表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

031 リヴァイアサン

 船から数メートルの海に、リヴァイアサンがいた。

 全長何メートルかも分からない巨大過ぎる巨大な蛇。

 船の帆よりも更に高い位置から、船員達を見下ろす。


「討伐隊の皆さん、お願いします! 我々も大砲で攻撃します!」


 船長の男が言う。

 この言葉が合図となり、戦闘が始まった。


「うおおおおおおお!」


「死ね! リヴァイアサン!」


「仲間の仇は俺が討つ!」


 数多のギルドから派遣された腕自慢が攻撃する。

 矢や魔法といった遠距離攻撃をリヴァイアサンに浴びせていく。


「エステル、どうすればいい?」


 セドリックは指示を仰ぐ。


「他の人と一緒に弓で攻撃してください!」


「心得た!」


「その代わり、手すりにはあまり近づかないでください。戦闘になると船はすごく揺れます。落ちてはいけませんので!」


「だったら体にロープを巻いて帆柱にくくりつけるか!」


「あはは。それは名案ですね。ですが、それはそれで危険なのでダメです。ロープをくくりつけるなら手すりにしてください!」


「分かった! 手すりの前は既に人で埋まっているからロープは無しでいく! エステル、君はどうするつもりだ?」


「私は魔法でこの船を支援します!」


「了解! 死ぬなよ、エステル!」


「ランドさんこそ!」


 セドリックは頷き、弓を持って走りだす。


「ヴォオオオオオオオオ!」


 リヴァイアサンが口から水の砲弾を吐く。

 それは帆船の甲板ど真ん中へ迫ってくる。


「させない!」


 エステルが風魔法で壁を作って弾く。

 水の砲弾は船から逸れて海に着弾した。

 その衝撃で大きな波が立つ。

 船がぐらんぐらん揺れた。


「ぎゃああああああああああ」


 何人かが船から落ちる。

 助けようがない。


「この!」


 人間側の攻撃が激化する。

 ようやく準備の出来た大砲が火を噴いた。


「えいやっ」


 エステルは風魔法で砲弾の軌道を修正する。

 本来なら逸れていたはずの砲弾がリヴァイアサンに命中。


「グォオオオオオオオオオオ!」


 リヴァイアサンが仰け反った。


「よっしゃ! 命中したぞ!」


「お前、砲撃のセンスあるな!」


「軍に入れるかもしれないぜ!」


 エステルの魔法に気づいていない砲手達が歓喜の声を上げる。

 だが、戦いはまだ終わらない。


「次の攻撃が来るぞ!」


 誰かが叫んだ。

 リヴァイアサンが天を仰いでいる。

 大きく開かれた口には渦巻く水の塊が垣間見えていた。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 溜めに溜めた攻撃が放たれる。

 最初の攻撃とは威力が段違いだ。


(これは弾けない……!)


 瞬時にそう判断したエステル。

 そこで彼女は船の速度を上げることにした。


(間に合って!)


 帆や波に強烈な風を送って、船を強引に進める。

 しかし、船というのはすぐに加速するものではない。

 間に合わなかった。


 爆発音のような轟音が響く。

 船の一部に命中してしまった。


 それでもまだマシなほうだ。

 エステルがいなければ直撃していた。

 その場合、船は木っ端微塵になっていただろう。


「船に穴が空いたぞ! 補修急げ!」


 船長が指示を出す。

 クルー達は木の板と大工道具を持って船内に向かう。


「リヴァイアサンが溜めているぞ! 次の攻撃が来る前に倒せ!」


 攻守交代だ。

 ここで敵の攻撃を阻止できるかどうかで命運が決まる。


「クソッ! 思ったより酷い! 浸水を止められねぇ!」


 船内から悲鳴のような声が聞こえる。


(次の攻撃まで時間がある。まずは船を直さないと!)


 エステルは船内に駆け込んだ。

 適当なクルーに破損箇所を確認して、そこへ直行。


「ダメです! 止まりません!」


「クソ! 止まってくれ! こんなところで死にたくないんだよ!」


 その場にいるクルー達が悲鳴を上げている。

 唯一悲鳴を上げていないのはドレイクことアンドレイのみ。

 彼だけはどこか冷めたような目で見ていた。


「協力します! 任せてください!」


 到着するなりエステルが言った。

 彼女はクルー達の返事が来る前に魔法を使う。

 大きな穴から流れ込んでくる水が止まった。


「すごい、浸水が止まったぞ!」


「あんたすごいな! 何者だ!?」


 歓声が上がる。

 アンドレイは何か妨害しようと考えた。

 しかし、できることは何もない。

 舌打ちして眺めることにした。


「これは一時的なものです! 今の内に補修してください! 私は甲板に戻って次の攻撃に備えないといけないんです! 急いで!」


「あ、ああ、そうだな! お前ら急げ! 板を打ち付けろ!」


 クルー達が慌てて補修に取りかかる。

 だが、今度は別の場所で浸水が始まった。

 幸いにもそちらはエステルがいなくても大丈夫なレベルだ。


「俺達はあっちにいく! 残りは新入り、お前がやれ! できるな!?」


 新入りとはアンドレイのことだ。


「は、はい、できます!」


 アンドレイは帽子で目元を隠したまま答える。

 そして、他のクルーから金槌と釘を受け取った。


「板は私が持ちますので、釘を打ってください!」


 エステルが言う。


(俺に指示するなよ、このクソ女)


 と思うアンドレイだが、今はそうも言っていられない。

 こんなところで死にたくないのは彼も同じだ。


「わ、分かりました」


 俯いたまま答えて補修作業を始める。


(こいつ……俺に気づかないのか?)


 アンドレイは作業をしながらちらちらエステルを見る。


 彼女は気づいていなかった。

 早く甲板に戻らないと、ということで頭がいっぱいだったのだ。


 ドゴォ!


 甲板から重い音が響く。

 ここからでは様子が分からない。


「私、様子を見てきます! あとは一人で大丈夫ですか!?」


「大丈夫……」


「では頑張ってください! 失礼します!」


 エステルは駆け足で甲板に向かう。


(あの女……)


 アンドレイはエステルの後ろ姿を見つめる。

 必死に走り回る彼女を見ていると、馬鹿らしくなってきた。

 彼女に対して勝手な敵対心を抱いていることが。


「俺は本当にこのままでいいのか?」


 アンドレイは自問自答しながら船の補修を続けた。


 ◇


 エステルが甲板に戻ると、そこにはリヴァイアサンの姿があった。

 人間の猛攻に耐えきれず、甲板の上に倒れ込んだのだ。

 しかし、まだ死んではいない。


「チャンスだ! 仕留めろ!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 誰もが剣を抜いてリヴァイアサンに斬りかかる。

 だが、致命傷を与えることができない。

 リヴァイアサンの鱗は分厚くて頑強なのだ。


 それでも、ダメージは確実に入っている。

 着実に命の炎が弱まっていた。


「キュィィィン」


 リヴァイアサンが甲高い声で鳴く。

 死にかけの合図だ。


「もう少しだ! 立て直される前にトドメを刺せ!」


 一気に畳みかける。

 そして――。


「これでトドメだぁ!」


 帆柱の頂上からセドリックが飛び降り、愛用の剣をリヴァイアサンの額に突き刺した。


「やったか!?」


 誰かがよろしくない言葉を口にする。

 その言葉通り、やっていなかった。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 リヴァイアサンが最後の抵抗を始めたのだ。

 倒れていた体を起こし、垂直に体を伸ばす。

 そして、リヴァイアサンの額には――。


「まずいまずいまずい! うわぁあああああ!」


 ――セドリックの姿が。

 両手で剣のグリップを握り、必死に耐えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ