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違法人・5

「えー毎度おなじみ、冒険者のザック・シモンズさんとロドリゲス兄弟でございます。掃除からモンスター退治まで、何でも引き受けますよー」

「引き受けますよー」

 帰り道も一応は営業しながら、歩いて行く三人。既に陽は沈みかけ、街のあちこちに設置された街灯には明かりが灯っている。夜になると、いろいろとヤバい連中が活動し出したりもする。なので、夜になると人通りは少なくなるのだ。

 家に帰る道すがら、ザックには考えていることがあった。さっきから、ずっと尾行されている。具体的には、建物でバカ者の自殺を止めた後、おっさんをチビらせ、金を受け取った辺りからである。そこから街を歩き、ロドリゲス兄弟と共に営業に回っているが、ずっと付いて来ているようなのだ。

 ザックは立ち止まった。そして考える。足音から察するに、相当小さな体つきの者だろう。となると……小人族かもしれない。ドワーフ、もしくはハーフリングだろうか。

 かつて、この街には闇ドワーフの重要な資金源である、密造酒の工場があったのだ。しかし……さる筋から依頼を受けたザックが乗り込んでいき、工場を吹っ飛ばしてしまったのだ。それ以来、闇ドワーフはザックのことを恨んでいる……と聞いたことがある。ザックはさほど気にもしていなかったが。

 だか闇ドワーフの中に、ザックと戦おうという命知らずがいるとは思えない。となると……。

 ザックは考えたが、放っておくことに決めた。理由は面倒くさいからである。ロドリゲス兄弟も腹を空かせている。さっさと家に帰って飯を食おう。少々のことは、主人公補正が何とかしてくれるだろう。

 だが、ザックたちが人気のない場所に来たとたん、急に足音が早まった。足音の主がどんどん近づいて来ているのがわかる。そして――

「すみません!」

 聞こえてきたもの、それは幼い少女の声である。ザックとロドリゲス兄弟は振り向いた。

 そこに立っていた者は……声のまんまの少女であった。八歳から十歳くらいだろうか。長く伸びた髪はボサボサで、ところどころがべったりと固まっている。服は何日も洗っていないのだろう……あらゆる種類の汚れがこびりついていた。さらに、少女の体からは匂いもする。地下に暮らしている者特有の匂いだ。ザックは顔をしかめた。

 だが少女は、ザックのそんな表情に怯みながらも、彼の目をじっと見つめ、口を開いた。

「さっきの見たのです……あなたたちは……強いのです……お願いがあるのです……あたしのパパとママを殺した奴を……探して捕まえて欲しいのです!」




「おいミャア、娘は今どうしてる?」

「ヒロコが風呂に入れてるにゃ。もう何日も風呂に入ってなかったにゃ」

「ほう……」

 ザックは腕を組み、何やら考え始めた。その横では、ロドリゲス兄弟がテーブルにつき、子豚の丸焼きを食べている。そしてミャアもテーブルにつき、兄弟に負けじと食べ始めた。

「にゃにゃにゃにゃ!」

 奇怪な鳴き声を上げながら、子豚の丸焼きに貪りつくミャア。そしてザックの足元にはパグ犬が現れ、くるぶしに鼻を押し付けて挨拶した。パグ犬デュークの出迎えの儀式である。

「おうデューク。ご苦労」

 そう言いながら、ザックはデュークの頭を撫でる。デュークはザックの手をペロリと嘗めた後、今度は食事に夢中のロドリゲス兄弟の足元へ行き、尻を床に着けて座った。行儀よくおこぼれを待つつもりなのだ。放っておけば、ロドリゲス兄弟はボロボロと子供みたいに食べこぼしてくれるのである。すると、デュークが綺麗に床の掃除をしてくれるのだ。


「ザックさん、お風呂上がりました。それと……この子ですが……」

 ヒロコはもじもじしている娘の肩をぽんと叩き、前に押し出す。だが、ザックはなぜかヒロコの顔を見つめていた。

「な、何でですかザックさん……あたしの顔に何か――」

「いや何でもない。風呂上がりの寝間着姿のお前はなかなか綺麗だ、と思っただけだ」

「バカなこと言わないでください!」

 ヒロコは顔を真っ赤にして引っ込む。ザックは娘に視線を移した。風呂に入り、溜まった汚れを落とした娘は可愛らしかった。白い肌、大きくてつぶらな瞳、人形のような整った顔立ち……そう、この娘も例の如く整った顔立ちをしているのである。ザックの頭の中を、ちょっとだけ嫌な予感が駆け巡っていた。もしや、こやつはヒロインの三号であろうか。一号の技と二号の力を受け継いだ者なのか。体には二十六の秘密があるのかもしれない……などとバカなことを考えていると、娘は何か言いたげな様子で、こちらを見ていることに気づいた。

 そして、娘の名前を知らないことにも気づく。

「おい小娘、名はなんというのだ?」

「わ、私は……シェーラとという名です」

「シェーラ? お前、もしかして九官鳥に変身したりできるのか?」

「はい?」

「何でもない。今の言葉は忘れろ。お前の父と母の仇を討てばよいのだな?」

「は、はい……そうなのです……」

「で、その報酬は? 私は高いぞ」

 ザックがそう言ったとたん、シェーラは黙ったまま下を向いた。ためらうような素振り……しかし、意を決したらしい。

「お金は……ないのです。その代わり……私を買って欲しいのです!」





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