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少年の幸せ 2

 次の日。

 バロンは暗いうちに目を覚ました。今日も三時間かけて、街まで歩いていくのだ。バロンは腕力こそないが、持久力は優れている。その上に粘り強いし、根性もある。彼は一人で山道を歩いていき、ダゴンの街へと向かった。


 しかし――

「悪いなバロン。今日も仕事はないんだ。他をあたってくれ」

 冒険者ギルドで待っていたのは、そんな言葉であった。受付の男の表情は冷たく、さっさと失せろとでも言わんばかりだ。

「わ、わかりました……また来ますので、よろしくお願いします」

 そう言うと、バロンはぺこりと頭を下げる。そして事務所を出て行った。


 耳と尻尾をだらんと下げ、とぼとぼと歩いていくバロン。仕方ないから、今度は職業安定所に行くとしよう。その時――


「おい乞食コボルト……お前、また来たのかよ」


 後ろから、不意に投げかけられた声。バロンが振り返ると、またしても昨日の少年たちがいた。ニヤニヤ笑いながら、こちらをじっと見ている。

 だが、バロンは再び歩き始めた。あんな事を言われるのは悔しいし、また悲しくもある……だが、それでもバロンは街で働きたい。働いて、色んな物を買いたいのだ。そのためには、何を言われようと我慢しなくては……。

 向きを変え、歩いていくバロン。壁の貼り紙などに一つ一つ目を通していく。そして、自分に出来る仕事を探すのだ。

 しかし――

「おい、乞食コボルト……お前、喋れないんだろ」

 さらに聞こえてくる声……少年たちは、バロンの後を付いて来ているらしい。バロンは足を早めた。いつにも増して、今日はしつこい。このままだと、余計なトラブルに巻き込まれる可能性がある。

 だが、少年たちはしつこく付いて来た。

「おい、その汚ない服を脱げよ……犬のくせに服着てんじゃねえ」

 さらに投げかけられる言葉……しかし、バロンは黙ったまま歩き続けた。今日は、もう諦めた方がいいかもしれない。

 その時、背中に衝撃を感じた。何かがぶつかって来るような感触、そして痛み……バロンはうつ伏せに倒れた。

 起き上がると、数人の少年たちに周りを取り囲まれていた。ニヤニヤ笑いながら、バロンを見下ろしている。

 バロンの耳が、怒りと悔しさのあまり震える……だが、少年たちは容赦しなかった。

「おいコボルト、何ならうちで飼ってやろうか? 乞食やるよりはマシだぜ」

 一人の少年の言葉に、全員がゲラゲラ笑った。

 バロンはゆっくりと立ち上がる。すると、少年の一人が蹴りを入れる。バロンはまたしても転んだ。

 ゲラゲラ笑う少年。だが、その時――


「お前ら、何やってんだよ……」


 呆れ果てたような声が聞こえてきた。少年たちは、一斉に声のした方を向く。つられて、バロンも同じ方向を見た。

 そこに立っているのは……穴の空いた帽子を被り、オーバーオールを着た黒髪の少年だ。体はさほど大きくないし、のほほんとした表情を浮かべている。

 だが――


「おい、あいつ宿無しハックじゃねえのか?」

「あ、ああ……宿無しハックだよ」


 怯えたような表情を浮かべる少年たち。だが、中でもひときわ体の大きな少年が、肩をいからせて前に出ていった。

 そして、ハックと呼ばれた少年の目の前に立つ。

「宿無しハックだぁ? てめえなんか怖くねえんだよ、この乞食野郎! ぶっ飛ばしてやんよ――」

 言葉の途中、ハックの額が少年の顔面に叩きこまれた――

 あまりの激痛に顔面を手で覆い、うずくまる少年……するとハックは、バロンに近づき手を握る。

「ほら、今のうちだ。さっさと行こうぜ」

 そう言うと、ハックはバロンの手を引いて駆け出した。


 そして街の広場で、二人は一息ついていた。

「あ、ありがとうございます……」

 そう言うと、バロンは頭を下げる。すると、ハックはにっこりと笑った。

「あいつら、どうしようもねえんだよ……学校で勉強させられ、狭い人間関係の中で怯えててさ。だから、自分たちより弱い奴を見つけて叩く。そして、自分たちより悲惨な連中を見て安心するんだよ。なんで、もっとスカッと生きられないのかな……まあ、仕方ないけどな」

「は、はあ」

 バロンには、よく分からない話だった……しかし、とりあえずは返事をする。目の前にいる少年は、自分を助けてくれた恩人なのだから。

 この街で、初めて優しくしてくれた人間だ。


「お前、名前は?」

「あっ、バロンです」

「バロンか。俺はハックだよ。で、お前はこんな街に何をしに来たんだ?」

 ハックは、優しげな表情を浮かべて尋ねる。バロンはためらいがちに口を開いた。

「あの……仕事を探しています」

「仕事?」

「はい。仕事をして、お金を貰いたいのです」

 バロンの言葉に、ハックは顔をしかめた。

「仕事かあ……そいつぁ大変だぜ。ただでさえ、この街ではコボルトは差別されてるからな」

 そう言うと、ハックは下を向いた。首を捻り、考え込むような表情になる。

 だが、パッと顔を上げた。その表情が明るくなる。

「そうだ! この街の顔役と俺は顔見知りなんだよ! その人に頼もう!」

「か、顔役ですか?」

 びっくりして聞き返すバロン……だが、ハックは笑みを浮かべて頷いた。

「ああ、顔役だよ。ギャングもモンスターも、ビビって小便もらすような凄い奴さ」

「えー……」






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