恐怖! うっサギ男! (4)
ザック、ジャン、そしてカシム。彼ら三人は、暗黒竜メディッチ・ブンドルが現れた場所へと向かっていた。
「しかし、メディッチ・ブンドルとやらの正体は暗黒竜なのだろう? なぜ人間の格好をしているのだ?」
ザックの問いに、カシムは首を捻る。
「わからないであろー。でも、メディッチは何百年も前から生きているのであろー。しかも、超魔力によって姿など幾らでも変えられるのであろー。だから、人間からどう見られるか……などということは、奴にとって些細な問題かもしれないのであろー」
「なんか、よく分からん奴だな……」
やがて三人は、メディッチが目撃された場所にやって来た。
だが、三人は思わず首を傾げる。
「メディッチは、いったい何がしたかったのだ?」
ザックは思わず呟いていた。
ダゴンの住人は、基本的にいい加減である。ゴミのポイ捨ては当たり前、住人の食べ残しや馬車の落としていく馬糞が落ちていることも珍しくない。事実、ロドリゲス兄弟などはたびたび街の人々から要請を受け、道路の掃除に駆り出されているくらいだ。無論、ザックは絶対に動こうとしないが。
そんな汚れた街であるにもかかわらず、その一角は妙に綺麗だった。ゴミなどは全く落ちていない。しかも、汚れも見当たらないのだ。
「ジャン、これはどういう訳なのだ?」
ザックが尋ねると、ジャンは首を傾げる。
「俺も訳が分からねえんだよ。そのメディッチとかいう奴が突然やって来て、美しくない……とか言いながら、光線みたいなのを出したらしいぜ。そしたら、こんな綺麗になっちまったらしいんだよ」
首を傾げながら、言葉を返すジャン。
ザックもまた、首を傾げた。誠に不可解な話だ。街の片隅を綺麗にし、何も言わずに去って行く暗黒竜……あまりにも、らしからぬ行動だ。もっともザックは、暗黒竜なる生き物を実際に見たことはない。したがって、暗黒竜の性質など知る由もないのだが。
三人が呆然と、その場に立っていた時――
叫び声と共に、新たなる闖入者が現れた。
「ヒャッハー! ここが噂に聞いた異世界だぜ! 俺たちチート能力もらって転生したから、やりたい放題だぜヒャッハー! すぐにハーレム作るぜヒャッハー!」
奇怪な叫び声を上げ、その場に現れた者たちがいる……見たところ全員、十代の若者たちだ。
「俺はニートだったけど、今はチートだぜヒャッハー!」
「俺は目立ちたくないけどチートな勇者なんだぜヒャッハー!」
「俺はさらに童貞だったぜヒャッハー!」
彼らは奇怪な叫び声を上げながら、ザックたちの周りを取り囲む。全員、特に個性の無い顔立ちをしている。しかし、何とも奇妙な出で立ちをしていた。奇妙なデザインの剣と鳥のような紋章の付いた盾を持ち、チェーンメイルらしき鎧を着てマントを羽織っていた。もっとも、その全てが壊滅的に似合っていないが。
「おい何なのだ、このアホ共は?」
若者たちの方を見ようともせず、ジャンに尋ねるザック。すると、ジャンは肩をすくめる。
「さあな。どうせまた、どっかの世界から転生してきたんだろ」
「まあ、そうだろうな。しかし、このアホどもは言葉にいちいちヒャッハーを付けないと喋れんのか?」
若者たちを完全に無視し、会話をしているザックとジャン。そんな二人の様子を見た若者たちは――
「おい、俺たちを無視してるぜヒャッハー」
「失礼な奴らだなヒャッハー」
「身の程を分からせてやろうぜヒャッハー」
口々に言いながら、武器を構える若者たち。だが、それに真っ先に反応したのはカシムだ。
「みんな、僕に任せるであろー」
言うと同時に、カシムは弓矢を投げ捨てる。そして一人の若者を睨み――
「デビルアロー!」
叫びながら、若者に向かい口を大きく開ける。すると、口から電撃のようなものが発射され、若者に炸裂した――
すると若者は、後方に吹っ飛ばされて行った。しかも手にしていた剣や盾、さらには着ていた鎧などが全てボロボロの鉄屑と化しているではないか。
さらに次の瞬間には、塵のようにボロボロと体から落ちていってしまった。あとに残るのは、全裸で倒れている貧相な若者一人だ。
その有り様を見て、他の連中の顔色が一変する。
「お、俺は女の裸は大好きだが、自分が裸になるのは嫌なんだぜヒャッハー」
「俺も修学旅行の風呂の時は、必ずタオルで前を隠したんだぜヒャッハー」
「全裸にされるのは嫌なんだぜヒャッハー」
口々に叫びながら、若者たちは一目散に逃げて行った……。
一方、カシムは満足そうな笑みを浮かべる。
「デビルアローは超音波であろー。どんな敵でも、恐るるに足りないであろー。さあザック様にジャン様、一緒に暗黒竜メデッチ・ブンドルの奴を探しだすであろー。そして、必ずや成敗してやるであろー」
そう言うと、胸を張って歩き出すカシム。
「なあザック、チョウオンパって何だ?」
首を捻りながら、尋ねるジャン。
「私が知るはずなかろう……そんな事より、奴を野放しにしない方がいいぞ」
「それもそうだな」




