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032 決着

「ヴォオオオオオオオオオ!」


 頭を左右に振って暴れるリヴァイアサン。

 セドリックを海に落とそうとしているようだ。


「誰か! 助け! 助けてくれぇえええ!」


 セドリックはどうにか耐えている。

 しかしそれも時間の問題だ。

 数分もしない内に握力が切れるだろう。


「おい、どうすりゃいいんだ!?」


「攻撃したらあの男まで殺しかねないぞ」


「かまわん、攻撃してやれ! どのみちアイツは海に落ちて死ぬ!」


「そうだな! 尊い犠牲だ!」


 誰もが攻撃をしようとする。

 そんな時、ある男が気づいた。


「待て! あれってセドリック様じゃないのか?」


 この言葉によってブレーキがかかった。


 皆の視線がセドリックに集まる。

 リヴァイアサンが暴れた為、変装セットが外れていた。


「本当だ、セドリック様だ!」


「セドリック様に向かって攻撃なんかできないぞ」


「ど、どうすりゃいいんだよ……」


「魔術師共、どうにかしろ!」


「無茶言うなよ! それでセドリック様が死んだらどうするんだよ!」


 誰も攻撃できない。

 かといって、助けることもできない。

 できるのはただ眺めるだけ。


「私が行きます!」


 言ったのはエステルだ。

 皆が彼女を見る。


「行くって、どうやって!? 船を近づけるなんて言うなよ」


「大丈夫です! 魔法で行きます!」


 続けて彼女は指示を出す。


「魔術師さんの中で風魔法が使える人は、私の代わりに船の防衛に回ってください!」


「風魔法なら任せろ」「俺も使えるぞ」「俺もだ!」


「他の方は攻撃の準備を! 私がセドリック様を助けた後、総攻撃を仕掛けて倒してください!」


「あ、ああ、分かった」


 この場で反論できる者などいない。

 皆は大人しくエステルに従った。


「エステルぅ! 助けてくれぇ!」


「今行くのでお待ちを!」


「エステルって、〈YMHカンパニー〉のエステルか!?」


 皆がざわつく中、エステルは甲板から飛び降りた。

 魔法によって風の足場を作り、ひょいひょいと駆け抜けていく。

 〈マスタードアイランド〉で沼地を渡るのに使った魔法の応用だ。

 まるで階段を上るかのように、進む度に高度が上がっていった。


「エステル! エステルゥ!」


「私のことを好きって言ってくれた人を殺させはしませんよ!」


 エステルはリヴァイアサンの頭上に陣取る。

 そこで魔法を解除し、急降下。

 両手に魔法剣を召喚した。


「えいやー!」


 シュッと剣を投げる。

 二本の剣はリヴァイアサンの両目に命中した。


「ヴォオオオオオオオオオオオ!」


 リヴァイアサンが全身を大きく揺らす。


「わぁぁぁぁ」


 その衝撃でセドリックが飛んだ。

 手が剣から離れ、体が宙に浮く。


「セドリック様、腕を伸ばして!」


 エステルは魔法を使って駆け寄る。


「エステール!」


 セドリックが全力で腕を伸ばす。


「よし!」


 エステルはセドリックの手首を掴んだ。

 グッとたぐり寄せ、公爵令息をお姫様抱っこする。

 そう、エステルがセドリックを抱きかかえているのだ。


「助かったよ、エステル……」


「まだ終わっていませんよ!」


「そうだな、コイツを倒すぞ!」


「違います」


「えっ」


「この魔法は一人用なので、このままでは二人とも海に落ちます」


「だったらどうすれば……」


「もしかしたら背骨や肋骨がバキバキに折れるかもしれませんが、あとでしっかり回復するので許してください!」


「も、もしかして、エステル、お前――うわぁああああ!」


 セドリックが再び宙に浮く。

 エステルが彼を投げたのだ。船に向かって。


「ヴォヘェ!」


 セドリックは甲板に激突した。

 衝撃音と共に鈍い音が響き、口から血を吐く。

 全身の骨が折れて、内臓にもダメージが入った。

 しかし、生きている。


「今です!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 エステルの合図で総攻撃が仕掛けられる。


「セドリック様、ご無事ですか!」


 エステルは船に戻り、セドリックのもとへ駆け寄る。


「生きては……いる……ガハッ……無事とは……言えな……」


「無事ですね! よかった! 今すぐ治します!」


 エステルは上位の回復魔法を使ってセドリックを治療する。

 怪我をしてすぐだったことが幸いして、瞬く間に回復していく。

 その様をすぐ近くでアンドレイが見ていた。


(今ならアイツを海に落とせるチャンス……)


 そう思ったが、体が動かない。

 動く気にならなかった。


(そんなことしても何にもならないよな……)


 アンドレイ、土壇場で改心する。


(こんなことしてちゃダメだ。前に進まないとな、俺……)


 アンドレイは大きく息を吐くと、船内に戻った。

 そして、近くにいたクルーに向かって大きな声で言う。


「自分、手が空いてます! 指示を下さい! なんだってします!」


「だったら浸水がないか確認してこい!」


「はい!」


 ◇


「これで完了です! もう動いて大丈夫ですよ!」


「本当だ、回復している。素晴らしい回復魔法だった」


「えへへ、回復魔法は得意なんですよ」


 エステルとセドリックがホッと一息つく。

 その頃、リヴァイアサンの討伐も終わっていた。


「皆様、ありがとうございました! 再びこの海に平和が訪れました! 〈アクアタウン〉には1時間ほどで到着しますので、それまでどうぞごゆっくりお過ごしくださいませ!」


 この言葉によって、一気に場の空気が和らぐ。

 ギルドのメンバーは甲板に座り込み、楽しげに話し始めた。

 アンドレイや他のクルー達は慌ただしく走り回っている。


「あの!」「エステルさん!」


 エステルとセドリックの元に、二人組の男が近づいてきた。


「握手お願いしていいですか!?」


「自分も握手してください!」


「え、握手ですか? いいですよ!」


 エステルが二人と握手する。


「ありがとうございます!」


「エステルさんに握手していただけるなんて……夢のようだ!」


 二人は深々と頭を下げた後、嬉しそうに離れていく。


「さすがはSランカー、すごい人気だな」とセドリック。


「いやいや、こんなの初めてですよ。私の握手なんて価値ありますかね」


「エステルさん、自分も魔術師なんですけど、魔法の相談をさせてください!」


「さっき使っていた空を歩く魔法って、風魔法ですよね? どうやったのですか?」


「自分も教えてほしいです! 空の歩き方!」


 その後もエステルのもとにはひっきりなしに人が集まってきた。

 ここではセドリックよりもエステルのほうが人気者だった。


 ◇


 町に戻ったエステルとセドリック。

 二人は宿屋にあるそれぞれの部屋でシャワーを浴びた後、ディナーを食べるべく小洒落たレストランに来ていた。


「初めてのクエストはいかがでしたか?」


 エステルは鴨肉を使った小難しい名前の料理を食べる。

 小難しい名前の通り小難しい味だな、と思った。


「楽しかった。死ぬかと思ったがな」


 セドリックは赤ワインを飲む。

 貴族らしく飲み方に優雅さが感じられた。


「今回の依頼は危険でしたからね。無事で何よりですよ、本当に」


「エステルがいなければ死んでいた。またしても助けられたな」


「たまたまですよ」


「謙遜するな。そなたはあの場で誰よりも優秀だった」


「セドリックさんもよく頑張っていましたよ! 弓に剣に凄かったです!」


「もっとやれると思ったのだがな。これでも魔物を狩った経験もあるんだ」


「そうだったのですか。それで武器の扱いが達者だったのですね」


「いや、まだまだだよ。もっと精進せねばならんな。今の俺では、君の隣に相応しくない」


 セドリックは悔しそうだ。


「そんなことありませんよ! 人の魅力は強さだけでは決まりません!」


「いいことを言うな。だが、今日の俺はダメダメだった。死ぬのが怖くて君に助けを求めてしまったよ」


「いいじゃないですか、死ぬのは誰だって怖いものです。それに仲間なので助けを求めるべきですよ」


「ふむ」


 セドリックはワインを飲む。


「君から見て、今日の俺は何点だった?」


「そうですねー……」


 エステルは顎を摘まみながら考える。


「70点くらいです!」


「思ったより高いな」


「しっかり戦えていましたし、基本的には問題なかったと思いますので!」


「じゃあ、どこで30点も減点されたんだ?」


「リヴァイアサンに連れて行かれたところですね。甲板から離れる前に手を離していればあんな風にはなりませんでした。そうすれば他の方もスッと倒せていましたよ」


「なるほど、たしかにそうだ」


「こういうのは経験です。たくさんこなせば分かってきますよ!」


「ふむ」


 エステルはワイングラスに手を伸ばす。

 セドリックと同じく赤ワインを飲んでから微笑んだ。


「これからも一緒に頑張りましょうね! ビシバシ指導しますよ! 私、セドリック様の先輩なんですから!」


 セドリックは「ああ」と笑った。


 ◇


 翌日――。

 町にある馬車の乗り場に二人は来ていた。

 依頼が完了したので王都へ戻るつもりだ。


「忘れ物はありませんか?」


「おう、大丈夫だ」


「では戻りましょう! お先にどうぞ! 先輩なので後で乗ります!」


「先輩が先に乗るものなんじゃないのか?」


「え、そうなんですか?」


「いや、俺も分からないが。馬車にはいつも一人で乗るから」


「と、とにかく、お先にどうぞ!」


 セドリックは「分かった」と笑いながら馬車に乗る。

 そしてエステルもその後に続こう――としたその時だった。


「待ってくれ、エステル」


 背後から声を掛けられる。

 彼女が振り返ると、そこにはアンドレイがいた。


お読みくださりありがとうございます。

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