怪奇! サタングロス! (4)
実にあっさりと、赤き死の仮面ことサタングロスをノックアウトしてしまったザック……だが彼は、今からどうするべきかを考えていた。倒すのは簡単なのである。問題は、その後の対処法だ。
一番手っ取り早いのは、サタングロスをこの場でさっさと殺してしまうことである。そうすれば、このアホは今後、確実に悪さが出来なくなるのだ。転生者が死んだらどうなるのかは、さすがのザックも知らないが……まさか、もう一度まぬけな神――白髪と長いヒゲとワケわからん木の杖の三点セット付き――が登場し、「すまんすまん、間違えた」などと言い出すのだろうか……。
それはともかく、ただ殺すのではあまりにも芸が無さすぎる。この男に、何か使い道は無いのだろうか……。
サタングロスを縛り上げた状態で地面に転がしながら、ザックはどうしたものかと首を捻っていた。
「ザックさん……この変態コスプレ魔人、一体どうするんですか?」
ヒロコが不安そうに尋ねる。
「うむ。私も今、考えているのだ……このアホを、どうしたものかと思ってな。ヒロコ、お前には何かいいアイデアは無いのか?」
「うーん……このサタングロスは、どんな特技があるんですか?」
「私は百四十四人に分身できることと、耳が腐りそうな歌を唄えることくらいしか知らんな。今から叩き起こして聞いてみるか」
「百四十四人に分身? それは凄いですねえ……その人数でいっぺんに向かって来られたら、ザックさんでも危なかったんじゃないですか?」
ヒロコの言葉を聞き、ザックは笑った。
「ぷぷぷ……そこが素人転生者の浅はかさよ。こいつはな、本体さえノックアウト出来れば分身は消えるのだ。要は、本体さえ見分けられれば全く怖くない」
そうなのだ。このサタングロスはトップロープに上り、そこから分身を出現させていた。司令塔とも言える本体が、そんな目立つ位置にいたのでは……狙ってくれと言っているも同じではないか。
どんな優れた力があろうとも、それを使う頭の方がアホでは宝の持ち腐れである。
そして、ザックの頭もまたアホであった。しばらく考えてみたが、このサタングロスを有効利用する手立てが思い付かない。
「ザック、こいつ、どうするんだにゃ?」
ミャアが尋ねる。彼女はしゃがんだ姿勢で、倒れているサタングロスの体をつついていた。
「うーむ……面倒くさいから殺そう」
物凄くあっさりとした口調で言うと、ザックは右手の人差し指を向けた。たちまち指先が白く光り出し、バチバチという音を立てる。だが、その時――
「待つのです! 殺してはいけないのです!」
声と共にシェーラが止めに入る。ザックはため息をついた。
「いいかシェーラ……私はな、こんなバカの処遇に頭を悩ませるほど暇ではないのだ。さっさと殺すのが手っ取り早い――」
「駄目なのです! 殺すのは良くないのです!」
「いいか、シェーラ……こういうバカは、殺せる時にきちんと殺しておかないとな、何度も復活して悪さを繰り返すのだぞ」
シェーラに向かい、噛んで含めるように説明するザック……だが、シェーラは首をブンブン振っている。
「殺したら、可哀想なのです! 罪を償わせないといけないのです! 生きていないと、罪は償えないのです!」
不退転の決意をその瞳に宿し、ザックを見つめるシェーラ。
弱りきったザックは、とりあえず頭を掻いてみた。シェーラを敵に廻すということは、ミャアを敵に廻すということでもあるのだ。その場合、非常に厄介なことになるだろう。
仕方ない。まず、今はシェーラをなだめて丸め込む……そして、後で始末するとしよう。
「よし、分かった。シェーラ、お前の言うことももっともだ。こやつは生かしておくとしようか」
そう言って、シェーラの頭を撫でるザック。しかし、シェーラは不審そうな目で見ている。
「……本当ですか?」
「な、何を言っている。本当に決まってるだろう」
そう言いながら、必死で頭を撫で続けるザック……彼は基本的に、都合が悪くなったらキレて暴れて誤魔化すことにしている。しかし、シェーラが相手となるとそうもいかない。仕方ないので、今回は頭なでなでで誤魔化そうとしているのだ。
「怪しいのです……ザックさんは普段、こんなになでなでしてくれる人ではないのです。絶対、何かを隠しているのです……」
じーっ、と怪しそうな目でザックを見上げるシェーラ。ザックは愛想笑いを浮かべながら、どうやって誤魔化そうかと考えていた。
すると、その時――
「そうだ! いい考えがあります!」
不意に、ヒロコがぽんと手を叩いた。
「ザックさん! この変態コスプレ魔人の使い道が見つかりましたよ!」
「何、本当か! では、どうすればいいのか言ってみろ!」
ザックの言葉に対し、ヒロコは自信たっぷりな表情だ。
「任せてください」




