侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 7
ヒロコにさんざん怒鳴りつけられ、ザックは半ば強引に屋敷を追い出されてしまったのだ……仕方がないので、彼はロドリゲス兄弟を引き連れて街を歩くことにした。いつものごとく、営業である。
「えー……毎度おなじみ、冒険者のザック・シモンズとロドリゲス兄弟でございます。家の掃除からモンスター退治まで、何でもしますよー」
「しますよー」
いつものように、すっとぼけた声で宣伝文句を叫ぶロドリゲス兄弟。その後ろから付いて歩くザック。三人で街を歩いていると、どこからか聞き覚えのある声が――
「にゃはははは! ところでシェーラは……お肉は好きかにゃ?」
「え、ええ……好きですけど……」
「にゃにゃ! ミャアもお肉は大好きだにゃ! 牛と豚だったら、どっちが好きかにゃ?」
「え? えーと……どっちも好きです……」
「にゃはははは! ミャアもどっちも好きだにゃ! 一緒だにゃ!」
「え、ええ……一緒なのです……」
前方より聞こえてくる陽気な話し声、そしてけたたましい笑い声。間違いなくミャアとシェーラだろう。ミャアは上機嫌なようだ。シェーラが一緒の時の、あのテンションの高さは何なのだろうか……などと思いながら、ザックはロドリゲス兄弟を引き連れて歩く。そして、そっと近くに寄ってみた。
「にゃはははは! ところでシェーラ、お空は何で青いか知ってるかにゃ?」
「い、いえ……知らないのです……」
「にゃ、にゃんとお!? だったら、ミャアが教えてあげるにゃ! お空が青い理由は……神様が青く塗ったからだにゃ!」
そう言うと、ミャアは立ち止まり胸を張った。勝ち誇ったドヤ顔で、シェーラを見下ろす。一方のシェーラは……顔の半分をひきつらせながらも、顔の半分は愛想笑いを浮かべながらミャアを見上げた。
「そ、そうなのですか……ミャアさんは賢いのです。物知りなのです」
「にゃはははは! 神様は凄いんだにゃ! まず、背が高いんだにゃ! ロドリゲス兄弟くらい高いんだにゃ!」
「は、はあ……そうなのですか……い、意外と小さいのです……」
楽しそうな会話をしながら、歩いて行く二人。その後を付いて歩くパグ犬のデューク。デュークは何やら、重大な任務に付いているかのごとき様子で歩いている。時おり、通りすがりの野良犬に威嚇の唸り声を上げられたりしているが、彼は完全に無視していた。視線はピタリと二人に合わせたままだ。
その時、ザックは立ち止まった。神様とは何なのだろうか、という疑問が頭に浮かんだからだ。その場でじっと考える。そこで思い出したのが、子供の頃に本で読んだ、伝説の巨神ナデオンだ。どうやら、東方の部族の神話らしい。
その神話のストーリーは……巨神のナデオンがチートなパワーで色んな怪物と戦い人間を守る。ところが物語も最後になると、「ナデの力」と呼ばれる謎の力が発動し……なぜか人間も怪物も全滅してしまったのだ。
だが、それはまだ良かった。次のページには何と、登場人物たちが全裸で空を飛び回る絵が……男も女も、全てのキャラが全裸で空を飛び回る絵で物語は終わっていたのだ……。
「ナデの神様は……いったい何がしたかったというのだ……」
まだ幼いザック少年には訳が分からず、呆然とした顔でそう呟いたのを覚えている……。
だが、成人した今となっても……あの神話のラストが何を伝えようとしていたのか分からない。
「おいザック、こんな所で何をやってるんだ?」
不意にかけられた声……ザックが顔を上げると、目の前には魔法刑事のジャン・ギャバンが立っていた。何やら訝しげな表情で、こちらを見ている。
「何だ、ジャンではないか……私は今、神について考えていたのだ」
「カミ? お前大丈夫か? おかしなクスリとかやってないだろうな?」
あたかも不審人物を見るかのように、こちらの出方を窺うような表情で尋ねるジャン。ザックはあからさまに不快そうな顔をした。
「そんなもの、私がやるわけなかろう……バカなことを言うな」
「ならいいがな。お前を逮捕するようなことにはなって欲しくないからな……留置所をブッ壊しかねん」
「何を愚かなことを言っているのか……あ、そう言えば……お前は知っているのか?」
「知っているのか、って何だよ? 何か事件のネタでもあるのか?」
「……」
ザックは考えた。目の前にいる男にどこまで話していいものか。いや、そもそも……。
「なあ、ウォーリアーズのヒューマンガスとシアトル騎士団のラウル将軍だがな……あの二人が和解する可能性はあるのか?」
「はあ? 和解? ああ、そりゃ無理だな!」
「……即答かよ」
ザックは思わずため息をついた。そうなると、ラウル将軍の娘であるジュリエットの恋路は……非常に険しいものになりそうだ。結局のところ、バンバ・バンダムとジュリエットをくっつけるのが今回の仕事の目的であろう。しかし……。
「ん? どうしたんだよ、ザック?」
「いや、何でもない……しかし、そいつは困ったな……」
腕を組み、考えるザック……その後ろでは、退屈したロドリゲス兄弟が立ったまま眠っていた。




