ep25
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「二組、突破か」
「やはり厄介ねぇ、任役たちは…」
「しかも、全員《甲》かそれに近い実力者たちだね。ちょっと見くびり過ぎたかな。だけど、残念ながらその実力者が一つの組に二人も入ってしまった」
「貴方、本当に意地が悪いわね」
「仕方ないじゃないか、完全にランダムにしたんだからさ。偏ってしまうことに何ら不正はない」
「あら、悪い顔」
「そんな顔してるかい?……お、二組全滅だ」
「あらあらあらあら、可哀想にねぇ……フフ」
「さて、残り二組。その内一組は平井源助とエーテル兄妹。ああ、楽しみだなぁ!」
※
「ねえ、清水さん。出口はまだなの?」
「わからない。でも、着実に進んでいます」
杏奈たちの組は式神を駆使しつつ、何とか負傷者を出さずに進んでいた。
「お、来たな」
孝雄がポツリと呟く。
「いえ、臆微虫は何の反応も─「ジバッ」
瞬間、臆微虫が爆散した。
「どうやら来よったようやね、人間」
辺りに女の声が響く。しかし、その姿は見えない。
「何者!」
杏奈は咄嗟に身構える。だが、他のメンバーはこの状況にどうすればよいのか分からず、狼狽あるいは固まっていた。
「みんな!訓練で行ったように戦えばいいのです!」
杏奈は"気"を練りつつ、皆の正気を取り戻させる。
「あーあ、何人か死ぬなぁ、このままだと」
孝雄がまたも呟く。
「あなたッ!」
「まあそう怖い顔すんなって清水さん。何とかなるでしょ、たぶん」
「なんでこういうときにそんなことしか言えないの!」
「口調、取り繕えなくなってきたね。そっちの方が気楽でいいでしょ」
「今はそんなこと─「なんや、痴話喧嘩かいね?みっともない」
またもや、女の声が響く。杏奈は再び辺りを注視するが影も形もない。
「探しても無駄。あたいを捉えることはでけへんよ」
「なんですって…!」
「さあ、食事の時間やで」
すると、杏奈の後ろから叫び声が上がった。
「え…」
振り向くと、孝雄が人に虫のような羽を生やした妖魔の首を掴んでいた。
「さっきからなにしてんだ?この『蟲人』」
「ど、どうしてあたいを!?」
その蟲人は先程の声の主であった。
「なんでも何も最初からそこら辺ブンブン飛んでたじゃん」
「な…」
蟲人はそれを聞いて戦慄する。
こいつ、あたいのフェロモンが効いていない!?
同時に本能で己との圧倒的実力差を悟った。
「な、なあ」
「ん?」
「見逃してくれへんか?あたいもあんたらに手出しせーへんからさ。何だったら協力もするで?」
「だってさ。どうします?隊長?俺は殺るべきだと思うけど?」
孝雄は杏奈に判断を委ねた。
「協力するのであればいいわ」
「お、おおきに!姐さん!」
「貴女、名前はある?」
「『花輪』や」
「花輪」
その瞬間、蟲人の首に紋が浮かび上がる。
「な、なんやこれ…?」
「契約完了ね。まだ仮だけど貴女は私の式神となりました」
「なんやそんなことか。命が助かるならかまへんかまへん」
「「お嬢!」」
いきなり、屈強な蟲人が二匹、空を駆けて現れる。
「なんとお痛わしい姿に…」
「お前らもこの人に従いな。元々この仕事も脅されてしかたなしにやってたもんやし。この人に着いていった方があいつらにつくよりましや」
「お嬢がそう言うのであれば…」
女の蟲人の従者であろう二匹は杏奈に頭を垂れた。
「「どうか、我らもお嬢と共に貴女に仕えさせてはもらえないだろうか!」」
「構いません」
「我が名は『狭刃』」
「我が名は『覇角』」
「狭刃、覇角」
すると、二匹の首にも紋が浮かび上がる。
「「かたじけない…」」
その一連の光景を見て、孝雄は花輪に話しかける。
「もしかしてさ、花輪って蟲界の良いとこのお嬢様?」
「まあ、ちょっとな」
これにてめでたく、杏奈組も突破したこととなる。
「何してるの?君たち?」
この空間の気が一気に重みを増した。声の主は、この試験を始めた妖魔ものであった。
「あ、あ…」
花輪が声にもならない声を漏らす。
「つまらないな。戦って死ぬならまだしも、命乞いをしてまで生き延びるなんて我ら妖魔の恥だよ?」
「おいおい、勝ちは勝ちだぜ? 運営さんよ。約束守れよ?」
「……こういうこともあるか。こちらの見積りが甘かったということだね。仕方ない、認めてあげようか」
重苦しい空気が軽くなる。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
花輪が胸を押さえながら過呼吸をする。杏奈は彼女の背中をさする。
「そんなに怯えるほど奴が恐ろしいの?」
「あいつは、あかん。たぶん、あんたら、でも、一瞬で、塵に、される…」
ゴクリ… と誰かが生唾を飲み込む。
「とりあえず、ここを脱出しましょう」
一息つかぬまま、杏奈たちは出口へと向かった。
※
「まだかなぁ、平井源助」
「まだかなぁ!」
「『ディーネ』、どうやって殺したい?」
「八つ裂き!」
「いいね!でも一瞬でしたら面白くないからちょっとずつやろう!」
「ちょっとずつ!」
「あ、もうすぐ来るよ」
「来た来た!」
「いいか、ディーネ。半分個だぞ?」
「うん!」
※
「遂に平井源助たちの番か。さっきのようなつまらない展開にはしないでくれよ?」
「どうせ楽しむ間もなく終わるわよ」
「平井源助の死こそが我々にとっての最高の楽しみだろ?」
「クフフ、それもそうね」
「さあ、このshowもクライマックスだ!精一杯もがいて、そして死ね!」