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殺し人走る 二

 ザックたちは表に出た。ロドリゲス兄弟とミャアのテンションはかなり高まっている。シェーラも笑顔になっている。みんなで出かけるのが嬉しそうだ。

 そしてヒロコが戸締まりを終えたところで、全員楽しそうに歩き始める。だがその途端、呼び止める声が――

「おいおい、お揃いでどこに行こうってんだい?」

 何やらキザったらしいクールボイス。ザックが振り向くと、そこにいたのは……。

「け、ケーン・カザミ! な、何をしに来た! ま、まさか……貴様が雇われたのか!? 私を殺しに来たのか!?」

 ビビりまくるザック。しどろもどろになりながらも怒鳴りつける。本心はさっさと家に逃げ帰りたいのだが、部下の手前そうもいかないのだ。

 だが、ケーンはザックの罵声など意に介さず、とぼけた態度を崩さない。

「おいおい、ワケわからんこと言うなよ……何かお前ら、楽しそうにお出かけしてるじゃないか。俺も一緒に連れて行ってくれよ」

 このケーンの言葉に、ザックのこめかみがヒクつきだした。

「き、貴様……こ、これはだな、部下の日頃の苦労に対する労いと感謝の意味を込めて企画したのだ……だ、誰が貴様などと一緒に行くか! 貴様はそこらでハープでも弾いてろ!」

 怒鳴りつけるザック。だが、腰は完全に引けている……そう、ケーンは何をやらせてもザックよりも上というチート野郎なのだ。かつてザックはケーンと二度戦い、二度とも敗れている。それ以来、ケーンとは関わらないようにしているのだ。そう、口では偉そうに言っているが、ザックはケーンに頭が上がらないのである。


 ビビりながらも精一杯の虚勢を張り、ケーンを睨みつけるザック。しかし――

「ザックさん……どうしてそんな意地悪を言われるのです? ケーンさんも……一緒に連れて行ってあげればいいのです……みんなで……行けば楽しいのです……そして……ケーンさんと仲直りすれば……いいのです……」

 シェーラの震える声。ザックがそちらを向くと、シェーラが不安そうな、でも精一杯の勇気を振り絞った表情でこちらを見ている。

「ふざけるな! 何で私がこんな愚か者と仲直りしなければならんのだ! 何も知らん子供のくせに生意気言うな!」

 今度はシェーラを怒鳴るザック。すると、シェーラの表情がみるみるうちに曇りだす。目からは涙が溢れだした……。

「な、生意気言って……ご、ごめんなさい……なのです……」

 泣きながらザックに謝るシェーラ。すると今度は、ミャアが進み出る。怒りの表情だ。

「ザアァックゥゥ……またシェーラをいじめたにゃ……」

 凄まじい形相で、ザックを睨み付けるミャア。今にも変身して襲いかかって行きそうだ。さすがのザックも、ミャアの剣幕とシェーラへの罪悪感の前にたじろぐ……さらに、

「ザックさん、シェーラ泣かしたー」

「泣かしたー」

「泣かしたー」

 ロドリゲス兄弟がザックを指差し、非難の声を上げた。ザックはいたたまれず、三人から視線を逸らすが……。

 ん、ちょっと待てよ。

 三人、だと……。

「ケーン! 貴様! どさくさに紛れて何をしているのだ!」

 そう、なぜかケーンがロドリゲス兄弟の横に並び、ザックを指差して非難しているのだ。

 だが、ケーンは楽しそうにニヤリと笑う。そしてシェーラの方を向いて、しゃがみこんだ。

「ねえシェーラちゃん……ケーンのお兄さんはねえ、ザックのおじさんと仲良くしたいんだ。なのにザックのおじさんは、ケーンお兄さんと仲良くしてくれないんだ。どう思う?」

 いかにも優しげな表情で、にこやかに語るケーン。するとシェーラは鼻をすすり上げながら――

「な……仲良く……して……欲しいのです……喧嘩は……ダメ……なのです……みんなで……行きたい……のです……みんなで……仲良く……お出かけ……したい……のです……」

 途切れ途切れの声で、ザックに訴えかける。なぜか、ミャアがもらい泣きを始めた。ロドリゲス兄弟までもが、なぜか泣き出す。その横で、ニヤニヤ笑うケーン。

 ザックは訳がわからなくなり、頭を抱えた。頭痛がしている。なぜ、みんなが泣き出しているのだろうか……そもそもは、ケーンの奴が同行したいと言い出したのだ。それを断ったところ、シェーラが泣き出し、ミャアが泣き出し、さらに兄弟まで泣き出したのだ。そしてヒロコは困った顔で、みんなをなだめている。パグ犬のデュークもまた、尻尾を振りながらなぐさめようとしている……。

 一方、クールな表情のまま立っているケーン。ザックと目が合うと、肩をすくめて見せる。本当に腹の立つ男だ。できることなら、今すぐ魔法で消し炭に変えてやりたい。しかし、ケーンは得体の知れない能力を持っている。実際、このふざけた態度と軽いノリにごまかされ、何人の者がこっぴどい目に遭わされたことか……ザックもその一人なのだが。

「ザックさん、これはもう仕方ないですから……みんなで行きましょう……」

 ヒロコが疲れた表情で言うと、ザックは不快そうな顔をしながらも、仕方なくうなずいた。






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