侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 5
ザックは頭の中で考えを巡らした。一方のジュリエットはもじもじしながら、ザックの次の言葉を待っている。ザックは考え、とりあえずはバンバの強さをそれとなく伝えることにしてみた。バンバの強さを知れば、怯んでくれることだろう。あわよくば、戦いを断念してくれることに期待する……。
「と、ところで……噂に聞いたのだが、バンバは恐ろしく強いらしいな――」
「そ、そうなのじゃ! バンバ様はとっても強いのじゃ! ハイジャンプ魔キックや分身魔拳のような凄い技を使うのじゃ! バンバ様はとても強くて凛々しいお方なのじゃ……ま、まあ、わらわは全く興味ないのじゃが……」
またしても、支離滅裂な言動……興味がないのに、何故くわしく知っているのだ? ザックの頭に疑問符が浮かぶ……だが次の瞬間、ザックは悟った。
なるほど……。
こやつは、そこまでバンバのことを……。
バンバとの戦いを想定して、様々な情報を仕入れているのか。
厄介なことになったな……。
「そうか……ところで、一つ聞きたいことがある。お前とバンバとの関係――」
「か、関係じゃと!? わ、わらわとバンバ様のとの関係じゃと!? わらわとバンバ様とは……まだ何の関係もない! 話したこともないのじゃ! ま、まあ……バンバ様がどうしてもわらわと話したいと仰るなら、話す機会を設けてあげてもよいがのう……」
ジュリエットはうつむいて、さっきよりも一層もじもじしている。ザックは目の前のもじもじ女に付き合いきれないものを感じたが、それでも引き受けた以上は何とかしなくてはならない。
ザックは考えた。このもじもじ娘がバンバ・バンダムと戦えば……確実に秒殺されることだろう。まずは二人を話し合わせなくてはならない。何らかの誤解が原因だとすれば……話し合うことにより、解決するかもしれない。しかし、ここはシアトル騎士団の縄張りだ。ウォーリアーズのバンバが来れば、両方の組織の間に摩擦が生じかねない。となると……。
「なあ……一度、私の家に来ないか? 私も同席するから……バンバときちんと話し合うべき――」
「な、何じゃと! わ、わらわとバンバ様が話し合うのか! ま、まあ、わらわには欠片ほどの興味もないがの……お前がどうしてもと言うのなら、聞いてやらんこともないのじゃ! よし、わらわは今からお前の家に行くのじゃ! バンバ様を呼ぶがいい!」
「いや……バンバは今、海に鯨を獲りに行ってるんだよ。だから、二、三日は帰って来ない」
「な……そうであったか……二、三日……」
ジュリエットは見るからに落胆した様子である。ザックはこの落胆ぶりを見て……改めて、厄介な問題だと感じた。二人の間にいったい何があったというのだろう。
ともかく、わかっていることは一つ。このままジュリエットとバンバを鉢合わせさせるのは……非常に危険だ。
「バンバが帰ってきたら、この屋敷に連絡して知らせる……だから、それまでおとなしく待っていろ」
ザックは屋敷をあとにした。帰り道を歩きながら、ふと考える。あのポワポワ頭で、のじゃのじゃ言っているジュリエットという娘は……恐ろしく挙動不審で、支離滅裂な言動が目立っていた。これは恐らく、何不自由なく育てられたがゆえのものではないだろうか……甘やかされて育ったがゆえに、自分の言動に対する批判的な意見を聞かずに育ってきた。そのため、あのような奇怪な言動が目立つのだろう。困った話だ……。
ザックは恐ろしく間違った結論で自分を納得させ、帰途についた。
「にゃはははは! シェーラは可愛いにゃ!」
家に戻ると同時に、聴こえてきたのはミャアのけたたましい笑い声。見ると、シェーラはヒラヒラの着いたメイド服のようなものを着せられ、困惑した表情になっている。
「ミ、ミャアさん……この服はとても動きづらいのです……汚れも目立ちますし……お仕事に差し支えるのですが……」
ためらいがちに言うシェーラ。だが、ミャアは全く聞いていない。
「シェーラは本当に可愛いにゃ! よし、今からミャアと一緒にお買い物に行くにゃ!」
そう言うと、ミャアはシェーラの手を握り、玄関に向かう。すると、帰って来たばかりのザックと鉢合わせした。
「ザ、ザックさん! お帰りなさいなのです!」
シェーラは慌てて頭を下げる。一方、ミャアは興味なさそうにザックを一瞥するだけだった。
「なんだザック……帰ってたのかにゃ。ミャアは今から、シェーラを連れて買い物だにゃ」
「そ、そうか……気をつけて行って来い」
ザックは二人に言葉をかけ、リビングに向かう。すると、パグ犬のデュークが小走りでやってきた。そして、ザックのくるぶしに鼻を押し付ける。
「おうデューク。すまんが、ミャアとシェーラが買い物に行ったんだ……大丈夫だとは思うが、念のため付いていてやってくれ」
デュークの頭を優しく撫でながら、ザックは言葉をかける。するとデュークは顔を上げ、承知したとでも言わんばかりの表情を見せた後、二人の後を追って出ていった。




