ep9.5
※
───大会開始直前、丙種の門────
「みんな、体調は万全かい?」
「えぇ、大丈夫ですわ」
「もっちろん!バッチリ!」
「はい!大丈夫です!」
「うん…」
丙種の門の前には源助たちの他に一年生は見当たらない。どうやら第一学年で丙種に挑む組は彼らだけのようだ。
「いいかい?僕らの種目は丙種百鬼夜行。組全体で100体の丙種を倒せばいいんだ。だから無理だと判断したら、後は残った仲間に任せて棄権するように。決して無茶しちゃだめだよ」
「「「「了解」!」…」」
「おいおい、一年坊が丙種の門にいるぜ」
「ほんとだ。おいお前ら、怪我したくねぇなら棄権しな。先輩からの忠告だぜ」
三年生が源助たちに話しかける。
「いえ、ご心配に及びません。こう見えて僕たち結構強いので」
「へぇ、中々の自信じゃないの。ま、受けてみりゃ分かるさ、丙種の厳しさをよ」
《開始30秒前》
「そろそろ始まりますよ。先輩方も準備しましょう」
「おめぇに言われなくてもこっちはもう準備OKだぜ」
「それじゃ、健闘を祈ります」
「そりゃこっちのセリフだ」
《開始!》
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「《炎虎恐咆》!」
柚井の手のひらから放たれた炎はやがて巨大な虎を形成する。
──────グオオオオオ──────
「グギャァァァァ!」
巨大な炎の虎から放たれた熱線が猿の身を焦がす。
「グギィィ、ウキャァ!」
それでも猿は一矢報いようと印を組もうとする。
「させないよ。《縛》!」
桃崋がそう唱えると猿の動きがピタリと止まる。
「とどめだ。《金剛一斬》」
源助が放った一太刀により、猿は断末魔をあげる間も無く、息絶えた。
「これで30体目、結構ペースいいんじゃない?」
「そうですわね。ここに放たれている丙種がこの程度なら分担してもよろしくなくて?」
「ですが、油断は禁物です。私はこのまま全員で行動すべきだと思います」
「…源、どうする?…」
「そうだね。…ここは堅実に全員で行こう。それに柚井、そんな大技ばかり使ってたら後半持たないぞ」
「ご心配に及びませんわ。わたくし、まだまだ余裕ですわよ」
「…とにかく、"気"の消費は節約していこう」
「まぁ、源助様がそう言うのでしたらそうしますわ」
「よし、それじゃ次の獲物に向かってしゅっぱーつ!」
「桃崋ちゃん!あなたは後方だから前衛に居ちゃだめだよ!」
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「あら、問題児抱えてお帰りなさい。…あらあら気絶させるなんて、ひどいわね二人とも」
「私はそんなことしてないわよ!これはこの子が勝手に意識を落としただけ!」
「ふん!愛の鞭じゃ!こいつにはこんくらいしてやらんと身に染みん」
「龍美さん、佗慈魯殿、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえいえ先生、これはこの子たちとその教育を怠った私たちが悪いのですから」
「ほれ、さっさと起きんかい!」ゴツッ!!
「痛ぇ!!この糞ジジイ!離しやがれ!」
「まだそんな口を聞くか!今度の休日は寺へ来い!みっちりしごいてやる!煉獄百刑じゃ!」
「ひぇっ、す、すいません、それだけは」
「ふ、もう遅いわ。決定事項じゃ」
「そんなぁ~」
「ほら、虎太郎も不貞寝してないで起きなさい」ペチペチ
「んあ、今日はおやついらない…」
「ふふ、虎太郎、寝ぼけてないで起きて」
「意外とかわいいところありますね、武立くん」
「えぇそうなんですよ!だから普段とのギャップでまた─「《韋駄転身》」
「こら、逃げないの」ガシッ
「ちっ、これもだめかよ」
「まだまだ甘いわよ虎太郎。さ、先生、面談でしたっけ?」
「はい、武立くんと西行くん、二人とも不良とまでいきませんが生活態度が悪いのでぜひ保護者立会のもと面談したいのですが、よろしいですか?」
「えぇ、ここでいいなら構いませんよ」
「わしも右に同じじゃ」
「どどどうするよこたっちゃん、万事休すだよ」
「打つ手なし。諦めろ孝雄。ただし、絶対口を割るんじゃねぇぞ」
「あぁ仏よ、我らにご利益を」
「では、そこの席にて始めましょうか」
「うむ。ほら、立たんか!馬鹿たれ!」
「さ、行くわよ、虎太郎」
これから、虎太郎と孝雄にとって地獄の数十分が始まる。
※
「これで95体!後ちょっとだね!げんげんが強すぎてなんだが楽に思えちゃうや」
「そんなことないよ。みんなが強いからこんなに順調なんだ」
「その謙虚さ、なんて素敵なんでしょう」
「…はやくかえってお菓子食べたい…」
「みんな!まだ終わってないよ!気を引き締めて!」
「清水さん、あなた少し気を張りすぎよ。もっと肩の力を抜いていきましょう」
「でも…」
「杏奈の言うとおり。ここは兜の緒を締めて、着実に終わらそう」
「ちっ…なんで清水さんの言うことばっかり」ブツブツ
「それでいいかい?柚井」
「…えぇ、構いませんわ」
「よし、じゃあいこ─「グギィ?」
「え、小鬼?なんでこの程度のやつがここにいますの?」
────ピュォォォォ!ピュォォォォォォォ!───
小鬼の口からけたたましい笛の音が鳴り、源助たちは思わず耳をふさぐ。
「くぅっ、一体なんなの!?」
「皆、辺りを警戒して!何か来る!」
源助の指示で皆、臨戦態勢に入る。
「ご苦労、ゴブリン君。いやこの国では小鬼だったかな?」
源助の前にいきなり中世ヨーロッパ風の紳士が現れる。
「何者だ!」
「おっと失礼、私の名はオルグレイ・ツェペシュ。かの有名なヴラド公の子孫、と言えばわかるかね?」
「吸血鬼ッ!」
「ご名答。黒髪のお嬢さん」
「その吸血鬼が私たちになんの用ですか?」
「まぁまぁ落ち着きなさいお嬢さん方。別に君たちを取って喰おうというわけではないよ。ただ、そのヒライとかいう男の命を貰いうけに来ただけだからね」
「なら、なおさら落ち着けないね。その人は私たちにとって大切な人なんだから」
「ふむ、命が惜しい方、今なら見逃してあげますからどうぞお逃げなさい」
「あら、逃げるのはあなたの方でなくって?」
「……《天におはしますわれらが神よ──》」
「あぁ、残念だ。こんな綺麗な方々を殺すことになるなんて。仕方がない─」
「《祓いたまえ!》」
「─せめて美味しくいただきましょうか」