表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/33

025 答えとアンドレイ

 国王に次ぐ地位、それが公爵。

 その一人息子であるセドリックは、次の公爵に他ならない。


 当然、多くの縁談が舞い込んでいた。

 社交界でも大人気で、彼の周りにはいつも人だかりができる。


 それだけではない。

 彼の端麗な容姿は、権力に興味のない者も惹き付けた。


 しかしセドリック本人は一度も話を受けなかった。

 貴族の令嬢、絶世の美女、エトセトラ……。

 どんな女性を相手にしても魅力に思わなかったのだ。


 なので、セドリックは同性愛者と噂されていた。

 父親のシュテンバーグですらそう思い込んでいた程だ。


 だからこそ驚いた。

 エステルにプロポーズするセドリックを見て。

 公爵や公爵に近い人間であればあるほどに驚いた。

 それほどまでに信じられない光景だったのだ。


 だが、衝撃の展開はまだ終わらない。


「セドリック様、ごめんなさい! お受けできません!」


 エステルが断ったのだ。

 誰もが羨むセドリックのプロポーズを。

 容姿端麗、権力満点、性格優秀の男を即答で振った。


「おま、お前、なんてことを言うんだ!」


 ゴリウスが慌ててエステルにヘッドロックを決める。


「申し訳ございません、セドリック様、公爵様。こいつは貧しい家の出でして、いやぁ、分かっておらんのです。どうかお許しください」


「そ、そうだ。状況が分かっていない時はとにかく断るというのがウチのルールで、本当に申し訳ない! あとで改めて返事をさせるので許してほしい!」


 ジークですら慌てて頭を下げる。


「お前、何を即答で『お受けできません』なんて言いやがるんだ!」


 ゴリウスはエステルの頭に拳をグリグリする。


「だ、だって、ダメですよ! 恋心を抱いていないのにお受けしちゃダメなんですよ! こういうのは!」


 エステルはぶーっと頬を膨らませて反論する。


「おまっ、だから、そういう……!」


 ゴリウスとジークはヒヤヒヤしていた。

 それはエステルがプロポーズを断ったからではない。


 断り方がよろしくないからだ。

 作法に疎い彼らでも、最低限の断り方は知っている。

 特にメンツを気にする貴族の話を断る時は断り方が重要だ。


 衆目の中、悩む様子もなく即答で断ってはいけない。

 まずは保留し、熟慮を重ねた上で断る、というのが最低限の作法だ。


 この時に熟慮する内容は角の立たない言い訳になる。

 受けたいが受けられない事情をでっちあげる、と言い換えることも可能だ。

 恋心を抱いていないから、などというのはもってのほかである。


 ヒヤヒヤしているのはゴリウスとジークだけではない。

 周囲の文武官も顔面を真っ青にしていた。

 これからどうなるのかがさっぱり分からない。


(どう対処したものか……)


 公爵も密かに悩んでいた。


 そこらの残念な貴族であれば逆上していただろう。

 なんたる無礼だと喚いて暴走していたに違いない。


 だが、シュテンバーグは違う。

 官民の両方に慕われる男は、無礼などとは思っていなかった。

 ただ、この場をどのように収めたらいいのかが分からない。


 そんな中、セドリックが口を開く。


「わっはっはっはっは!」


 思いっきり笑い始めた。

 腹を抱え、背中を反らせ、天に向かって笑い声を上げる。


 誰もが固まった。


「セドリック様……?」


 ゴリウスが尋ねる。

 エステルに対するヘッドロックを解除した。


「流石は俺が惚れた女性だ。エステル、たしかに君の言う通りだ。恋心を抱いていないのに受けるのはよくない。君の立場で考えることを失念していたよ。申し訳ない」


「い、いえ! 気にしないでください! お気持ちはすごく嬉しかったです!」


 エステルがニコッと微笑む。


 どうにか大事になることなく済みそうだ。

 そう思い、エステルとセドリック以外の人間は安堵の息を吐いた。


「エステルには俺のことをもっとたくさん知ってもらいたい。今後、食事などに誘ってもいいだろうか?」


「はい! もちろんです! ただ、お仕事で忙しいので、時間が合うかは分かりませんが……」


「バカ野郎、セドリック様のお誘いを優先しろ。仕事は俺達でどうにかするから気にしなくていい」


「おっさんの言う通りだぜ」


「そんなわけにはいきませんよ! 仕事はきっちりしないと! お客様をないがしろにするようなことはできません!」


 あのなぁ、とため息をつくゴリウス。

 公爵とセドリックは豪快に笑った。

 それを見て文武官も笑う。


「セドリック、お前はとんでもない女性に惚れてしまったな」


「ええ、そのようです。おかげで孫の顔をお見せできないかもしれません」


「ふぉっふぉっふぉ、覚悟しておくよ」


 セドリックによる一世一代のプロポーズは、あえなく失敗に終わった。


 ◇


 その数日前、アンドレイには問題が起きていた。


「悪いが辞めさせてもらうぜ。Bランクのギルドで働くなんざごめんだ」


「待て、お前達、そんな、行くな……」


「退職金、頼むぜ」


 バタンッとギルドホームの扉が閉まる。


「そんな……クソッ……こんなことって……」


 僅かに残っていたAランクのメンバーが全て辞めた。

 原因は先程セントラルから届いた通知書だ。

 〈ホワイトスターダム〉のランクをBに下げるとあった。


 AではなくB。

 まさかの二段階降格だ。

 仕事の成績と人材流出の両方が響いた。


「Bじゃこの事務所を維持するのは無理だ……」


 王都〈ゼスキア〉の一等地にあるギルドホーム。

 ここの維持費――国に納める土地代――は相当なものである。

 とても払いきれるものではなかった。


「ゼロからやり直すか……。Bでも完全なゼロスタートよりはマシだ」


 アンドレイは事務所を移転させることにした。

 その為に適当な上位ギルドを訪問し、建物の売却を持ちかける。

 ――が、ここで新たな問題が発生した。


「ふざけるなよ、なんだよその価格! 安すぎるだろ!」


 どこのギルドも二束三文の安値を提示してくるのだ。

 アンドレイの状況を知っているから足下を見ている。


「嫌だったら他を当たってくださいねー」


 アンドレイが怒鳴ると、決まってこのように言われる。

 結局、彼は相場の半額以下で妥協することになった。


「次は絶対に失敗できないぞ……」


 家に戻ったアンドレイは今後の計画を練った。


 もはや〈ゼスキア〉でやっていくのは困難だ。

 あまりにも悪名が高すぎる。

 人を募集したところで誰も来ないのは明白だ。


「これが都落ちってやつか……」


 とりあえず移住することにした。

 移住先は王都から離れていて、かつ人口の多い場所。

 俗に「地方都市」と呼ばれるような都市だ。

 公爵領の〈ラグーン〉も地方都市の一つ。


 アンドレイが選んだのは子爵の管轄する都市だ。

 名前は〈バブルス〉。

 王都から最も遠い場所に位置している。

 ここなら自分の悪名は知られていないだろう、と思った。


 〈バブルス〉に着くなり、アンドレイは動き出す。

 一等地とまではいかないまでも、そこそこの土地を取得した。

 物件付きの土地だ。


 物件はどこぞのギルドが使っていたという古びたホーム。

 収容人数は20人程といったところか。

 これまでの事務所に比べると遙かに小さいが仕方ない。


「事務所を売った金に銀行からの融資……王都でやるには心許ないが、ここでやっていくなら問題ないだろう」


 ボロボロの事務所を掃除しながら、アンドレイは大きな息を吐く。


「立て直しの始まりだ。ここから大きくなって見返してやる!」


 意気込むアンドレイ。

 しかし、現実は彼が思っているほど甘くはない。


 そのことが分かるのは、さらに数日後。

 エステル達がセドリックを救出している頃のことだ。


お読みくださりありがとうございます。

【ブックマーク】や下の【★】で応援していただけると励みになります。

楽しんで頂けた方は是非……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ