恐怖! うっサギ男! (3)
「何だと……どんな奴が来たのだ?」
ザックが尋ねると、ジャンはにゃんころもちを食べながら話し始めた。
「それがな、長い金髪のやたらキザでオシャレーなイケメン兄ちゃんが、街で暴れてるらしいんだよ……まいったぜ」
ジャンのその言葉を聞いたとたん、にこやかな顔でにゃんころもちを食べていたカシムが立ち上がった。
「もっと詳しく教えて欲しいであろー。他に、どんな特徴があるのであろー?」
「どんな奴って……そう言えば、訳わからん音楽をガンガン鳴らしながら登場するらしいぜ。で、美しくない……とか言いながら、街の物をぶっ壊しては去って行くそうだよ」
とぼけた表情で答えるジャン。すると、カシムは真剣な面持ちで天を仰いだ。
「おお、間違いないであろー。そやつは、暗黒竜メディッチ・ブンドルであろー。おおお、なんという事であろー……」
そう言ったかと思うと、カシムの目から涙がこぼれ落ちる。
「カシムさん! どうされたのです!」
慌てて駆け寄るシェーラ……だが、カシムは首を振った。
「大丈夫であろー。僕は嬉しいのであろー。アルス様は、暗黒竜メディッチ・ブンドルを倒して、あの世界に平和をもたらしたのであろー……僕の犠牲は、無駄にならなかったであろー。本当に、よかったであろー……」
そう言ったかと思うと、カシムは立ち上がり、弓と矢を手にした。
「僕は今から、喜びの舞いを舞うであろー」
そして、カシムは奇怪な動きをし始めた。弓を右手に、矢を左手に持ち……その二つを交互に上げながら、ゆっくりと回転しながら室内を歩いている。
「あろー、あろー、あろー、あろー、あろー……」
呟きながら、ゆったりとした動作で舞うカシム。すると、ジャンがザックの腕をつついた。
「お、おい……お前も随分と変わった知り合いがいるんだなあ……」
「ジャン、お前も似たようなものだ。しかし、そのメディッチとやらだが、どうしたものかな……」
下を向き、考えこむザック。一方、カシムは奇怪な動きで踊り続けている。さらに、ロドリゲス兄弟までもが真似をして踊り始めた。その横では、ヒロコとシェーラとパグ犬のデュークが困った顔で三人の動きを見ている。
やがて、カシムの動きが止まった。万歳のような体勢で、カシムは天を仰ぐ。
「あろー!」
叫ぶカシム。すると、ザックが顔を上げた。
「おいカシム、ちょっと聞きたいのだがな……そのメディッチとやらは強いのか?」
「おおお……ザック様、メディッチ・ブンドルは強いであろー。恐ろしく強いであろー。奴は変身すると、銀色のドラゴンになりブレスを吐くのであろー。アルス様とシーラ様は、超必殺技のラブラブ天驚剣ホルシオンで倒す……と言っていたのであろー」
「な、何なのだ、その必殺技は……」
言いながらも、ザックは考えていた。その暗黒竜とやらをどうやって倒せばいいのか。
いや、そもそも倒す必要があるのだろうか?
「その暗黒竜をほっといたら、どうなるんだ?」
ザックが尋ねると、カシムは慌てた様子で首をブルブル振った。
「それは、物凄く怖いであろー。僕は、滅茶苦茶ビビってしまうであろー。メディッチは悪くて恐ろしい奴であろー。この街を破壊してしまうかもしれないであろー」
心底怯えた様子で語るカシム。ザックは、思わず顔をしかめた。どうやら、戦いは避けられないらしい。
「そうか……では仕方ないな。その暗黒竜とやらを片付けてやるか」
そう言って、立ち上がるザック。すると、ジャンもにゃんころもちを食べながら立ち上がる。
「おお、やってくれるかザック。じゃあ、俺も行くとしよう」
そう言って、二人して出て行こうとした時――
「待って欲しいであろー。僕も行くであろー」
そのセリフは、言うまでもなくカシムから発せられたものだった。カシムは決意みなぎる表情で立ち上がり、弓と矢を手に取る。
そして天に向かい、語り始める。
「おおお、暗黒竜メディッチ・ブンドルよ……まさか、死んだ後もお前と戦わなくてはならないとは、これも運命であろー。でも僕は、お前と戦うであろー。戦わなくてはいけないであろー。では、戦いの舞いを舞うであろー」
そう言うと、カシムはまたしても奇妙な動きで踊り始める。今度は矢を両手に持ち、何かを突き刺すような動きを繰り返している……ザックとジャンは困惑した面持ちで、カシムの動きを見つめていた。
「あろー、あろー、あろー、あろー、あろー……」
低い声で繰り返しながら、突き刺すような動作を繰り返すカシム。その奇怪な動作を、困った表情で見ているヒロコとシェーラとデューク。その隣で真似をして踊っているロドリゲス兄弟。満腹になり、いびきをかいて寝ているミャア。
やがて、カシムの動きが止まった。心を決めたような表情で、彼はザックを見る。
「ザック様、待たせたであろー。行くであろー。今度こそ、にっくき暗黒竜メディッチ・ブンドルを地獄に送るであろー」
「あ、ああ……」




