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恐怖! うっサギ男! (1)

 その日は、実に平穏であった。

 町中でエンジェルスのジェイソンとフレディが血を見るような闘いをおっ始め、路上でテツ・ネンブーツが見知らぬ女の尻を撫で回してひっぱたかれ、ウォーリアーズのバンバ・バンダムが彼女のジュリエットに渡すプレゼントを買うためにあちこち駆けずり回ったことくらいしか特筆すべきことがない、実に平穏な一日……のはずだった。

 しかし、その裏では……とんでもないことが起きていたのだ。


 その日、シェーラはパグ犬のデュークを連れ、町を散歩をしていた。後ろからは、猫娘のミャアも付いて来ている。

「にゃにゃ! シェーラはいつ見ても可愛いにゃ!」

 楽しそうに言いながら、ピョンピョン飛び跳ねるミャア。

「い、いえ……そんなことはないのです……」

 照れくさそうに答えるシェーラ。だが、ミャアはお構い無しだ。シェーラの髪をわしゃわしゃと撫でる。

「シェーラ、帰ったらミャアがにゃんこそば作ってあげるにゃ。一緒ににゃんこそば食べて、デザートににゃんころもちも食べようにゃ!」

「はい! わたし、にゃんこそば大好きなのです!」

 嬉しそうに答えるシェーラ。だが、その足がピタリと止まる。

「にゃにゃにゃ? どうしたにゃ?」

 不思議そうに、シェーラの顔を見るミャア。

「ミャアさん、あれを見て欲しいのです……あそこに変な人がいるのです」

 そう言って、向こうを指差すシェーラ。

「にゃにゃ?」

 ミャアがその方向を見ると、奇妙な少年が立っていた。弓矢を持ち、背中からは羽根を生やしている。年齢は十代半ばだろうか。金髪で色白、顔立ちは綺麗に整っている。だが、白い腰巻き一つしか身に着けていない。あとは、背中に矢筒を装着しているだけだ。

 変人揃いのダゴンの街でも、この格好はかなり目立つ。

「にゃ? あいつ、もしかして変態かにゃ……」

 不快そうに、顔をしかめながら呟くミャア。デュークもまた、不審そうな表情で少年を見ている。

 だが、シェーラは違っていた。彼女は不思議そうに首を傾げる。

「ミャアさん、へんたいとは何なのです?」

「にゃんとお!? シェーラは変態を知らないのかにゃ? ザックやヒロコに教えてもらえなかったのかにゃ?」

「はい……まだ教えてもらってないのです……」

 そう言って、シェーラはすまなそうな表情になる。

「にゃはははは! では、ミャアが教えてやるにゃ! 変態とはにゃ――」

「説明しなくていい……シェーラにはまだ早い」

 声と同時に登場したのはザックであった。ジェイソンとフレディのケンカを仲裁した後、偶然この場所を通りかかった。

 そして、ミャアとシェーラの会話を耳にしてしまったのだ。放っておくと妙な言葉を教えそうだったため、ザックは止めに入ったのである。

「あっ、ザックさん……あの人は、何をしているのです?」

 そう言って、半裸の少年を指差すシェーラ。

「あれか? あれはなあ……ひょっとしたら、転生者かも知れぬぞ。ちょっと聞いてくるとしよう」

 そう言って、ザックは少年のそばに歩いていく。その後ろから、ミャアとシェーラとデュークが続いた。

 一方、少年は訝しげな表情であちこちを見回している。邪悪な意思は今のところ感じられないが、かといって善良とは限らない。そもそも一番厄介なのは、善悪などお構い無しに、本能のおもむくまま動く存在なのだから。

「おい、お前……こんな所で何をしている?」

 ザックが尋ねると、少年は彼の方を見る。

 そして言った。


「ここは……いったい何処であろー?」


「あ、あろー?」

 ザックが思わず聞き返すと、少年はまたしても繰り返す。

「ここは何処の、何という街であろー?」

「ここは、ダゴンという街なのです」

 答えたのはシェーラだった。不思議そうな顔で首を傾げながらも、律儀に言葉を返す。

「ダゴン……聞いたことがないであろー」

 言いながら、少年はキョロキョロしている。ザックは面倒くさくなってきた。こんな、あろーあろー言っているアホーに構ってはいられない。

「いいかシェーラ、お前がこのアローを警察に連れて行け。そして魔法刑事のジャン・ギャバンに引き渡してこい。私は帰る」

 そう言って、ザックは立ち去ろうとした。

 しかし、シェーラに腕を掴まれる。

「駄目なのです! 行ってはいけないのです!」

 必死の形相で、ザックを押し止めようとするシェーラ……ザックは思わず顔をしかめた。

「なんだシェーラ……私は忙しいのだ。こんなアホに構っている暇などない。警察に任せれば大丈夫だろうが」

「駄目なのです! 困っている人は、助けてあげなくてはいけないのです!」

 シェーラは、不退転の意思を感じさせる表情でザックの腕を掴んでいる……さらに、ミャアがその隣で眉間に皺を寄せている。

「ザック……シェーラの頼みが聞けないのかにゃ?」

「……」

 ザックは頭を抱えた。はっきり言って面倒くさい。どうせ、この少年もまた転生者なのだろう。放っといても、何の問題もないだろう。

 いや、放っといたら問題が生じる。シェーラは一度こうと決めたら、てこでも動かないのだ。さらに、ミャアも騒ぎ出しそうである……。

 仕方なく、ザックは少年の方を向いた。

「お前、ちょっと来い」







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