ep8
※
だめだったか…。
「源、あのまま行かせて、よかったの?」
僕が顔を手に当て、思考を巡らせていると梨佳が覗きこんできた。
「仕方ないさ。あのまま続けても杏奈の言った通り決着はつかなかったと思う」
「じゃあどうするの?諦める?」
「私はもういいと思う~」
桃崋が面倒くさそうに言い放つ。
「げんげんの言うことが信じられないってことじゃないんだけどさ~どう見たって彼、強そうに見えないよ」
「そうですわよ源助様」
柚井も否定的な発言をする。
「あのような低レベルな者にこの組はふさわしくありません」
「これについては私も同意かな」
杏奈も口を開く。
「武立君、どう見積もっても"己"程度の霊力だよ。しかもあの人、私たちに協力的じゃないから連携も取れなければ士気だって下がる。私たちにとって利のある人物ではないと思うな」
「…私は源に、任せる」
うーん…。心証はよくないか。ここは…。
「ねぇ西行く…あれ?」
いつの間にか空席は二つになっていた。
「結局、君は彼の味方か…」
そうぼやくしかなかった。……
それにしても僕らに気づかれずにこの場から去るなんて、ますます手放したくないなぁ。
※
「ぷりぃずうぇいと!こたっちゃん!」
「…おい、どの面下げて俺についてくるんだ?」
「だってこたっちゃん俺以外に友達いないじゃん。この機会を通して新たな友達を─「で?本当は?」
「敵情視察さ。彼らを知るのに良い機会だよ」
「……とりあえずあそこ行くぞ」
休憩時間はまだある。西棟4Fの山側のトイレはまず人は来ることはない。理由は単純だ。窓から外を覗けば墓地、墓地、墓地。
俺たちはそこを談合場として利用している。
「さて…それじゃ孝雄さんの申し開きを聞くとしますか」
「こたっちゃん、リスクを避けてばかりじゃ絶好なときに大きな獲物を逃すよ」
「体育大会がその絶好なときとでも?」
「ザッツライッ!」
うわこいつ僧侶の癖してなんてネイティブな発音だよ
「こたっちゃん、ここは彼らと組んでみた方がいいかもしれん
ぞ。戦力把握はもちろん、術式、印、癖や得意とする戦術パターンは確認しておいた方が今後に役立つさ」
「だからと言ってあいつらと組んで今後のことに支障が出たらどうすんだよ。今この時点で俺の力がバレるとまずいんだぞ」
「そこはさ、弱いふりしてさ…」
「無理だ。孝雄も分かってるだろ?あいつ、平井の勘の鋭さ。ここで目をつけられるとは思ってなかった。この時点で計算外。まして戦闘なんかすりゃ絶対バレるだろうな」
「そりゃごもっとも」
「とにかく、弱いふりしてごまかすって方法は無理だ。そもそも
丙種相手に手加減なんかしてたらこっちが死ぬ」
「ぬーん、他にいい方法ねーかなー」
「別にまだそんなに焦る時間じゃねーよ。それにさ、情報を集めるだけなら孝雄だけでもできるだろ?…そうだ、孝雄だけに行ってもらえばいいじゃんか。よしそれじ「あー、ごめんそれは無理。」
「はぁ?なんでだよ?」
「だってこたっちゃんがいないとさ、俺多分我慢できないよ」
「……そうか」
──────キーンコーンカーンコーン──────
「あっ、予鈴じゃん。戻ろーぜ」
ん?なんだこの感じ。
「悪ぃ、保健室行くわ」
「オイオイこたっちゃん、留年しちまうぞ!」
「そんなことどうでもいいんだよ。とにかく間に合わせないといけないからな」
「へいへい、わかりもうしたよ。…頑張ろうぜ、こたっちゃん」
「?何か言ったか?」
「何でもねーよ」
※
────ガラガラガラ────
「うぃーす」
「来たな坊主。俺がそう易々とベットを利用させると思うか?」
「いや今回はマジで調子悪いんすよ」
「へぇー、その割には……今回はマジみたいだな。霊気が乱れてやがる。かぁー!仕方ねぇな!この俺の…っておい!まず椅子に座れ!勝手に寝るな!」
「あー寝てたら治ると思うんで大丈夫でーす」
「それは俺が判断することだ。とりあえず起き─」ゴチッ
「てんめぇ…また結界張りやがったなぁ…覚えてろよ…この…」ブツブツ
「ふわぁぁぁ。さてと…」
「気持ち良さそうに眠りこけやがって…。いつかぜってぇ泣かす」
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──ゴンゴンゴンゴン─
「んあ?」
「おっ?やっと起きたか坊主。…よし、流れも正常だ。ほれ、もう今日はおしまいだ。さっさと教室に帰んな」
「もうそんな時間かよ…」
「ったく、早く返さねぇと静枝さんマジギレするからさ。怒られるのは本望だが嫌われるのは心外なんだよ。ほら、早く出ろ」
「ほんと、あんたの発言って人を呆れさせるね」
そう言うと俺はベッドから降り、教室へと向かう。
「とりあえず、さっきの乱れは静枝さんに連絡入れとくからな。夜更かしせずに早く寝ろよ。お大事に」
「そりゃどうも」
一応礼を言い、保健室を出た。
やってくれたよ本当に。まさか精神干渉にまで手を出してくるとはなぁ、平井くんよぉ。後少しでも対処が遅かったら乗っ取られたよ。
本当に…胸糞わりぃ気持ちにさせてくれるぜ。
「あ、こたっちゃん。いつものやつ終わったの?」
「いや、今回のは違う。あいつらに乗っ取られかけた」
「へぇ、霊術士のこたっちゃんにいい度胸だね。それでどうすんの?今度はこっちからいくか?」
「いいや、ここはまだ穏便に済ます。それにあいつらの目的は俺たちの加入。まずやるべきなのは担任への接触、そして登録だ」
「そうかい。ま、こたっちゃんが言うならそれでいいよ」
※
「うそ!失敗してる!なんで!?ありえない!」
やはり駄目か…。
「もういっ─「いや、もういいよ」
「待ってげんげん!もっかいやれば!」
「ありがとう桃崋。ごめんね、無理やりこんなことさせて」
「いいよ。だってげんげんが必死に頼むからさ、断れないよ。でもいいの?まだ私いけるよ?」
「いや、ありがとう。もう諦めるよ。さ、帰ろうか」
「うん!」
武立虎太郎…か。桃崋と僕の精神干渉をはね除けたその力、やっぱり本物だ。惜しいけど今回は僕の負けか。
でも次は逃さないよ…
※
「あら、武立くんじゃない。具合は戻ったのかしら?」
「えぇなんとか。それよりも先生、体育大会の件ですけど俺と孝雄は結局、二人で二尾にいくことにしました。」
「二尾って…あなたたちならもう少し上のランクでも十分いけるわよ?」
「いえ、二尾で」
「…そう、ならあまり成績には期待しない方がいいわね」
「別に、かまいませんよ」
「……はぁ。分かったわ。西行くんもそれでいいわね?」
「うぃっす」
「それじゃ俺たち帰ります」
「えぇ、さようなら」
「さいなら」
「さよーならー」
問題生徒二人が去った後、大きな溜め息が身体から溢れる。
平井くんたちのグループには加わらないとは思ってた。それにしても二尾って。
これ、実戦に向いていない生徒に対する救済措置なのよ。これだからコネで入ってきたお坊っちゃんは…。それに付き合う西行くんも西行くんね…。
「あっ!しーずえせんせ!」
「あら、沢井先生。どうされました?」
「実はですね、報告したいことが」
「何かしら?時間はあるから話してくれる?」
「もちのロンでごさいます。さっきこぞ‥武立が体調不良でしたでしょ?」
「えぇ、珍しく仮病じゃなかったみたいね」
「あの霊気の乱れ方、誰かから攻撃を受けてたみたいです。精神の方の」
「精神干渉?」
「はい。武立は自力で治したみたいですが、一応報告しときます」
「ご報告ありがとうございます」
「いえいえ!それよりも静枝先生今夜─「ごめんなさい。私これから忙しいので」
「はぃ…」
肩を落として沢井先生が去る。
なぜ?誰が?武立くんを?もしかして平井くんが?
…待って、それよりもあの武立くんが自力で治した?
………やっぱり彼とは真剣に話し合わないといけないわね。
※
────体育大会前日某所────
「今回の特待生はちょっと異質なようだわ」
「危険だね。早めに始末しとかないと」
「そうそう。だからさ、事故ってことでさ、死んでもらおうよ」
「あぁ、可哀想に。なまじ力を持つから早死にするのです」
「頭領!終わりました!」
小鬼が謎の四つの影に報告する。
「さぁ、明日は楽しい祭りにしましょうね」