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兄弟券バイク、ロスしたー そのいち

 ロドリゲス兄弟は、見た目がめちゃくちゃ怖い。高い身長、爆発しているかのごとき天然パーマの髪、野太い声、日焼けした肌、分厚い筋肉の鎧をまとった肉体、そして岩のごとき強面……気の弱い男なら、すれ違っただけで泣きながら謝ってしまうだろう。

 だが、その見た目とは裏腹に近所の子供たちからの人気は高い。兄弟はもともと、気が優しくて力持ちである。さらに、精神年齢も子供たちと近いのだ。したがって、近所の子供たちのよき遊び相手であった。


 その日、ザックは一人で出かけていた。忠実なる部下のロドリゲス兄弟はシェーラと共に近所の子供と遊ぶために出かけており、仕方なく一人で営業に回っていたのである。


「あー、ザック・シモンズだー。お前ら、何か仕事よこせ……いや、仕事は面倒くさいから金だけよこせ」

 勝手なことを拡声器――言うまでもなく魔法によるものである――で叫びながら、ザックは一人で大通りを歩く。こと営業に関する限り、ザックはまるきり無能であった。ロドリゲス兄弟も有能とは言い難いが、それでもまだ真摯に取り組む姿勢はある。しかし、ザックにはやる気がない。したがって、思いつくままデタラメな言葉を並べ立て、街を練り歩くことしか出来なかったのである。


 しかし――

「ザック……お前さん、営業の腕は二番目だな。ケツから数えて、だが」

 突然、後ろから聞こえてきた無駄にキザったらしい声……何者なのか、振り向かなくてもわかる。魔法探偵ケーン・カザミだ。

 そしてザックの顔がひきつる。奴を相手にするとロクなことがないのだ。彼はその声を無視した。いや、気づかないふりをした……そして走って逃げ出そうとした。

 だが、ケーンは上空に跳躍する……まるでミサイルか何かのような軌道で空を飛んだ。そしてザックの目の前に降り立つ。

「これが俺の必殺技・空破弾クウハダンだ……どうだい、痺れるだろう?」

 唖然としているザックの目の前で、ニヤリと笑いながら言うケーン。必ず殺す技であるはずの必殺技……それを何故この場面で繰り出すのだ? ザックはそう聞きたかったが、面倒くさい展開になるのが明白なのでやめておいた。その代わりに、罵りの言葉を吐き出す。

「何だ貴様……私は今、営業中なのだぞ。貴様なんぞに用はない」

「まあ、そう言うなってばよう……実はな、今ちょっとした事件が起きてるんだよ」

「ふん……何が事件だ。お前の存在自体が歩く事件簿ではないか」

「いやあ、そんなに誉められると照れるぜ……しかし、今回の事件は俺は無関係なんだよな」

 ケーンは本気で照れているらしい。一方、ザックは目の前の馬鹿男を本気で殺したくなった……。


「いや、そんなことより、デストロイって悪の秘密結社があるらしいんだが……お前、知ってるか?」

 照れていたかと思うと、不意に真顔で尋ねるケーン……だが、ザックは首を振る。

「私が知るわけなかろう。何奴だ?」

「うーん、俺も良く知らないんだが……魔王ゴルゴンゾーラを崇める秘密結社らしいんだよ。あちこちで、セコくてしょーもない事件を起こしてるらしいんだが……最近、その一派が我らの街、ダゴンに入りこんだという訳なんだよ。困ったもんだなあ、ザック」

「ふん、私の知ったことではない。気になるのなら、お前が潰せばよかろう。この街で、お前に勝てる者などいない――」

 その瞬間、ザックは慌てて口を閉じる。だが遅かった。ケーンは、勝ち誇ったドヤ顔をザックに近づけて来る……。

 そして言った。

「そうなんだよ。ザック、お前さん……この街じゃあ二番目だ」

「そ、そうだな……私はしょせん、この街では二番目の雑魚だな、あははは……では、忙しいので失礼する――」

 そう言って、足早に立ち去ろうとしたが……その肩を、ケーンがガシッと掴んだ。そして力任せに引き止める。あまりの凄まじい握力に、ザックは悲鳴を上げそうになったが、かろうじてこらえる。

「ここは、では一番は誰だ! と聞くところだろうが……」

 耳元で囁くケーン……ザックは仕方なく、

「では、一番は誰だ?」

 と尋ねる。すると、ケーンはちっちっち……と人差し指を振った。そして親指を立てて、己の顔を指し示す。

「俺だ」

「知るか! 何の一番だ! お前には付き合いきれんわ!」

 さすがのザックも、堪忍袋の尾が切れる。怒鳴りつけ、さっさと立ち去ろうとした。

 すると、今度は向こうからザックを呼ぶ野太い声……立ち去りかけていたザックは足を止めた。あれは、ロドリゲス兄弟の声ではないか。しかし、今はシェーラと一緒に近所の子供たちと遊んでいるはずなのだが……。

 何事が起きたのだろう。

「ザックさあぁぁん!」

「大変だあぁぁ!」

「大変ですうー!」

 どたどたと走って来る、ロドリゲス兄弟……さらに、兄のスカイ・ロドリゲスはシェーラをおぶったまま走っているのだ。これはただならぬ雰囲気である。

「お前の周りでは、いつも楽しそうなことが起きるな……」

 ケーンの愉快そうな声が聞こえてきた……。






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