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異世界とネムと

「2」妹だと思ったけどネムで、ネムだと思ったら博士だった 後編

作者: watausagi

◇◇◇◇◇


 放課後、俺はオムスビ君と2人っきりで、校庭にいた。

 遠くではドラゴン種であるペンドラゴン君もいて、時折こちらを伺っている……仲間になりたいのだろうか?


「準備はいいんだろうなぁ」

「準備?」


 ……あぁ、シャーペンの事か!


「これでどうだ?」


 俺はシャーペンを取り出し、ペン回しをする。何だっけ、何たら何たらと呼ばれている技だ。まあいい。

 オムスビ君は驚いたようにペンの回る様子を見ていたが、気を取り直してファインティングポーズをとった。何故にファインティング。


「てめえの武器はそれでいいんだな」


 何言ってるんだろうほんとう。ぶき? ……ああ、不器用って伝えたかったのか! なるほどなるほど、俺はまだまだ未熟だと、そう言ってるんだな。シャーペンを使いこなせていないと、そう教えてくれているんだよな!




「くたばれ転校生ー!!」「頑張れシロ君〜!」



 校舎の窓からはゴンフォークスがありがたい言葉。お前は黙ってろ。一方ユキはちゃんと応援してくれている。良い子だなぁ。手を振り返した。何が気にくわないのか、オムスビ君が顔を真っ赤にして突っ込んできた。


 棍棒のような腕が、俺の横から迫る。うっは! 何て激しいツッコミだ。これは、こちらもうかうかボケていられないぞ。


 オムスビ君のツボをシャーペンで押しながら、ネムに問いただす。


「何であんなに暴力的なんだよ」

『……マスターが喧嘩を売ったからですよ』

「そっかー。俺が喧嘩を売ったのかー。……詳しい話は後で聞くからな」

『……いえす』


 シュンとなったネムは、スリープモードといって画面を暗くした。まるで俺が悪いみたいだ……なるほど、可愛いは正義。


 とりあえず俺は、誤解の重なりで決闘沙汰にまでなってるこの状況をどうにかする。


考える。

考えて……よしっ。


 ……ボコボコにしよう! きっと彼は、強者を敬う、そんな性格に違いない!


「覚悟しろよオムスビ君!」

「やっとマジになったか……けっ、まあ当たり前か。どんな相手も軽く握り潰す事からオムスビと畏怖されるこの俺様を、甘く見る人間なんざぁこの世にいねーよな!」


 丸太のような足から繰り出されたかかと落としは、地面をえぐり砕いた。

 彼はそのまま、砕かれた地面の破片を驚異の身体能力で蹴り飛ばす。当たったら骨が砕けそうな……いや、大丈夫なのか? うん、俺は大丈夫なんじゃね? ちょっと試しに動かないで受けてみる。


 ーー大丈夫だった!



「ば、化け者かよてめえはよぉ」

「最強だよ」


 俺の言葉にニヤリと笑ったオムスビ君は、ガッチガチに構えていた体をほぐす。決闘が終わったのかと思えばそうでもないらしい。見れば彼の目は、先ほどよりも断然に燃え上がっていた。


「本気、出しちまうか」


 ほ、本気。オムスビ君、今までのは軽い準備体操だとでも言うつもりか?


「悪く思うなよ。何なら誇りに思え。この俺様を本気にさせた、てめえの力を」


 オムスビ君はそう言いながら懐に手を忍ばせる。

 ……俺の場合、棚から牡丹餅的に手に入れた力なんですけどね。


 てっきりグローブかヌンチャクか、まあそこらの武器を取り出すと思っていた俺は、彼の取り出した意外なソレに驚く。


「オムスビ君、 それって……」

「あん? 決まってんだろ」

 

 彼は自信満々に答える。


「対人戦闘において最強の武器ーー」


 彼の巨体には似合わない、黒光りする凶器の引き金を引きながら。


「ーー銃だよ」


 銃がきちゃった!! 対人戦闘で最強かどうかの論は置いておくとして、それを君が使ったら構図的に違和感があるよ。


 日本から来た俺の戸惑いを知らないオムスビ君は、切り札である拳銃を平気で使おうとしていた。というか使った。普通に。バンッーーって撃ちやがった。


 シャーペンで防ぐ。しかし、無理な使い方をしてしまったせいで折れてしまった。ごめんなさいこれオムスビ君のだよね。


「ひゃっはぁぁぁーー!」


 オムスビ君がボディービルダー真っ青の肉体から見せる力は、何も筋力だけではない。速力。瞬発力。

 まるでそれは、分身を見せてくるような動き。残像が止まっているほど俺の周りを素早く動き回るオムスビ君は、四方八方から撃ち込んでくる。


 ちょ、これ、卑怯でしょ。だけど賢い戦い方。妥当な戦術かな?


「避けろ避けろぉ! 弾丸には毒が塗ってある。かすり傷1つで勝負は決まるぜ!」


 どこまでもズル……コホンッ、賢い。


 ーー周りから時速300を超える鉄の塊。当たれば致命傷は免れない (まあ俺は大丈夫そうだけど。だけど)これは普通なら危険な場面なのだろう。例えばここから起死回生の手段として、ダメージ覚悟の特攻をするか。思わぬ策を用意して大逆転か。


 ……けど、正直落胆した。


 こんな、こんなの……


「寿司作りに比べたら何でもない!」


 360度から放たれる弾丸を全て鷲掴みにして、そのまま勢いを殺さずオムスビ君に投げる。


「なん……だと」


 血反吐を吐いたオムスビ君はその場で倒れた。強靭な筋肉に阻まれ、弾丸は内臓にまで届いてはいないが、下半身を集中的に狙ったおかけでオムスビ君も動けそうにない。


 俺の勝利!


 やったぜ!



「ぺっ!」「シロくーんおめでとう!」


 向こうではゴンフォークスは唾を吐いていた。あいついつか粘着質なイタズラしてやる。ユキは自分の事のようにはしゃいでる。もうあの子を嫁に迎えたい。


「くっ……」


 視線を戻す。オムスビ君はその体で起き上がろうとしていた。

 近づく。睨みが怖いです。


「たまげたぜ転校生っ……んで、どうするんだ。俺様が敗者だ。煮るなり焼くなり好きにすればいい。……や、てめえは焼くんだったな」


 何だそれ焼きおにぎりかよ。チラッ……ううむ、スマホは狸寝入りを決め込んでいます。おい、もう追求しないからこの場をどうにか収めてくれ。


『諦めんのかよ』


 ボイスチェンジャー! ラッキーと喜んだネムが、俺の声を真似ています。こちらは口パク。今の気分は博士だよ。


「何を……」

『お前にはおむすび程のプライドも無いのか聞いてるんだよ!』

「え、おま、どうした」

『オラ立てぇ!』

「いや、もう立ってる……」

『負けてそれで終わりか!? ここは戦場じゃねぇんだぞ! 次に勝てばいいだろ! 一度ひょろひょろの男に負けたからってメソメソするんじゃねえよ!』


 待って、そこまでひょろひょろではない。というかこれ、本当に大丈夫なの?


『進んで焼きおにぎりを所望するとは、腰抜け間抜けもいいところだ!

さあ、答えろオムスビ。ここで俺の下僕になるか、己に諦めず次も次も負けても、いつかの勝利を渇望して俺の好敵手となるか! ……失望させてくれるなよ』

「……」


 ライバルとか面倒です。せめて召使い。せめて召使い……


「フッ……」


 召使い!


「いいのか転校生。俺ぁしつこいぞ」

『何度でも張っ倒してやるよ』

「ははっ……久しぶりにじっちゃんの手ほどき受けてくるかな」

『いいぞいいぞ。揉まれてこい。立派な塩むすびになれよ』


 何だこれ。……何だこれ。


◇◇◇◇◇


 あれからネムとオムスビ君に変な絆が生まれ、いい感じの雰囲気で別れた後、俺自身ははモヤモヤしながら家に帰っていた。

 友達は出来たな。うん。確実に、ユキとは友達だと思いたい。なんでか好敵手も出来てしまったが……学校生活初日にしては上出来なのだろう。


『いやー楽しかったですね。私からすれば、マスターにはもっと全力を出して欲しかったですが……まあ及第点といったところでしょう』


 こんな生意気な事を言っているが、ネムがいなければもっと快適なスクールライフを楽しめたと思う。

 ネムがいなければ……

 ネムがいなければ、つまらない異世界人生になったと思うけど。


「あ、ヒショ子さん」


 玄関前を箒で掃いていたヒショ子さん。


「仕事熱心で偉いですね」

「ははー……誰のせいでしょう」

「え?」

「いえ、何でも。ともあれお帰りなさいませシロ様。美味しいプリンを作っていますので、あとでお持ちいたしましょうか」

「是非!」


 サービス精神旺盛のヒショ子さん。扉を開けてくれて、俺は最上階へ向かう。

 そんな何日も空けていたわけでもない部屋に入り、やけに懐かしさを感じながら、フカフカベッドへダイビング!


「あぁ、気持ちいぃ」


 気付かぬうちに疲労も溜まっていたらしい。このまま寝ていたい。ずっと寝たい。


 学校も休んでいたい!


 そもそも異世界に来てまで学校に行かなければならない意味が分からない。


 ……異世界に、来てまで。


「なあネム」

『はいー?』

「地球でさ、つまり元の世界で、俺ってどういう状況なんだ?」

『わっふ……』

 

 わっふ?


「ほら、俺は異世界に来ているだろう? すっかり心の余裕が出来てしまったからには気になったんだ」


 状況を整理してみよう。俺は地球でも学生だった。確か……そう、丁度夏休みだった。それも最終日近い頃……自分の部屋で眠りについたまでの記憶はあるんだよな。うん。そして、それからの記憶がプツリと消え、あの日、異世界の森に来てしまった頃から始まる。


 一体何があったのか。そもそもどうしてこの異世界には地球人が多いんだ? 異世界には来る状況とは?


『……異世界に来るにあたり、誰にも等しく平等な条件というものがあります。それはマスターも例外ではありませんです』


 スマホを持ち上げる。そこにいた、何の表情も浮かべていないネムを見て、俺は久々に、彼女が機械の中の存在だと思い出した。


「条件って……なんぞや」


 彼女は言う。端的に。機械的に。


『死ぬ事です』


◇◇◇◇◇


 その日、1人の少女が異世界に来た。現時点において、2人目の地球人である。


 少女はゴツゴツとしたコンクリートの上で意識を失っており、今まさに目覚めようとしていた。


「ん、ここは……」


 どこ? そう口にする前に、反射的にゴロゴロと地面を転がり、近くの柱の陰に隠れた。百点満点の動きである。


「グゥゥ!」


 ーー化け物がいた。口にするには易く、目にするには毒な存在。

 特殊メイクでしょうか。いいえ本物です。およそ人型のグズグズとした肉体に、少女はゾンビを思い浮かべました。


「グガァーーグベッ」


 柱から覗いていた少女は悲鳴をあげそうになった口を慌てて止めました。

 なんと、目の前でゾンビの頭が砕け散ったのです。叫ばないだけ褒めて欲しい現実離れの光景です。


 少女はもう少し情報が欲しいと思い、待ちました。するとやって来たのは若い男2人。日本では場違いな銃を持ち、腰には大きなナイフが見えました。


 何やら喋り声が聞こえるようなので、じっと耳を澄ませます。


「ーーやったな。いつもよりキレがいい。お前、スキル増えたんじゃないのか?」

「ん、かもな……ステータスオープン」

「なになに……ぶはっ! 幸運かよ!」

「ば、ばか、後天的スキルとしては最高だろうが!」

「いやいや、やっぱ男は実力だろーが。そりゃ嬉しい事だがよ……あー分かった分かった。俺が悪かった。ほら、これあげるから機嫌なおせ」

「てめっ、これ、支給品のタバコじゃねーか! やっぱ隠してやがったな!」


 それからもワイワイと喋り続けていた男2人は、興奮が冷めぬままどこかへ行った。

 まず少女は、辺りに誰もいない事を確認して、先ほどの男性の真似。小声で、ステータスオープンと呟く。


ーーーーー


名前 中村 ジョンソン 海花水木(うみはなみずき)

年齢 たくさん


スキル たくさん

総合力 かなり良い感じ


オマケ ブラザーレーダー


ーーーーー


 年齢の表示にイラっとした少女、いや、花ちゃんは、とりあえず自分なりに今の状況を確認する。


 立派な建造物があるものの、既に使用された形跡はなく、コンクリートの地面もボロボロ。空は薄汚れた雲に覆われ、太陽の見えない薄暗い世界。そして何より先ほどの化け物。


「なるほど。ここは、地獄ですか」


 違う。しかし勘違い少女に、真実を告げる者はいない……


「ん、ブラザーレーダー? 」


 花ちゃんはふと、内ポケットを探る。そこにあったのは確かにレーダーっぽい何か。ブラザーレーダーは花ちゃんの存在に気付き、機能をオンにする。

 瞬間、流れ込む情報。自身の兄の居場所が

分かる。距離は果てしなく、今のところ役に立つのは南南東という方角のみ。


「兄さんがいるという事は、なんだ、ここは地獄じゃありませんね」


 よく分からない理論を持つ花ちゃんはブラザーレーダーに気を良くして、次に試したい項目があったので、周りを見渡した。丁度遠くに、先程と同じような化け物がいたので、足元の石を投げる。


 いつもなら20メートルそこらで墜落するらずの石は、とてつもないエネルギーを糧とし、50メートル先の化け物を木っ端微塵にする。


「なるほど……かなり良い感じ、です」


 花ちゃんは適応した。自分に起こる、もしかすると兄にも起こっている不可解な現象に。疑問を挟まずありのままを受け入れる事にした。


「ここが地獄だったとしても、未来だったとしても関係ない……兄さんがいるなら、そこへ行くだけ。まずは会って、それからーー」


 足元の石を踏み砕く。


「1発、ぶんなぐろう」


 花ちゃんは途方も無い道のりを歩みだす。何より誰より兄の為。最愛かどうかはさておき、あれだけ自分を泣かせた存在に、絶対に文句を言ってやろうと決意して。……喜ぶのは、その後だ。嬉し泣きという新たな涙を流すのも、全ては兄に会ってから。


 ーーここは合衆国アメリンカーン。この世界が地球と酷似していて、いつかの日本人がここをそう名付けた。迷惑な話ではあったが、今はシロの住む日本がこの国に勝った時の話であるから文句しか言えない。


 どうしてその敗戦国であるアメリンカーンがこのような事態になっているかというと、それもまた日本人のせいである。死霊術師とマッドサイエンティストと呼ばれた双子が起こしてしまった研究で、合衆国アメリンカーンはどこからも救助をされない、救助をする事の出来ない孤独の国へと堕ちたのだ。


 何はともあれこうして、花ちゃんの旅は始まったのだった。


 ーー兄との距離、約1万1千Km。


◇オマケ◇


「先生ー!」

「ん……何かねワトソン君」


 授業中、ワトソン君は窓の外を指さして言いました。


「ペンドラゴン君が暑そうです!」

「む、ペンドラゴン君かね。よかろう。氷水を用意してあるから、それを使いなさい」

「はーい」

 

 ワトソン君は窓を開けます。そこには申し訳なさそうにしている、大型のドラゴン族がいました。


「だいじょーぶ?」

「すまねえなぁ。迷惑かけちまって」

「外で授業を受けてるんだもん。仕方ないよ。ペンドラゴン君も中に入れたら良いのに」

「とんでもねえ! 俺が入っちまったら、この学校潰れちまうよ! あんがとなワトソン。気持ちだけ受け取るよ」

「うーん……氷水も受け取って!」


 ワトソンは、バケツに入った氷水をペンドラゴン君にかけました。その量は、巨大のドラゴン族にとってとても心許ない量だったが、ペンドラゴンはそれだけで満足でした。

◆後書き◆


校庭から3階の窓を覗きながら勉強するドラゴン……シュール。

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