シェーラは電気うさぎの夢を見るかもです そのいち
シェーラの言葉を聞き、真っ先にザックの目に留まったのは……彼女の髪の毛であった。目の前にいる少女の金髪は長く綺麗だ。ならば、髪の毛を全部丸刈りにし、カツラ屋に叩き売れば、そこそこの値段で売れるのではないだろうか。そして次は……どうしてくれよう?
ザックはシェーラのことを、舐め回すような視線で見つめる。シェーラは頬を赤く染め、身を固くした。しかし、ザックの視線は容赦がない。足の先から頭のてっぺんまで、じっくりと眺める。
ザックは考えた。目の前の小娘は、どう見ても大した金にはなりそうもない。一応、ヒロインらしく整った顔立ちをしているようなので、丸坊主にした後で売春宿に叩き売ろうかとも思ったが、まだ幼い彼女にそんな真似をしたら、ラノベ神の天罰を喰らった挙げ句、自己嫌悪に陥り、当分の間メシが不味くなりそうな気がするのでやめておくことにした。しかし、そうなると金にはならない……。
いや、待てよ……。
そうだ……神と言えば確か、口から卵を吐き出すよな……いや、それは大魔王の方だ……大魔王と言えば、くしゃみ……何の意味もない……。
その時、何を思ったのかパグ犬のデュークが足にまとわりつき、咬みついてきた。デュークは何か言いたげな様子で、ザックの足を甘咬みしながら、前足でザックを叩いてくる。そこでザックは、はっとした。
なるほど……。
では、その犯人を見つけ出し、そいつから金を奪えばいいのか。
その犯人を脅迫し、人殺しを黙っていてやる代わりに、大金をふんだくる。そして小娘の前では、探しているふりだけして永遠に働かせる。もちろん、髪が伸びたらカツラ屋に……。
完璧ではないか!
デュークの甘咬みから、なぜその発想が出てきたのか……それは謎である。しかし、ザックは決断したが最後、異様なまでの行動力を発揮する男だ。
「おい小娘、お前の両親を殺した奴を探してやる」
その言葉を聞いた瞬間、シェーラの瞳が輝く。そして満面の笑み。
「本当なのですか! 嬉しいのです! ありがとうなのです!」
「その代わり、ここに住み込みで働くのだ。犯人が見つかるまでは働いてもらうぞ。よいな?」
そう、ここで馬車馬の如く働かせる。さらに、あの見事な金髪をカツラ屋に叩き売る。そして、また髪を伸びてきたら……丸刈りにして売る。で成長したら売春宿に……いや、それは止めておこう。どこかの神の天罰が下るかもしれん……それに、やはり売り飛ばすのは嫌な気分がしそうだ。
「わ、わかりましたのです……働かせていただくのです」
シェーラは恐る恐るうなずいた。一方、ロドリゲス兄弟は完全に我関せずといった態度で、子豚の丸焼きを貪り食らっている。ミャアもまた、にゃにゃにゃにゃ言いながら食べるのに夢中だ。一人の少女が、悪徳商人のような主人公によって闇に堕ちようとしているのに、彼らは全く無関心であった。
しかし――
「ザックさん……シェーラちゃんの依頼、引き受けるんですね……」
ヒロコの声。ヒロコは異世界の日本という国から、愚かなる神の為せる技によって、この世界にトリップしてきた女である。ニートという職業に就いていたらしい。ザックは以前、ニートとはどんな仕事をするのだ? と聞いたところ、自宅を守る仕事です、との答えが返ってきた。家に侵入して来た者と戦い、家を守るのであろう、とザックは解釈している。事実、ヒロコは家にいる時には、ザック相手でも遠慮がない。家の中では恐ろしく強いのである。一部のモンスターや怪獣、そしてザックのような特殊な術士は、亜空空間という所に行くと三倍のパワーを発揮するのだが、ヒロコもそういうタイプなのかもしれない。
「あたし……ザックさんを見直しました……ただの人相の悪いバカで下品で下劣で服のセンスも悪い暴力的な守銭奴かと思ってたのに……人間らしい優しさも残っていたんですね」
ヒロコは感激したのか、目をウルウルさせているが……しかし、彼女は恐ろしく間違っている。ザックは間違いなく、人相の悪いバカで下品で下劣で服のセンスも悪い暴力的な守銭奴なのだ。金にならないことはしない。しかし、そのバカな脳ミソがはじき出してしまったのだ……シェーラは金になる、という理解不能な答えを。いや、間違いではない。しかし、恐ろしく回りくどい上に不確定要素が多すぎる。利益はどのくらい見込めるのか……予測は困難だ。
「さあ小娘よ、我が質問に答えるのだ。お前の親を殺した者に心当たりは?」
「わ、わからないです……ごめんなさいです」
ザックの問いに、シェーラはすまなそうな顔で答える。ザックの表情が険しくなった。では、どうやって見つければいいというのだ? しかし、またしても妙案が浮かぶ。
「では明日、知り合いの魔法刑事に聞いてみるとしよう。奴は変わり者だが……まがりなりにも刑事だ。それなりに調査能力は持っているはずだ」
ザックの言葉を聞き、シェーラは安堵の表情を浮かべる。そして、
「良かったわねシェーラちゃん。さ、一緒にご飯食べよ」