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殺し人走る 三

「ザック……俺はお前のことは嫌いじゃないぜ。お前さん……ここいらじゃあ二番目にイイ奴だよ」

「では一番は誰だ……いや、言わなくていい」

 ケーンはニヤニヤしながら、ザックの隣で肩をポンポン叩き、話しかけている。嫌そうな顔をしながら、答えるザック。その後ろから、ミャアとシェーラが付いて行く。さらにその後ろからは、パグ犬のデュークとヒロコ。そして最後にロドリゲス兄弟が筋肉の塊のような体でピョンピョン飛び跳ねている。端から見たら、かなり異様な一団だ。

「ところでザック……お前さん、どこに行こうってんだい?」

「まずは腹ごしらえだ」


「おお! お前らまた来たのか! 今日は大勢いるのう!」

 食堂『ゴン』にて、黄忍者ことダイタが、満面の笑みを浮かべて皆を出迎える。前に来た時は店員が五人とマスターが一人いたのに、今日は店員が四人しかいない。一人足りないのだ。よく見ると、背の高いクールな感じの男がいない。

「おい、青忍者はどうしたのだ?」

 ザックはダイタに尋ねた。するとダイタは渋い顔になる。

「あいつはな、単独行動が得意な男なんじゃ。だから今は、極秘任務で動いておる……って何聞いとるんじゃ! 思わず答えてしまったじゃろうが!」

 ダイタはザックに食ってかかる。しかし、悲しそうにこちらを見ているシェーラに気付いた。根が単純なダイタは慌てて愛想笑いを浮かべ、シェーラを見る。

「お、お嬢ちゃん……今、美味しいカレーライスを作ってやるからな、待ってるんじゃぞ」

 そう言うと、ダイタは厨房に去って行った。他の三人は何やら胡散臭そうな目で、こちらを見ている。ザックはその視線を無視し、勝手にテーブルに着いた。残りの者たちもザックに習い、同じテーブルに着く。

「ザックさん……私、こんなところ初めてです」

 ヒロコが周りを見回して言う。ヒロコは普段、ほとんどの時間を家の中で過ごしているのだ。めったに外に出ようとはしない。そしてシェーラとミャアも、物珍しそうにあちこちを見ている。ロドリゲス兄弟はこの店に来るのは二度目だが、みんなで来ているせいか、妙にテンションが高い。しかし、パグ犬のデュークは堂々としたもので、落ち着いた様子でザックの足元にいる。下手をするとザックの次くらいに威厳があるように見えてしまうから大したものだ。だが、一番落ち着いて威厳があるように見えるのは……他ならぬケーンだった。


「はい、カレーライス……いいわね、いくわよ」

 奇妙な言葉とともに、店員らしき女が皿を置いていく。すると、ロドリゲス兄弟は目の色を変えて食べ始めた。ミャアもにゃにゃにゃにゃ言いながら食べ始める。シェーラは物珍しそうに、カレーライスをスプーンにすくい、少しずつ食べている。みんな楽しそうではあったが……。

 その雰囲気をぶち壊すバカ野郎の存在に、まだ誰も気づいていなかった。


「ゴンパチ……噂には聞いていたが、ここのカレーライスは美味いよ。大したもんだ。しかしな……」

 喋っているのはケーンだった。食べ終わると同時にいきなり立ち上がるとカウンターに行き、マスターのゴンパチに向かってクールな表情で何やら話しかけている……と思った次の瞬間、とんでもない言葉を発した。


「マスターゴンパチ……お前さん、ここいらじゃあ二番目だ」


「き、貴様……い、一体何を言い出すのだ?」

 唖然とするザック。言われたゴンパチも当惑した表情だ。しかしケーンはそれに構わず、一人で喋り続ける。

「俺がここいらで一番美味いカレーライスを作ってやる。厨房を貸せ」

「やめんか! こんなところで料理勝負をするな、バカ者! 私たちを巻き込むな!」

 ザックは慌てて立ち上がり、ケーンを連れ戻しにかかる。ケーンはクールな表情を浮かべたままザックに引きずられ、テーブルに着かされた。

「貴様……こんな時くらい下らん勝負をやめられんのか! 我々を巻き込むんじゃない!」

「固いこと言うなよ。ザック……お前はな、もっと肩の力を抜け」

「貴様は抜きすぎだ!」

 言い合うザックとケーン。すると、横にいるシェーラの顔が見る見るうちに曇りだした。

「あの……仲良くして欲しいのです……喧嘩は……良くないのです……」

 蚊の鳴くような声で、仲裁するシェーラ。すると今度は、食べ終えたミャアが二人を睨む。

「お前ら……喧嘩するなら外でやるにゃ!」

 こうなると、さすがの二人も休戦せざるを得ない。ザックは不満そうな顔で、ケーンはクールな表情で食べ始める。

 だが、その時……。

 突然扉が開き、店の中に何かが投げ入れられた。何やら黒くて丸い鉄球のような物だ。それがひとりでに転がっていき……。

 ザックたちの足元で停止する。

 その瞬間、デュークが狂ったように吠えだし、ザックの足を咬み始めた。いつもの甘咬みではない。かなり強い咬み方だ。そしてザックが足元を見ると――

 鉄球が赤く光り始める。そして、規則正しく点滅を始めた。ピッピッピッピッピッ……。

 ザックは叫んだ。

「魔法爆弾だ!」


 説明しよう。魔法爆弾とは魔法爆弾である。要するに火薬も何もないのに、魔法の作用で爆発する爆弾である。何でそんなことが可能なのかというと……もちろん魔法だからである。中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーでは、全てのことが魔法で片づいてしまう。魔法とは、まことに便利な概念だ。ご都合主義とも言うが、それは無視する。





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