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違法人・3

 どこの街にも言えることだが、ここダゴンの街にも犯罪を生業にしている組織がある。現在ダゴンの街では、幾つかの小さな組織が共存し、細かく縄張りが分かれているのだ。今ザックたちが歩いている地区を仕切っているのは……エンジェルスと名乗る暴力集団である。全員が黒い革の上着を着て、夜になるとチェーンや鉄の棒などを振り回し暴れているらしい。収入源は……主にひったくりや万引きといった盗みのようである。もっとも、ザックにはさして興味がないことだったが。


 そしてザックとロドリゲス兄弟は、そのエンジェルスのアジトにやって来た。ちなみにそのアジトとは、地下にあるのだ。ダゴンの街の地下には長く広い下水道が設置されている。それに伴い地下通路も、様々な方向に枝分かれしていたりする。その地下通路たるや、下手なダンジョンよりも広く危険なのだ。得体の知れない生物や、人々の前に姿を現せられない者などが地下に潜み、生活しているのである。

 そしてエンジェルスのリーダー、ダミアンもこの地下道に住んでいる。


 そこは地下道の一室とは思えないような造りではあったが、しかし中に設置されている物は非常にシンプルだった。粗末なテーブルや椅子、水差しなどがあるだけだ。だが、天井に設置されたガラス製のランタンのような物から放たれる魔法の光は強い。そして椅子に座り、ニコニコしながら三人に挨拶した色白の若者こそが、エンジェルスのリーダー、ダミアンなのである。


「どうも、ザックさん……いったい、今日はどうなさったんです?」

 ダミアンは妙に嬉しそうな様子でニコニコしながら、ザックに尋ねる。暴力的犯罪者集団のリーダーにしてはなかなかの……いや、とても美しい若者だ。彫刻のような顔立ち、白くきめ細やかな肌と輝くような金髪、そしてどこかの国の王子さまのような、気品と育ちの良さを感じさせる振る舞い……ただ見目麗しいだけでなく、その瞳や物腰からは、かなりのキレ者であることが感じられる。実際にキレ者ではあるのだが。それはともかく、見た目だけならば、ダミアンの方が主人公にはふさわしいだろう。

 だが、あいにくと主人公はザックの方なのである。ザックはダミアンより不細工だが、はるかに危険な男なのだ。

「やあ、ダミアン……近頃はずいぶんと景気がいいらしいなあ……実に羨ましい話だよ」

 ザックは笑顔を見せる。その様は、いいとこのお坊ちゃんに因縁をつけるチンピラのようである。どちらが無法者たちのリーダーだかわからない。

「いやあ……そんなことないですよお。赤字続きでピイピイ言ってるんですからあ」

「いや、そんなはずはないだろう……最近、魔法の水晶板が大量に盗まれたと聞いたのだがな。お前たちの仕業ではないかと、街ではもっぱらの噂なのだが……」

「は、ははは……何をおっしゃっているのか――」

「ま、そんな事はどうでもいいのだよ。なあ、ダミアン……仕事にあぶれてしまった哀れなる兄弟とその雇い主に、いくばくかの寄付をお願いしたいのだが……協力してはくれないだろうか?」

「えー、またですか?」

 ダミアンはうんざりした顔になる。すると、ザックの表情に変化が――

「ほう……ダミアンくんは嫌だと言いたい訳か……この私の申し出を断るのかね……お前も偉くなったものだなあ。そうは思わんか、兄弟?」

 ザックは兄弟の方を向いた。すると、

「思います、ザックさん」

「思います」

 ロドリゲス兄弟は深くうなずいた。二人の巨大で無表情なゴリラ……いや男がこちらをじっと眺めている状況はかなり怖い。

「い、いやいやいや……何をおっしゃっているんですか。払わないとは言ってませんよ。喜んで払わせていただきますよう」

 ダミアンはニコニコしながら言うと、部屋の奥にある扉を開け、中に入って行く。ややあって、何かそれなりに重量のありそうな物が詰まった小袋を手に戻って来た。

「ささ、どうぞどうぞ」

 ダミアンはしなやかな動きでザックに近づき、その小袋を手渡した。

「おお……ありがたい。感謝するぞ。やはり、富める者は貧しき者に分け与えないとな。お前たちもそうは思わんか、兄弟?」

「その通りです、ザックさん」

「その通りです」

 兄弟はまたしても、無表情でうなずく。本当は子供好きな、心優しきゴリラ……いや男たちなのだが、無表情で立っていると異様な雰囲気を醸し出す。初対面の子供は、ほとんどが泣き出してしまうだろう。

「そうそう……もう一つお土産があるんですよ。実はね」

 そう言うと、ダミアンはその端正な顔に悪党らしい笑みを浮かべる。

「北の地区を仕切ってる、ウォーリアーズですがね……最近、新たな魔法石の発掘場所を発見したらしいですよ」

「魔法石の? それは興味深いな……となると、奴らは相当儲けているのだろうな」

「ええ。ヒューマンガスの奴は、最近羽振りがいいとかいう噂を聞きましたよ……」

「それは面白い……いずれ行ってみるか。ヒューマンガスとも話しておきたいしな」


 ちなみにウォーリアーズとは、この街の一部を仕切っている犯罪者の集団である。ボスのヒューマンガスは、ロドリゲス兄弟のような大きな体と発達した筋肉、そして凶悪な面構えの部下たちの暴力でのし上がってきた、という噂の男だ。ダミアンとは真逆のタイプであるらしい。

 そして魔法石とは、魔法を扱う資質のない者にも魔法を使えるようにするという、大変便利な物であるらしい。なぜそんなことができるのかと言うと、魔法石だからである。つまりは……「なぜって、魔法だからさ」の一言でケリが着くのだ。





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