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ep15

             ※


突然、客室に何者かが叫び、中へ入る。


「柚井…!」


叫び声の主は柚井であった。


「柚井様ですか。何用でございましょうか?今、取り込み中でこざいまして─「その方は私の大切な方でございますわ!」


幸助は耳を疑った。


「今、なんと?」


「だから、その、源助様は私にとって大切な、その、友人、のような方なのよ!」 


「ですが、我が家の長男である虎太郎様のストーカーでもあります。いくら婚約者である柚井様の意見だとしてもこの件に関しては口を挟まないでいただきたい」


「源助様はそんなことしてないわよ!それはあの野郎のでまかせでしょ!」


二人の口論はさらに熱さを増す。対して、麻比呂と源助は黙っていた。


「その暴言は婚約者である虎太郎様へ向けての発言でしょうか?」


「その婚約者ってのも今日限りで失効。先ほどお母様と龍美さんと一緒に話し合って決まったわ。あぁ、やっと清々したわ」


「それは虎太郎様の同意も得ての決定でしょうか」


「だって彼、寝ているらしいじゃない?話し合おうにもその席にすら座らないんだもの。そんな奴にこのことに関して口を挟む権利なんてないわ」


「なるほど。では、"これから貴女を虎太郎様の婚約者として扱わなくてもよい"ということですね」 


「その言い方、癪に障るわね。あんたみたいな─「ちょっとちょっと」


さすがに、と思ったのか源助が割って入る。


「あの、ひとまず落ち着きましょう?誤解も解けそうなので今一度話し合いませんか?」


「その方が良さそうですね」


麻比呂も頷く。


こうしてこの騒動はひとまず収まろうとしていた。






            ※


「虎太郎、起きなさい」


虎太郎の部屋の前に龍美が現れる。


「虎太郎!」


「あー、ただいま睡眠中。夕食までには起きるので悪しからず」


留守電のような録音を聞き、龍美はかなりムカついた。


「強行突破ね」


扉の結界も既に認知している。それでもなお、彼女は扉をこじ開けようとした。


「ぐっ!」


ノブに手をかけた瞬間、強い痺れが身体中を駆け巡る。それでも、


「反抗期の息子一人の結界をこじ開けられなきゃ、母親なんてやっていけない‥わ!」


自身に発破を掛け、一気に扉をこじ開けた。


だが、


「もう一枚、あるの…」


その先にはまた扉があった。


そのことに龍美は怒りや戸惑いよりも感動を覚えた。


 この子、いつのまにかこんな技術を身につけてたなんて…!


虎太郎が施した術は一種の空間操作。空間をねじ曲げ、入り口と出口を同一とし、(たまき)を造る。


かなりの高等技術で一般的な任役が身につけるには十年単位の修行を行わなければならないものだが、それを既に虎太郎は扱うことができるということだ。


確かに龍美はそのことに感動を覚えた。


覚えたが、その後すぐに少し寂しく思った。


 この扉を隔てたすぐそこにあの子がいるはずなのに、最近は一緒にいる機会が増えているというのに、なぜかあの子が遠ざかってるような、そんな気がする。


界隈の間で彼女の勘はよく当たるとの噂はかなり有名である。


            

              ※


「先ほどはとんだ無礼な振る舞いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした」


「いいんですよ。こうして誤解も解けた訳ですし、こちらも手を出してしまってすいませんでした」


「いえ、この一連は全て私の責任です」


「兄さん!俺が悪いんだよ!俺が最初に─「幸助、客人の前です。言葉を慎みなさい」


ストーカー騒ぎの一件も落ち着きを見せていた。


「とりあえず、このことは龍美さんに報告しておきますわ」


「柚井、そんなことしなくてもいいよ。麻比呂さんは謝った。僕も納得した。これでこの話は終わり」 


「ですが!─「僕は良いって言ってるんだよ」


静かながらも確かに源助の語気は強まっているように思えた。


さすがにそこまで言われると柚井も黙るしかない。


「とりあえず、今日は虎太郎くんに会えないみたいだし、帰ります。突然押し掛けて来てすみませんでした。次からアポイント取ります」


「そう言ってもらえるとこちらも助かります。では、連絡先をお渡ししますね」


麻比呂は胸ポケットからメモをとりだし、丁寧な字で連絡先を写し、そのメモを破って源助に渡した。


「ありがとうございます」


「こちらは『武立』の受付になりますので、虎太郎様の連絡先はご自身でお聞きになって下さい」


「いえ、これだけでも十分ありがたいです」


「本日は本当に申し訳ありませんでした。では、家の外まで、いや良ければご自宅までお送り致しますが?」


「いえいえ、結構です。家の外まではお願いします」


「承知しました。では、こちらへ」


麻比呂が源助をエスコートする。


「さ、()()()()もこちらへ」


幸助も柚井をエスコートしようとした。


「結構よ。何年ここへ通っていると思うの?」


「いえ、()()を一人にさせるわけにはいかないので」


「ふぅん。どうやら貴方、()()が必要みたいね」


「は?教育ですか?」


既にこの場には二人しか残されていない。


「そう、教育。馬鹿な貴方のために()()()()()()()教育を施してあげるのよ」


柚井は扉を閉じ、内鍵を閉める。


「何を言っている?…あれ?何だ?これ?おかしいぞ?なんなんだよ!?なにが!?」


「さぁ、私の目をじっくり見て、私の声に耳を委ねて…」


幸助の体に柚井が絡みつき、"ナニカ"が語りかけてくるが、体は動かない。


「まさか、()()()()はこのことに─」


そこで幸助の意識は闇へと消えた。


「一応、()()()()()()になってるはずだけど、やっぱり馬鹿は馬鹿だっていうことね」


彼女は柚井である。


この世の誰もが


彼女は正真正銘、四条宮柚井である 


と答えるであろう。


彼女は幼少期から英才教育を受け、不器用ながらも努力し、その才覚を伸ばしていった。


母に似て、お嬢様気質でありながらも少し抜けているような性格である。

  

武立家の長男 武立 虎太郎との婚約はお家の繋がりで柚井自身は嫌々組まされたものであるのも周知の事実だ。 


そして、今日、この日を持ってその婚約は白紙になり、彼女は解放された。


───武立家の馬鹿息子から


()()()()()()()()()()()()()()


今までの性格も言動も、何もかも()()()()()()()()()()()()


これこそが()()であるのだ。


「柚井、ここに居るのかしら?そろそろ帰るわよ」


「はい、お母様」


データというものは上書き保存してしまったらもう元へと戻せない。




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