033 エピローグ
「アンドレイさん……!」
アンドレイの思わぬ登場に驚くエステル。
セドリックは客車の窓から少し見るも、すぐに違うところを見た。
割り込むのは野暮だと判断したのだ。
「何のようですか?」
警戒心を強めるエステル。
「どうしても言っておきたいことがあってな」
「言っておきたいこと?」
アンドレイは何歩か前に進むと、その場で土下座を始めた。
「今更だが、不当解雇して本当にすまなかった」
「……また、何か企んでいるのですか?」
「違う!」
アンドレイは顔を上げる。
「本当に改心したんだ。昨日、船でお前を見ていて、このままじゃいけないと思ったんだ」
「船って……討伐隊の船にいたんですか!?」
「そうだ。浸水の補修作業をしていた。お前に板を持ってもらった新米のクルーがいただろ? あれが俺だ」
「本当ですか?」
「こんな嘘をついてどうする。それに、嘘なら知らないだろ。補修作業のことなんか」
「たしかに……」
「俺はお前に酷いことをしたと思う。お前の大切なギルドも潰してしまった。本当に申し訳ない」
「私にだけ謝られても……」
「分かっている。できれば全員に謝りたい。いや、謝るつもりだ。だが、今の俺は生活費を稼ぐだけで精一杯だ。だから謝れる相手にだけ謝っていこうと思う。それから今後は必死に働き、金を貯めて、〈ゼスキア〉や〈バブルス〉で迷惑を掛けた連中にも頭を下げていく。許してもらえるとは思っていない。だが、それをしなければ前に進めないと思うんだ」
エステルはしばらく黙っていた。
静かにアンドレイの瞳を見つめる。
そして、おもむろに口を開いた。
「…………本当に、改心したんですね」
「ああ、今更だがな」
「今更でも、立派なことだと思います」
「エステル……」
「アンドレイさんのこと、応援しています。すごく大変だと思いますが、頑張ってください」
「あ、ああ、頑張る、頑張るよ。本当にすまなかった」
エステルはアンドレイに手を差し伸べ、立ち上がらせる。
それからギュッとハグした。
「私のほうこそ今更ではありますが――」
エステルはアンドレイに向かって深々と頭を下げる。
「――お世話になりました、マスター」
アンドレイが目に涙を浮かべる。
「それでは、失礼します」
「分かった」
エステルは馬車に乗り、発進させるよう御者に言う。
「本当に申し訳なかった」
馬車が消えるまで、アンドレイは頭を下げ続けた。
こうして、ようやく、彼は新たな一歩を進み始めることができた。
◇
――数ヶ月後。
エステル、ジーク、セドリックは、王城のゲストルームで待機していた。
「待たせたな、野郎共!」
ゴリウスが上機嫌で入ってくる。
大股で三人に近づき、ワシャワシャとエステルの頭を撫でた。
「嬢ちゃんも元気にしていたかい?」
「嬢ちゃんじゃないですよ!」
「がっはっは! どうでもいい」
「酷ッ!」
「そんなことよりおっさん、どうだった?」
「そんなこと!? ジークさんまで!」
喚くエステルを無視して会話が進む。
「何の問題もねぇ、昇格だぜ。ほれ!」
ゴリウスが通知書を出す。
ギルドランクの昇格について書かれていた。
昇格は原則として通知書が届くだけだが、Sランクは例外だ。
Sランクの時のみ、ギルドマスターが国王陛下から直々に表彰される。
「陛下によれば、俺達が史上最速のSランク昇格だってよ」
「創設から1年経っていないですもんね。そうかもしれません」
「ギルドもSで俺もSになったからな」とジーク。
約1ヶ月前、彼の個人ランクはSに昇格した。
「ジークさんのSランク昇格って、何気に凄いことですよね!?」
エステルがゴリウスを見る。
「戦闘だけでSまで上がった奴って今までいないだろうしな」
「ふっ」
「いや、褒めてないからな? 戦闘バカって言ってるんだぞ?」
「誰が戦闘バカだよ、このハゲ」
「ハゲじゃねぇよ! 剃ってるんだよ!」
二人の言い合いが始まる。
「羨ましい。俺も早く昇格したいものだ」
「セドリックさんも急成長じゃないですか! もうCランクなんですから!」
「そうだが、ここからの伸びが非常に厳しい……」
「ま、ランクなんざ後でついてくる。そんなに焦ることないさ」
「おっさんがSになったのは30手前だったもんな」
「うるせー。俺は遅咲きなんだよ」
「いや、30手前でSって相当早いと思うが」
「お前さんはもっと早くなれるさ、頑張れよ!」
しばらくの間、四人はその場で談笑した。
「そういえば、ギルドランクがSになった時は記念の祝宴とかするのか?」
セドリックが尋ねる。
「ないと思うぞ。陛下はそんなこと何も言っていなかったし、部屋に案内してくれた文官からは休んだら適当に帰ってくれって言われた」
「味気ないものだな」とジーク。
「そういうことなら我々だけでもお祝いしないか? 仕事の後にどうだ」
「気が利くじゃねぇか、セドリック」
「ふふふ、実はいい店を知っていてな」
「公爵家の坊ちゃんが言ういい店とは楽しみだな。よし、その店で祝おう。メシ代はギルドの経費で落とすから予約を頼んでもいいか?」
「任せろ」
◇
仕事が終わると、〈YMHカンパニー〉の四人はレストランにやってきた。
セドリックが予約したそこは――。
「この店かー!」
「ゴリウス、知っているのか?」
「俺達のお得意様だよ。お前さんが入る少し前、レジェンドマスタードの調達を依頼されたことがあってな」
「なるほど」
「客として利用するのは初めてだから楽しみだ」
「感動するぞ。文句なしに美味いからな」
四人は個室に案内された。
馬鹿騒ぎしてもいけるよう他の客とは離れている。
純白の空間に設置された純白のテーブルを囲む四人。
テーブルから食器まで、何から何まで純白で高級そうだ。
「あれ、メニューは?」とジーク。
「そんなものはない。予約の時点で注文を済ませておいた」
「ふっ、気が利くぜ」
セドリックが「だろ?」と笑う。
すっかりギルドに馴染んでいた。
「だが、その前に――」
指をパチンと鳴らすセドリック。
すると、ウェイターが大きな丸い皿を持ってきた。
皿には銀の蓋がされていて、中が見えない。
「どうぞ」
皿がエステルの前に置かれる。
「開けてもいいのですか?」
「うむ」
エステルが目をキラキラさせながら開ける。
中には指輪が入っていた。
それを見たエステルの表情が変わる。
セドリックは光の速さで跪いた。
「エステル、我が花嫁に――」
「ごめんなさい!」
言い終える前に断られてしまう。
「今日はいつになく早かったな」と笑うジーク。
「おいおい、これで何連敗だ?」
ゴリウスは苦笑いでジークを見る。
「20までは数えていたが、それ以降は覚えていないぜ」
セドリックは隙あらばエステルにプロポーズしていた。
毎度毎度、新しい指輪を用意して、ロマンチックに告白する。
そして玉砕した。
「流石はエステル、まだまだ足らぬか……」
「恋愛には疎いほうだが、告白のし過ぎは逆効果だと思うぞ」
ゴリウスが言う。
「そうなのか?」
「おっさんに同感だぜ」
「おい、だったらもっと早く教えてくれよ! 知らなかったではないか!」
「普通言わなくても分かるだろぉ! 坊ちゃんさぁ!」
ゴリウスが豪快に笑う。
「恋愛本を買ったらどうだ? 本屋で見かけたぜ」
「本当かジーク! そんな物があるとは……! 買ってみるか」
「えー、セドリックさん、本に頼るんですか?」
「そ、その反応からすると、本はダメか……?」
「いや、ダメじゃないですよ。いいと思います。ただ、そういうのに頼るのはなんかズルくないですか? 男らしくないというか……」
「グッ、エステルにそう言われると恋愛本に頼れないではないか!」
しょぼーんと落ち込むセドリック。
そんな彼を見て三人は笑う。
「お待たせいたしました」
全員の料理が運ばれてくる。
普段はコース料理なので前菜からだが、今回は違う。
デザート以外が一気に運ばれてきた。
セドリックがそうするように手配したのだ。
自分以外の三人がコース料理に慣れていないのを知っているから。
「わー! どれも美味しそう!」
エステルがジュルリと舌を鳴らす。
「早く食おうぜ。見ていると腹が減ってきた」とジーク。
「よーし、お前ら、グラスを持て!」
ゴリウスがワイングラスを持って立ち上がる。
「〈YMHカンパニー〉のSランク昇格を祝って、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
互いのグラスを当てて、盛大に音を鳴らす。
セドリックだけは音を鳴らさないよう控え目だ。
「おいおい、何をお上品にしてんだ! ほら、乾杯しろ、乾杯!」
ゴリウスに言われて、セドリックもグラスを当てた。
カチンッというグラスの音が響く。
貴族なら「下品だ!」と呆れる行為だが、ここではそれが正解だ。
「一応訊いておくが、おかわりはあるんだろうな?」
ゴリウスがお上品な料理を口にかきこみながらセドリックを見る。
「別料金になるけどな」
「なら問題ねぇ! 今日は食って食って食いまくるぞ! そんでもって明日からまた働くぞ!」
「「「おー!」」」
これにて完結になります。
主人公の性格的に恋愛要素が薄めで、
誰かとくっつくお話ではなかったことから、
ジャンルについてずっと悩んでいました。
今でも悩んでいます。
そんな本作品ですが、いかがでしたか?
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おかげさまで多くの方に本作品を知っていただけました。
本当に本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
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絢乃にとっては作品の評価と同じくらい嬉しいものです。
さいごに、絢乃は色々と執筆しており、
なかには書籍化した作品もございますので、
よろしければ他の作品も読んでやってください。
それでは、ご愛読ありがとうございました!




