森です。敵です。ピンチです
目を開けると異様に高い木々とその葉の隙間から漏れ出る光が見えた。
上半身を起すとどうやらここは森の中のようだ。
地面には緑色の絨毯みたいに草が生えていて、俺が寝ていた場所に人型の跡がついていた。
「ここが異世界か…」
何となく呟く。それなりに感慨深い響きだった。
立ち上がって服を払う。
欠伸しながら背伸びをしてみると滅茶苦茶気持ちよくてちょっと涙が出た。この欠伸した時に涙出るのなんでなんだろう。……どうでもいいか。
「こんな大自然に囲まれたのは初めてだ」
周りの木々の身長が見た事ないくらい高かった。樹齢100年とか軽がる超えてそうな大きさの木ばかりだ。ちょっと感動。
そう言えば服装は元の世界でよく着ていた無地Tシャツとジーパンだ。生まれたままの姿で異世界に放り出すのは流石に可哀想と神様さんが用意してくれたんだろうか。感謝。危うく全裸で森を徘徊する系高校生になってしまうところだった。もう異世界に飛んだのだし高校生でもないか。
さて、これからどうしようか。とりあえず森を出て町とか村を探すのが王道だろう。
そういえばこの世界には人を襲う魔物が居るって言ってたな。今更だが森って実は結構危ないんじゃなかろうか。
警戒して周りを見てみるが、特に生き物の気配はしない。遠くのほうで鳥っぽい鳴き声は聞こえるがその他には特になにも―――
ない、と結論しようとした瞬間、後ろから低い唸り声が聞こえた。
「あー…振り返りたくない。振り返りたくない」
でも振り返らない訳にはいかない。
ゆっくりと振り返るとそこには見上げるほど大きな狼が居た。4足歩行の生き物がこんなにも大きいと何というか非現実感が凄かった。博物館で恐竜の標本を見てる感じ。
恐ろしく低い唸り声は肉食獣そのもので、涎を垂らしながらこちらを見ている。
「わあー…」
足音殺して近づいてきたのに唸り声だして気づかれるとはこのおっちょこちょいさんめー。
絶賛現実逃避である。頭の中で「秒で死んじゃう」って言う神様さんの声が再生された。
少しずつ現実を認識し始めた脳が命令を出したのか、背筋に冷たいものが流れる。ヤバイ足が震えてきた。
「ゴルル……グャアアアア!!!」
耳が割れるような大きな咆哮を上げ突っ込んで来た。ビリビリと空気が揺れるのが伝わってくる。それなりにあると思われた距離が一瞬で詰まって行く。
マズイ。俺はこういう時動けなくなるタイプなんだ。このままじゃ死――!?
その時妙な感覚が身体を支配した。
突然視界が切り替わったような違和感。世界が遠ざかったような感覚。世界の色が少しだけ灰色に染まったように見えた。同時に身体から一切の震えが消える。
『【固有スキル:全自動行動】が発動しました!』