兄弟券バイク・ロスしたー そのよん
奇妙な父子であるダーガン&ハックと話した後、ザックは再び街の中央部へと戻った。そして、ハックから聞いた話について考えてみる。彼が殴られた理由、それは……あまりにも理不尽なものだ。ムシャクシャしてるから殴らせろ、とは酷すぎる。単なる愉快犯の可能性もなくもないが、もう少し詳しく調べてみる必要がある。
考えながら歩いていたザックだが、ふとハックの言葉を思い出した。その場に立ち止まり考える。
(え、関係って……んなこと、言わなくてもわかるでしょ。野暮だなあ、ザックさんは……シェーラとは、結婚を前提としたお付き合いをしてるつもりだよ)
結婚を前提としたお付き合いだと……。
となると、いつか奴は私の元に現れるのか。
シェーラさんをください、などと言いに……。
ザックの頭の中に、奇々怪々な妄想が広がっていく……。
☆☆☆
タキシードを着たハックが、ザックの屋敷に入って来た。明らかに緊張した面持ちだ。
一方のザックは、リビングにて妖刀テッカーマン・ブレードの手入れをしていた。刀身に、ワケわからん器具でぽんぽんと粉を付けている。
そして、ハックはシェーラと共にリビングへと入って来た。
入ってくるなり、土下座するハック。
「ザックさん! いえ、お父さん! シェーラさんを僕に下さい! 必ず幸せにして見せます! 皆様の前で誓います! ですから――」
「帰れ」
ザックはハックの方を見ようともせずに言い放つ。すると、横にいたシェーラの表情が、みるみるうちに険しくなっていった。
「ザックさん……酷いのです! あんまりなのです! 私とハックは愛し合っているのです! 真剣なのです! ハックは宿無しだけど、真面目ないい子なのです!」
その言葉を聞いたとたんに、ザックの表情も変わった……。
「宿無しだとお……それが一番いかんのだあ! シェーラ! お前は、この宿無しの愚か者とどのような生活を築いていくつもりなのだ!? 二人で野宿でもするつもりなのか!?」
ザックの言葉に、一瞬ではあるが怯むシェーラ……だが、再び言い返す。
「ハ、ハックには木の上に小屋があるのです! そこに二人で住むのです! ザックさんに心配されなくとも大丈夫なのです!」
「あそこには親父も住んでいるだろうが! ニートのブリーフ親父が! あいつと同居する気か!」
「違うのです! ダーガンさんはニートではないのです! ダーガンさんはジャングルの動物たちの王様なのです! そうですよね、ハック!」
そう言って、シェーラはハックに同意を求める。しかし、ハックは微妙な表情だ……。
「え、いや……王様というか無職というか躁鬱というか……」
ぶつぶつ言いながら、言葉につまるハック……その隙に、ザックはさらに言葉を続けた。
「何よりも、私が一番気に入らんのは……私の名と、そこにいる愚か者の名が被りまくりな所だ! 私はザックで、そいつはハック。ザックとハック……そんな紛らわしい名前の奴に、お父さんなどと呼ばれたくないわ! 私自身ですら、そやつに"おい、ザック"と呼びかけそうになったことがあるのだぞ!」
「ううう……もう、いいのです! 私はハックと駆け落ちするのです! ハック、行くのです!」
そう言うと、シェーラは立ち上がった。そしてハックの腕を掴み、強引に連れ出そうとしたが――
「にゃはははは! シェーラ、何やってるにゃ! 一緒ににゃんころもち、食べようにゃ!」
猫の顔の形をした饅頭の乗ったお盆を手にしたミャアが、嬉しそうにニコニコしながら入って来た。だが、部屋に流れる不穏な空気を察知し、怪訝な顔つきになる。
「にゃにゃにゃ? シェーラ、どうかしたにゃ?」
「ミャアさん、私はザックさんには付き合いきれません! ハックと一緒に駆け落ちします!」
「にゃ……にゃんとお!? くぉらあ! ザァッックゥ!」
ミャアが吠え、ザックを睨む。
そしてザックは妖刀テッカーマン・ブレードを鞘に収めながら、ため息をついた。これは、非常に面倒な展開になりそうだ……。
「何なのだミャア……お前には関係ない」
「あるにゃ! シェーラがカケオチするって言ってるにゃ……にゃにゃにゃ? そお言えば、カケオチって何だにゃ?」
真顔で、そんなことを聞いてくるミャア……ザックは話しているのがアホらしくなってきた。
「お前みたいなバカは知らなくていい言葉だ。お前は……にゃんころもち食ってマムシ酒飲んでマタタビシガー吸って寝ろ」
「にゃ、にゃんとお! 怒ったにゃ! にゃん法……にゃにゃ変化!」
ミャアが叫ぶ……そしてミャアの姿は、虎と人間を合成させたような生き物へと変化していった……。
「タイガーミャア……推参にゃ……ザック、勝負だにゃ!」
叫ぶと同時に、ミャアいやタイガーミャアは飛び上がり、ザックに襲いかかっていく。リビングは阿鼻叫喚の修羅場と化した……。
☆☆☆
ザックは、予想される事態のあまりの恐ろしさに、思わず身震いしていた。やはり、シェーラとハック……二人のお付き合いを認めてあげるのが無難なのだろうか。そんなことを考えたら、なぜか空腹を感じた。
帰ったら、にゃんころもち食べるか……。
ザックはその後、街の子供たちに聞き込みをしようとしてみたが……。
「あ、ザックだ! みんな逃げろ!」
「うわ! 極悪人のザックが来たぞ!」
「ザックに睨まれると、石に変えられちゃうぞ!」
「違うぞ! イナゴに変えられて食われるぞ!」
ザックが近づくだけで血相を変え、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く子供たち……己の悪名が、街の隅々にまで知れ渡っていることを、ザックはまったく知らない。
ザックは立ち止まり、首を傾げる。
理解不能だ……。
質問しただけなのに、なぜ奴らは逃げる?
子供たちの怯え方は尋常ではないぞ。
やはりこれは、そのデストロイとかいうバカ共の仕業か……。
これは、気合いを入れて調べんといかんぞ……。
となると……まずは、警察から情報を得てみるか。




