ep5
※
「おはよ~こたっちゃぁーん」
教室へ入ると、間髪をいれずに孝雄が絡んでくる。クネクネとキモい動きをしながら、だ。
「やけにテンション高いな、お前」
「いや~だって今日から昼食がプレミアムになるんだぜ?これが楽しみでたまらんにきまっとるやん?」
「あぁ、そうだっけか」
そうだ。そういえば昨日、そんな約束してたな。
「あぁ~早く昼休みになれ~」
「分かったから早くどけ、だるいから」
「もぉー相変わらず冷たいなぁ、あ、デザートは「もちろん無しだ」
「えぇー!」
「当たり前だろ!デザートなんかつけたら樋口さんが飛ぶんだぞ!」
プレミアムというほどだ。学園の食堂にはいくつもの料理があるが、プレミアムとつくものはだいたい数千円するVIP御用達のものだ。
それを1ヶ月、孝雄に奢る。勢いで言ってしまったことを、今更ながら後悔する。
「こたっちゃん、やっぱりなしとかは「言わねぇよ」
「約束だからな」
「さっすが大将!一生ついていきます!」
それに、こいつぐらいだ。奢る奢られるって関係なのは。
「朝から騒がしいですわね。あぁ嫌だ。鵬明の生徒としての自覚がないのかしら」
「そう言えば、孝雄今日あれだっけ?」
「このような方たちが鵬明のブランドを汚すんですのね、あぁ!嘆かわしい…」
「あれって?…あ!体育祭の種目決めか!」
「それも仕方のないことですわね。だって親のコネで入学した、七光りなのですから」
「そうそれ。孝雄、簡単なやつにするぞ」
「ちょっと!あなたたちに話しているのよ!聞いてらっしゃっるの!」
「うわ、うるさ。…なんだよ朝から鬱陶しいなぁお前」
「あなた!また私にむかってお前って!」
「あー、四条宮さん。俺とこたっちゃんが騒いだのは謝るからさ、四条宮さんも騒がないでもらえるかな?」
「な!私は!あなたたちが!「はいはい、すみませんでした。だからもう黙れ、迷惑だから」
「っ!なっ!あっ!」
金魚のように口をパクパクさせている"なにか"を無視して俺は自分の席へとむかう。
「相も変わらず、突っ掛かってくるねぇ、あれ」
ヘラヘラしながら言っているが、こういう顔の時の孝雄は、機嫌が悪い。
「ほっとけ。無闇に関わっても面倒臭いだけだ」
俺も最初こそは堪えられなかったが、最近はもう何も思わなくなってきている。
「そうだね。こたっちゃんが我慢してんだ、ワイだってしっかりと耐えないとね」
いつもより少しだけ湿った空気の中、俺たちはSHRを待った。
※
「ではこの時間は来週に迫った、体育大会の種目決めをしたいと思います」
教卓でそう宣言する担任の声で俺は目を覚ました。
すごいな、あの人の声、目覚まし効果があるのか。
「さて、体育大会といっても、この学園の体育大会が特殊なのは皆知っていると思うから、説明を省いて、早速、討伐する妖魔を決めていきたいと思います」
そう、この学園の体育大会は少し特殊だ。この学園の体育大会とは、実技試験及びに実戦試験のことである。この体育大会によって、初めて俺たち生徒は授業で妖魔を討伐する。
ただ、俺のようなエスカレーター式で上がってきたやつらはこれが初めてではない。中学の頃もこの体育大会はあり、そのときは簡単な式神との戦闘だった。どちらもいくつかの難易度が設定されており、俺たちはそれを種目と呼んでいる。
高校から入ってきた奴らは大体ここでつまづくと思われがちだが、実はそうではない。それは特待生がいるからだ。
この体育大会はいくつかの組で分かれ、妖魔を攻略していくのだが、高校組には大体特待生が入っている。そして、特待生がほぼワンマンで攻略するのだ。それが、特待生が華と称される所以のひとつだ。だが、今年は別の意味で華になっている。
「それでは、まず、今年の種目を掲示するわね」
そう言うと、担任は魔石に力を込め、空間に画面を映し出した。
「今年の1-Aは優秀。なので今年の最高難易度は例年に比べ、高いものになってるわ」
「おい、まじかよ…」「こんなの無理でしょ…」「俺は絶対嫌だ…」
教室がざわめく。
ふむ、二尾か二股、どっちがいいかね。
どうせ俺は孝雄との二人でしか行かん。
最高難易度とは縁がない。そう思い、孝雄に念を送る。
(おい孝雄、二尾と二股、どっちがいい)
(こたっちゃん、バリッバリの最低難易度突っ切るねぇ)
(いいだろ。どうせ他のやつをやったとしても評価は変わらん)
(また大層にひねくれてらっしゃるこって。)
(で、どっちがいいんだ?)
(そうだね。個人的には二尾かな。僕、ネコちゃん殺したくないし)
(ん、OK。じゃあ二尾だな)
念話が一通り終わると、再び教室が沸いた。
「す、すげぇ、あいつらあれに挑むのか…」「確かにあのひとたちなら、いけるかも…」「勇者、勇者がいた…」
どうやら最高難易度とやらに立候補した奴等がいるらしい。
と言ってもどうせ決まっている。
「平井くんたち、本当にこれでいいのね?」
「はい、僕たちは丙種百鬼夜行に挑みます」
妖魔などの危険度は十干にて表される。簡単に分けると悪神などの荒御霊などが"甲"、鬼や九尾、蟒などが"乙"、怨霊、上級中位~下位または中級上位妖怪などが"丙"と順番に区分されている。
ちなみに俺が挑戦する二尾は"辛"だ。つまり、俺にとっては雲の上の話だ。
「では、組員の名前を」
「はい。まず、この僕、平井源助と」
「私、四条宮柚井と」
「…鹿島梨佳…」
「『天野桃崋』!」
「『清水杏奈』です!」
「やっぱりその5人ね…以上かしら?」
「いえ、少しだけ待って下さい。誘いたい人たちがいるので」
そう言って、平井は俺と孝雄を交互に見る。
「武立くん、西行くん、よかったら一緒に参加してくれないか?」
「は?」「くはっ!」
俺は思わず疑問を口にし、孝雄は何が面白いのか吹き出した口を抑え、肩を震わせている。
「平井、悪いが俺たちは「おっけーでぇーす!」
俺が断ろうとすると、孝雄はかき消すように大声で承諾の返事をした。
「孝雄、てめ─「ありがとう!嬉しいよ!」
孝雄を怒鳴り付けようとしたが、今度は平井の声に打ち消された。
「二人とも、本当にいいのかしら?」
先生が、やや困惑気味で俺たちに問う。
「えぇ!いいっすよ!なぁ!こたっちゃん!」
ウキウキとした返事をして、俺に肯定の返事を催促する。だが、孝雄もわかってるはずだ。俺がこういうとき、何を言うのか。もしかして、困る俺を見て、楽しんでんのか?なんにしろ後で問い詰めてボコるか。
「武立くんは?」
先生が再度、俺に問う。そんなの決まっている。俺は、
「俺は嫌です」