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ep41

お久しぶりです

      ※


 かくて、無限背進のように行われる自我の認識は全て同一性を満たし、なおそれでも失われたアイデンティティをもがき求めるかのように見えざる手は思考をかき混ぜる。脳細胞のミクロの底で灰色の女神が可笑しげに嗤う。あぁ、煩い、煩い。


 俺は誰だ。俺は誰だ。俺は誰だ。


 そうだね。強いていうならお前は私だ。でも私はお前ではない。


 違う。俺は俺だ。


 何も違わないよ。お前はとうに絶えている。かくたる自我は何の存在証明にも成り得ない。遺っているだけにすぎない。


 なんなんだ!お前は誰だ!俺の何を知っている!?


 全て。お前が産まれた時から見てきたもの全て。いや、お前は()()()()()()()()()。お前だって理解しているはずだろう?



 黙れ黙れ黙れ!俺は…俺は… なぜ、俺を()()()()()()


 ()()()()()()。器など誰でもよかった。単に都合の良い殻が転がっていたにすぎない。


 人に?


 いずれ消えゆくお前には関係のないこと。だが、情けに土産だ。お前が己の意思と思っていたモノは私の意思に依るもの。蝕は上々。もはや、20の時を待つ由もない。残された余魂、精々楽しめ。


         ※


()()()()()、ですか?」


聞き慣れぬ言葉に思わず、抜けた声を漏らす静枝。正面に佇む佗慈魯は神妙な面持ちである。二人は学校から最寄りの最依寺にいる。


「少なくともワシらはそう呼んでおる」


「それが彼の中に潜んでいるのですか?」


「そうじゃな」


「今までそれを隠していたんですか!」


「教えたところでお主に何ができよう?このワシ、否、金剛鎮禍衆の総力を持ってしても払いきれず、小僧自身の気力で寛解させている現状じゃぞ?」


静枝は歯噛みする。しかし、表情は佗慈魯の方が険しい。


「ならば、なぜ今、それを私に教えるのですか?」


「お主から小僧の現状を聞いたときに、ワシは察してしまった。もう()()()()()とな。そして、決心したのだ」


「まさか…」


「もし、このままの状態が続くのであれば巣くうモノが完全に顕現する前に()()()()()。方法はこれしかない」


「そんな!まだ探せば他に方法が!」


「あるならとうに施しておるわ!あ奴らもあ奴らなりに模索し、足掻いておった。ワシらが不審に思うた行動もおそらく……」


「嫌です!何かないのですか!?本当に何も!」


「あるとするならば小僧自身で魂を浄めるしかない。自浄しかないのだ。……順調だった。あの齢であれほどの法力。至上の才。20歳を越える頃には浄められると、そう思っていた」


ミシ…ミシ…と空気が揺れる。


「小僧には既に最高峰の無解印戎が施されている。ワシらにできる最高の封印術だ」


「……孝雄くんは負けませんよ」


 小さく消えるような声。祈りと願いが込められた声。佗慈魯の耳にこびりつく。 


「ああ、ワシだって信じておるよ」


 あぁ、あの日の事は今でも昨日の事のように思い出せる。


          ※


 桜降る季節に一報。なんともめでたい報せであった。弟子に子が産まれる。あれほど不出来であった男も遂には人の親かと思うとなんだか子を想う親のような気持ちであり、孫を待ち望む祖父のような気にもなった。


 嫁と子のことが気になって仕事が身に入らぬだろうと思い、子が産まれるまでは休ませた。その代わりに産まれてからは馬車馬のように働かせるぞと言いつけた。それと、子が産まれたら一度顔を見せてくれとも言った。弟子は嬉しそうに頷いた。


 弟子の名は『雄垓(ゆうがい)』。才は無いが人三倍ほどの根性を持った努力家であった。法力は嘘をつかない。同期には彼より才が有るものが多数いたが、それでも雄垓は頭一つ抜けた実力者であった。最初こそは無能と後ろ指差された男だったが、彼らが嘲ている間に文字通り死に物狂いで修業していた。



 一言言えば、その姿に惹かれた。弟子入り志願は多くいたが、自ずとの勧誘は奴のみだ。実際、気持ちの良い男だった。文句も言わずに修業こなし、メキメキと実力伸ばす様は師として見ていて甲斐があった。そして、その人懐こい性格は己を丸くさせた。『明王』と恐れられた己がまさかこんなになるとは……あ奴らが見たら腹を抱えて笑うに違いない。


 とにかく、このまま更に力を伸ばして、いずれ金剛鎮禍衆の筆頭候補にでもなればよいと思っていた。あわよくば、ワシの跡継ぎで筆頭になんてな。まあ、あの三人がいるからそれは難しいと思っていたが。それでも、それなりの実力者にはなれたはずだった。惜しい。惜しい。


 いや、本当に惜しむらくはこれから過ごしていたであろう弟子との日々だ。産まれる子と共に修業に励み、時には酒を酌み交わし、いずれ己が看取られる。そんな日々を望んでいたのだ。柄にもなく、な。



            ※


某年某月某所、望月の日。華やかに広がる桜の花は黒く染まり、人と怪は血の酒に溺れていた。その場に生の文字は無し。等しくあるのは死と静寂。恐怖に歪む死体らの中で、悔に染まりし者と祈り願い、託して逝く者あり。妖しく揺らめく月の下でナニカが産声を挙げていた。



あぁ、願わくば、願わくば



 

       生まれし我が子に安寧を




 



遅いのは許してくだしあ。私生活が進行形で大変なので。それでも執筆はしていますので長い目で見守ってね。

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