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待合室

作者: みるく
掲載日:2014/11/04

 寒い季節は、待合室がありがたい。

 始発よりもっと早く駅に着き、電車が来るまで暇だなとスマホを取り出すと、隣に老人が座って話し出した。

「どこまで行くんだい」

 ラッキー、話し相手だ。

「池袋まで……」

「遠くからまで行くんだねえ」

「どちらまでいらっしゃるんですか?」

「おらあ王子までだ」

「遠いですね」

「池袋だって変わんねえよ」

 老人は笑うが、香織は王子に馴染がないので分からない。

「何しに行くんだい」

「全国で売り切れた商品が入荷するらしいので、買いに……」

「へえ、大変だねえ」

 実際には大人気アニメのくじである。嘘は言っていないが、実は香織が欲しいわけではない。仲の良い友人の為に今日入荷する店を探し出し、何時に入荷するかも分からないのに始発で行って並ぶべく、今日はダウンコートを着ている。

 老人は香織の指を見たようだ。

「結婚してるんじゃないか。旦那に朝ご飯用意しなきゃ」

「用意してきました」

 昨日気合を入れて作ったものの残りだが。

「そうかい。子供は?」

「なかなかできなくて……」

 これが香織のここ四、五年の悩みなのだが、聞かれるたけで辛くなってた時期は過ぎ去った。

「子供はいいよ。家が明るくなる」

 ずきん。

「奥さんは大変だけどね」

 老人が笑うが、香織は「お前は子育てしなかったのかよっ

」と心の中で全力でツッコむ。

 電車が来た。失礼します、と香織はにこやかに席を立つ。

 今日は待ってる間楽しかったなあ。香織はひとつ、強くなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 待合室では不思議な出会いが有りますよね。 運命なのか偶然なのか、私も山形新幹線の間合い室で、頭をたたき続ける男性を見かけて、記憶に深く刻まれました。 どうでも良い事なんですけどね(笑)
2014/11/04 01:17 退会済み
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