PAS【プレイヤーアシストシステム】
やぁ、こんにちは語り手だ
今まで謎だったラインハルトやユエなどがプレイヤーから異名で神の名を呼ばれる理由が判明した。
神威開放と呼ばれる強大なスキルの謎。
そして無事少女を村に送り届けたアラヤとユエに待つグランドクエスト最後のクエスト【墓守の王】
フッフ、さて、二人がどうなるか楽しみだ
少女ミミを送り届けた俺とユエは少女の母親、姉のミナ、村長から盛大に感謝された俺とユエは次のクエストつまり最後のクエストを行う前にこのマロン村で一晩過ごすことにした。
村長から自由に使用して構わないとミミ達の家と同じ間取りでキッチンにテーブル、椅子が二つと奥の部屋にベッドが二つある空き家を案内された俺達は今日はもう戦闘をする予定はないのでストレージを操作し装備を解除するとテーブルの対面の椅子に座り話をした。
「アラヤ君はこのゲームのPASについてはどのぐらい分かってる?」
PAS【プレイヤーアシストシステム】
通常の動きをシステムが補正サポートを行い誰もがアスリート並みの動きができるというもの。
まぁ、簡単に言えば現実において運動が苦手な人でもゲームの中ではアニメや漫画みたいに凄い動きが出来るというわけだ。
「俺が知ってるのはプレイヤーの動きをシステムがサポートし、誰もがアスリート並みに動けるアシストシステムだが、何か違っている点とかあるか」
「ううん、アラヤ君の認識は間違ってないよ。
実際PASのお陰で剣を振ったことのない人や弓を使ったことがない人でもベテラン並みに使いこなすことができしね」
「ああ」
魔法もないこのゲームにおいては冒険も然ることながらモンスターと戦ううえで必要不可欠なものだ。
「でもねPASはそれが全てではないんだよ」
「それだけではないって他にも何かあるのか?」
「アラヤ君は不思議に思わなかった。
同じPASが起動しているにも関わらず私が難なく瓦礫をすいすい登っているのに対し自分は登るのが難しいと思ったことに」
確かにユエの言う通りだ。
ユエはまるで跳び跳ねる兎の様に軽やかに瓦礫を登ると言うより跳ねる様に進んで行った。
それに対し俺も跳躍したりし進んでいるのは同じだがユエと比べると動きがぎこちなく時より手を使ったりしあからさまに不恰好な跳躍だった。
「アラヤ君と私二人の違いがなんなのか分かる?」
(俺とユエの違い…)
二人の動作やシステムは同じ違うのは行った結果。
そこから導く二人の差。
俺に答えを出せようとしているのかユエは黙したまま俺を見る。
確かに他者に答えを全てを言われては成長もなくそもそも本当に正しい事を言っているのかと納得出来ず疑いの気持ち持つ。
しかし自分で思考しある程度答えないしは答えに近いものを出した上で答えがあっているもしくは近いものだった場合はすんなりと疑うこともなく信じ理解しやすくなる。
ユエも自分が全てを言うよりは俺にある程度思考を纏めさせた方が理解しやすいと思っているのだろう。
しかしとするとわざわざこういった行動を取ると言うことは答えが普通じゃない、常識外の可能性が高い。
じゃなければ一周回ってこんな面倒な事はしない、それこそユエの性格が歪んでもなければ……歪んでないよな…。
ニコッツ
……俺を見るユエから言い様のない威圧感を感じたので直ぐ様考えを変える。
(まずレベルやステータスだがおそらくこれは関係ないだろう。
そんな簡単な答えならわざわざこんな回りくどく聞く必要はないからな)
ああでもないこうでもないと閃いては否定を繰り返し頭を悩ます俺を見かねたのかユエが口を開く。
「アラヤ君はさぁ、人は単体で天高く飛べると思う」
「えっ?」
突然の突拍子もない発言に意味が理解できない。
「どうなの?」
「……飛べないだろ。
俺達には鳥のように翼があるわけでもない。そりゃあ飛行機とか乗り物を使うことを含めて言っているのなら確かに人は飛べるとも言えるけどそういうことじゃないんだろ」
「なんで?
このゲームにはPASがあるんだよもしかしたら飛べるかもよ 」
「確かにPASのお陰で俺達プレイヤーはアスリート並み、いやそれ以上の動きが出来る。
だけどあくまでもそれは常識の範囲内だ。
飛ぶとなると話しは違う。
乗り物を使わず単体で飛ぶとなるとそれはもはや魔法の領域だ。
だけど現在のジェネティクノーツには魔法についての機能はない。 」
「そう…アラヤ君の言う通り幾らゲームの中でも魔法がなければ人は空を飛べない。
それは当たり前の誰もが抱く認識、そうアラヤ君も抱いている認識。
だけどね人が抱く認識っていうのは当たり前だと思っていても決して一つだけではないの」
「いったい何んのことを?……」
言っているのかそう問いかけようとした最中ある疑問が浮かぶ。
(いや待て、何でユエはこんな話をした?
今までの流れから無駄話をただしたとは思えない。
きっと何かある、今の会話の中で答えになるような何かが……)
『当たり前の誰もが抱く認識、そうアラヤ君も抱いている認識。
だけどね人が抱く認識っていうのは当たり前だと思っていても決して一つだけではないの』
………認識?
ユエとの会話を思い返していた俺の脳裏にある閃き、とんでもない考えが浮かんだ。
(………まさか幾ら五感をも再現するフルダイブゲームとはいえそんことが実際にあり得るのか…)
正直これが正しいのかは分からない、だがこれ以上考えても他に可能性ある答えが導けない以上出すしかない。
「……もしかしてだけどプレイヤーの固定概念やイメージが関係してるのか?」
俺が答えたのはゲームのシステムというよりはプレイヤーつまり俺達人間が元々持つ正当な知識や理解からくる固定概念やイメージといったつまりは精神、感覚に近いものだ。
「正解だよアラヤ君」
フルダイブで五感を再現するにあたって感覚機能を作用しているのは分かるがPASだけでも相当な機能だ、それなのにそれ以上をプレイヤーの脳から抽出し再現する。
それはゲームと云う範疇をあまりに逸脱はしていないか。
「アラヤ君の言った通り認識やイメージが関係しているんだ。
だけど必要なのは生半可なものじゃない。
細部まで鮮明に映し出すイメージと固定概念を否定し覆し変貌させ固定機能に変貌させる認識力」
「……鮮明なイメージと変貌する認識」
そう言うとユエは地面に落ちるビー玉ほどの細かな石を幾つか拾うと前に高くほうり投げた。
何を?と思った俺は次の瞬間目を見張った。
ユエが跳躍し空を登ってく。
「えっ!はぁ!?」
ユエは驚く俺を他所に先ほど投げたビー玉ほどのサイズの石を足場に空をどんどん駆け上がる。
最後にユエはくるりと回転し地面に軽やかに着地すると此方を振り向き
「ねぇ空を飛ぶこと出来るでしょ」
悪戯が成功したみたいに無邪気に言い出した。
「まぁさっきのは飛んだと云うよりは石を足場に駆け上がっただけだけでやっぱり人気翼や魔法でもなければ自力で飛ぶなんてのは無理だね、アッハハ」
「いや…だけって」
あんな小さな足場しかもただ中に放り投げただけの石でだ。
どうやったらそんなことが可能なのかさっぱり分からない。
現物を目にした今でも到底理解できない。
「アラヤ君。
今のこそがPASの根幹に有るもの一切の否定のない認識と鮮明なイメージを用いて不可能と思う事を可能に変え一時的に人間が用いる全限に到達させ人間の未来の可能性を再現させる」
「未来の可能性?」
「そうTree Diagram通称TDシステム」
「TDシステム?」
「このTDシステムによって人間の未来の樹形図つまりは何時の日か人間が歩みたどり着く可能性を認識しイメージすることによりさっきみたいに通常では決してできない、そう分かりやすく言うならまるでお伽噺に出てくる水に浮かぶ一枚の木葉を足場に浮く仙人や切り立った崖を苦もなく駆け上がる伝説にでてくるような英雄みたいに
理解を越えた動きを再現することができるの」
「アラヤ君。
大昔の人間は火をおこせるなんて思わなかったし、水の中での泳ぎ方、崖の登り方、効率のいい走り方、剣の振り方や弓の射ち方、戦いの仕方なんて最初のうちは全然知らなかったでしょ、それを時間を重ねるごとに他の生き物から学んだり、経験を積み重ねること不可能と思われていた認識を変革しそれに伴うイメージを鮮明にしていくことで可能にしていた」
ユエが言っている事は分かる。
つまり剣に置き換えると初めの頃の人間は型にはまった戦い方などはなく矢鱈目ったら振っていた物を幾人もの人間の経験や研磨のもと試行錯誤を積み重ね不可能と断じていた動きを創意工夫する事で可能であるのではないかと認識を変え効率の良い流れをイメージする事でより敵を確実に倒す型を生み出した。
「つまりTDシステムってのは未来において人間が可能にすると思われる動きをそれこそユエの言う通り英雄、ヘラクレスや宮本武蔵みたいな超人を越えた動きを自身は出来ると一部も疑わずその姿を細部まで鮮明なイメージを抱く事で再現を可能にしているということか」
「うんうんそんなん感じだよ」
なるほど。たしかに現在のアスリートができる動きは同じ人間なのだから頑張れば他の人間でも可能だろうとなり運動が苦手な人でもその動きが出来ると迷いなく信じイメージが鮮明であればあるほど苦手に関係なく同じ動きが再現できると言うわけだ。
「ユエが矢を同時に射ったり、動き周りながら矢を射ったりできるのもその動きが出来ると迷いなく認識うえでイメージを鮮明に意識しているからできたということか」
「その通りだよ。
まぁでも実際アラヤ君も似たようなことをしていたよ」
(…俺何かしたか?)
考えるがまったく俺が思い当たらない様子なのでユエは苦笑し
「ほら、アラヤ君がキングエイプ戦でみせた見事なまでの剣の受け流しだよ普通なら避けるか受け止めるかであんな一歩間違えれば被弾上等みたいな事はしないよ」
言われてみれば確かにそうだあれも他のプレイヤーからしたら状況では考えられない動きだもんな。
「私も最初は同時に射つことや動きながら射ったりは普通なら無理だと思っていたけど不可能改め可能だと認識続け自分が射つ姿を鮮明に描き何回も試行錯誤していくうちにできるようになったんだよ。
だから私には分かるんだよ。
アラヤ君も相当練習したでしょ」
確かに俺もソロで強敵と渡り合う上でなにかないかと模索したうえでこれだと思い始めた。
ユエとおなじで最初は全然うまくいかなかったが諦めず出来ると信じ何回も試行錯誤していくうちに少しずつ動作を修正していくなかでイメージも鮮明になっていき長い時間はかかったがある程度形になりできるようになった。
「確かにユエの言う通り俺も何回も試行錯誤していくうちに出来るようになったしな。
実際やったことのない動きでもイメージさえ鮮明ならできるようになるということか」
「うん。
まぁアラヤ君だけじゃなくて他の人達も原理までは分かってはないだろうけど無意識の内にさわりぐらいはやっていたりする人もいるしね」
つまり俺がユエと違い瓦礫を登るのに手間取ったのは認識とイメージの不足。
俺の中でゲームとはいえあんなユエみたいに瓦礫の上を弾むように跳び跳ねていくことは出来ないと少しでも思っているからこそであり一言で言えば頭が固く柔軟性が弱いということだ。
つまりTDシステムとは非常識を不可能せず可能と思う変革概念とそれに伴う鮮明なイメージさえ抱くことができるのならそれこそ伝説や伝承、アニメや漫画に出てくる人達のようにたぐいまれなる反射神経、運動神経、思考力、瞬発力を得ることが可能となりアニメ、漫画でよくある武術の達人が水の上を走ったりガンマンが銃撃戦の最中自分に迫る弾丸がスローモーションに見えたりする事も不可能から可能にする事が出来るシステム。
システムとは言うがまるでSFの超能力や魔法みたいだ。
最後にユエは締めくくった。
「アラヤ君人はね認識を変えイメージを抱けば固定概念を変えることができるの」
(TDシステム、未来の可能性か……)
思い耽る俺にユエが不思議に思ったのか問いかけてきた。
「アラヤ君、どうかしたの?」
「……いや別に大したことじゃあないんだが、ただ…そう、このTDシステムを構築した人は何を思ってこのシステムを構築したのかと思って」
ゲームとは一種の願望だ。
自身が思い描くあってほしい世界に想いを馳せ作り出す。
だからこそ一つ一つのゲームには製作者の願望が籠められている。
そしてこのVRMMORPGジェネティクノーツにもだ。
ならこのTDシステム、人が幾多の試練を乗り越え人の可能性限界まで駆け登り到達した仙人や英雄に生れるTDシステムにも何かしらの願望が籠められているねかもしれない。
(案外ただゲームが好きでこうしたら面白いと思ってTDシステムを構築したのかもしれないが)
だとしてもやっぱり一ゲームに使用するにはあまりに凄いとしか言い様のないシステムだし何か裏が有るんじゃないかと思いたくもある。
「どうなんだろうね。そこのところの真意については私にはよく分からないけど」
何故かユエはユエは顔を伏せながら答えた。
俺はTDシステムについて考えてる中である突拍子もないことを思いついた。
「もしかして…」
「うん?」
顔を上げるユエ。
「いや、ほら神威開放のスキルって神話や伝説の話しの中にでてくる神や英雄の名を使っているのが多いだろ」
「そうだね。一部ドラゴンのもあるけどほぼそうだね」
「もしかしたらだけどこのTDシステムを作った人は誰もが人間の最終的な可能性として神や英雄その者に成れるようにってそう思っているのかと思ってな」
「う~ん。どうなんだろうね同じゲームの中のシステムである以上、確かにTDシステムと神威開放スキルが一概に無関係だと言えないけど」
ユエがあまりに俺の突拍子のない言葉に深刻に考え始めてしまった。
「あっ、いやフッとそう思っただけだから。俺の勘違いかもしれないしそんなに深刻に考えなくていい」
「アラヤ君がそう言うなら別にいいけど」
考え始めた矢先に俺の急な中断に複雑そうに渋々納得しますといったユエの表情に俺は苦笑いする。
「ちなみにこの事を他に知ってるプレイヤーはいるのか」
ユエは顎に人差し指をあて考える仕草をし
「さっきも言ったけど他の人達は気付いてはないと思う。
まぁ断定はできないけどね。
だけど……」
「うん?」
「五大ギルドのギルド長あたりは知っていても可笑しくないし仮に知っていなくても何かしらあると感じてるんじゃないかな」
確かにあの面子なら知っていても可笑しくはないしユエの言う通り仮に知ってはいなくても感づいてはいそうだ。
「そういえばユエ自身はTDシステムのことどこで知ったんだ?」
「えっ……ああそれはね」
ユエは何故かさっき迄とは打って変わりまるで壊れそうなほどに脆い笑顔になり
「私はね人に聞いたんだ」
と風にかきけされそうなほど柔い声で言った。
誰にとは聞かなかった。
何故ならその時のユエの表情と声がとても悲しげで憂いをおびておりこれ以上聞いたら取り返しが出来なくなりそうな程に恐怖を感じ踏み込めなかった。
「……もう現実でも結構時間がたってるから一回ログアウトしてクエストの続きはまた明日にしようか」
話が終わり俺達の間に言い様のない沈黙が降り立つなか気を遣ったのかユエが話を切り上げ促す。
「……そうだな、続きは明日にするか」
ユエは俺の言葉に了解と頷く。
「あっそうだアラヤ君。
ちょっと私は最後に村を一回りしてからログアウトするから先にログアウトしてていいよ」
俺にそう告げたユエはドアの方に進みドアを開けると俺にくるりと振り返り
「じゃあねアラヤ君また明日!」
笑顔で手を振った。
「ああ…ユエまた明日な」
俺が手を上げて答えるとユエは空き家から出ていった。
俺はユエを見送るとログアウトボタンを押し現実へと戻った。
正直自分からログアウトしようと言ったにも関わらず村を一回りしてからログアウトすると言ったユエの言葉は気になったがその真意を聞く勇気は俺にはなかった。