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ep20

     ※


「さて、そろそろ期末試験がありますが、皆さんしっかりと勉強してますか?」


教卓に立つ静枝が生徒たちに問う。


「夏とは違い、出題範囲や内容はより専門的になり、難易度も高くなっていると思います。ですが、しっかりと基礎を身につけていれば問題ない程度のものです。ですから──」


この学園の試験は大きく二つに別れる。


一つは先日行われた体育大会。 


もう一つは他の学校と同じような一般教養に加え、任役に関する専門的な科目を含めた筆記試験となる。


「追試にならないよう、頑張ってください」


HRが終わり、教室を出るものもいれば教室に残り駄弁るものいる。


「こたっちゃん、帰ろうか」


「おう」


二人が教室を去ろうとしたとき、


「虎太郎くん、孝雄くん、ちょっといいかい?」


源助が話しかけてきた。


「孝雄、今日は疲れたからそのまま家に帰るぞ」


「ちぇ、仕方ないなぁ」


「ちょっと、無視しないでくれるかな?」


源助は無視して去ろうとする虎太郎の肩を掴み、引き留める。


「はぁ。話だけなら聞いてやるよ」


「そろそろ試験が近いから、勉強会を開こうと思うんだ。一緒にどうだい?」


「パス。俺には必要ない」


「こたっちゃんが行かないなら、おらも行かない」


「まぁそう言わないでさ。皆で一緒にやった方が分からないところも教え合いができて捗るよ」


「俺は一人でする方が捗るタイプだ。悪いが他に当たれ。じゃあな」


あの一件の後も変わらず、源助は虎太郎に対しアプローチを取り続けていた。


その度に虎太郎は源助を避け、さらに周囲から孤立を深めていた。


「あのさ~。あんまりこういうこと言いたくないんだけどさ。彼らと関わるのあんまり良くないと思うよ」


桃崋が源助に忠言する。


「私も散々言っております。彼らと接触を図るのはよろしくありませんよ」


柚井も便乗する。


梨佳は心底興味なさそうであった。 


ただ一人、虎太郎の態度に疑問を持つ者がいた。


清水 杏奈である。


最初こそ彼に対してあまり良い印象を持っていなかったが、この前の依頼にてその印象は打ち消された。


彼女は彼があのような態度を取るのは何か理由があるのではないかと考えた。


 教えて と言っても素直に教えてもらえないだろうし、少しだけ探ってみようかな?


彼女は密かに虎太郎のことを調べようと画策した。





          ※


「ねぇ、四条宮さん」


「あら、清水さん。何かしら?」


「四条宮さんって、こた‥武立くんと幼馴染みでしたよね?彼は昔からあのような感じなのですか?」


「えぇ、昔からあのような柄の悪い人物でしたわ。私も彼のせいで酷い目によく遭いました。貴女も気をつけた方がいいですわよ」


「そうですか。ありがとうございます」


 あの時はそんな風には感じなかったけどなぁ。 


杏奈は うーん と考えこんだ。


「君も彼のことが気になるかい?杏奈」


源助がここぞとばかりに首を突っ込んできた。


「あ、その、あまりにも態度が悪いので…」


「それはね。彼にも事情があるからなんだよ」


「! 何か知ってるんですか?」


「いや、それは知らないんだ。けど、いつかそれを分かち合えるような友になりたいと思うんだよ!」


「はぇ…」


目をキラめかせて話す源助に杏奈は少しヒいた。


「いくら友好的に接そうとも、無駄ですわ」


源助の発言を聞いた柚井はそう言い放つ。


「どうしてだい?」


源助は少し眉をひそめた。


「彼は自分以外の人間を己より劣った存在としか見ていない。彼にとって他人とはゴミ同然の価値でしかない。彼、いやあいつは悪魔そのもの。彼はいずれ私たちの敵となりますわ」


柚井の放った言葉は言い聞かせるようなものだった。


「うぇー。婚約者にここまで言われるなんてよっぽど酷い人なんだね」


桃崋は苦いものを口に含んだかのように舌をだす。


()婚約者ですわ。今はそれも白紙戻してもらいました。おかげで清々しましたわ」


「よかったじゃん!そんな男と別れられて」


それを聞いて杏奈は うんうん と頷く。そこで、彼女はある違和感に気づく。


 あれ。なんか、おかしいな。何がおかしいんだろう。


「杏奈、どうしたんだ?具合でも悪いのか?」


「いえ、大丈夫です」


「そうか。じゃあみんな、図書館で勉強会をしようか。取り敢えずみんなの門限までにしよう」


「えぇ」「うん」「はぁい」 「…はい」


一行は図書館へ行き、勉強会を始めた。




 




      ※


「最近、幸助が上の空?」


家に帰る途中、車内で麻比呂がそのようなことを言う。


「えぇ、何をするにつけてもあまり仕事に手が入ってないのです。理由を聞いてもはぐらかされまして」


「過労なんじゃないか?少し休ませて様子を見たら?」


「いえ、あいつに限ってそんなことは…」


「とりあえず休ませてみなよ。後で俺も何か聞いてみるから」


「お手数をおかけします」


「それくらい大したことじゃないよ」





「着きましたよ」


「ありがとう、麻比呂さん」


家に着いた虎太郎は車を降り、そのまま自室へと向かった。


その途中に幸助が廊下にいるのを見つけた。


「よう幸助。最近気が抜けてるって麻比呂さんが心配してたぞ?大丈夫か?」


虎太郎が話しかけると、幸助はこちらを向き、嫌そうな顔をしたかと思うとすぐ笑顔になり、返事をした。


「大丈夫ですよ。ご心配いただきありがとうございます」


「麻比呂さんに休ませるように言ったから、少し身体を休めろよ。何かあったら相談しろよな」


虎太郎が肩を ポンポン と叩くと幸助は少し身をすくませたように見えた。


「お心遣いありがとうございます」


一通り喋ると虎太郎は自室へと歩いていった。 


廊下を曲がると遠くから舌打ちのような音が聞こえた。




明らかに幸助の態度が良くない。


そのことに関しては虎太郎も気づいている。


気づいているが、気にしていない。


原因は解っていないが、根源は解っている。


虎太郎は手を グッ と握りしめる。


先程、気にしていないと言ったがそれは少し間違っていた。


虎太郎は少しムカついた。


自分の家族にも手を出してきたのだ。


 まだ、まだ我慢だ。まだ、今の俺の力では足りない。もっと、もっと強くならないと─


虎太郎は部屋着に着替え、布団へ潜る。


期末試験までの一週間、彼は家では勉強などせず、ずっと布団の中で眠りに着いていた。














 






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