侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 4
「じい、お茶だ! 最高級のハーブティーをお出しするのだ! さあ早く!」
「は、お嬢様」
ジュリエットはふんわりとした長い金髪を振り乱し、ギャリソンに大げさな身振り手振りを交えて指示する……まるで幼児が駄々をこねるようだ。
だが、それに対しギャリソンは即座に対応する。落ち着いた態度で会釈すると、すぐさま部屋を出て行ってしまった。一方のザックは、ジュリエットのあまりの変貌ぶりに首をかしげる。一体、この態度の変わりようは何なのだろう? この小娘とバンバ・バンダムとはどのような関係なのだろうか? そもそも、会ってどうしようというのだろうか? わからない事だらけだ。
まずは、目の前のジュリエットに聞いてみることにした。
「おい……ポワポワ頭の小娘、お前とバンバとはどのような関係なのだ?」
「ぽ、ぽわぽわ頭じゃと! 貴様! わらわをバカにしておるのか!」
凄まじい形相で、ザックを怒鳴り付けるジュリエット……ザックはとたんにやる気を失った。
「私は帰る」
そう言うと、扉に向かい歩き出す……しかし、その腕をがっちりと掴む者。言うまでもなく、ジュリエットである。
「ま、待つのじゃ! わ、わらわはどうでも良いのじゃが……バンバ様の話をどうしてもしたいというのなら、聞いてやらんこともないがのう……」
何やらもじもじしたような表情で、上目遣いにザックをちらちらと見るジュリエット……よく見ると、頬が赤らんでいる。
しかし……その行動はザックをさらに混乱させただけだった。この女の言葉は、まったくもって理解不能だ。何を言っているのだろうか?
「私はお前に聞かせたい話など、欠片もないのだがな……」
「な、何を言っておるのじゃ……照れずともよい。わらわにバンバ様の事を言いたいのじゃろう。仕方ない、今日は特別に聞いてやるのじゃ!」
何やら偉そうな表情で、支離滅裂なセリフを吐くジュリエット……ザックは頭が痛くなってきた。目の前のポワポワ頭は何を言っているのだろうか?
だが、その時……ザックの頭に閃くものがあった。
この小娘……。
もしや、バンバを殺す気か?
バンバを呼び出し、一対一の決闘を申し込むつもりでは?
有り得る……。
そんな恐ろしく間違った推理をしているザックの手を引き、テーブルに着かせるジュリエット。ちょうどタイミングよく、ギャリソンがティーセットの載ったお盆を手に、部屋に入って来た。すると、ジュリエットが怒鳴る。
「じい! お菓子を……お菓子をもっと持ってくるのだ! 早くお菓子を!」
「は、お嬢様」
ギャリソンは恭しくお辞儀をすると、部屋を出て行った。
「ところで……バンバ様は何をしておるのじゃ? 早く教えるのじゃ!」
ジュリエットが尋ねる……その時、ザックは思った。目の前にいるのはただの小娘。ウォーリアーズでも屈指の武闘派であるバンバ・バンダム相手では勝ち目はあるまい。そんな義理はないが……バカな考えはやめさせなくてはならないだろう。
「その前に一つ聞きたい。お前はバンバと会って、何をする気だ?」
「な、何じゃと!? 何をする気、じゃと!? わらわの口から、そんなはしたない事が言えるか!」
またしても、怒鳴りつけるジュリエット。顔が真っ赤だ。ザックはその表情を見て、さらに考える。顔が赤い……どうやら怒っているようだ。押さえきれない怒りの感情。やはりバンバを殺す気か……。
「お前の気持ちはわかった……しかし、まずは話し合ってみろ。バンバとじっくり話し合って――」
「バ、バンバ様と話し合えじゃと! わ、わらわは話すことなど……で、できんのじゃ! 胸がドキドキして、舌がもつれてしまうのじゃ!」
怒鳴り付けた直後、ジュリエットは耳まで赤くなり、うつむいてもじもじし始める。それを見たザックは……。
これは困ったぞ。
このポワポワ頭は、怒りのあまり鼓動が早くなり舌がもつれるほど、バンバを憎んでいるということなのか……。
何があったかは知らんが、和解は非常に難しいということだな。
しかし、いったん引き受けた以上……。
私は最後までベストを尽くす。




