第三話 発動
外は未だ太陽が光り輝き、怒り狂うように荒野を焼いていた。日本も暑いと言われるが、荒野《こっち》の方が数倍、暑いだろう。聖也はそう感じながら、首元からしきり噴きだす汗を拭い、気持ちを高める。
「『権能』の発動において、言えることはただ一つ。イメージだ。漠然としたイメージじゃ駄目だぞ。具体的なイメージだ。『権能』はそれを具現化、具象化させる」
聖也は言われながら、想像をしていく。すると、頭の中に浮かんだのは、可愛い黒髪の美少女だった。
脳裏に浮かべられたのは、幼馴染の南雲弥生。聖也は思わず、彼女を想起してしまう。だが、ブンブンと煩悩を振り払うようにして、頭の中から追い払う。
聖也は急いで別の物を想像した。イメージしたのは、漆黒の龍だ。空中に飛翔し、強力なブレスで、地面の有象無象を焼き払う。そんな暴力の権化のような存在。若干、中二病が残っていた聖也は、具体的なイメージを脳裏に浮かべることができた。
光り輝く幾何学的な魔法陣のようなものが地面に展開されていく。聖也の足元に広がったそれはより一層、光を強めていく。オーロラのように美しいグラデーションに移り変わり、聖也は期待に胸を膨らます。
(これはもしかして、超強いモンスターが召喚できちゃうかも……!)
だがしかし――
――現れたのは全裸の銀髪少女だった。
その少女は途轍もなく長い銀髪で、髪が地面についている。顔面は銀色に覆い隠され、どんな表情をしているのか全く見えない。身体はスラリとした細い身体だが、痩せすぎという訳でもなく
「はっ!?」
「どうなってるのじゃ」
聖也とアギ爺が驚嘆の声を上げる。だが、ナミは極度に緊張した顔つきで、彼女に指を指す。
「何あれ……? 見たこともない! あんな化け物!」
小刻みに震えるようにして、ナミは言った。
ファサッと髪が風に靡かれ、一瞬、銀色に覆い隠されていた眼が見えた。
「『異色眼』……? 『権能者』なの?」
ナミは少女の眼の色を見て判断したらしい。彼女の眼は夜空のような黒い眼に、澄んだ青空の色だった。
美少女はゆっくり立ち上がり、聖也たちの方を向く。
「ふーん。ちょっとは強そうなのかな……? 『自由権』。続けて『平等権』」
パキンッと何かを割ったような音が響く。
《『自由権』の行使を確認……『召喚権能』による強制従属を解除》
半分機械音のような女性の声が響いた。
(『自由権』『平等権』……それってまさか)
聖也はそう考えつつ、記憶の糸を辿る。ナミとアギ爺はすぐさま、答えに至ったらしい。警戒度を高め、攻撃に耐えられるようにしている。
「『王権』……?」
聖也は自信無さそうに呟いた。
「『王権』? この力はそう呼ばれてるの?」
少女はこちらを向いて言った。
「『社会権』の適用範囲にあったらしいわね。助かった」
真剣な顔をして美少女は呟く。
「さぁ、死んでもらうわよ。私を復活させてくれた貴方はだけは生かしておいて、あげてもいいわよ」
美少女は自分の双丘が見えることすら厭わず、こちらに両手を向ける。
「『氷晶権能』――『氷短槍』」
その声とともに、彼女の周辺に冷気が現れ、辺りに氷が形成された。形成された氷は短い槍のような形状をしていた。クルクルと回転して、真っすぐ、ナミの方に向かう。
「くっ! 『炎渦』ッ!」
ナミが炎を生み出す。まるであり得ない光景に聖也は目を疑う。
(なんだ、あれ? 魔法か!?)
聖也がそう思っていると、途端に炎が大きくなる。炎は渦を巻き、更に大きくなっていく。
「離れてッ!」
ナミの鋭い叫び声が聞こえた。聖也とアギ爺はバックステップで咄嗟に後ろに跳ぶ。離れた瞬間、一瞬で炎は膨れ上がるようにして巨大化して、少女を巻きこんだ。
「『防衛権能』」
短く呟いた声が聖也の耳に届く。同時に薄緑色のベールのような障壁が展開され、巨大化した炎は弾き飛ばされるように無効化された。
「『氷晶権能』――『氷刃乱舞』」
刹那、氷が再展開され、今度は刃のように鋭く薄い氷がアギ爺と聖也を襲う。
「『幻想権能』――『反転世界』ッ!!!」
アギ爺がそう叫ぶと、途端に氷の軌道がブレるようにして動く。
「ふーん? 『幻想権能』ねぇ。本当は私のだから、返してもらおうかな……『平等権』」
その言葉と共にアギ爺が倒れこむ。
「何をしたの!?」
ナミが叫んだ。
「偽りの力で、抵抗されるのには虫唾が走るのよ」
一旦、大きく下がり、少女はこちらを向く。圧が凄い、聖也はそう感じた。
「さぁーてと、そろそろ本気で潰そうか」
そう言って、彼女は顔にかかっていた美しい銀髪を手で抄い上げ、さっと払う。横に払われた髪は風に靡かれ、ワンテンポ遅れてハラハラと彼女の胸元へ舞い戻った。
(う、そ……だろ)
――見慣れた顔だった。
――いつも隣で笑っていた顔だった。
――大好きだった顔だった。
聖也はいてもたってもいられずに、美少女に尋ねる。
「や、弥生なのか……?」
それを受けた彼女は固まったようにして、動かなくなる。
「聖也……?」
そうそこにいたのは――
――聖也の彼女の南雲弥生だった。