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さよならは教えられん・2

 ケーンが帰った後、ザックはヒロコとシェーラに向かい説教していた。

「まったく、どこまでキザな男なのだ。いいかシェーラ、それにヒロコ……あの男はケーン・カザミという名の無法者だ。とにかくキザでいけすかない男ゆえ、奴が来ても、家には入れるなよ」

「はい……わかりましたのです。ごめんなさいなのです……」

 シェーラの消え入るような返事。ザックがそちらを見ると、シェーラは暗い顔で下を向いている。どうやら、知らなかったこととは言え、招かれざる客人を家の中に入れ、トラブルを引き起こしてしまったことに対して責任を感じているらしい。今にも泣き出しそうな様子だ……ザックは狼狽した。

「いや……大丈夫だ。お前が悪いのではない。悪いのはケーンだ、お前ではない……」

 しかし、時すでに遅く……シェーラは大粒の涙をこぼし始める。さらに、厄介な者がまた一人登場した。

「さっきからやかましいにゃ……眠れやしないにゃ……にゃ! シェーラどうしたにゃ!」

 開いていた窓から、眠そうな顔で入って来たミャア……しかし、下を向いて涙を流しているシェーラを見た瞬間、表情が変わる。ミャアは慌ててシェーラに近づき、そして……。

 凄まじい形相で、ザックを睨みつける。

「ザック……お前がやったのかにゃ……」


 ミャアは猫人間である。そう、基本スペックは猫なのだ。主人であるザックに対しても、ロドリゲス兄弟やパグ犬デュークのような忠誠心はない。気の向くままである。必要とあらば、戦いも挑むのだ。


「にゃん法……にゃにゃ変化!」

 叫ぶと同時に、ミャアの顔つきが変化していく……虎のような縞模様が顔を覆っていき――

 そして、虎のような顔へと変貌していた。同時に体も変化していく。虎のような毛皮と爪、そして人間のような体型をした生き物へと……例えるなら、二足歩行の虎か。


「タイガーミャア……推参にゃ……」


 変身したミャアの姿を見て、呆気にとられるヒロコ。一方、ザックは変身したミャアの姿を見て、面倒くさそうにため息をつく。

「ミャア……貴様、私に刃向かう気か? 今日の昼ご飯は……抜きで構わないのだな?」

「にゃにゃ!?」

 ザックの言葉を前に、狼狽えるミャア……いや、タイガーミャア。一瞬、心が揺れ動く……だが、頭をプルプル振り、顔を上げ睨みつける。

「ふざけるにゃ! ミャアはご飯ごときには釣られないにゃ! シェーラをいじめる奴は……ミャアがぶっ飛ばしてやるにゃ!」

「やめてください……ミャアさん……あたしが悪いんです……」

 シェーラは変身した姿に怯みながらも、タイガーミャアに近づき腕を掴む。すると……。

「にゃ……」

 タイガーミャアはザックから目を逸らし、シェーラを見つめた。シェーラは涙を流しながら、ミャアの手を必死で握りしめている。自分が原因で二人が争う、そんなことは絶対に起きて欲しくないという不退転の意思がありありと感じられた……すると、そんなシェーラの気持ちを察したのか、ミャアの表情が変わる。そして姿も。見る見るうちに、元の猫娘の姿に戻っていく……。

「にゃ……シェーラ、心配させてごめんにゃ」

 ミャアはしゃがみこむと、シェーラを優しく抱き寄せる。念のために言っておくが、二人は百合のお花畑で遊ぶような間柄ではないし、そのような展開を神は用意していない。そんな展開にすると、さらに上位の神に怒られそうな気がしなくもないからだ。神は小心者なのである。


 ミャアが落ち着いたところで、ザックはロドリゲス兄弟を引き連れ、さっそく営業に出かけた。本当は家でボケニャンとしていたかったのだが、ヒロコが働け働けとうるさいので、仕方なく出かけたのだ。

 そして、ロドリゲス兄弟が叫びながら歩く。

「えー、こちらは冒険者ギルドのー、ザック・シモンズとロドリゲス兄弟でございますー。猫探しからモンスター退治まで、何でも引き受けますよー」

「引き受けますよー」

 そして兄弟の巨体の後ろに隠れ、キョロキョロしながら歩くザック。なぜキョロキョロしているのかというと、ケーンに出くわした時には真っ先に逃げるためである。


 例によって、ザックと兄弟が出歩くと皆が避けていく。ザック注意報が発動中なのだ。

 だが、前方にまたしても人だかり……何が起きたのだろう、とザックは兄弟を引き連れ、行ってみる。すると……。


「何なのよあんた! あんたの顔なんか見たくもないわ!」

「こっちだって、見たくないんだよ!」

 お互いに口汚く罵り合いながら、掴み合いの喧嘩をしている男女がいる。周りを囲む野次馬は面白そうに見ているが、止めようとする気配はない。

「何だ痴話喧嘩か……くだらん。行くぞ兄弟」

 ザックは一瞬にして興味を失い、ロドリゲス兄弟を引き連れて立ち去ろうとした。だが次の瞬間、女がそばに転がっていた桶を、男めがけ投げつける。男がそれをかわし――

 桶は真っ直ぐ飛んでいき、ザックの後頭部に命中した。

 ザックはゆっくりと振り向く。その表情は怒りに満ちている……だが、男女はザックの表情、いや存在にすら気付かず、またしても掴み合いを始める。

 ザックはついに――

「貴様ら! 今すぐ痴話喧嘩を止めろ! 三秒以内に喧嘩を止めないと、貴様ら二人の頭の皮を剥ぐぞ!」

 そのザックの言葉と同時に、ロドリゲス兄弟が力ずくで二人を引き離した。二人はロドリゲス兄弟のゴリラのごとき体格と凄まじい腕力の前に、たちまちおとなしくなる。

 そしてザックは二人の前に立ち――

「いいか貴様ら……私の名はザック。ザック・シモンズだ。貴様らの喧嘩の原因など、私は知らん。知りたくもない。知る必要もない。だがな、今すぐ喧嘩を止めると宣言しなければ……貴様らの頭の皮を剥ぐ! どうするのか、今すぐ決めるのだ!」

 このザックの言葉を前に、バカップルだかバカ夫婦だかよくわからん二人は、震えながらもウンウンとうなずいた。





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