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第六話 情報収集

 奇跡的に神殺し学園の関係者と思しき人物の追跡を振り切った、新しい神である妹杏理と神に忠実な神官である俺は、橋の上に建てられた仮の神殿に駆け込んだのだった。


「何とか振り切りましたね兄さん」


 杏理も俺も全速力で走ったので呼吸が乱れ気味だ。

 彼らにつかまるという最悪の事態は免れたものの、これはこれで厄介な状況に変わりない。


 もし彼らが俺たちの正体を見破ったとしたら、龍ノ宮学園つまり神殺し学園の警戒は一層高まり、そこで何が行われているのか調査する機会はなくなってしまうのではないか。


 新しい神である妹杏理は、UFO型の仮の神殿の東にある窓の外を指さして言った。


「とりあえず体勢を立て直しましょう。この地で一番勢いのある神官である北雲氏しに協力を要請します」


 そういうと杏理は、神官たちの情報交換システムを起動させて北雲さんに連絡を入れた。

 北雲さんというのは、俺を龍ノ宮学園の跡地まで案内してくれた神官だ。

 彼は龍ノ宮学園の話題に触れるのを避けていたが、こんな状況では協力を要請するしかない。


「北雲さんからの返事です。協力してくれるそうです、とはいえ龍ノ宮学園関係の情報はあまり提供することはできないそうですが」

「それでも、協力者が一人でも増えるんだからありがたいな」


 すぐに俺たちは北雲さんのお宅へ訪問することにした。

 歩いていくのではなく、この神殿丸ごと向かうことに決めた。


 一見円盤型のUFOとも見間違えかねない、椎茸のかさの形をした仮の神殿の本部は、ボタンを数個押すだけで空中に飛び上がり、目的地へ高速で飛んでいく。


 全国各地に点在する神官たちの家には、この仮の神殿が離着陸する施設が備えられていてとても便利なのだ。


 北雲さんの家に着くわずかな時間に、俺たちは朝食をとってしまうことにした。

 仮の神殿の床に冷蔵庫が備え付けられている。

 その中には大量のトウモロコシが入っていた。


「うわぁ。トウモロコシですね、兄さん、わたしこれ大好きなんです」

「とりあえず朝食をとってしまおう」


 俺たちは生のトウモロコシを、冷蔵庫にあるだけ食べつくした。

 さすが最新鋭の技術で作られた仮の神殿だけあって、トウモロコシはまるでもぎたてのようで、フレッシュで滋味に富んだ味がした。


 まるで俺たちが朝食を終えるのを見計らっていたかのように、仮の神殿は北雲さんの家の上空についた。


 上空から見た北雲さんの家は、立派な古民家のようだが、一か所だけ異質な箇所があった。

 それこそが仮の神殿の離着陸施設だ。

 レトロフューチャーを思わせる無機質な建物に赤いランプが灯っている。着陸態勢が整うと緑色に変わるのだという。


 それから十分ほど上空で待って、ようやく仮の神殿は北雲さんの家に到着した。

 そこは、家というよりもお屋敷といったほうが正確な気がする場所だった。


 俺はここに来るのは初めてだったが、新しい神である妹杏理は全国各地の神官の家を訪れたことがある。ここは三度目だと降りるときに教えてくれた。


「まるで地球にやってきた宇宙人みたいだな俺たち」

「兄さん、面白いこと言いますね」


 北雲さんの家に降り立ってさらに五分ほど待っていると、家の中から北雲さんが出迎えてくれた。

 北雲さんは笑顔で俺たちを家へ迎え入れてくれて、客間に案内してくれた。


「旅館みたいだな」

「ええ、離着陸施設があるのは結構なお屋敷が多いんですよ」


 新しい神である妹杏理は、ここに来るだけでなく一泊したことがあるらしく、客間で待っている間、そのことを話してくれた。


「ここ、夜はすごく面白いんですよ。兄さんも気に入ってくれると思います」

「へえ、どんなところがすごいの?」

「夜になるとですね、鶏の化け物が出るんです」


 そう言って、先ほど出してもらった緑茶をするる杏理。


「化け物?」

「夜になると鶏の生首が庭に何匹も浮いてるんです。若干光ってて、まるで人魂みたいですごい景色なんです」

「光ってるんだったら蛍みたいだな。下手な夜景よりも楽しそうだな」

「でしょでしょ。それでクライマックスになると鶏の生首どうしてで仲間割れを始めるんです」

「まさにバトルロイヤルだね。それで最後にはどうなるんだ?」

「最後は……」


 新しい神である妹杏理は、客間の窓から庭を眺めた。


「あ、いたいた」


 彼女が庭を指さしたので、俺もそれを見てみる。

 そこには北雲さんに飼われているであろう犬がいた。

 犬のほうも気づいたのか、その聡明そうな瞳を俺たちに向け、わんわんと吠える。

 吠えるといっても威嚇というより挨拶といった感じだ。


「柴犬のドットちゃんって名前らしいです。最後にはみんな彼女に食べられちゃうんです」

「ほう。それじゃ、ドットちゃんも腹が膨れて満足だろうね」


 北雲さんが戻ってくるまでの三十分間、俺たちはそんな取り留めのない世間話をして過ごした。


「いやはや、待たせてしまったすみません」


 俺たちの話がひと段落したところで、まるで俺たちが会話を終えるのを見計らっていたかのように、神官の北雲さんが客間へ入ってきた。


「いえいえ、いいんですよ。わたしたちにとって協力してくれるだけで十分ありがたりのですから」


 新しい神である妹杏理はそう言ってニッコリと笑った。


「できるだけ協力はさせていただきます。しかし、あの事だけは何もできません」


 あの事というのは龍ノ宮学園のことだろう。この地の神官にとってその名前を出すのでさえタブーであるはずなのに、北雲さんは俺たちのためにぎりぎりを攻めてくれているらしい。


「それはわかってます。本質的には、この問題はわたしだけの問題ですから」


 杏理はそう言ってまたお茶をすする。

 自らの命が狙われているのに達観している様子だ。


「先ほどまでちょっと調べ事をしていたんですが、神さまと司祭さまの役に立つかもしれない情報があります」


 北雲さんが持ってきたのはとある人物の情報が書かれたレポートだった。


「この鬼室おにむろという人物は、元は我々と志を同じくする神官でした。しかし、数年前から不穏な発言をするようになり、二年前には神官をやめたのです」

「彼があの事と関係があるとお考えなのですね?」

「はい、断言はできませんが、神に対する企てに参加していてもおかしくないかと」


 つまり、鬼室という人物が龍ノ宮学園にかかわっている可能性があるということらしい。


「その人についての情報はこれが全てですか?」

「はい、残念ながら、彼が神官だった時にどんな活動をしていたかといった情報まで廃棄されてしまったようで」


 たった一枚のレポート。

 それも鬼室という人物がどんな人間かということを想像させるような要素がきれいに欠けている。


「ただ、彼が今どこに住んでいるのかは分かっていますので、その気になれば調べることは可能だと思います」

「これが彼の現住所ですか」


 新しい神である妹杏理はレポートに書かれた彼の住所を凝視している。

 賢明な彼女のことだから暗記してしまうかもしえないが、俺はレポートの画像をスマートフォンで撮影した。


「彼の存在自体を語ること自体も近年では、あの事同様禁忌とされつつあって、グレーゾーンなのです。だから我々が彼の新しい情報を、こうして住所を知っていても調べられずにいます」

「いえ、これだけの情報があれば、あとはわたしたちで調べれます。わたしたち、さっそく彼の住んでるところを偵察してみようと思います」

「そうですか。どうかお気を付けて」


 北雲さんと鬼室氏は幼少のころからの知り合いで、子供の時は気のあう友人だったらしい。

 その頃の思い出話を聞かせてもらった後、俺たちは北雲さんの家を出た。


 仮の神殿に乗り込んでこれからのことを話し合う。

 結果、一度鬼室氏の現住所を上空から偵察することになり、俺たちを乗せた仮の神殿はその方角へ向けて飛行を開始した。


 鬼室氏の現住所は北雲さんの家から近かったので、すぐにその上空についた。


「これだけ近かったらばったり会いそうだけど。ねえ、兄さんもそう思いませんか?」

「ああ、だけど禁忌だからってお互いに避けているんだろうな」

「禁忌ですか……」


 新しい神である妹杏理は顎に手を当てながら考えをまとめているようだ。


「わたしは禁忌の存在そのものが腑に落ちないです」

「俺もだ。禁忌そのものが鬼殺し学園に有利に働いている気がする」


 鬼室氏の家も、北雲さんの家ほどではないが立派で、仮の神殿の離着陸施設の跡のようなものも確認できた。


「本当に神官だったみたいです」


 杏理は朽ちたレトロフューチャーの残骸を眺めながら感慨深げに呟いた。


「そうだ、兄さん。私いいこと思いつきました」

「いいこと?」

「はい、実際に会ってみましょうよ」

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