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始まり

――黒い天

――黒い地。


辺り一面見渡す限り目に写るのは全てが黒に塗り潰された空間。


それはまるで生を拒絶し光の概念さえ抹消する漆黒の暗闇。


一度踏み入れる者あらば自身が何処に居るのかさえ分からない終焉の地。


ここは何処かの建物なのか?

或いは何処かの部屋なのか?

分からない…。

ここは中なのか?

或いは外なのか?

それすらも判断は出来ない。


ピカッ!!

突如漆黒の暗闇を切り裂く光が天から射す。


まるでその光は聖なる灯火。

不滅を正し奇跡を成す。

無を有に。

死を生に。


漆黒の暗闇を切り裂いた灯火は在るべきものを照らし出す。

何時から居たのか定かではない存在を。


それは一見すると人の形をしている。

しかしそれが真のものなのだろうか?

偽物なのではないのだろうか?


そもそも元は暗闇にいた存在なのだから。


異形、怪物、化生、魔物、魔神、果ては闇の化身どれかかもしれないしどれでもないのかもしれない。


もしかしたら本当に人かもしれない。

いや仙人、天人、聖人、聖獣、神そういった超越せし高位の存在かもしれない。


……無駄な考察だ。

いくら思考を巡らせ考察を思い付こうがその存在が何か証明する術は無い。

つまり証明不可の正体不明。

unknown。


唯一証明出来るものが有るとすればそれは光に照らし出された今だからこそ見える存在の容姿。


熟練の天才職人が一から作り出したと見えるヴィンテージの漆黒の闇を型どったスーツ。

頭を覆い隠すのは同じく漆黒の闇を型どったシルクハット。

どちらも美に浅い凡人すら息を飲むほどに精練された逸品。

それを着飾るのは衣裳と見比べても決して見劣らぬ容姿の持ち主。

人造では有り得ない美。

人では届かない遥かな美。

それは美神が心血全てを注ぎ清廉込めて創られたとさえ過言ではない。

男性?いや女性?

どちらとも捉えられる中性的な容姿。

もしこの存在が生物の前に姿を表すなら全ての生物が目を奪われるだろう。

理性を越えた本能と共に。


存在はアンティークの古椅子にかけながら口を開く。


初めまして観覧の諸君。

そしてようこそワタシの世界に。

ワタシは語り手。

そう呼んでくれないか。

うん?それがワタシの名前なのかと

諸君の察しの通り此れはワタシの名前ではない、この世界においてのワタシの呼称、言わばペンネームだ。

うん?ふざけるなと、フフフ…確かに諸君の言う通り知己でもない初めての相手に対してふざけていると思われても仕方ない事だ。

ワタシも………いやワタシならそれも一種の個性として受け入れるかな。

ああ、まさしくこれはワタシと諸君との見解の相違だな。


さて、それはそれとして諸君に誤解の無いよう言うがワタシは別にワタシの名前を諸君に言いたくないわけではない。

ただワタシの名前を諸君が知ったところで意味がないだろ。

ああ、これもまた誤解しないでほしいのだけど、別に諸君を見下しているわけでも侮辱しているわけでもない。

ただ諸君がワタシの名前を知ったとこで何が変わるのだろう、過去・現在・未来現実果ては世界。

なにも変わりはしない、全ては今の有るがまま。

それなら教えること事態無駄であり無意味でしかない。

だからワタシの名前なんて知らなくてもいい、語り手これだけで十分だ。

それにね語り手、この呼び名にも意味は有るのだよ。

これは言わばワタシなりの決意証明なのだ。


ワタシはあくまで公平であり干渉はしないよ。

だって、これはワタシの物語ではなく諸君歩み成長し決断し乗り越える物語なのだから。

既に過ぎ去った過去と今を行く現在と未来を決める初めから終わりまでの物語。


しかし今から語られる物語に諸君全てが関係しているかと問われればそれはワタシには解らないことだ。

何故って?

それは今からワタシが語る物語は一人の男の子を中心にした物語なのだから。

だからこそ自分に関係しているのか、それは諸君一人一人が判断し決めることだ。

誰かの物語の一幕に自分が出ていてもそれが自分の物語に関係有るとは限らないのだから。

それが人生というものだ。


ワタシは諸君に願う。

どうか初めから考える事を止めないでほしい、諸君は諸君自身で判断し決めねばいけないのだから。

自分の未来をどう迎えるのか。



生を紡ぐと云うことは選択の連続だ。

考えながら

迷いながら

選択し過去・現在・未来への真っ直ぐの道、或いは曲がりくねった人生の道を構築していく。

全てが順風満帆とはいかない楽しくもあれば哀しくもある一歩一歩を踏み締めながら歩んでいく……いや歩んでいかなければならない。

そう大事を成すためなら哀しくとも苦しくても痛みがあろうとも………例えその道行きに犠牲を伴おうとも。


痛い…

熱い…

寒い…

怖い…

繰り返される感覚と感情。

身体からは絶え間なく大量の血が溢れていく。

全身には駆け巡る終わることのない痛み。

分かりたくもない命の灯りが刻々と削れていくのが分かる。

人、生物、植物、大地、海、空、刻。

森羅万象の全てが当たり前に自然に

何事もなく刻を刻んでいくまに一秒一秒

と確実に終幕に向かい俺の命の灯も終幕に向かい刻を刻み削れていく。


馳せた想いが有った。

描いた理想が有った。

心に刻んだ夢が有った。

辿り着きたい未来が有った。

今まで積み重ねた全てが今、命の終幕と共に泡沫にきそうとしている。


どうすればよかったのだろうか。

何かを間違えたのだろか。

……………………………ああ違う。

例え人生の終幕がこうであったとしても俺は今までの全てに此処までの短く、長い道行きに間違いがあったなんて思わない…絶対に思わない。


辛いことも悲しいこともあった。

死にたくなるような日もあった。

だがそれを覆すほどの出会いの日々があった。

俺が悩みながらも選び家族や仲間と共に勝ち取った未来。

大切で掛け替えのない未來。

だから何があっても間違いだとは思わない、思ってたまるか。


だってその証拠に涙が零れていくのだから。

諦めや懺悔ではない、死にたくないと生きたいと生にしがみ生きたいと訴える涙が。

だから生を諦めない、諦めてたまるか。

「た…け…て」

無様でも情けなくてもいい例えこの声から出る音がか細く脆弱なものであろうとも誰かに届くまで発し続ける。

「だれ…か…」

終幕(最後)まで絶対に諦めない。

「た…けて」

この声が届くなら善人だろうと悪人だろうと悪魔だろうと神様だろうと誰でも構わない。

「たすけ…て」

俺はまだ死ぬわけにはいかない、約束を違えるわけにはいかないんだ。

生きて未来であの娘に――もう一度会う日まで。



世界は時代を経る毎に進化をし続けていた。

だが昨今の世界は進化の流れから歩みを止め長い間ただ無意味な停滞を続けている。

だがそんな停滞していた世界は終わりを迎え再び歩みだした。

誰もが現実では実現不可と否定した技術を経て。

それは誰もが空想した夢をもたらした。



VR技術が発達してはや10年の月日がたった。

誰もがVRに慣れて生活の一部として日常に浸透してきた頃ある企業が世界に衝撃を与える革新的技術を発表をした。

【VRMMO】それは今までの画面ごしの二次元世界ではなく現実と相違ない三次元と同等の仮想世界(もう一つの世界)を作り出しその中にフルダイブしまるで仮想世界を現実的世界と相違なく味わえるというものであった。


さてそんな技術的革新と共に新たな時代の幕開けを一番に喜んだのはなにをかくそうゲーマーと称される者達だ。

そう仮想世界にフルダイブとなるとゲーマーにとっては考えることはただ一つの事。

何よりも重要であり誰しもが期待を寄せ夢を見るもの。

だからゲーマー達は待ち続けた。

だがその一方で期待を寄せる者達が存在しているように反感を抱く者達も当然存在する。

それは意識を仮想世界にフルダイブするからこその当然の結論。

一つは意識をフルダイブすることへの脳への危険性について。

もう一つは子供を持つ親なら分かると思うがのめり込みすぎて現実に悪影響がでないかということ。

命と人生、確かにゲームの革新の為ダメになりましたでは割に合わない事だ。



しかしそんな批判に対し会社は【VRMMO】の安全性を実演を兼ねて発表する事で安全面を保証した。

さらに【VRMMO】自体も15歳未満は親の許諾を得てじゃないと使用できないようセーフティをプログラムした。

これによりまだ批判は尽きないもののそれならばと賛成派が増えた。


そんな【VRMMO】が現実のものとなってはや2年がたった頃【VRMMO】を発表したその会社はある一つのゲームを公表した。


会社の名はアーク。

発売されたゲームの名は【ジェネティクノーツ】

それは誰しもが望んだ、いや予想を遥かに越えたVRMMORPGつまりフルダイブゲームであった。


まるで本当にその世界があるような圧倒的3Dグラフィックに立体的制限をまるで感じさせないモーション。

ゲーマーだけでない人達もその世界に魅了され今なおプレーするもの達は増加の一途をたどっている。


俺、荒木連夜(あらきれんや)もその多くのプレイヤーの一人だ。


見渡す限り茶色一色、岩や石、土の大地が視界を占める荒野のフィールド。

その荒野エリアの左右を岩山に囲まれた道で一人のプレイヤーがこの地に出現する岩石モンスターの一種、ロックゴーレムと対峙していた。

通常の岩石モンスターは重厚でSTR()

DEF(防御力)弱点以外のRES(属性耐性)が高い反面AGI(俊敏)INT(知力)DEX(命中率) は基本的には少ないのが特徴だ。

とは言え此れはあくまで岩石モンスターの基本帯であり、種族によっては岩石モンスターでありながらSTR()DEF (防御力)だけではなくAGI(俊敏)迄も高いモンスターもいる。


モンスターは主に【属性】、【種族】によって区別される。

【属性】は火、水、風、土、雷、光、闇。

【種族】はゴーレム、ゴブリン、エイプ、スライム、インセクト、ドラゴン。

この2つがモンスターの区別の基本とは成るが細かくいくならまだ分岐点は存在している。

分かりやすい例で言うならインセクトと言うモンスターだ。

インセクト、つまり虫のモンスター。

蜂型、蜘蛛型、ワーム型、蠍型など幾つもあり一つ一つが戦闘形態が違ったりする。

つまりモンスターの種類だけでも大量に存在していると言っても過言ではない。

だからこそプレイヤー達は自身が相対するモンスターの情報には十分な知識が必要とされる。

ちなみにこの一筋縄じゃいかないところもゲームの醍醐味だと人気の理由の一つだったりする。



ロックゴーレムが自身の前に立つ敵目掛け岩石で構成されたみぎ拳を振り下ろす。

叩く、殴ると言うよりは押し潰すと言った表現が的確な攻撃。

そのままただ呆然と立ち尽くし何もしなければダメージは必至。

だがロックゴーレムに相対する者は怯えた獲物でもただ立ち尽くすかかしでもない。

戦う意志、反撃の意志を持った者。

ロックゴーレムが振り下ろした拳を避ロックゴーレム懐に入る。

避けられた拳は標的を失いそのままの勢いのまま地面を穿つ。


属性付与(エンチャント)アクア」

ロックゴーレムの攻撃を避け剣の間合いに捉えると同時に右手に装備している黒色の片手剣に属性付与(エンチャント)を施す。

属性付与(エンチャント)を施した黒の片手剣はまるで水流を纏うかのように全体を黒から青へ染め上げる。

そして属性付与(エンチャント)を施した片手剣でロックゴーレムを左から右上に斬り上げる。

斬撃の衝撃(ノックバック)により僅かではあるがロックゴーレムは後ろにのぞける。

その隙を逃さず更なる追い討ちをかけ斬り上げた片手剣を斬り下ろす。

そうしてロックゴーレムの攻撃を避けながら右、左、唐竹割り、手を緩めることなくロックゴーレムを斬り続ける。

一撃、一撃。

剣がロックゴーレムを斬り裂くたびにロックゴーレムのHP(体力)は減少していく。

HP(体力)ゲージは緑から赤に変わっていきそして最後に0になる。

HP(体力)が尽きたロックゴーレムは機能を停止しすると光る粒子となりフィールドから消滅した。


このジェネテックノーツ(ゲーム)には魔法が存在しない。

とはいえ近しいものなら存在している。

その一つが属性付与(エンチャント)と呼ばれる付与だ。

属性付与(エンチャント)には二つの機能がある。

一つは属性の付与。

属性付与(エンチャント)には(イグニース)(アクア)(アニマ)(エクレール)(テラ)(テネブラエ)(リヒト)・の七つの属性がある。

プレイヤーはこの属性付与(エンチャント)を要所要所で巧みに切り替えモンスターの弱点をつく事で戦闘を有利に運んでいく。

二つ目は

属性付与(エンチャント)属性に基づいたバフ。

各種の属性毎に使用者のステータスを上げる。

(イグニース)STR()強化

(アクア)INT(知力)強化

(アニマ)AGI(素早さ)強化

(テラ)DEF(防御力)強化

(エクレール)DEX(命中率)強化

(デネブラエ)(リヒト)は強化率は全て半減となるがその代わりステータス全てが強化される。

これは戦闘を行う上で重要なファクターといえる。

しかしだからといって多くのプレイヤー達からしたら属性付与(エンチャント)があるから魔法は入らないとはならない。

運営当初は折角のフルダイブRPGなら魔法を使いたいという声も当然の如く上がった。

ゲームの中とはいえ実際に魔法を使ってみたいというのは人間にとって一種の憧れでもあるから致し方のないことだ。

だが何かの思惑かそれともただ単に魔法を

排除しているのかは定かではないが運営は魔法を実装することはしなかった。

今でも運営に魔法を求める要望を出す者もいる。

しかし運営当初に比べればその数は激変し今では全プレイヤーの1%のにも満たなくなった。

と言うものプレイヤー達はただ単に流石に2年も経つが魔法の魔の字の片鱗すら見えない状況に運営が魔法を実装するきは無いと判断し諦めたのだ。

少なくとも現段階では別に魔法がなくてもさほどプレーにはさしたる影響もなく逆に2年もたったなかで急に魔法が使える状況に成ったら攻略の仕様に影響がでると考えてたりもする。


では折角のフルダイブRPGで魔法が使えないという事実。さぞプレイヤー指数が減るだろうと思われるだろう。

しかし現実はそうはならなかった。


フルダイブRPGジェネティクノーツ

その人気はRPGでありながら魔法が使えないと言う事実を踏まえ2年たった今でも人気は決して衰えることはなくプレイヤー指数は増大を続けている。


その理由の一端が自由に行き来できる幅広いオープンワールド、神話や伝説をモチーフにしたまるで実際に生きているかの様に迫力あるモンスター、ゲーム内だと言うのに現実とほぼ変わらない五感のリアルさ、行動システムPASプレイヤーアシストシステムによりまるでアスリートなみの動きができることだ。

PASシステムは常時プレイヤーに作用されてるシステムで道具なしに崖をよじ登ることもできるし、しようとすれば壁ジャンプや壁を横に一直線に走ったり駆け上がったりもできる。

それに加え素人でも達人級の武器さばきができる。

剣を振れば歪まず一直線に斬ることが、槍をつけば真っ直ぐにぶれずに突くことが、矢を打てば狙った方向に真っ直ぐに飛ぶと言ったことが可能である。


現実では運動が苦手な人でもこの世界では気にせず自由にプレーすることができる。

まるで人の理想が詰められた世界である。

まぁ、今言った以外にも人気な理由はあるがな。



「フゥ…」

俺はロックゴーレムの消滅を見届けると力を抜くように軽く息を吐いた。

それと同時に剣に付与した属性付与(エンチャント)も消え青色の片手剣から本来の黒の片手剣に戻った。

そんな俺に荒野エリア特有の暑い日差しと乾いた空気が合わさり肌がひりつく様に感じる。


荒野エリアと名するだけあり草木はあまりというか全然と言うぐらい見わたらずあるのは様々な大きさの岩石と岩石と土で作られた高い崖や岩山後は所々にある様々な大きさの穴、クレーターぐらいで空気も乾燥している。


ロックゴーレムを倒した俺の回りは戦闘音がなくなり時折吹く乾いた風の音やその風によって舞う石や砂の自然の音以外しなくなった。


やはりここは静かでいい、他人を気にせず自由でいられる。

俺にとって他の事を気にせず自由に生きれるこの世界は現実以上に大事なものだ。

もしこの世界で生きていけるなら迷わず俺はそれを選ぶだろう。

俺は【ジェネティクノーツ】をやり初めて2年になる。

発売当初に運良く購入できほとんどというか毎日プレイしている。


元から人付き合いが得意ではない俺はギルドに所属したり仲間内でチームを組んでプレーせず基本ソロでやっている。

これでも初期からやってるだけありトッププレイヤーの一員でもある。

まぁ、2年もたてば他のプレイヤーと関わらないようにしようとしても流石に顔馴染みな奴らもできる。



俺は今日の荒野エリアでのレベル上げも切り上げようと右手に握っている剣を左腰に着けてる剣帯の鞘に納め荒野エリアから中央都市アルカディアに戻ろうと空中にストレージ画面を出して操作しアイテム欄から転移宝晶を右手に取り出した。


宝晶(クリスタル)

ジェネティクノーツに魔法がない代わり転移、回復、蘇生といった様々な補助系の役割をする石である。


ジェネティクノーツの設定としては古よりある奇跡の力が込められた宝晶と言うらしい。

プレイヤーにとってフィールドに出る時には決して欠かせない代物だ。


体力回復は勿論状態異常に対しての回復手段

や死亡したとしても仲間からの蘇生ができる。

特に蘇生に関しては一時間以内に蘇生出来なければ死亡が確定し、ゲームオーバーとなりゲームオーバーしてからまる一日はログインが出来なくなる。

ステータスや経験値、アイテムや所持金の減少がないだけましかもしれないがゲーマーとしてジェネティクノーツが好きな奴にとっては一日とはいえログインできないのは辛いが。


転移にいたっては緊急時などに直ぐに都市に戻ることが出来るという時点で便利だ。

フィールドによっては転移不可の場所もあるがそういった場所は特定な場所で最初から決まっているかクエストによって出来ないなど稀でそうじゃないフィールドでは回復石が切れた時や緊急時には不可欠な代物だ。


ジェネティクノーツは7つのエリアに分かれている草原エリアを囲むように火山、荒野、砂漠、海、氷結、森林が囲む様に分かれていて格エリアに街や村、都市などもある。


街や村は格エリアに幾つもあるが都市と称されるのは格エリアに一つしかない。

草原エリアには中央都市アルカディア

火山エリアには都市フレイムネオス

荒野エリアには都市デゼルトアース

砂漠エリアには都市サーブルストーム

海エリア都市にはアクアマリン

氷結エリア都市にはアイスベルグ

森林エリア都市にはフォレストパレス

の7都市である。

各都市もエリアによって在り様が違う。

例えば砂漠エリアの都市サーブルストームはオアシスを模様した都市。

氷結エリア都市アイスベルグは雪国に聳える氷造られた都市。

エリアによって様々な固有の色が醸し出されている。


ちなみに草原エリアの都市だけは中央都市と称されている。

別に公式的に決まっているわけではなくプレイヤー達がそう称している。

全体図でエリアの中央にある都市そして初めてプレーするプレイヤーは必ず中央都市アルカディアからスタートするからだ。

ちなみに各都市には中央広場と言うべき場所がありそこには各都市に転移するためのポータルが設置してある。

そのお陰で転移石を所持してない時に自力で別の都市に移動するという労力は必要なく都市間の移動をすることができる。



アラヤが転移の為右手に持った転移宝晶を使おうとした。

「凄いね君」

すると右上から感心する透き通った声が聞こえた。

声のした方に顔を向けると其処には岩石でできた崖に腰をかけて足をブラブラと揺らしながらこちらを微笑みながら見る少女がいた。

透き通る白銀の長髪に碧い目、人形のように愛らしくされど美麗もある整った顔。

すらりとした体型に白銀と碧のカジュアルなドレスを戦闘服にしたバトルドレスを着た少女。

「アルテミス…」

予想外の人物の来訪に思わず目を見開き少女に聞こえないぐらいの小声で呟く。


【アルテミス】

基本無用な他人には興味を持たず関わろうとしない俺でも知るトッププレイヤーの一人だ。



少女の居る位置とアラヤの居る位置では高低差があるため上に居る少女が現在のように足をブラブラと動かすなら集中し注視してしまえば少女のスカートの中が明らかにされるおそれがあるのだが無頓着なのかただ気にしてないだけなのか無防備にも程がある。

それとも絶対に見えない自信が有るのか。

しかしただ無頓着なだけなら分からなくもない。

これは現実ではなく仮想世界、少女の姿も本人そのものではなくアバター。

つまりその全ては本物ではない数字の塊が造り出したプログラムにしかすぎない。

なら仕方がない………とはいえやはりアバターだとしても感覚は自身のものだ。

仮初めだと分かってはいても少しは気になるものだと思うのだが。

アラヤは柄にもなく初めてまみえた少女に対しそんな馬鹿みたいな事を考えていた。


「えいっ!」

少女は勢いつけると岩山から飛び出しアラヤの近くに軽やかに着地した。

ただの一つの動作。

しかしそんな動作が容姿も相まって並みの男性なら一ころに成りそうな程可憐に思える。


少女は着地するとスカートに着いた土や砂を手ではらい綺麗にしている。

そんな姿を見ながら思考する。

(なんでこんなとこにアルテミスがいる。

探索かモンスター退治あるいは何かのクエストの最中か)

アラヤが自分を見ているのに気づいたのだろう。

少女はハァ!と何か気付いた顔をし頬を少し赤くさせる。

(不躾に見すぎたか)

幾ら少女の意図を探るためとはいえ女の子を注視しするのは不味かったかと思っていたら

ジーと半目で

「…もしかして見た」

とんでもない誤解を生んだ。

おそらくというか間違いなく少女が問いかけているのはスカートの中の事に違いない。

つまり少女は自分が此方に飛び降りた時にアラヤがスカートの中を見たと思いそれが忘れられず自身を見ていると思っているのだろう。


アラヤの答えは勿論NOの一択である。

というか仮に見えていたとしてだそれが忘れられずに本人を見続けるなんてそんな男子思春期あるある?を実際にする奴なんているのだろうか、

アラヤはそんな度胸?は持ち合わせてはない。

アラヤも自身の事を深く分析してもそんな度胸もとい図太い神経はしていないと断じて言える。

しかしこれは非常に困る事案でる。

何故なら一瞬でも疑われた時点で男性からしたらはたしてどう答えたら正解なのか難しいからだ。

勿論無罪、見えてはないのは事実だ。

しかしそれを告げたとしてはたして信じてもらえるかが怪しい。

下手すると変に拗れ無駄に時間を浪費する恐れがある。

そうなっては面倒でしかない。

なら無罪で有りながらも面倒を避けいっそうの事見てしまったと言う虚実を事実として語り形だけの謝罪をしこの疑いを素早く終了させてしまうか。

しかしそれでは相手が良くても無罪でしかない自分は釈然とせず凝りを後々まで残しかねない。

無い物ねだりだが直ぐに忘れるか切り替えれる処世術が欲しいものだ。

結局のところ否定、肯定どちらを選ぼうがどちらにもメリットが有ればデメリットがある。


(……無駄だな)

そもそもこんな思考すら無駄でしかない。

そもそもこれらはあくまで起こり得る予測、仮定であり実際には事実を言おうが虚実を言おうがその先は言った後でしか分からない。

だからメリット、デメリットを考える意味も結局は意味がない。


「君が言っているのがス……スカートの中の事を言ってるなら俺は見ていない」

事実でありながらも言いながら思う。

スカートの中って単語を言うに結構躊躇いというか妙な恥ずかしさを感じてしまうものだ。

少女はキッパリと言いきる……途中躊躇いがあったが言いきったアラヤをジーと審議を図るように見続ける。

「……まぁ、いいよ信じてあげようじゃないかね」

アラヤは少女の言い方に釈然としないものを抱える。

だいたいその言い分では本当に信じているのか、それとも疑っているが許してあげよう的なのかどっちか分からないのだから。


アラヤはゲームの中にも関わらず思わず頭が痛くなりそうになり溜め息が出そうになるが寸前で堪える。

ここで溜め息をはいてしまってはまた堂々巡りに成りかねない。

しかしだ一切自身が非がない状況で冤罪をかけられると人はこんな気持ちなのだろうか。

そもそも見えてなかった時点で別に非がある訳じゃないし逆に無防備な姿を晒した少女の方に責任があるだろうと思う。

そう巡る本能を理性が押さえつける。

こういう状況下ではそう言うとろくなことにしかならないのだから。

だから取り敢えず敢えて何も言わない。


だがそんなアラヤの心情を少女は察したのだろう

「う~ん。これはこれは何か言いたげな顔をしているな~。もしかして私に何か言いたいことがあるんじゃないかな」輝くような満面の笑みで言った。

一見して表面は男性が見たら顔を赤く染め見惚れている素晴らしい程に輝くような満面の笑みだ。

しかしアラヤには別の…そう表面に隠された裏面が幻影となり見えてくる。

それは触れたら即アウトの爆弾みたいな威圧感のある顔であった。



「いいや何もないよ。…それより何か俺に用か」

これでもし要件なんて無いと言われたら自意識過剰みたいでかなり恥ずかしいが声をかけてきたうえこうして自分の側まで来たのだ何かしら用があると思えても不思議ではない。


「うーん。別に用って程じゃないんだけどね、たまたま近くを通りかがったというか逃げていたら戦闘音が聞こえたからなんとな~く気になって見に来たの。

そしたら凄い手際の良いプレイヤーがいるものだから思わず見ていたの」

感心したのだと少女はアラヤとロックゴーレムの戦いをそう褒めた。


アラヤは自身を褒める少女の事について改めて思いを馳せる。

【アルテミス】と呼ばれる少女。

事実は不明だが噂から少女は初期からのプレイヤーでありトッププレイヤーの一人であり

その強さと容姿で人気を博している。


しかしこう言ってはもともこうもないが強さはともかく容姿に関しては自身がアバター作成で作ったものである以上仮想世界においては真実でも現実世界では虚実の可能性でしかない。

人間ってのは皆こう有りたいという自身の理想が存在している。

もし理想を造れる機会があるなら現実を差し置くどころか否定しても飛び付くものだ。

だから容姿もそうだが性別に関しても仮想世界においては真実かは不明でしかない。

少女本人は以前に他のプレイヤーに女性かと問われたそうだ。

その時の少女の解答は女性だという。

実際、本当のところはどうなのか真実は不明だが。

ちなみにジェネテックノーツ内では少女の解答も含め様々な要素を踏まえ少女は間違いなく女性だと言う説が有効である。

実際アラヤ自身も少女とは初めての対面だが少女がする仕草や雰囲気が女性ぽく感じるので女性だろうと感じる。

しかしながら結局のところ少女が仮に男であったとしてそれの何が問題だろうか。

アバターの造作など作製者の自由であり此方がどうこう言うべきものではない。

騙されたなんだと言うのは勝手に信じ、期待し願望を押し付けた奴の言うことでしかない。


ではアラヤはどうかと問われればだが…………やはり解答に変わりはない。

そもそもアラヤにしてみれば仮想世界の中でもあまり人に関わろうとせずソロを主軸にしている、他のプレイヤーの情報は記憶していてもそれが真実かどうかはどうでもよく興味がない。


ちなみにアルテミスと言う名だがこれは少女のプレイヤーネームではない。

その月女神の様な容姿と弓を主軸に使うプレースタイルからそう呼ばれている。

まぁそれとは別にアルテミスと言う呼び名を決定づける理由はあるのだが。



少女は腕を後ろで組みアラヤをその透き通った碧い目でジーと見始めた。

(アバターだと分かっていても綺麗だな)

自分でも柄ではないと十分に理解しつつも少女に対しそう思ってしまう。

アラヤも分からないし興味がないと思いつつも別に異性に対し完全に枯れているわけでも無関心でいるわけでもない。

ちゃんとした感性はある。

可愛いものは可愛いく綺麗なものは綺麗であり美しいものは美しい。

それは感情がある以上必ず感じる生理現象みたいなもであり失くすことはない認識だ。

だからアバターと分かってはいても女性だと感じるその整った容姿で見られているとなんだか気恥ずかしさを感じてしまう。


少女はそんなアラヤの仕草を見てかそれともそれ以外からか口に手を当てクスクスと可笑しそうに笑いだした。

「…………」

その様子に無言でいると此方が気を悪くしたのかと感じたのか

「あっ、気を悪くしたならごめんね。

別に君を貶してるとかいうわけじゃないんだけど……」

少女は目を伏せ申し訳なさそうに謝る。

別に少女の態度に気を害した訳じゃない。

ただいったい自分の何が少女の琴線に届き笑うまでに至ったのかが分からない。

表には出さず内心で訝しげにしていると少女は顔を上げこれまた申し訳なさそうに

「ただね君の顔が噂通りの仏頂面だなぁと思ってね」

告げた。

少女は貶して無いと言ったがそれは貶してると言って然るべき言葉ではないのだろうか。

噂通りってことはどう見繕っても結局少女もこうして対面し実際に思ったうえの言葉なのだが。

(噂通りって…まぁ当然といえば当然か)

別にこの事に対しアラヤに怒りはない。

彼女の言葉に共感も理解もできるからだ。


まず前提としてこのゲームいやVRMMORPGにおいギルドやチームを組まずにソロでやっているのは珍しい事だ。

オンラインRPGゲームにおいて外に繋がっている=パーティーを作るのは当たり前だからだ。

憧憬、羨望、共感、思想、友情。

様々な要素を元に人が集いチーム、パーティー、ギルドが創られる。

効率の善さも確かにある。

しかしそんな事よりも皆誰かと共に繋がり共に目指していきたい。

現実はソロで生きていようともゲームの中では誰かと共に有りたい。

現実では相手が誰かなんて知らない仮初めだから。

そんな内心。

もしかしたら自分ですら自覚のない思いがある。

そんな中での頑としてのソロプレイ。

あまり好印象を持たれなくても仕方がない。

とはいえそれもプレイヤーによるものではあるが。

目の前に居る少女もソロプレイヤー。

しかし少女の場合少女のソロという有方は周りから少女の一種の魅力と受け取られており好印象である。

しかしアラヤはその逆に近い。

孤高を気取っている生け簀かない奴、鉄仮面、不気味といった悪評。

まぁアラヤ自身は自分の噂は知らないというか聞いていても別に興味がないと割り切っているので覚えさえもないのだが。



こうもハッキリ「お前は仏頂面」と真っ正面から言われた場合どうするべきなのだろう。取り敢えず怒りはないが失礼な事には違いないので怒るべきかそれともどうでもいいと割り切り冷静に対応するべきか。

「……ねぇ」

アラヤの複雑そうな顔を見て怒らせたとでも思ったのだろう。

少女が再度謝ろうと口を開いた瞬間だった。後方の道から数人アラヤと少女の居る方に向かってくる足音がした。

「おい!ほんとうにこっちなんだろうな!」

「ああこっちの方で間違いねぇ!」

「おい分かってんだろうな逃がすんじゃねぇぞ!」

「言われなくても分かってるわ!」

「てめぇこそ逃がすんじゃねぇぞ!」

数人の男が叫ぶ野太い声がした。

内容からして何かを追いかけている様だ。

(レアモンスターでも見つけたのか)

RPGではよくある光景の為気にすることなく声のする方に向けていた顔を少女に向けると

少女は苦虫を噛み潰したよう顔をしていた。

それは自分心当たりが有りますという顔だ。

(ああ…)

その様子から理解した。

男達が追いかけているのがレアモンスターではなく少女だということを。

にしても凄い嫌そうな顔だ。

まるで台所に出るあれを見たような顔。

「はぁ、忘れてたよ。もうほんとしつこいな…」

少女は深い溜め息をつくとアラヤに振り向き手を合わせる。

「ごめん!実はちょっと今追われている最中なんだ、お願い匿ってくれないかな!」

その様子から本当に困っていると感じた俺は左にある人一人分隠れることができそうな大岩の岩陰を指差し

「分かったからそこの岩陰に隠れろ」

と言うと少女は頭を上げありがとうと微笑み俺が指差した大岩の岩陰に向かい隠れた。

暫くすると

白と金の騎士風の戦闘服に身を包んだ男が5人来た。

戦闘服には中央にパルテノン神殿上に中央に鷲その左右に稲妻が掘られた金色のエンブレムがあった。


オリュンポスか……。


オリュンポス【ジェネティクノーツ】において幾つもあるギルドの内五大ギルドと呼ばれてる大手ギルドの内の一つにして最大規模のギルドだ。


走ってきた男達は俺の前で止まるとリーダー格の先頭の男が俺を睨み付けながら怒鳴るように

「おい!こっちに白銀の髪の女が来たはずだ何処に行ったか教えろ!」

「来てないから分からないな」

「嘘つけこっちに来たのは確かなんだ!」

「分からないと言っている。

他の道を通ったんじゃないのか」

リーダー格の男は淡々と言う俺の態度に苛つき俺を睨みながら

「お前調子乗んなよ、俺達がオリュンポスギルドのメンバーと知っての態度か!おい!」

後方にいる仲間に声をかけると男達は俺を囲み一斉に片手剣、両手剣、短剣、ハルバード、スピアを各自構えた。

遠距離型がいない近中距離型パーティーだな見た感じトッププレイヤーはいない中級冒険者の集まりか。

「おいPVPだ!」

リーダの男は叫びストレージ画面をだしPVP申請を押した。

俺の前に《PVPを受けますか》と画面が出た。

PVPプレイヤー同士が承諾すれば戦うことが出きるシステムだ、これによりプレイヤー同士はもちろんギルド同士の対決もできる。

俺も前に何度か受けたことがある。

PVPはプレイヤー同士の戦いのためモンスターとは違いレベルの差だけで決まるものではない技量の差によっては自分よりレベルが高い相手にも勝てるつまりジャイアントキリングがおこったりする。

特にチームで対戦する場合は連携がものをゆうときがあるが俺は五人に目を配るがちゃんとした連携ができると言った感じはないな。

まぁ、その前に俺が受ける理由はないが

「おいビビってんのか!言っとくが受けるまで逃がすきはないからな!」

と凄んできた。

全然引くきが感じられないな…。

これは逃げきれたとしてもしつこく追って来そうだな……。


俺は《PVP受けますか》の表示にYESを押し

た。

PVPが成立し俺と男達の頭上にカウントダウンの表示が表れカウントダウンが始まった。

3

2

1


男達はPVPが始まったと同時に一斉に攻撃してきたが連携もまるでないただ一斉に攻撃を仕掛けただけだな。

俺は慌てることなく男達の攻撃を紙一重で避け鞘から剣を抜くと男達を斬った。


「チッ、ざけんな!」

と言い男達は次々と攻撃を仕掛けていくが俺には全然当たらなく逆にこっちの攻撃はどんどん男達に当たりHPを削っていく、男達はHPがレッドゾーンまでいくとさすがに焦り手を前に出して

「ま…待て!俺達の敗けだ、降参する!」

リーダー格の男がそう言ったので俺は剣を下げ構えを解くと

「バカが!」

リーダー格の男はそう笑い片手剣で俺に斬りかかった。


予想通りか…

だいたい人の話しを聞かず脅すように一対五で仕掛けてくるような奴が素直に降参なんかするわけがない。

どうせこんなことだろうと思い構えを解いても身構えていた俺は男の攻撃に合わせるように右から左上に斬りつけた。

男はその攻撃でHPが0になり

「くそ…が!」

と言い、いや断末魔を残し光の粒子になり消滅した。

男達はリーダの男がやられたことに武器を下げ呆然としていたので

「まだやるか」

と剣先を残った男達に向け見渡すと

「いやいや俺達の敗けだ!」

「頼む助けてくれ!」

「俺達が悪かった!」

俺が恐ろしいのかびくついた様子で言うので

「じゃあ、分かってるな」

と目を細め威圧するように男達に告げると

残りの男達は素早く《降参》の表示を押した。

俺の前に《勝利》の表示がでたと同時に颯爽と男達は走ってこの場を去っていた。

また俺の悪評が増えそうだな…。

俺は溜め息を吐いていると少女が岩陰から出てきて

「迷惑かけたね、まさかPVPになるなんて本当にごめんなさい」

と申し訳なさそうに顔を歪め謝るので

「別にあんなの大したことはない、気にするな」

「そんなわけにはいかないよ!」

急に強く言ってきたので思わずビックリして体をのぞけながら

「あ…ああ、いいから別に君が悪い訳じゃないだろ、悪いのはあいつらだ」

そうとう鬱憤が溜まってたのか溜め息を吐き

「ほんと、ギルドに入れってしつこくて参ってたの、しかもこんなとこまで追いかけてくるなんて…じゃなくて!私がそもそもの原因なんだから何かお礼させて!」

と興奮したように詰めよりながら言ってきた。


近い!近い!

「別にい…」

断ろうとしたが少女の顔は断りを許さないとばかり真剣な顔で「ジー」と見て…ってか自分で言ってるしどうあっても引くきがないと感じた俺は結局根負けして

「分かった」

と疲れたように言うと少女は俺から離れるとパッと顔を輝かせると

「うん!」と嬉しそうに頷いた。


綺麗だな……

俺が少女にみとれていると

「じゃあなんにする?」

「今は思い付かない」

「じゃあ、思い付いたら連絡して」

とフレンド申請してきた。

俺まさかそこまでするとは思わず自分の前に表れたフレンド申請の表示に思わず固まったが「ジー」とまた見てきたので流石にここで《NO》の選択をする勇気は俺にはない。

俺は《YES》の表示を押した。

少女はフレンドリストに俺の名前を確認すると

「よし!」

と弾んだ声で言って

「じゃあ、よろしくね《アラヤ》君!」

フレンドリストに表示された俺のプレイヤーネームを呼んだ。

彼女が何故俺のフレンド登録でこんなに嬉しそうなのかは分からんが。

「ああ」

と返事したらまたまた少女は「ジー」と見てきた。

何が言いたいかは分かる。

正直恥ずかしいが

「……ああ、《ユエ》よろしく」

と言うとユエは満足した顔をし

「じゃあ、明日連絡するからね!」

と言い俺に手を振り


……明日!?

俺が驚いている間に

「約束だよ!」

と笑顔で言って去っていった。

「ちょ!待っ…」


手を伸ばし待ってと言う暇もなくユエは見えなくなった。

「思い付いたらじゃなかったのかよ」

と呟きユエの去った方を見ていた。

まぁ、どのみち明日もログインするからいいか、それに本当に連絡してくるかも分からないし。


俺は今度こそ転移宝晶を使用すると青いエフェクトに包まれ《アルカディア》に転移した。






ギルドオリュンポスギルド長室


広い部屋に机に椅子だけ質素な部屋なのにどこか気品が溢れる部屋に一人の男がいた。

まるで黄金のような金髪の男が部屋の閉じられた窓から外を眺めていたら部屋の扉が勢いよく開き赤髪に鋭い赤い目、顔の右半分にまるで火のような刺青が入りオリュンポスのギルド服白と金の騎士風の戦闘服を着崩した長身の男が苛立ったように荒々しく入ってきた。

荒々しく入って来た男に対し金髪の男は外を向いたまま

「何かようかな《シド》」

訪ねると《シド》と呼ばれた男は苛立ったまま

「何かようかじゃねぇ!

俺の部下がやられちまった!」

金髪の男はどこか感心するように

「ほぉ、君の部下が」

「ああ!一人倒され、残った4人が情けなく戻って来やがったんだ、話を聞けばなんでもアルテミスの奴を追いかけている時にやられたらしい」

「アルテミス…彼女にやられたんなら無理はないだろう、彼女はトッププレイヤーの一員だ君の部下が5人いようと勝てる相手ではない」

「それがよう、どうやらやったのはアルテミスじゃないらしんだ」

「彼女じゃない?、なら他のギルド…まさか他の四大ギルドじゃないだろうね」

「ちげぇな、あいつらの話を聞くかぎりじゃあいつらのエンブレムはなかったらしい」

「彼等じゃないとすると誰にやられたんだい」

「それがよ、黒と緑の服装で黒い片手剣を持ったガキ一人にやられたんだと、ガキ一人だぜなせけねぇったらありゃしねえ!」

「ほぉ、他の四大ギルドじゃない少年一人に」

「感心してる場合じゃねぇよ!

何処の誰かも分からねぇガキ一人にやられたんだとあってはギルドの名折れだし、何より部下をやられた俺の気がおさまらねぇ!」

「それで私にどうしろと」

「ガキを見つけるためギルドメンバーに探させろ!」

「君の一個人の為にメンバーを動かせと」

「ああ!」

金髪の男は少し考える仕草をした後シドに振り向き髪と同じ黄金と見間違うばかりの金色の瞳を見据え

「いいだろ君の好きなようにしたまえ、ただし他の四大ギルドやプレイヤーに迷惑をかける行為をすれば、分かってるね」

シドは自分に向けられる目と言葉に威圧感を感じ息を呑んだ後

「ツッ、ああ…分かったぜ」

と言いシドはギルド長室から出ていった。

それと入れ替わるように紫色の髪をサイドアップさせ女性用の下がスカート型の騎士風の戦闘服を着た女性が入ってきた。

女性は金髪の男性に恭しく頭を下げ

「失礼いたします、先程シドが出ていかれましたが何かありましたか?」

「ああ…なんでも彼の部下が名も知れない少年にやられたので捜索にギルドメンバーを貸してほしいとのことだ」

「そうですか、私の方でも動きましょうか?」

「その必要はない」

「そうですか……」

女性はそう言うと金髪の男をジーと見ていた。

「何かあるのかい?」

「いえ、なんだか嬉しそうに見えたので」

金髪の男は「ああ」と頷くと窓の方に振り向き

「いや、ただ少しその少年に興味が湧いただけさ」





少年と少女は出会った。

その行く末が喜劇か悲劇、希望の物語か絶望の物語かそれは少年少女を含め誰にも分かりはしない、それこそ運命を見透す神様にしか分からない事だ。




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