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005 新方針

 エステルの抱えていたクエスト票を捌き終えると、アンドレイは新たな方針を打ち出した。

 それが――。


「恐れ入ります、そのクエスト票は受付することができません!」


「えー、なんで?」


「当ギルドでは受注するクエストにランク制限を設けることにいたしました」


 ――Eランク以下のクエストの拒否だ。


 これ自体は別におかしな方針ではない。

 他所の上位ギルドでも当たり前に行われている。


 ただ、昔ながらの常連客は不満を抱く。

 彼らは難易度に問わず〈ホワイトスターダム〉に依頼していたから。


 ただでさえ少なくなっていた先代から続く客が、完全に離れていった。

 代替わりして別物となった〈ホワイトスターダム〉に用はない、と。


 だが、アンドレイは気にしていなかった。

 織り込み済みだったからだ。


 ――ランク制限を設けた数日後。


「よしよし、思った通りだ」


 アンドレイはマスタールームで資料を眺めていた。

 そこには細かな数字とグラフが並んでいる。

 ランク制限によって仕事量が大きく減ったことを表していた。


 これはアンドレイの思惑通りの展開だ。

 減った仕事は全て概ね下位ランク――つまり利益率が低い。

 そんな仕事は彼にとって不要だった。


「皆、話を聞いてくれ」


 アンドレイはホームの1階にメンバーを集めた。


「今後、我がギルドは冒険者PTの依頼に特化していく。DランクとCランクのPTをメインターゲットとし、助っ人や引率といったクエストを積極的にこなしたいと考えている」


 メンバーが騒然とする。


「どうしてD・Cランクなんですか? ウチならもっと上のランクでも余裕だと思うのですが」


 皆が頷く。


 〈ホワイトスターダム〉のメンバーは最低でもBランク。

 Aランクもそれなりにいる。

 D・Cランクのクエストなど朝飯前だ。


「楽勝だからこそだ」


 アンドレイが「ふふん」とドヤ顔で解説する。


「冒険者PTの依頼は基本的に助っ人か引率であり、これらは担当者の実力で効率が決まる。諸君らの強さをもってすれば、D・Cランクの敵など瞬殺できるだろう。日に数件のクエストを労せずにこなせるはずだ」


「つまり冒険者を寄生させると?」


「その通り。助っ人や引率の場合、Dランクのクエストで得られる平均報酬は、Bランクの約三分の一。つまりDランクのクエストを三回こなせば、Bランクと同等の報酬を得られる。Bランクは危険だが、Dランクなら楽勝だし、数をこなすことも容易だろう。ローリスクハイリターンというわけだ」


「たしかにそうですが、冒険者が不満を抱くのでは?」


「どうしてだ? 依頼をこなすのに」


「彼らは寄生を嫌いますよ」


 アンドレイは「かまうものか」と一笑に付す。


「冒険者の大半がD・Cランクだ。依頼人はいくらでもいる。その中には寄生を望む連中もいるだろう。皆が皆、寄生を嫌うわけではない」


「まぁそうですが……」


 メンバーの反応は渋い。

 どうも乗り気ではないようだ。


 だが、アンドレイは気にしていない。

 予想通りだったからだ。

 なので対策も考えておいた。


「細かいことは言わない。好きなように取り組めばいいさ。だが、諸君はきっとD・Cランクをサクサク回したくなるだろう」


 皆が首をかしげる中、アンドレイは不敵な笑みを浮かべる。


「今後、冒険者に関するクエスト報酬の3割をボーナスとして支給する」


「「「――!」」」


「例えばそこの君。君が冒険者関連のDランククエストを1ヶ月で100回こなしたとしよう。すると君は1ヶ月分の給料に加えて、Dランクのクエスト報酬100回分の3割に相当するボーナスを得られるわけだ」


「そんな……今までより圧倒的に稼げるようになるぞ……」


 ざわざわ、ざわざわ。

 異例の大盤振る舞いに皆が浮つく。

 そんな連中の姿を見てアンドレイはニヤリと笑う。


(労働者ってのは馬鹿で助かるな)


 ボーナスシステムは撒き餌だ。

 支給するのは最初の1ヶ月だけである。

 以降は適当な理由をつけて徐々に減らす予定だ。


「また、本日よりセントラルでの勧誘活動を解禁する。俗に『ハイエナ』などと呼ばれる行為であり、ギルドによっては看板に傷がつくなどと言うが、我がギルドでは気にしない。むしろチャンスだ。Sランクギルドがハイエナを行えば、その集客力は計り知れない。即座に客が見つかるはずだ」


「「「たしかに」」」


「それでは仕事に取りかかってくれ。もちろん冒険者関連以外の仕事をしてくれてもいいが、その場合はクエスト報酬のボーナスが発生しないのでお忘れなく」


 アンドレイは「解散!」と言ってマスタールームに向かう。


「こうしちゃおれねぇ!」


「ガンガン稼がねぇとな!」


 大半のメンバーがセントラルへ向かう。

 残ったメンバーも準備している最中だ。


「あのー、クエストを依頼したいんですが」


 そこへ客の男がやってきた。


「どのようなご依頼ですかー?」


 ギルドメンバーの一人が対応する。


「隣町まで護衛してほしいんです。これ、クエスト票です」


「あー、冒険者関連じゃないんですね……」


 対応した従業員は露骨に顔をしかめる。

 そして――。


「申し訳ございません、こちらの依頼は私の専門分野ではございませんので、他の方にご依頼くださいませ。呼び鈴、置いておきますね」


「え、ちょ……」


「ではではー、ごゆっくりどうぞー!」


 スタスタと離れていく従業員。

 男が呼び鈴を押すと、すぐさま別の従業員が。

 しかし、クエスト票を見せると同じように断られた。


 結局、誰もクエストを受けなかった。

 冒険者関連ではない為、ボーナスが発生しないからだ。


「このギルドはもうだめだな……」


 男はため息をついて出て行く。

 彼がこの場所に訪れることは二度となかった。

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