侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 6
シェーラとミャアの二人――そしてパグ犬のデュークも――が買い物に行って間もなく、ロドリゲス兄弟がびしょ濡れの体で地下室から上がって来た。ウエイトトレーニングを終え、水を浴びたようだ。しかし、ザックの姿を見て直立不動の姿勢をとり、挨拶する。
「あ、ザックさん。お帰りなさい」
「お帰りなさい」
ロドリゲス兄弟はザックに向かい、丁寧に頭を下げる。そしてタオルで濡れた体を拭きながらソファーにどっかと座り、どろりとした奇怪な液体を飲み干す。そして魔法の水晶板を見始めた。水晶板には奇妙な映像が映っている。長髪で足の短く顔の大きな男が、黒い服を着た大勢の少年たちに説教しているのだ。
(なんですかあ、このバカチンがあ!)
すると、ロドリゲス兄弟の片方が不思議そうな顔になった。そして、もう片方に尋ねる。
「兄ちゃん……バカチンて何だ?」
「そんなことも知らないのか、弟よ……バカチンとはな、異世界にある小さな国だったはずだ。ヴァンパイアハンターを仕切る親玉の住む、恐ろしい国らしいな……ヒロコがそう言っていたぞ」
「おお、すげえすげえ……さすが兄ちゃん」
弟のグラン・ロドリゲスは感心した表情で、兄の巨大な大胸筋をぺちぺち叩いた。一方、兄のスカイ・ロドリゲスは得意気である。上半身の筋肉をあちこちプルプルさせ、勝ち誇った表情で笑みを浮かべながら水晶板の映像を観ている。
ザックもその隣に座り込んだ。たまには、ロドリゲス兄弟と水晶板を見ながら語らうのもいいかもしれない、と思ったのだ。彼らは忠実な部下である。こういった形のコミュニケーションも必要であろうと。
しかし――
(何ですかあ! こらあガトー! それにゴウ・ウラキ! 僕はあ、腐ったミカンではありましぇん! 死にもしましぇん! あなたが好きだから!)
水晶板に映し出される映像は……長髪の男が巨大な馬車の前で仁王立ちになり、意味不明なことをわめいているというものだ。馬車には困惑した表情の黒服の男たちが乗っており、その横では美しい女が泣いている。いったい何事が起きているのだろうか……。
ザックは映像から、どうにかストーリーを読み取ろうとした。しかし、何が何やらさっぱりわからない。さすがのザックも観ていて頭が痛くなってきたので、とりあえず自室に戻ることにした。
「ザックさん……入っていいですか?」
扉をノックする音……そしてヒロコの声。ザックは扉を開けた。すると、ヒロコはいかにもワクワクした様子で部屋に入ってきた。そして、ザックに尋ねる。
「どうでした?」
「どうでした、とはどういう意味だ?」
聞き返すザック。すると、ヒロコの表情に苛立ちが浮かんだ。
「バンバ・バンダムさんとジュリエットさんはどうなったのか、私はそれを聞いているんですよ!」
「ああ、そのことか。バンバは海へ鯨を捕りに行っていて留守だった。ここ二、三日は帰ってこないらしいんだよ。ジュリエットとは会えた。会って話をしたが……あの女は、救い難い愚か者だな」
「愚か者?」
「ああ……」
怪訝な顔をするヒロコに対し、ザックはジュリエットとの会話をできるだけ忠実に再現して聞かせた。
「……という訳で、とにかく会話にならんのだ。顔を赤くしてやたらもじもじするか、のじゃのじゃ言うばかりで話が一向に進まない……あの女は、ロドリゲス兄弟の次くらいに愚かな頭の持ち主だな」
そう言うと、ザックはため息をついた。
だが……ヒロコの表情がまたしても変化する。呆れ返った顔で口を開いた。
「ザックさん……もしかして、何もわかっていないのですか……ジュリエットさんの気持ちとか……」
「ふ、何を言っているのだ……私にはわかりすぎるくらい、よくわかっている。ジュリエットはな、バンバを殺す気だろう。それも、一対一の決闘でな。まったく、どこまで愚かな女なのか……バンバ・バンダムはウォーリアーズでも屈指の武闘派だ。あんなポワポワ頭のバカ女では、バンバに勝てる可能性などないのに――」
「ちぃがあぁぁぁう! ぜんぜん違う! あなたは恐ろしく間違ってる!」
ヒロコがいきなり叫んだ……叫びながら、ザックを指さす。さすがのザックもビクリとなる。驚愕の表情を浮かべて、彼女を見つめた……しかし、ヒロコは容赦しない。
「ザックさん……あなたはまったくわかってない! 愚か者はあなたです! ジュリエットさんは、バンバさんのことが好きなんですよ!」
「……なんだと? 隙? どういう意味だ?」
「だーかーらあ、ジュリエットさんはバンバさんに恋してるんですよ!」
「恋、だと!?」
ザックの顔が歪む。呆れた様子で言葉を続けた。
「なんだそれは……それならそうと、はっきり言えばいいものを……前言撤回。あの女は、ロドリゲス兄弟よりバカだ。実にくだらない話だな」
ザックは吐き捨てるように言った。すると、ヒロコの表情がまたしても変わった……まるで人食い鬼のような顔つきで、彼女は怒鳴りつける。
「あんたの方がくだらないよ! さっさと仕事してこい!」




