待合室
寒い季節は、待合室がありがたい。
始発よりもっと早く駅に着き、電車が来るまで暇だなとスマホを取り出すと、隣に老人が座って話し出した。
「どこまで行くんだい」
ラッキー、話し相手だ。
「池袋まで……」
「遠くからまで行くんだねえ」
「どちらまでいらっしゃるんですか?」
「おらあ王子までだ」
「遠いですね」
「池袋だって変わんねえよ」
老人は笑うが、香織は王子に馴染がないので分からない。
「何しに行くんだい」
「全国で売り切れた商品が入荷するらしいので、買いに……」
「へえ、大変だねえ」
実際には大人気アニメのくじである。嘘は言っていないが、実は香織が欲しいわけではない。仲の良い友人の為に今日入荷する店を探し出し、何時に入荷するかも分からないのに始発で行って並ぶべく、今日はダウンコートを着ている。
老人は香織の指を見たようだ。
「結婚してるんじゃないか。旦那に朝ご飯用意しなきゃ」
「用意してきました」
昨日気合を入れて作ったものの残りだが。
「そうかい。子供は?」
「なかなかできなくて……」
これが香織のここ四、五年の悩みなのだが、聞かれるたけで辛くなってた時期は過ぎ去った。
「子供はいいよ。家が明るくなる」
ずきん。
「奥さんは大変だけどね」
老人が笑うが、香織は「お前は子育てしなかったのかよっ
」と心の中で全力でツッコむ。
電車が来た。失礼します、と香織はにこやかに席を立つ。
今日は待ってる間楽しかったなあ。香織はひとつ、強くなった。




