侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 2
「おいてめえ、いったい何しに来やがったんだ……俺は国王でもブン殴ってみせらあ。でも飛空船だけは勘弁な」
岩のような体格、そして素肌にベストというワイルドな格好の黒人、バラカスが凄む。さらに――
「へへいへい! この俺さまのステップに付いて来れるかな!」
などと言いながら、ザックの周囲を一人で踊り狂っているのは、小柄なダック・プリンス……二人ともモヒカン刈りであり、ウォーリアーズのボスであるヒューマンガスのボディーガードなのだ。
二人はザックに対し、今にも飛びかからんばかりの様子で威嚇している。ザックはため息をついた。何と面倒くさい連中なのか。ウォーリアーズには、知的なスキルを持った人間が絶対的に不足している……人材の補充そしてシステムの改善が必要だろう。いや、むしろ急務だ。
ザックはギャリソンからの依頼を引き受け、とりあえずはバンバ・バンダムと話を付け、そして連れてくることにしたのである。バンバをラウル将軍の娘であるジュリエットに会わせる……それだけで済むのなら簡単な話だ。ザックはウエイト・トレーニングに励んでいるロドリゲス兄弟を屋敷に残し、一人でウォーリアーズのアジトである皮の縫製工場へと向かった。
しかし、ウォーリアーズのメンバーは……相も変わらず凶暴で頭が悪かったのだ。訪れたザックを見るやいなや、すぐさま威嚇し恫喝し始める……学習能力の欠片もない連中である。ザックは心の中で頭を抱えた。どうやら、またしても自分の力を見せつけなくてはならないらしい……。
だが、前回と違う点もあった。
「おいてめえら、とっとと失せろ……俺は今から、ザックとサシで話があるんだよ……」
ヒューマンガスが低く唸る。だが、小柄なダックも大柄なバラカスも納得いかないようだ。不満そうな表情で口を開く。
「しかしボス――」
「俺は失せろ、と言ったんだがな……聞こえなかったのか?」
ヒューマンガスのドスの利いた声……さすがのバラカスとダックも、おとなしく出ていってしまった。
「さて、はっきりさせようぜ……ザック、お前が何しに来たのかを聞かせてくれ……」
「バンバに会いに来たって!? いやあ、そいつは困ったな! マジ参ったじゃんよ! バンバの奴はな、今は海へ鯨を捕りに行ってんだよ!」
ヒューマンガスは仮面を外した姿でニヤニヤしながら、オーバーアクションで訴える。先ほどまでの、威厳と同時に凶暴さを秘めた雰囲気は欠片もない。いつもながらザックは呆れてしまう。この男は、見た目と中身のギャップがあり過ぎる。
「鯨を捕りに、わざわざ海まで? いったい何を考えているのだ……バンバ・バンダムという男はバカなのか? アホなのか?」
困惑した表情で尋ねるザック。すると、ヒューマンガスは顔をしかめた。
「うーん……はっきり言って頭のキレるタイプではないな。腕は立つがな……ところで、バンバは一度海に行ったら二、三日は帰って来ないぜ。で、奴に何の用だい? 伝言あるなら言っとくじゃんよ」
「うーん、それはだなあ……」
ザックは迷った。果たして、ヒューマンガスに話してしまっていいものなのか……しかし、ウォーリアーズとシアトル騎士団は仲が悪いらしいという噂も聞いている。となると話さない方が……。
いや、待て。その前に一応……。
「大した用ではないから気にするな。それよりも、一つ聞きたい。お前は……シアトル騎士団のことをどう思う?」
「どう思うって……まあ、はっきり言って好きになれない奴らだな。向こうも確実に、そう思ってるじゃんよ」
一気に口数が少なくなるヒューマンガス。どうやら、言いたくない事情があるらしい……ザックはどうしたものか考えた。しかし、何も思い浮かばない。いっそ力ずくで聞き出そうかと思ったが、それもまた面倒くさい話だし、そもそもの目的はバンバとジュリエットを引き合わせることなのだ。ヒューマンガスとラウル将軍の確執など、ザックには何の興味もない。バンバがいない以上、ひとまず引き上げることにした。
「そうか……わかった。もしバンバが戻って来たら、連絡してくれ。では失礼する」
「え? それだけ? 訳わからねえじゃんよ……まあいいや。それより旦那、土産代わりに面白い情報があるじゃんよ。どうです?」
「面白い情報? 何だそれは?」
「まあ、それは聞いてからのお楽しみ……ちょいと耳を拝借じゃんよ……」




