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完璧な月夜と僕

作者: 丸屋嗣也

 月明かりの道がどこまでも続いている。

 誰しもが眠っているかのように町は静かの海に沈んでいた。ぽつぽつ遠景に見える明かりの他にはほとんど明かりはない。ただ全天の支配者のように黄色い光線を投げかけてくる月だけが僕のことを見つめている。

 時折、僕は「完璧な月夜」を夢想することがある。

 赤という色はどこまで行っても純粋色にならないという。僕らの知っている赤は、本来の赤に他の色味が混じった何かだということだ。その話を聞いた時、僕は手を叩いたものだった。そう、「完璧な月夜」とはまさにそれだからだ。どこにも存在しない純粋なるもの。それは想像の中にしか存在しないし誰も見たことがないにも関わらず、頭の中にはそれを描くことができる。手が届かないはずなのに僕らはそれを知っている。

 そう。今日は限りなく「完璧な月夜」に近い。僕が想像する「月夜」を体現している。だが――、僕の見る風景の中に、なにか雑味が混じっているように思えて仕方がなかった。

 なんだろう。「完璧な月夜」を妨げているものはなんだろう?

 ずっと考え続けながら、僕はあばた顔の月に話しかける。何が余剰なのだ、と。

 遠景? いや、これは「完璧な月夜」の一つだ。

 道にぽつぽつと続く電燈? いや、これも雑味ではありえない。電燈の並びは美しい。「完璧な月夜」を形作る大事な一ピースだ。

 じゃあ、月の後ろで控えめに瞬いている星々だろうか。いや、この星々たちは、月という支配者につき従う従者たちだ。従者が自己主張をするはずはない。

 じゃあ、何が――?

 その瞬間、僕はあることに気づいて、誰もいない道の真ん中で噴き出してしまった。

 あはははは。僕の笑い声が、「完璧な月夜」をぶち壊しにする。

 そうか、「完璧な月夜」をぶち壊しにしていたのは、僕だったのか――。

 僕はどこに行っても不純物でしかないわけだ。

 そう思うと、可笑しくって可笑しくってしょうがなかった。

 ケタケタと笑いながら、僕は僕のせいで今一歩足りない「完璧な月夜」の元を歩いていく。僕の存在一つで「完璧な月夜」をぶち壊しにしながら。そう思うと、なぜか愉快な気持ちになった。その瞬間、ようやく「完璧な月夜」が手に届きそうな、そんな気がした。


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