ep36.5
三人が去った後の教室にて
※
どうして、私は彼が好きだったのだろう
彼の何が好きだったのだろう
顔?声?性格?強さ?
本当に私は好きだったのだろうか
考えれば考えるほどわからない
それに、今の状況にそれほど悲しみはない
でも、ぽっかりとした虚しさだけが残っている
「きぃぃぃぃぃ!」
隣に目をやれば四条宮柚井が頭を掻き毟っている。見渡せば、クラスメイトやそうでない野次馬が気味の悪い表情を浮かべている。先生の顔は……見れない。見たくない。どうせ、浮かない表情だ。
「桃崋ちゃん」
私に残された唯一の逃げ道。親友をそんな風に使うなんて慙愧なことだけれど、蕩けた思考は楽な方へと勝手に歩みだした。
「なぁに?」
いつもと変わらぬ明るい表情で返事をしてくれる。その普遍さが今のこの状況では何よりも救いだった。
「帰ろっか」
「そうだね~」
そこから学校を出るまで、あまり意識ははっきりしていない。ただ、桃崋ちゃんが手を握ってくれていたことは、手のひらから伝わる暖かさで分かった。
※
きっとみんなは勘違いをしている
わたしは、げんげんこと平井源助のことを恋愛対象としてみていない
ただ、都合がよかった
彼と居れば、自然と強くなれる
そんな気がしたからくっついていただけ
事実、わたしは見違えるほど強くなれた
有望な相方も見つけられた
だから、正直もう彼に対しては然程興味も執着もない
そろそろ潮時かな。これ以上関わるとおそらく命が脅かされる可能性が高い
体育祭や試験やらで彼が何者かから命を狙われているのは明らかだし、その強さは体育祭の時にこの身で体感している。あれはおそらく十天界銘でも命が何個もなければ倒せないような化物だ。
そうだ。これを機に彼とはもはや関わらない方がいい。二人にもそう助言したいけれど、多分一人は手遅れかな。どっか行っちゃったし。
「きぃぃぃぃぃ!」
四条宮家のお嬢様が横で発狂している。うるさい。
彼女に関しては知り合った当初から胡散臭かった。なぜか、未来のことを知ってるし(あまり当てにならないけど)長年の友人ですら知り得ないほど、私たちのことを理解している。そしてなにより、彼女の一言一句を聞くたびに脳味噌が掻き回されるような、不快な感覚に陥る。だから、出会った時からずっと嫌い。彼女も私たちのことが好きではないようだし、それに関しては評価できる。とにかく、わたしは四条宮柚井のことが嫌い。
だから、早く平井源助とくっついてどこかへ行って欲しいと思っている。梨佳ちんが説得に応じるとは思いがたいけど。それならそれで仕方ないか。
「桃崋ちゃん」
どこか上の空な声色で将来のパートナーが私の名前を呼ぶ。
「なぁに?」
いつもと変わらぬ笑顔で返事をすると、少しだけ彼女の声色が柔らかくなった。
「帰ろっか」
「そうだね~」
彼女の歩く足取りが覚束なかったため、別れるまで手を引いてあげた。
「ああいう男はもとより地雷だから好きになっちゃだめだよ~」
この忠告が解っているのかいないのか、か細い声で「うん」とだけ返ってきた。後でまたゆっくり話そう。




