少年の幸せ 3
「いやあ、いいね! はい、そこで女豹のポーズ!」
ザック邸にて響き渡る、奇妙な声……。
その声の主は、一見すると十代の少女である。髪は輝くような金色だ。肌は白く、顔立ちはまるで絵画のように美しく整っている。
だが、ザックはこの美少女の正体を知っている。この美少女は、とんでもない食わせものなのだ。
「あ、あのペリーヌさん……私は、何をしているのでしょうか……」
メイド服を着せられ、戸惑うシェーラ。だが、ペリーヌと呼ばれた美少女はお構い無しだ。
「いいから、もっとセクシーに!」
言いながら、魔道具の写影機でシェーラを撮りまくるペリーヌ。この写影機とは……早い話が、魔法仕掛けのカメラである。
「じゃあシェーラちゃん、そろそろ脱いでみよっか。ヌードを撮ろ!」
「えっ、えええ!?」
困惑した顔になるシェーラ……だが、ペリーヌは構わず続ける。
「シェーラちゃん……この写影機はね、今のシェーラちゃんの可愛らしさを何時までも保存しておけるの。だから――」
「やめんかぁ!」
怒鳴ると同時に、その撮影会に乱入したのは……この作品の本来の主人公ザックだ。
「ペリーヌ、貴様は何をしに来たのだ! とっとと失せろ!」
「そんな事、言わないでよう。あたしとあんたの仲じゃないよう」
言いながら、擦り寄って行くペリーヌ。だが、ザックは手を伸ばして彼女を押し戻した。
「何を言っているのだ! 私と貴様との間には何の関係もない!」
ザックは怒鳴りつける。その時、いきなり屋敷の呼び鈴が鳴った。
ヴォーン、ヴォーン、ヴォーン……。
「ううう、こんな時に誰が来たのだ?」
ぼやきながら、玄関に向かおうとするザック……すると、シェーラが彼の横をすり抜けて行く。
「ザックさん、これは私の仕事なのです。私が行くのです」
そう言いながら、玄関へと走っていくシェーラ。そして扉を開ける。すると……。
「あ、あれ? ハック……どうしたのです?」
シェーラの困惑したような声。次いで、とぼけた感じの声が聞こえてきた。
「ようシェーラ……おっ、今日はいつにも増して綺麗だね。まるで、地上に舞い降りた天使みたいだよ」
「な、何を言っているのですか! 天使みたいだなんて……私、恥ずかしいのですぅ!」
頬に両手を当て、照れまくるシェーラ……だが、そこにザックが乱入していった。
「この宿無しが……貴様、何をしに来た!」
ザックの怒鳴り声……だが、ハックには怯む様子がない。ヘラヘラ笑いながら頭を下げる。
「ああ、こりゃどうも……ザックさん、ちょっと頼みがあるんだけど」
「頼みだとぉ!? 誰が貴様の頼みなど――」
そう言いかけた時、ザックは自身に対する殺気のこもった視線を感じた。横を見ると、シェーラが凄まじい形相で睨みつけている……。
「ま、まあ……話だけなら聞いてやろう。何の用か言ってみろ」
「実はね、仕事を探してる奴がいるんだ。ザックさんの力で、どっかの会社にねじ込んでもらいたいと思ってさ。おいバロン、こっち来て挨拶しろよ」
そう言うと、ハックは振り向いた。
すると、ためらいがちに前に出てきた者がいる……それは、コボルトの少年であった。うつむき加減で、上目遣いにこちらを見ている。三角の耳は垂れ下がり、怯えているような雰囲気だ。
「ザックさん、こいつバロンていうんだよ。ついさっき知り合ったんだけどさ、山から仕事を探しに来てるんだって」
ハックの言葉を聞き、ザックはバロンに視線を移した。まだ体は小さい。しかもコボルト族なのだ……これでは、仕事など見つからないだろう。
「お前、冒険者ギルドには行ってみたのか?」
ザックの問いに、バロンは頷いた。
「はい……登録しました。でも、お仕事をさせてもらえません……」
「まあ、そうだろうな」
苦々しい表情を浮かべるザック。そう、あの冒険者ギルドなる組織は実にふざけている。ギャングも同然なのだ。
あんな連中のやることといえば、せいぜいマッチポンプだろう。自分たちで密かにモンスターを放ち、自分たちで冒険者を派遣し殺す……。
その時、不意にペリーヌが顔を出した。バロンのことを、まじまじと見つめる……。
次の瞬間、バロンを指差して言った。
「ザック、これ欲しい」
「はあ? 貴様、何を言っているのだ!?」
思わず怒鳴りつけるザック……だが、ペリーヌはお構い無しだ。
「ねえあんた、バロンていうの?」
「は、はい……バロンです……」
ぐいぐい来るペリーヌに対し、気弱そうな表情で頷くバロン。すると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「あんた、あたしの助手になりなよ」
「えっ……」
バロンは困惑した表情で首を傾げる。だが、ペリーヌはお構い無しだ。
「そ、あたしの助手。あんたを、立派な写影技師にしてあげる」
「あ、あの……お給金で、焼きたてのパンは買えますか?」
恐る恐る、尋ねるバロン……すると、ペリーヌは笑みを浮かべて頷いた。
「当たり前じゃない! パンだけじゃなくて、高級ステーキ肉だって一緒に買えるよ!」
言いながら、背中をばんばん叩くペリーヌ……バロンはその迫力に圧倒され、思わず――
「は、はい……わかりました……」




