侍ウォーリアーズ バンバとジュリエット 1
ザックは普段、昼まで寝ている。太陽が高く昇った時にムクリと起きて、そして自堕落な生活を始めるのだ。
その日も、ザックは昼間に目覚めた。何やら、下の階から騒がしい物音や声がする。リビングに行ってみると……。
「おお、ザック……やっと起きたか。お前さん、ここいらじゃ二番目にねぼすけだな」
無意味にカッコつけた声……顔を見ずともわかる。ケーン・カザミだ。よく見ると、ケーンは猫じゃらしをプルプル振っている。そして……。
「うにゃ! にゃにゃ!」
ミャアが猫の本能を剥き出しにして、猫じゃらしにパンチを当てようとしているが……ことごとく避けられている。そしてパグ犬のデュークまでもが、尻尾を振りながら猫じゃらしに飛びかかろうとしているのだ……。
その横では、ソファーに座り水晶板を見つめるロドリゲス兄弟とシェーラ。画面からは、賑やかな声が聞こえている。
(押すなって言ってんだろうが! 何で押すんだよ! バカヤロー!)
その直後、何かが水に落ちる音……。
「あのリューヘイって奴、可哀想だな」
「可哀想だな」
ロドリゲス兄弟は憐れむような表情でそう言いながら、油で揚げたじゃがいもをパクパク食べている。すると、シェーラが口を開いた。
「違うのです。あのリューヘイさんは、お湯に落ちるのがお仕事なのです。仕方ないのです」
「そうなのか……シェーラ頭いいな」
「シェーラ賢いな」
シェーラの推定年齢はロドリゲス兄弟の三分の一、父と娘くらいの差がある。なのに……シェーラの方が圧倒的に賢いらしい。ロドリゲス兄弟は本気で感心していた。
無言のまま立ち尽くし、リビングの光景を見つめているザック……頭が痛くなってきた。いつの間にか、我が家にケーンが入り浸っているのだ。とっとと失せろと言ってやりたいが……以前に世話になっている以上、無下にはできない。苦々しい表情で、ザックはコーヒーを飲み始めた。
ブーン、ブーン、ブーン……。
突然、響き渡る奇怪な音色……ザックの館に設置された魔法の呼び鈴だ。すると、シェーラが立ち上がった。
「お客さまがいらっしゃったのです。私がお通しするのです」
そう言って、嬉しそうにとことこ歩いて行くシェーラ。ザックは思わず微笑んでいた。シェーラは家の者の役に立てるのが、嬉しくてたまらないようだ。基本的には、ものすごい怠け者であるザックとは真逆である。
「シェーラちゃんは、いい子ですね……」
いつの間にか、隣に来ていたヒロコがしみじみとした表情で呟く。ザックはうなずいた。
現れたのは、髪の白い初老の男だった。紳士を絵に描いたような風貌、そして物腰の男である。
「お初にお目にかかります……ザック・シモンズさんですな? 私の名はギャリソン、シアトル騎士団にてラウル将軍の補佐をしております。以後、お見知りおきください」
「ラウル将軍? ああ、あのコスプレ将軍か」
ザックの言葉に、吹き出しそうになるヒロコ。ド派手な軍服姿が脳裏に浮かび上がってきたのだ。肩をヒクつかせながら、何とかこらえている。一方、ギャリソンは不思議そうな顔をした。
「コスプレとは?」
「いや、何でもない……こっちの話だ。それより、私に何の用なのだ?」
ザックが尋ねると、ギャリソンは何やら重大な機密情報を話すかのごとき表情になる。
「実はですな……」
「バンバ・バンダムを知っているか、だと? ああ知っている。ウォーリアーズのメンバーでかなり名は知られていたな……で、奴がどうしたのだ」
ザックは訝しげな表情になる。バンバ・バンダム……ウォーリアーズのナンバー2で、リーダーのヒューマンガスからの信頼も厚いらしい。まだ若いが、ハイジャンプ魔拳や大回転魔脚……そしてハラキリエルボーなどという訳わからん技を使う、ウォーリアーズでも一番の武闘派だとか聞いた。
しかし、ウォーリアーズとシアトル騎士団はあまり仲が良くないはず。なぜ、ウォーリアーズの人間のことを聞きに来るのだろう。まさか……。
「おいギャリソン……お前まさか、私にバンバを殺せと?」
「とんでもありません! 実は……ラウル将軍にはお嬢様がいまして……ジュリエットという名の……そのジュリエット様が……バンバ様に会いたがっているのですよ……」
弱りきった顔で、言葉を濁すギャリソン。ザックは訳がわからなくなった。会いたければ、勝手に会えばいいではないか。自分の知ったことではない。そんな事で、なぜわざわざ来るのだろう? すると――
「なるほど、そう言うことですか……わかりました。そのバンバさんを連れていきましょう。ジュリエットさんに会わせましょう」
そう言ったのはヒロコだった。ヒロコは何やら力強く頷きながら、ギャリソンの前に進み出て来る。ザックはさらに訳がわからなくなったが……。
ヒロコが妙にやる気を出しているので、引き受けることにした。




