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014 川を目指して

 翌日、エステルとゴリウスは船に乗っていた。

 レジェンドマスタードを作るべく、〈マスタードアイランド〉を目指して。


 船は借り物の漁船で、操縦はゴリウスが担当している。

 エステルは甲板に立ち、朱色の長い髪を風になびかせていた。


「見えてきましたよ! ゴリウスさん! 島です!」


「周辺に魔人のカス共はいねぇか?」


「いるわけないじゃないですかー! こんな所に来ませんよ!」


「どうだかな。あいつらはゴキブリと同じでどこにでも湧きやがる」


 〈マスタードアイランド〉は人界にあるが、魔界からも遠くない。

 何かの拍子で島に来てもおかしくはなかった。


「魔族の方々が来るとして、その理由はなんですか?」


「そんなもん知るかよ! 待ち伏せとかじゃねぇか?」


「ありえないですよ。Bランクの魔物がうじゃうじゃいる場所なんですよ?」


 エステルは笑って流した。

 彼女の言う通り、〈マスタードアイランド〉は待ち伏せに適していない。

 奪っても戦況に影響しないし、資源だってリスクに見合うものではなかった。


 だからゴリウスも、「まぁそうだがよ」と渋い反応になる。


「ゴリウスさん、よろしくないですよ! 魔族のことばかり考えるのは! 難しい顔になると眉間に皺が寄っちゃって、ジークさんの言う通りおっさんになっちゃいますよ!」


「それはいけないな」


 ゴリウスがこわばった顔を緩める。

 エステルは「その調子です!」と微笑んだ。


 そして、船が島に着く。

 前方には薄暗さの感じる深い森が広がっていた。

 既に魔物の姿がちらほら見えている。

 揃いも揃ってBランクの強敵だ。


 ゴリウスは魔石で作られた鍵を抜いてエンジンを止めた。


「行くぞ、エステル」


「分かりました――って、おわっ!」


 振り返ったエステルに、ゴリウスの投げたバックパックが迫ってくる。

 荷物がパンパンに詰め込まれていて見るからに重そうだ。


「ぐぬぬ、重い……」


 エステルは唸りながらバックパックを背負う。


「ゴリウスさん、女性に荷物持ちをさせるのはダメですよ! モテませんよ!」


「そうは言っても俺は戦闘係だからな。身軽でいないと」


「たしかにそうですが……」


「分かったらほれ、行くぞ、ついてこい」


 ゴリウスは大股で森に侵入する。


「もー、待って下さいよー!」


 ブツブツ文句を言いながら後を追うエステルだった。


 ◇


「ちっ、無人島ってのは嫌なものだな。道がデコボコで歩きづらいったらありゃしねぇ。それに虫も鬱陶しいぜ」


 イライラしながら先頭を歩くゴリウス。

 獣道ならぬ魔物道を通り、最初の目的地となる川を目指す。

 行く手を阻む枝をポキポキ折りながら、苛立ちの息を吐く。


「ですよねー!」


 ゴリウスの後ろを続くエステルは涼しげな顔だ。

 風魔法によって快適度を高めているから。

 微かに浮いているので歩いていて疲れない。

 風のシールドを全身に纏っているので、虫も近づけない。

 エステルにとって、ここは王都の街路と変わりない環境だ。


「おい、ずるいぞ。俺にもその魔法をかけろ!」


「残念ながらこれは自分用の魔法でして無理なんですよー」


 むふふ、と笑うエステル。


「それよりゴリウスさん」


「なんだ?」


「前方に魔物ですよ!」


「うおっ」


 木々にクローモンキーがたくさんいた。

 威圧的なかぎ爪を生やした猿型モンスターだ。

 この島で最も多いタイプである。


「「「ウキキャー!」」」


 クローモンキーの群れが連携して動く。

 軽やかに木々を渡り、扇状に展開してから突っ込んできた。

 攻撃方法は単純で、一直線に飛び込んできて引っ掻くだけ。

 ただし、そのスピードは矢の如き速さだ。


「群れても俺には通用しねぇ!」


 ゴリウスは反撃の拳で猿の顔を殴り潰していく。

 素手で戦うのが彼の戦闘スタイルだ。

 当然ながら返り血にまみれるが気にすることはない。

 むしろ戦っていることを実感できて嬉しく感じた。


「ちょっとー! 避けないで全部倒してくださいよー!」


 後ろからエステルのクレームが飛ぶ。

 ゴリウスが捌ききれずに避けた魔物が迫っているからだ。


「自分でどうにかしろ! 甘えるな!」


「戦闘はゴリウスさんの担当なのにー!」


 と言いつつ、しっかり応戦するエステル。

 植物魔法を発動し、周辺の木から伸びる枝を操る。

 迫り来る数匹の猿を絡め取った。


「捕まえましたよ! ゴリウスさん!」


「よーし、あとは任せておけ!」


 鈍い音が連続して響き、全ての猿が死んだ。


「魔物を殺すとスカッとするぜ!」


 上機嫌のゴリウス。

 ツルツルの頭頂部から足まで、緑色の返り血で染まっていた。


「うげぇ……ゴリウスさん、気持ち悪いですよぉ」


「魔物の血を気持ち悪がってちゃやってられんだろ! ほら、耐性をつけてやる。握手するぞ!」


 エステルに近づき、手を差し伸べるゴリウス。


「いやぁああああ」


 エステルは風魔法を目一杯の力で発動し、ゴリウスを吹き飛ばした。

 ゴリウスはくるくる回転しながら飛び、付近の木に激突する。

 常人なら肋骨と背骨が粉砕するところだが、彼は無傷で済んだ。

 日頃から受け身の訓練をしているので問題ない。


「おい! 魔法を使うなら水で綺麗にしてくれよ!」


「だって! だってだってー!」


 エステルは唇を尖らせながら、水魔法でゴリウスを綺麗にする。

 火と風の魔法を組み合わせた熱風によって服を乾かしてあげた。


「風呂上がりのようなさっぱり感だ、偉いぞエステル!」


「えへへ、ありがとうございます!」


 その後も何度か戦闘を挟むものの、特に問題は起きなかった。

 そして二人は、目的地の川に到着した。

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