恐怖! うっサギ男! (2)
ザックとシェーラとミャア、そしてパグ犬のデューク。彼らは街中で出会った奇妙な少年を引き連れ、とりあえず自宅へと戻った。
そしてリビングにて、ザックは少年と向き合っていた。傍らには、ヒロコとシェーラが座っている。
「おい、お前。名は何という?」
ザックが尋ねる。
「僕の名前は、カシムであろー」
とぼけた様子で、答える少年。ザックは首を捻る。このカシムと名乗る少年、いったい何者なのだろうか……。
「カシム、という名か……なあカシム、お前はどこから来たのだ?」
「ダリスの国であろー。僕はダリスの国で、アルスさまとシーラさまに従って暗黒龍メディッチ・ブンドルと戦っていたのであろー。そしたら、おっかないドラゴンに炎を吐かれて……気がついてみたら、ここにいたのであろー」
すました表情で答えるカシム。ザックは頭を抱えた……どうやら、この少年は転生者で間違いないようだ。ドラゴンが出て来るということは、こちらの世界と似たような環境ということか。弓を持っているということは、アーチャーであったのだろうが……。
「ザックさん、この世界には色んな人が来るんですね……知りませんでした」
感心したような口調のヒロコ。ザックは頷いた。
「うむ。最近ではあちこちの世界から、おかしな奴らが来るようになってな。そやつらのやらかす不始末のせいで、この世界は大変なのだ。魔法刑事のジャンが嘆いていたぞ」
「へえ、大変なんですね。ところで、カシムくんはどうします?」
「うむ、それなんだがな……とりあえず、ダミアンの所にでも連れて行こうかと思うんだよ」
ザックの言葉に、ヒロコは顔をしかめた。
「えっ、ダミアンってギャングのボスなんですよね? そんな所に預けていいんですか?」
「仕方あるまい。まさか、ウチで引き取るわけにもいかないだろうが。それにダミアンは、さほど悪い奴ではない。せいぜい、部下があちこちから盗んだり略奪したり物を壊す程度だ」
「いや、充分に悪いんですけど……」
ザックとヒロコがそんな事を話していた時、ミャアがリビングに入って来た。
「シェーラ! にゃんこそばが出来たにゃよ! 一緒に食べようにゃ!」
言いながら、そばの入った器を持って来たミャア。さらに、ロドリゲス兄弟も器を持って入って来る。
「にゃんこそば食べよ」
「食べよ」
嬉しそうに言いながら、リビングまで器を運んで来る。
「うわあ! 美味しそうなのです! わたし、にゃんこそば大好きなのです!」
シェーラの嬉しそうな声を聞き、ミャアも得意気な表情をしている。
「にゃはははは! ミャアが作ったにゃんこそばは美味しいにゃ! みんなで食べるにゃよ!」
そして皆は、にゃんこそばを食べ始めた。だが、カシムだけは首を捻って見ている。
「これは何であろー?」
「はい! にゃんこそばなのです! 美味しいのです!」
美味しそうに食べながら、答えるシェーラ。すると、カシムは目の前にある器を見つめる。
そしてフォークを手に取り、麺を巻き付けて口に運んだ。
と、次の瞬間――
「おお、これは確かに美味であろー。僕は気に入ったであろー」
そう言いながら、カシムは麺を食べる。一方、ミャアとロドリゲス兄弟はあっという間にそばを食べ終え、デザートのにゃんころもちを運んで来た。
「にゃはははは! にゃんころもち、いっぱい作ったにゃ!」
そう言いながら、テーブルの上に大きな皿を置く。そこには、にゃんころもち――猫の顔のような形をした餅――が幾つも載せられていた。
「おお……これは何であろー?」
皿を覗きこみ、尋ねるカシム。すると、シェーラがにっこりと微笑む。
「にゃんころもちなのです! とっても美味しいのです!」
「おおお……それは素晴らしいであろー。後で、いただくであろー」
そんな会話をしているカシムを見ながら、ザックは考えた。見たところ、この少年には特に問題は無さそうだ。こちらの世界に転生したり転移するような奴には、基本的に厄介者が多いものだが。
ヴォーン、ヴォーン、ヴォーン……。
平和なリビングに鳴り響く、奇怪な音。どうやら客が来たらしい。
「あっ、お客さんが来たのです。行って来るのです」
シェーラが立ち上がり、小走りで玄関へと向かう。そして扉を開けると――
「ようシェーラ、相変わらず可愛いね。ところで、ザックはいるかい」
表に立っていたのは、魔法刑事のジャン・ギャバンであった。相変わらずとぼけた態度で、ニヤニヤしながらシェーラを見ている。
「あ……ジャンさん。今、みんなでにゃんころもちを食べていたのです。ジャンさんも、どうぞ」
言いながら、シェーラはジャンを招き入れる。ジャンはニヤニヤ笑いながら、入って行った。
「何だ、ジャン……いったい何事だ?」
いきなり訪れたジャンに、訝しげな表情を向けるザック。すると、ジャンは眉間に皺を寄せて口を開く。
「実はな、また面倒な連中が来たんだよ……」




