時に真田が俺に申し訳なさそうに頭を下げた。
俺はその光景を黙したままただ見ていることしか出来ない。
分かっている、出来ないなんて言う言葉は言い訳にしかならないことを、木戸達と真田の関係は決して良好なんてものではなく、逆のものでしかない。
間違いだけのものであり本来なら正さなければ成らないものだ。
だけど俺に、俺なんかに一体何ができると言うのだろうか、一点の間違いもなく絶対に解決し正せるのならいい、だが俺が何かをしたとこで余計悪い結果をうむかも知れないなら、それならばいっそう他の生徒みたいに関わらない第三者の立場で何もしない方がいいんじゃないか。
俺はふと廊下の鏡に写る自分の顔を見る。そこに写るのは現実の自分。
無気力で平凡で何も出来ない、掴めないただの人間。
(余計悪くなるから関わらない方がいい……嘘つけ、全ては自己保身の為の言い訳だろが、助ける気なんて少しも無いくせに)
鏡に写る自分に対しそう心の中で言い放つ。
学校が終わり帰路についた俺はTシャツ、短パンに着替えるとVRMMO 機器を頭に着けベッドに横たわる。
「スー…ハー…スー…ハー…」
数回深呼吸をすると目を閉じジェネティクノーツにダイブした。
ダイブ先は自分が昨日ログアウトした中央都市アルカディアにある宿屋。
「今日はどのエリアに行くか」
今日の行先を考えていたら一通のメッセージが届いた。
「?誰からだ……」
メッセージの送り主を確認するとfromとなっていた。
「…まじか」
内容は昨日の事について。
from
『こんにちはアラヤ君。
昨日はアラヤ君のお陰で本当に助かったよ。
実はね今ゲーム内で大変なことが起きてるの。
簡潔に言うけど、昨日アラヤ君が私を助けるためにオリュンポスのメンバーを倒したことがギルド内にバレたみたい。
今ギルド総出でアラヤ君の捜索を始めているの。
取り敢えず詳しい話しは何処か落ち着ける場所で言うとして、何処かオリュンポスギルドにバレない安全な場所はないかな』
俺は右手を頭にやった。
まじか……いや、この結果は分かりきっていた事だ。
組織はその規模が大きく成ればなる程しがらみも増え面子を重んじる。
それは現実でも然ることながらゲームだろうと変わらない。
だから大手ギルドを相手にした段階でこうゆう事はあるだろうとは思っていた。
思ってはいたが幾らなんでも昨日の今日と此処まで対応が早いとまでは思はなかった。
(幾らなんでも昨日の奴等が自分達が負けたことを直ぐに口に出す程にプライドが無いとは……はぁ、なったもんはしょうがない、取り敢えずの最優先は安全な場所か……あそこしかないか)
安全な場所の見当がある俺は早速ユエにメッセージを送る。
from
『分かった。
落合場所だが俺に一ヶ所見当がある。
そこならオリュンポスギルドだろうが容易に手出しは出来ない。
場所はアルカディアの商店街の裏路地にあるルビィの店なんだが知っているか』
from
『うん知ってるよ!確かにルビィの店ならオリュンポスギルドも手出し出来ないね。
そこにしようか。
時間だけど今から20分後に集合でいい?』
from
『ああ大丈夫だ』
from
『気を付けてね』
from
『そっちもな』
これで落合場所、時間が決定した。
俺はストレージを操作しアイテム欄から身を隠すアイテムを取り出す。
体を覆うローブとカメレオンチェンジ。
カメレオンチェンジは髪と目の色を様々な色に変化させることが出来るアイテム。
俺は早速カメレオンチェンジを使用し黒髪と黒目を金色と赤目に変えた、そしてローブを纒うと宿を出てルビィの店を目指し歩き出した。
宿を出るとユエの言うとおり此処彼処にオリュンポスのエンブレムを着けたプレイヤー達が辺りを走り回っている。
変装しているとはいえアバターを全て変えたわけじゃない、細心の注意を払いながら気付かれないように行動する。
オリュンポスギルドが走り回ってたり他のプレイヤーに聞き込みをしている姿を尻目に淀み無く自然なままに移動していると
「おい、君」
オリュンポスのメンバーに声をかけられた。
(気付かれたか?…いや違うな、もし俺だと気付いたなら逃がさないよう進路を塞ぐか捕まえようとするはずだ)
「私はオリュンポスのギルドの者だ、今人探しをしているのだが黒と緑の服装で黒い片手剣を持ったプレイヤーを知らないか?」
「いいや」
「そうか、呼び止めてすまないな」
「大丈夫だ、それより随分と急がしそうだがそいつが何かしたのか」
相手は有名な大手ギルドだ、此処で全く興味がないふりをすると逆に怪しまれる恐れがある以上は此処は敢えて興味があるふうを装うのが効果的だろう。
「うん?なんだ君は知らないのか。
私も上からの指令のため真偽は定かではないのだが、なんでも私達のギルドに喧嘩を売り付けたプレイヤーがいるらしくてな、そのプレイヤーを捕まえる為にもこうして捜索しているのだよ」
(俺は喧嘩を売り付けた覚えはない、と言うか売り付けられたのは俺の方だろうが)
「そんなプレイヤーがいるのか…」
「ああ、困ったものだ」
(困ってんのは俺の方だが)
「見つかるといいな」
「そうだな」
「じゃあ俺は先に行くんで」
「ああ、呼び止めてすまなかった」
俺はオリュンポスギルドと怪しまれない最低限の会話を終えると歩き出そうとした、その瞬間
「まってくれ」
再びオリュンポスギルドから声を掛けられた。
一瞬、何か勘づかれたかと思って走り出そうとも思ったが大丈夫だろうと思い歩き出そうとした足をその場に置いた。
「どうかしたか」
「不躾ですまないが君のフードを取ってもらってもいいだろうか」
「なんで?」
「念の為の確認のためと思ってね」
「……」
「はぁ、すまないな。
私も失礼は承知だ。
プレイヤーにはそのプレイヤー毎のロールプレイングがある、私が君のフードを取ろうとする行為は君の何かしら定めてあるロールプレイングに無断で障る行為かもしれない。
しかしそれでも私は誇りあるオリュンポスギルドの一員だ、義務と名誉の為遂行しなければならない」
「……それがあんたの定めたロールプレイングなのか」
「…そうだ」
俺の目の前に立つこのプレイヤーは俺に対し申し訳なさそうにしながらも自分の譲れない定めた意志を感じさせる。
ユエを無理矢理にでも捕まえようとしていたプレイヤー達とは違う、このプレイヤーはこれがゲームだと理解している上でいい加減ではなくちゃんと自分が決めたロールプレイングを通そうとしている。
(……真面目な奴だ)
「分かった」
俺は頭を覆うフードを取りオリュンポスギルドの前に顔を晒す。
「金髪に赤目、ふむ聞いていた人物像とは別人だな」
「もういいか」
「ああ、大丈夫だ」
俺は再び頭からフードを被る。
「じゃあ、今度こそ俺は行くから」
「ああ、すまなかった。それとご協力いただき誠に感謝する」
その言葉を最後に俺は今度こそ歩き出した。
裏路地に立つ一軒の何の変哲もない家。
周囲にある建物と見比べても違いが見受けられない程に装飾もなにもしていない。
「…毎回来る度に思うが、看板くらいつけないのか」
周囲の建物をカモフラージュにでもしているのだろうか、いやただ家主がめんどくさがったからだろう。
此れでも情報やアイテムを売る対人商売の店のはずなんだけどな。
この家、いや店こそがルビィの店、まさに知る人ぞ知る店だ。
二階建てのルビィの店の戸を開き中に入る。
店の内装は外装と同じでシンプルだ。
店の奥にはカウンターと倉庫に繋がる通路と寝室に繋がる二階への階段がある。
店の女主人であるルビィは店と居住を一緒にしている。
「いらっしゃい」
店に入った俺に声を掛けるのはカウンター内側の椅子に腰掛け優雅にキセルを吸う肩出し簡易ローブを着た妖艶な女性。
女性は右目を濃い紫色の長髪で覆われており濃い紫色の左目を晒している。
この女性プレイヤーがこのルビィの店の女主人だ。
「で、あんたは何時まで人の店で不作法に顔隠しながら立ってんだい」
店の主はルビィだ、つまりこの店ないでは彼女の言葉全てが正しいルールとなる。
「ああ、すまない」
「あんたみない顔だね」
頭から覆うローブを取るがカメレオンチェンジで容姿の色彩を変えているからか誰か分からず俺と認識出来ないみたい………と普通の感性を持つプレイヤーならそうなんだが、あいにくと俺の目の前にいる女性は普通の感性を持ち合わせている純粋なプレイヤーの括りではない……本人には後が恐ろしく口が裂けても言えないが、言わないじゃなく言えないの違いの意味は察してほしい。
(ルビィの奴、俺が誰だか絶対気付いているな)
何故ならみない顔だと言いながらルビィの口角が愉快そうに嗤っている。
「ルビィ、お前それ気付いた上で言ってるだろ」
「クックク、バレたかね」
「はぁ。バレたかじゃないだろ、お前がそんな愉しそうに嗤っている時点でこっちの事がまる分かりなのは長い付き合いからバレバレだ」
「それアラヤ、あんたにも言えることさね、初見や付き合いの浅い奴でもない限り髪や目を変えたぐらいじゃまる分かりさね、まぁ今一番の尋ね者のあんたじゃあ変装が当然だとしてもそれじゃあ浅すぎるね」
「それはルビィだけで普通は分からないと思うが」
ルビィは簡単そうに言うがこと現実ではなくゲームのアバターに限ってはそうはいかない。
アバターは創作の肉体、如何様にも作成できその種類は膨大で幾千幾万を越える。
しかし実際に千差万別のアバターがゲーム内で行動しているのかと言われるとそうではない、個人的に突き抜けている者を除けば多くのプレイヤーの望むアバターは似たり寄ったりだ。
格好いい姿
逞しい姿
精悍な姿
可愛い姿
綺麗姿
清楚な姿
そして凡庸な姿である。
たまにほぼそっくりなアバターがまるでドッペルゲンガーみたいに鉢合わせをしている姿を見ることもある。
だからこそ他のプレイヤーを捜索する場合はそのプレイヤーの正確な容姿を知らなければならない。
そうじゃなきゃ発見にどれほどの時間が掛かることか、しかもオープンワールドのこのゲームで。
だから髪や目の色を変えるだけでも顔面全てを整形したような変化をもたらすことが出来る。
「そんなの当然さね」
「?」
「人の色彩は人の数だけ存在している。色彩とは外見を捉えるのではない、かと言って内面を捉えることでもない、
人の全てを感じ捉え全の色彩とする。
なら外見だけが変わろうとも、内面だけが変わろうとも人自身は何も変わらない
」
俺には難しいがつまりルビィはその明言じみた言葉により俺を俺だと判断したって事なのだろう。
「それは誰か、過去の偉人かなんかの言葉か」
しかしだ、何度考えても覚えはないが偉人か何かの言葉なんだろうか。
「偉人?偉人だって、
クックク、違う違う、クックク、そんな大層なもんじゃないさね」
ルビィは偉人と称した俺の言葉がよほど可笑しかったのか愉快そうに笑っている。
「家の口煩い爺のただのたわいのない戯れ言めいた呟きさね」
「家の爺って……」
つまりルビィのお爺さんの言葉ってことか。
それにしてもだ、戯れ言めいた呟きって凄い言い方してるな、もしかして仲があまり良くないのだろうか。
「ただの口煩い爺さね」
「……そうか」
どうやらルビィの雰囲気的に仲が悪い
訳じゃないみたいだ、それにしても心を読んだみたいな返答は少し、いやかなり怖いものがある。
「あんたが顔にでやすいだけさね」
「………」
顔に出たかどうかはさておきもう勘弁してほしい。
「それより、ルビィの事だ、どうせオリュンポスの件については詳しいとこまで知っているんだろ」
「フー。ああ、あんたがお姫様を救うため勇敢に立ち向かい勝利したのはいいが叛逆の狼煙を上げられ逃亡を余儀なくされているって事なら知ってるよ」
「……まぁ間違ってはいないが」
煙管を吸いながらルビィの真実を据えた物語の言い様にアラヤは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「クッククク、いやはやとんだ美談じゃあないか」
「その美談のせいで今こうしているんだが」
「まぁ、それは美談の代償ってやつさね、向こうからしたら大手ギルドの面目丸潰れの案件、あんた達の事情なんてお構いなしさね」
「代償って、全然釣り合い取れてないだろ、こっちは人助けの変わりに極悪人みたいに指名手配を受けてるんだぞ」
するとルビィは呆れた顔をした。
「まったく馬鹿さねあんたは」
「はぁあ?何がだ」
「釣り合い取れてない処か充分なお釣りを貰ってるじゃないか、損より得を得ているってのに損が得を越してるように言うんじゃないさね」
「得を得ているって、あのなさっきも言ったが俺は追われているんだぞ、それなのに得が越してるなんてある分けないだろ」
アラヤはオリュンポスからの捜索に加え当事者ではないルビィからの言い様に少し苛立ちを覚え語気が強くなる。
「ならあんたは後悔してるって言うんさね」
「はぁ?何がだ」
「困って助けを求めたアルテミスを助けたことを後悔してるって聞いてるんだよ」
「それは…」
「いいかい、確かにアルテミスを助けず放っておけばあんたはこんな大々的に追われる立場に成ることは無かったさね、それについてはワタシが言うことはないね、助けるも助けないもあんたの自由だ、だけどあんたが下した決断は見ての通り現状が語っている。
それはね蔑まれるものでも貶されるものでも決してない、誇るべき者さね。
アラヤ、あんたはアルテミスを救った、だから私は美談と言ったんだ」
「………」
俺はルビィの言葉に何も言えなかった。
心がルビィの言葉に呑まれたからだ、正しいものだと間違ってはないと。
黙る俺にはルビィは煙管を吸うとまるで
さっきの真面目な雰囲気が無かったかのように何時もの飄々とした笑みを浮かべる。
「それにアルテミスは可憐な少女さね、人付き合いの乏しいあんたからしたら一生に有るかどうかの出逢いだったんじゃないさね」
「………余計なお世話だ」
様々な思いが駆け巡りながらも振り絞って出た俺の言葉にルビィは愉快そうに嗤う。
それからルビィと近況を話していたら店の扉が開いた。
入ってきたのは自身の身体より一回り大きなローブを着たプレイヤーだ。
「こんにちはルビィさん」
入って来たプレイヤーは店の端に寄り掛かる俺を気にしながらルビィに声を掛ける。
「ああ、いらっしゃい」
「はい、えーと…」
頭から覆うローブで性別も分からなかったが聞き覚えのある声音からユエだと判別できた。
ユエの方は変装しているからか俺とは気付かずただ知らないプレイヤーがいるとしか思ってないみたいだ。
(普通はそうだよな、やっぱりすぐに俺と分かるルビィが可笑しいだろ…)
ユエはルビィに俺の事を聞きたいんだろうが俺が居る手前聞けずルビィと俺との間に視線をさ迷わせていた。
ルビィがその様子が可笑しいのかクスクスと嗤う。
そんなルビィの態度にユエは更に困惑している。
もしプレイヤーの頭上に感情が表記されたのなら今のユエの頭上は????で一杯だろう。
ルビィは口に咥えたキセルを俺の方に指し向ける。
「ユエ、あなたの探し人はそこさね」
「えっ?…えっ、ええ!?」
ユエの驚きと連動しユエが頭上から被っていたローブが外れユエの顔が露になる。
「…ほんと、ほんとうに君はアラヤ君なの?」
「そうだ」
「ああ良かった無事にたどり着いたんだね……って、それよりいったいどうしたのその髪と目の色!?イメチェンなの!?何か悲しいことでもあったの!?」
俺の変化に凄く驚くユエ。
(なんだ、その俺が失恋したかのような解釈は)
「違う、オリュンポスの奴等に気付かれないよう変装しているだけだ」
俺はカメレオンチェンジの使用を解除する。
変化していた髪と目の色が通常の俺のアバター、黒髪と黒目に戻った。
「わっ、元のアラヤ君に戻った」
「当たり前だ、アイテムで一時的に変えていただけだしな」
「アイテム?ああ、もしかしてそれってハロウィーンイベントで手にいれられたカメレオンチェンジのこと」
「そうだ」
「私もそうすれば良かったなぁ。
私なんて正体隠すためにローブだけしか着てなかったからもう気づかれないか不安だったんだよ」
ユエは唇を尖らせながら拗ねたように言う。
「逆によくそれで此処まで来れたな、顔を確認でもされたらアウトだっただろう」
顔確認までされた俺からしたらローブだけでオリュンポスの捜索を乗り切ったユエが凄いと思う。
「それは経験の違いだよアラヤ君。
裏を進むは物影から物影に、表に出る際は堂々と隠密と自信さえ有れば案外何とか成るものなんだよ」
自信満々に胸を張って言うユエには悪いがそれは経験と言うよりただ運が良かっただけだと思う。
「幸運も実力の内とはよく言ったもんさね」
誇るユエに聞こえない程度にボソッと呟くルビィは俺と同意見みたいだ。
「あれ?でも待って、確かカメレオンチェンジの入手条件ってハロウィーンイベントの集団クエストに参加する事じゃなかったけ?」
カメレオンチェンジはアバターの髪、目、肌、爪の色まで色彩を自由に変化させる事が出来るアイテム。
通常では俺のように特殊要素に使わない限りは通常要素で使うもの。
つまりこの要素が最も効果的に発揮されるのが仮装を概念としたハロウィーンイベントだ。
そして仮装とは自分自満の為も有るが主な目的は自分以外、他人に見てもらい喜・楽の感情を共有するもの。
それ故にカメレオンチェンジはハロウィーンイベントにおいて集団クエスト、ソロではなく、協力における報酬となっている。
ジェネティクノーツ内でのイベント参加は強制ではなく自由意志となっている。
もしイベントに参加意志が無いと言うプレイヤーはイベント期間中表示されるイベント参加を拒否すればいい。
まるで俺が詐欺師かのように訝しげにジーと見てくるユエ。
「まぁ、そうだな」
ユエの俺への印象は定かじゃないがハロウィーンイベントみたいな集団クエストに参加するような男じゃないと思われてるように感じる。
俺は溜め息を吐きユエの方を見る。
「ほら期間限定イベントはそのイベントに参加しないと獲得できないアイテムがあるだろ」
全てはアイテムの為だと言った俺にユエは笑いだした。
「おい」
「ふっふふ、だって可笑しいんだもん。アラヤ君って、集団クエスト、なんだそれ俺はソロで充分だ、みたいな雰囲気出しているにアイテムのために苦手な集団クエストに参加するなんて」
「まて、俺は別に集団クエストが苦手とは言ってないだろ」
そう苦手とか言う事じゃないい、俺にとって他人と必要以上に繋がりを持つ事は必要はないだけだ。
「苦手なだけ、君は他人と関わる事が必要ないんじゃなくてただ苦手なだけなんだよ」
見透かしたようにユエは言う。
「だって、必要ないなら君は今私と関わろうなんてしないでしょう、私の事なんて無視すればいい、でも私といる君はこうして私と関わってくれているんだもん。だから苦手なだけなんだよ」
アバター、仮初の体、現実のものでないユエの俺を見る瞳に俺はなんだかいたたまれない気持ちになるが目を反らすことは出来なかった。
「まったくお熱いことさね、何時からワタシの店は真夏日和になったんだか、ねぇお二人さん」
ルビィの言葉にハッとする俺とユエはお互いからバッと目を反らす。
(最悪だ…完全にルビィの事忘れていた)
「イチャイチャするのはいいけどね、どうせするなら二階に行きなさいな。
何時までも店の真っ只中なんかにいたら誰か来た時に間抜けな程に簡単に見つかっちまうさね」
ルビィがにやついた笑みで嗤う。
ルビィの事だ、下手するとこのネタで1ヶ月、いや一年だってからかってくるなんて有り得る。
「べ、べつにイチャイチャなんかしてないよ!」
ユエが両手を前に振りながら全力で否定するがその様だと逆に肯定しているように思われてしまうぞ。
「ルビィの言うことも最もだな」
「ええ!」
「……言っとくが違うからな」
ルビィを擁護する俺に驚くユエだが別に……イチャ……イチャイチャ部分を肯定したわけじゃない
「ルビィの言う通りいつまでもここにいたら他のプレイヤーが来た時に見つかってしまう、それがオリュンポスならなお最悪だ」
「えっ?あっ、うん、そうだね」
「ルビィ二階の部屋を使わせてもらうぞ」
「好きにしなね」
俺はルビィから了承を得るとカウンター奥に進み二階への階段を登り始めた。
「あっ、ちょっと!まってよアラヤ君!」
慌てユエも俺の後に続く。
そんな俺達の背後からは
「ごゆっくりさね、あっ、此処はワタシの店なんだから節度は守るさね」
とルビィのからかう声がする。
「だからそんなんじゃないですから!」
顔を赤くしたユエは後ろを振り向きながらルビィに言い返す。