キングとクイーン
やお、こんにちは語り手だ
村人の娘ミミを救うため猿魔の森に入ったアラヤとクイーンは古代の文明が感じられる森を進みエイプルギスの縄張りである遺跡の神殿にたどり着く。
ポーン、ルーク、ナイト、ビショップエイプを問題なく倒した二人に遂にキングエイプとクイーンエイプが動きだした。
さぁ、【猿魔の森】クエスト最後の戦いだ二人はは無事にキングとクイーンを倒すことができるのだろうか
大地を震わす野獣の咆哮を上げたキングとクイーンエイプが神殿壇上から飛び降りるのを確認した俺は後方にいるユエにキングとクイーンを見据えたまま声をかけた。
「ユエいよいよ本命だ」
「うん。アラヤ君」
「作戦通りにいくぞ」
「うん」
俺はユエが返事を返すと同時に剣に風を付与すると駆け出した。
キングとクイーンエイプは俺の動きに項応しさっきまでのポーンからビショップエイプとは比べものにならない早い速度で向かってきた。
俺の後方でキングとクイーンエイプの動作に注意を払っていたユエは俺が駆け出したと同時に弓に二本の矢をつがえ光を付与すると弦を限界まで引き数秒溜めた光の矢をクイーンエイプ目掛け射った。
俺の後方から通常よりも威力を持った光の矢は真っ直ぐに一切ぶれることの無い閃光の矢となり此方に迫っていたクイーンエイプの胴体に命中し勢いよく後方に吹き飛ばした。
(よしっ。流石だな)
俺はユエの矢で吹き飛ぶクイーンエイプを一瞬視界に写すと俺目掛けて両手剣を携え二足歩行で猛然と迫るキングエイプに警戒していた。
キングエイプはポーンエイプ達みたいにクイーンエイプが傷ついたことなど眼中にないよう…
「ウボーー!!」
と思いきやポーンエイプ達がやられた時とは違いクイーンエイプが傷つけられた事に怒りの雄叫びを挙げながら足を止めず駆ける猛烈な勢いのまま自分が携えている両手剣の間合いに俺が入る寸前で地面を踏み込み前方に跳躍すると俺目掛け両手で握り締めた両手剣を振りかぶりまるで一撃必殺だと云う様に力一杯それこそ斬ると云うよりは押し潰す勢いで左上から右下へ振り下ろした。
「ふうっっっ」
俺はキングエイプの攻撃に軽く長い息を吐き精神を冷静にそれこそ無の境地と云うぐらいに集中させるとキングエイプの攻撃を正面から防いだり横や後ろに跳躍し避けるのではなく右手に持った緑の片手剣の剣先を下に向け左側にもっていきまるで盾の様にすると振り下ろされたキングエイプの剣に対しぶつけると云うより触れるぐらいの感覚で当てると剣を滑らせキングエイプの剣を受け流すとキングエイプの剣は俺から逸れ横の地面を穿ち陥没させた。
地面を穿ち陥没させるぐらいの力の入れよう、破壊力抜群であるがそれ故に体制を立て直すには通常よりもコンマ0.2秒時間は掛かる。
俺を攻撃し両手剣を振り下ろした体制のキングエイプの隙を見逃さずキングエイプの剣を受け流すとそのままキングエイプの懐に入り左側にもっていった緑の剣で右上にキングエイプの胴体を斬りさらに二撃目を放とうとしたが流石にキングエイプも二撃目を許してくれる程甘くはなく素早く後ろに飛び緑の剣を躱した。
(情報通り俊敏、力、知力全てにおいて通常よりも高い。
だけどキングエイプ一体なら問題ない。
まだ油断は出来ないが取り敢えず今のところは作戦通りだ)
ユエ側
クイーンエイプを光のエンチャントを掛け溜めた光の矢で吹き飛ばすと地面を転がった拍子で土煙が舞い姿を覆われたクイーンエイプへの追撃のためもう一度矢を二本つがえ溜めた光の矢を二本同時に放った。
矢は先程と同じように閃光のようにかけクイーンエイプ目掛け向かっていったが
ガキーン!!
土煙と共にクイーンエイプが振った槍に振り払われた。
矢を振り払われたにも関わらずユエはまるでそれが予想道理だと少しも動揺を見せず矢が払われたと同時に駆け出してクイーンエイプとの距離を詰めていた。
クイーンエイプとの距離を詰めながら横目でチラリとアラヤの方を見て状況を瞬時に確認し把握した。
(アラヤ君は…大丈夫そう。
とりあえず作戦通りかな)
アラヤとユエはエイプルギスの縄張りに入る前クエスト中モンスターが出現しない猿魔の森の中で倒壊した建物の瓦礫に座りこの先にいるエイプルギスに対しての話しをしていた。
「情報通りだとこの先にいるエイプルギスは通常の個体とは違いステータスが高いらしい」
「うん。そうだね。でも幸いなのは全員で攻撃してくるんじゃなくてポーン、ルーク、ナイト、ビショップと順番に倒していって最後にキング、クイーンってらしいけど」
「そうだな、ポーン、ルーク、ナイト、ビショップに関しては通常の個体よりステータスが上がっていようと問題はないが
キングとクイーンに関して少々厄介だな。
通常の個体より強いうえに俺達は2人で受けるからステータスに補正がかかり上乗せされる」
「只でさえ通常でもボス級なのにそれよりも強いだなんて」
ユエも厄介だと思い眉をひそめた。
正直クエストをする人数が増えると二人の時よりも更にエイプ達のステータスに補正がかかり強さが上がってしまうがせめてもう一人接近戦ができる奴が欲しいとこだ。
とは言っても無い物ねだりしてもしょうがないし何よりこれは俺とユエが二人でやると決めたクエストだし決めた以上は二人でやりとげるべきだ。
「なぁユエ」
「どうしたのアラヤ君?」
「今までにだが通常個体のエイプルギスかキングやクイーンでもいいが一回でも戦ったことはあるか」
「うん。
エイプルギスは一回だけならあるよ。
キングやクイーンに関して一回だけじゃなく何度か戦ってるよ。」
「それは同時にか?」
「キングとクイーン同時は一回だけだよ」
「その時はソロで?」
「私は基本ソロで活動しているからソロで相対する事が多いけどエイプルギスやキング、クイーン同時は一時的に他のプレイヤーとパーティーを組んで一緒に戦ったよ」
「その時はどうだった」
ユエはその時苦戦したのか苦笑いをし
「初めての時はキング、クイーン一対一でも全然ソロで倒せなくて逃げたりだったけど、
今ならキング、クイーンどちらか一対一なら負けないよ。
エイプルギスやキング、クイーン同時に関してはパーティーを組んで良いとこまではいったんだけど結局撤退したし」
「そうか」
「アラヤ君はどうなの?」
「ああ。俺もだいたいユエと同じだな。
通常の個体でも俺一人ではキング、クイーンエイプ同時は厳しい。
まぁ、絶対に勝てないとは言わないが勝率は低いな。
一対一なら負けるきはしないんだが」
ユエは答える俺に何故か顔を俯かせて
「……ねぇ私と同じってことはキングとクイーン同時に戦った時って誰かとパーティーを組んだりしたってことかな」
ユエが何故そんなことを聞くのかは分からないしそもそも質問の意図がよく分からない。
しかし何かユエの声には真剣みが感じられる。
俺が不思議な顔をしているとユエが顔を上げた。
その顔は先程の声と同じ真剣な顔をしていたので俺は取り敢えずその時の事を昔の事なので曖昧な記憶を掘り起こしながら答えた。
「確かに何回か一時期他のプレイヤーとパーティーを組んで戦ったことはある。
…あっ、そう言えばそれとは別にだがちょっと違ったのもあったな」
「ちょっと違うのって?」
「昔の事なんであまりよくは覚えていないんだけど確かあれはこのゲームを初めて2ヵ月ぐらいだったかな。
ユエも知っているとは思うが草原エリアにもエイプはいるだろ、その時たまたま近くを探索していたんだが偶然エイプに襲われているプレイヤーを見つけて助けに入ったんだよ」
「そうなんだ……ねぇ、その時の事って他に覚えてることある」
「うーん……いや覚えているのはそれぐらいだな」
正直ユエには何でもないように話したがその時のことはあまり朧気な記憶だろうと思い出したくはなかった。
その時の俺は仮想世界というこの世界を現実からの良くも悪くも逃避に使ってる時期だったからだ。
(いや違うなそれは今でも変わらないか)
しかしあの時は本当に今よりも酷く好き勝手していた。
とは言っても流石に他のプレイヤーに迷惑行為をかける事はしなかったが明らかに自分より強いモンスターに後先考えず挑んだりパーティーを組んで挑むレベルのダンジョンやクエストを受けまくり強くなろうと相当無茶をしたものだ。
若さゆえと言うよりは未熟者ゆえと言ったとこか。
流石に今ではジェネティクノーツに慣れたのもあるのか初めの頃より多少冷静になっており無謀なクエストやダンジョンに突入することはないが。
その時考え込んでいた俺は気付かなかった。
その時俺を見るユエの顔が嬉しそうなりながらも何処と無く寂しそうな表情になっていたことを。
「取り敢えず二人ともエイプルギスやキング、クイーンを同時に相手したことがあるのは分かった。
だが通常の個体でも二体同時に倒せていないのに今回は更に強い個体、どうしたものか」
顎に手をあて悩む俺に
「ねぇアラヤ君。
二対二とは言っても二体同時が難しいなら相手が強化されてるとしても一対一ならまだ勝機はあるんじゃないかな」
確かにユエが出した提案は俺も考えた。
確かに二対二で俺が前衛で二体同時に相手しユエが後方で援護するよりかは勝機がある。
だがそれには絶対的な前提がある。
「ユエの案は悪くないがそれが可能なのは俺達が二人とも近接型の場合だ」
俺は前に出て戦えるが武器が弓のユエはどうしても後方からの攻撃になり俺とキング、クイーンとの間に距離がでる。
そうなったらいくら後方からユエが攻撃しても基本キングとクイーンののタゲは近くで攻撃している俺に集中する。
仮にユエとの距離を縮めて戦ったとしてもそれでは二体のタゲがユエに向く可能性もあり弓特有の遠距離からの優位性がなくなる。
だから無理だと伝えるとユエは座っていた瓦礫から立ち上がると自信満々に胸に手を当て
「大丈夫だよアラヤ君!私に秘策があるから!」
(秘策?)
俺が何のことを言っているんだと疑問に思っていると
「私も今までただソロでプレーしていたわけじゃないよ、近接型相手に距離を詰められ戦う場合の対策はちゃんと考えてるよ。
だからクイーンは任せて!
……ただその代わり私がクイーンを抑えるからアラヤ君にはキングを援護なしで一人でお願いすることにはなるけど」
「それは大丈夫だ俺も一応対策はあるし、一対一ならなんとかなる。
だけど分かっているとは思うが通常のとは違い大幅に強化されてるんだぞ」
「大丈夫任せて!」
どうやら嘘や虚勢をはってるわけではなさそうだ。
自信満々に最早ふんぞり返る勢いで此方を見るユエに彼女を信じてみようと思った。
「分かったキングは俺が引き受けるからユエにはクイーンを任せるよ」
「任せて!」
これで二人の役割は決まったが
「だけど戦いかたはそれでいいとしても勝率は五分五分だな。
何か決定打がほしいが…」
俺が呟くとユエは何か覚悟を決めた表情で先程のふんぞり返るぐらいの自信満々な様子と打って変わり落ち着いた様子で
「それも大丈夫だよ私にもう一つ秘策があるから。
でもそのためにはアラヤ君にも協力してもらわなければならないけど」
「分かった。俺は何をすればいい」
ユエは即答する俺に驚き目を見開いた。
「信じてくれるの?」
「当たり前だ。
俺達は同じパーティーの仲間だぞ君を信じるよ」
俺が真剣な表情で言うとユエは可笑しそうにクスクスと笑い
「アラヤ君、かなり恥ずかしいこと言ってるよ」
言われなくてもそんなことは自分が一番分かっている。
正直今にも赤くなりそうな顔を必死に抑えているし。
「…やっぱり君でよかった」
ユエは俺には聞こえないぐらいの小声で何か呟くと作戦を話した。
「アラヤ君…………」
俺はキングエイプの攻撃を避けたり剣で流したりしながら一撃一撃確実に攻撃を加えていく。
だが相手も一筋縄じゃいかない殆どヒットアンドアウェイでしか出来ず連撃は加えられてない。
しかし確実にキングエイプのHPは削れている。
俺の方も威力が高い攻撃の対策としてあえて避けて攻撃の動作を遅らすよりも剣で流しそのまま攻撃を入れるを繰り返していた。
かなり集中力がいるし一歩でも判断をミスると大ダメージになりかねない。
まさに綱渡りだ。
これでも格上の敵に挑む場合のために色んなモンスターで試し少ししか形にしてきた。
俺の剣がキングエイプを斬りキングエイプのHPをイエローゾーンあと一歩手前まで追い詰めた。
ユエの方を横目でチラリと見るとまるで羽のある妖精みたいに縦横無尽に跳ねたり駆け巡りながら至近距離でクイーンエイプに攻撃していた。
「……なんだあれ?」
俺は理解の範疇を越える状況に思わず動きを止めその光景に目を奪われた。
ユエ側
クイーンエイプに距離を詰めていたが光の矢を払ったクイーンエイプはそのまま槍をユエ目掛けて突き出してきた。
ユエは槍を跳躍し躱すと空中で素早く光の矢を五本つがえるとクイーンエイプめがけ射っていった。
クイーンエイプは槍を持ってない左腕で防ぐが光の矢は五本とも全てクイーンエイプの左腕に当たっていった。
ユエは地面に着地するとクイーンエイプに接近しながら光の矢を放った。
溜めて射った矢ほどの威力はないが流石に近距離からの矢は堪えるのかクイーンエイプは無我夢中に槍を振り回した。
ユエは素早く槍を振り回すクイーンエイプから距離をとると溜めた光の矢を射っていく。
そうして近距離、遠距離から攻撃していきクイーンエイプのHPを確実に削っていく。
アラヤ側
(あれがユエが言ってた秘策。
どうやって走りながら矢を射っているのかは分からないが、あんな近距離、遠距離関係なく矢をしかも一本ではなく何本も時には溜めて射たれたら堪ったもんじゃないな)
思わず目を奪われ止まっていた俺だが
「ウボッ!」
キングエイプの雄叫びが聞こえハッ!として雄叫びの方向に素早く顔を向けるとそこには怒り狂うキングエイプの剣が俺に差し迫っていた。
(ヤバい!)
俺は咄嗟に剣を盾にしたが威力が強く弾き飛ばされた。
飛ばされた勢いで俺は何度も体を地面に打ち付けられた。
「ツッ!」
地面にバウンドしていた俺は剣を地面に刺し勢いを止めた。
(しくじった、馬鹿か俺はつい油断してキングエイプから目を離してしまった。
直前に防いだとはいえ相当ダメージが入っただろ)
俺は自分のHPを確認するとグリーンからイエローになっていた。
(1/3は削られたか)
俺が自分のHPを確認しているとキングエイプが俺からユエの方を見ていた。
どうやら吹き飛ばされてキングエイプとの距離があいてしまいユエにタゲを向けたらしい。
(まずい!)
俺はこのままでは不味いと体制を立て直すと力の限り地面を蹴りキングエイプ目掛け駆け出した。
(このままだとユエが危ない!)
俺はキングエイプに一気に迫りその勢いのまま剣を付き出した。
キングエイプはタゲをユエにしており先程の俺と同様俺から目を離していたので俺の攻撃を防ぐことができず胴体にもろに受けてしまった。
今の攻撃でキングエイプのHPがグリーンからイエローゾーンに変わると俺はユエに合図した。
「ユエ!!」
『…アラヤ君キングエイプのHPをイエローゾーンまで削ったら合図を頂戴そしたら私がとっておきを使うから』
ユエ側
「ユエ!!」
アラヤ君から合図がきた。
私はクイーンエイプに向かって最大限溜めた矢を二本射つとクイーンエイプは槍を振るい二本とも防いだが勢いは止められずキングエイプの側まで飛んだ。
私は矢を射ったと同時に素早く神殿の最上段まで駆け上がり矢を一本弓につがえるとキング、クイーンエイプに照準を定めた。
アラヤ側
弓に矢をつがえたユエは
「システム起動、星間輝く純潔の射手、祖は月光の加護を受けし狩猟の矢」
詠唱を唱えるユエの体を光が包み弓につがえた矢に集束するとユエの前に月を背に弓を引く女神が描かれた丸い円形のステンドグラスの型をした紋章が表れた。
「月輪彩華神威開放!」
ユエはその紋章に向かい光の矢を射った。
紋章を通った光の矢は幾つにも分裂した。
その数は目測だけでも百いや千いや万を越えている。
万を越える矢はキング、クイーンエイプを次々射ち抜き光の爆発を起こした。
キング、クイーンエイプはユエの攻撃でHPが一気にゼロになり光の粒子になり消滅した。
(どうやら無事に倒せたみたいだな、しかしやっぱり持っていたか神威開放を)
「アラヤ君~!」
一息つく俺はユエの方を見上げるとユエは壇上で俺に向かい笑顔で手を振っていた。
俺はそれを苦笑しながら手を振り返した。
クエスト【猿魔の森に入りエイプルギスを倒せ】クリア