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022 危険な提案

 公爵の依頼を受けた〈YMHカンパニー〉の三人。

 一刻の猶予も許されない中、城内のゲストルームで作戦会議を行う。


「まずは場所の特定だな」


 ゴリウスが言う。

 隣に座っているジーク、向かいのエステルが共に頷く。


「武官長の話だとこの辺りが臭いとのことだったな」


 ジークが目の前のテーブルに置かれた地図を指す。

 険しくて高い山々の麓に位置する森だ。

 隠れる場所が多く、魔物もEランク以下の雑魚しか棲息していない。

 盗賊が潜伏するのにもってこいだ。


「いくつかのアジトを転々としている可能性が高いだろうな、この森だと」とゴリウス。


「おっさんと同意見だぜ」


「聞けば聞くほど大変ですね……」


 エステルは眉間に皺を寄せた。


「オビスタとやらが賢い上に探知魔法の使い手が数人いるとすれば、探知網の穴を潜って迫るのは無理そうだな。困ったな」


「とりあえず武官長の情報が合っているかだけでも確かめないか? 本当にこの辺りにいるかどうか分からない。隠れるなら確かにこの森が理想的だがな」


「それには同意するが、どうやって確かめる?」


「そうですよ、近づいたらバレてしまいますよ」


 ゴリウスとエステルがジークを見る。


 ジークは「ふっ」と腕を組んだ。


「バレても問題ないだろう」


「「えっ」」


「おっさんやエステルはともかく、俺は盗賊狩りとして知られている。俺がこの森を単機で彷徨っていたとして、セドリック様の救出に来ているとは思わないだろう。いつも通りの盗賊狩りにしか思われん」


 エステルとゴリウスはハッとした。


「たしかにジークさんが一人で森を歩いていても、セドリック様が関連していると思いませんよね! だったらバレても大丈夫ですよ!」


「お前、戦闘に絡むことは頭が切れるな」


「ふっ」


「よし、ジークの案でいこう。まずはジークが単独で偵察だ」


「任せろ」


 ゴリウスが「ただし!」と人差し指を立てる。


「見つけても追い詰めるなよ。お前が暴れすぎたら、相手はアジトを放棄して逃げるはずだ。そうなったらセドリック様は足かせになるから処分されるだろう」


「その辺は……気をつける」


 ジークは立ち上がり、「行ってくる」と部屋を出た。


「大丈夫ですかね? ジークさん、加減を知らないので不安です」


「アイツは馬鹿だが、下手は打たないだろ」


「ですよね!」


「たぶん」


「たぶん!?」


「たぶん……! きっと大丈夫……! たぶん……!」


 エステルは「そんなぁ」と頭を抱えた。


 ◇


 数時間後、ジークが戻ってきた。

 エステルとゴリウスが不安になっていた頃だ。


「どうだった? 成果は」


 尋ねつつ、ゴリウスは確信していた。

 成果は上々だろうな、と。


 なぜならジークの服に人間の返り血がついているからだ。

 盗賊との戦闘を意味している。


 しかし、返り血の量はそれほど多くない。

 軽く戦っただけで深追いはしなかった、ということだ。


「武官長の情報は正確だったぜ」


 ジークが「ふっ」と笑う。


「じゃあ、あの森に盗賊団がいるんですね!」


「間違いない。オビスタの位置も特定した」


「本当ですか!?」


 ジークはソファに座り、地図のある一点を指でトントンする。


「間違いなくこの辺りだ」


「どうして分かるんだ?」


 ゴリウスが向かいに座る。

 エステルは両者の間に位置する場所で立ったままだ。


「俺が盗賊団の襲撃を受けたのがこの辺りで、連中は二手に分かれて逃げた。逃走ルートはこうとこうだ」


「えっ」


 驚いたのはエステルだ。


「どちらもオビスタさんのいると思しき場所へ逃げていないじゃないですか」


「だからこそだ」


「どういうことですか?」


「セドリック様を手元に置いている以上、そこへ俺がやってきては困るだろ。だから手下には本拠地を避けるように逃げさせるのさ。追跡されても大丈夫なように。オビスタは賢いからな」


「なるほど。あの、もう1つ質問いいですか?」


「なんだ?」


「今の説明だと、セドリック様の居場所は特定できますよね。セドリック様を避けて逃げているのですから。でも、セドリック様とオビスタさんが一緒にいるとは限らないのではないでしょうか?」


「いや、絶対に一緒だ」


「どうしてですか?」


「オビスタは……いや、これはオビスタに限った話ではないのだが、盗賊ってのは仲間のことをそれほど信用していない。仲間というより利害関係が一致しているだけの他人といった感覚だ。だから、大事な物は手元から離さない。オビスタにとってセドリック様は貴重な商品だからな」


「なるほど……。ジークさん、本当に鋭いですね」


「ふっ、いつものことさ」


「いやいや、明らかにいつもとは違うだろ」


 ゴリウスが苦笑いで言う。


「これである程度絞れたが、問題はここからだぜ。おっさん、どうやってセドリック様を救出する?」


「正面から突っ込むわけにもいかねぇし、探知魔法があるから奇襲も不可能だ。取り引きに応じたフリをして助けるってのが無難か?」


「その手は使えないぜ。俺達の前に軍人がやってしまったからな。次回以降の取り引きは交換でなくこちらの先渡しでしか応じてこない」


「ふむ。打つ手が見つからないな」


 ゴリウスがツルツルの頭を撫でながら唸る。

 ジークも名案がない様子。


「あのー、私、アイデアがあるのですが……」


 そっと手を挙げるエステル。


「なんだ? 言ってみろ」


「私が相手に捕まるというのはどうでしょうか?」


「なんだと?」


「オビスタさんの拠点の近くに道がありますよね」


 エステルが地図を指す。

 他の二人が頷いた。


「この道はおそらく探知魔法の範囲に入っています」


「だろうな」とジーク。


「ですから、私がここを一人で歩けば、盗賊の方が見に来ると思います」


「オビスタならそうするだろうな。セドリック様もそうして捕まったわけだし、俺の時も偵察が来た」


「で、私はこれでも若い女ですから、一人でいれば誘拐されると思うんです。盗賊って女子供を誘拐しますよね?」


「ああ、するぜ。オビスタは女をさらうことが多い。身代金ではなく、性的な奉仕を目的としたものだがな」


 エステルが「ですよね」と頷く。


「話を聞いている限り、オビスタさんは私を誘拐した後、最初は自分のもとへ連れてこさせると思うのです。品定めというか、そういう感じで」


「間違っていない」


「で、連れて行かれたら、私がオビスタさんや他の盗賊をやっつけます!」


「それは危険が過ぎるぜ」


「ジークの言う通りだ。危なすぎる」


 エステルの提案に、二人は即座に反対した。


「たしかにお前さんなら負けはしないだろうよ。正常だったらな。だがよ、薬物で弱らされている可能性がある。捕まった時に失神させられて、起きた頃には縛られて薬物漬け……なんてこともあり得るんだ」


「おっさんの言う通りだぜ」


「それはどうでしょうか」


 エステルは反論する。


「ジークさんやゴリウスさんを捕まえたのであれば弱らせると思うのですが、女の私を捕まえていきなり薬物を使うというのは考えづらいですよ。オビスタさんは腕が立つとの話ですから、私のことを侮るに違いありませんし」


「それでも危険なことに変わりないだろ」


「そうだぜ、危険だ。失敗すれば取り返しのつかない事態になる」


「なら他に近づく方法がありますか?」


 エステルが力強い眼差しを向ける。


「「それは……」」


 ゴリウスとジークは、それ以上の言葉が出なかった。


「この依頼は最初から危険だと分かっていたはずです。それでも私達は引き受けた。ならば全力を尽くすべきですよ。名案だけど危険だから実行しない……そんなことが認められる状況じゃありませんよ」


「だがよ……」


 ゴリウスは食い下がろうとするも、「いや」と改めた。


「頑固なお前さんのことだ。今よりいい策が浮かばない限り説得の余地はないだろう」


「そうです! 私は頑固ですので!」


「だったら明日の昼まで猶予をくれ。その作戦を実行するなら日が暮れる少し前が望ましい。だが、今日はもう無理だ。既に日が暮れている。決行するなら明日だ。それでかまわないな?」


「分かりました! 私は顔を洗って覚悟を決めてきます!」


 エステルは部屋を出て、自分に与えられた客室へ向かう。


「おっさん、本当にいいのかよ。危険過ぎるぜ」


「いいも悪いもあるかよ。他にどうにもなんねぇだろ。ああなったエステルは別の案がない限り考えを変えねぇよ。俺達が止めても勝手に実行するだけだ」


「だったら死ぬ気で代案を考えないとな。あんな危険な策、俺は反対だ」


「俺もだ」


 その日、二人は夜遅くまで別の手を考えた。

 しかし、どれだけ検討を重ねても、エステルの案を超えるものはでない。


 そして時間は過ぎ、作戦の決行日時となった――。

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