25話 珈琲とミルク
「お待たせ致しました。青空ブレンドと、そちらの猫ちゃん用のミルクになります」
若い男の店員はそう言い、慣れた手つきでテーブルに飲み物を置いた。
このカフェはご主人の行きつけで、テラスでは動物と同伴出来る。私達猫用のメニューがあるのも、この街らしい。
「ありがとう」ご主人は頬笑む。白い手で髪をかき上げた。ショートヘアーがさらりと揺れる。
「ご、ごゆっくり……」店員はそっぽを向き、そそくさと去って行く。
むぅ……。これは一度言う必要があるな。
「ご主人、あまり関心しないな」
「えっ? 何が?」
ご主人はキョトンとした表情をする。
「前から思っていたが、ご主人は無意識に異性を誘惑する所がある」
「本当? 私そんなつもり無いけどな」
「貴方は由緒正しい家柄なのだから、気を付けて頂きたい」
「あはは、その言葉、前にお姉ちゃんにも言われたなぁ。分かった、気を付けるね」
ご主人は笑い、私の頭を撫でる。そういう所が――と言いかけて言うのを止めた。この様子じゃ、冬香も気が気で無いだろうなと容易に予想出来る。彼女はミルクと砂糖が入った珈琲を一口飲むと、鞄からスケッチブックとペンを取り出した。
「さてナハト。グラウさんが言っていた、男の人の特徴を教えて」
私もミルクを一口飲み、答える。
「ああ、年齢は、3、40代。眼鏡を掛けている。髭を無造作に生やしている。身なりは普通だが、いつもご主人が飲むワイン瓶を片手に持っていた。少し前はあちこちで見かけたな」
「ふむふむ。私は最近展示会で忙しかったから見てないんだね。ちょっと待ってて」
ご主人は無言でペンを動かし続けた。……凄い集中力だ。邪魔するのも悪いので、私はミルクを味わう事にした。
ミルクを飲み干し、空を見上げる。良い日差しだ。私の意識は睡魔に襲われる。最近色々な事があって眠れてないからだろうか。ふいに、頭を優しく撫でられた。
「ナハト、寝てていいよ。私はその人をイメージで描いてみるから。」
「ありがたい。……少し、睡眠を取らせて頂く」
彼女の声で安心した私の意識は、夢の中へ墜ちていった。




